スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


スポンサー広告 | --:--:--
千思万考  5
やっとオリジナル小説サイトをオープン。リンク欄の「様」無しがそうです。仕事の合間にちょいちょいなので、under以上にのんびり更新だと思います。オリジナルファンタジーです。ご興味がある方はご覧下さいませ。


では、どうぞ












家に入ると桐が卓に荷物を置き、「熱はないのか」 と尋ねてくる。 首を緩く振りながら椅子に腰掛けた私は深い嘆息を吐いた。 浩大が陛下の許に向かったというなら、王宮に戻ってからの狼陛下の過剰演技は続行だ。 それに対抗するべくリフレッシュをと思っていたのに、連日打ちのめされ続けているだけじゃないか。
シクシクと痛む胃部を押さえていると、桐が湯を沸かし始めるのが見えた。
いつもは辛辣なだけの桐がやけに甲斐甲斐しく動くなと驚き、浩大の報告内容が判った気がした。 
もちろん、桐もその内容を知っているのだろう。 陛下にこの後翻弄されるであろうバイトが哀れで、それで妙な優しさを見せているのだと理解出来た。

乾いた笑いが零れそうになるが、今自分がすべきことは風邪を治してバイトに復帰することだ。
万が一にでも風邪が悪化して私がうつしたくないと後宮に戻らなければ、間違いなくバイト妃の風邪をさぼりの口実に、陛下は下町に足を運ぶことだろう。 そうなるとバイト上司である李順さんに叱責されることは間違いない。 何をしに実家に戻ったのだと雷を落とされてしまう。

それに青慎だ。 日々勉学に勤しんでいる弟に風邪をうつしてはいけない。
そのためには後で借金に加算されようが、ちゃんと薬を飲もう。
解かっていることを何度も繰り返し考えていないと、狼の妖艶な笑みがドアップで近付いてくるようだと夕鈴は身震いした。 後宮では温かい装いで過ごしていたはずなのに、普段はとても頑丈な身体のはずなのに、風邪をひいたのはきっと陛下の甘い毒に中てられたせいだ。 仲良しだと周囲に見せつけるだけなのに、過剰すぎる演技は私の心の臓を止めるつもりなのだろうかと思えてしまう。 慣れないのよ、本当に。 
長くなったバイトだけど、何時まで経っても狼の妖艶な駄々漏れの色気には敵わない。

だけど本当に過剰なほどの妖艶な演技だった。
・・・・・実は、何かを隠しているのではないだろうか。
ベタベタ甘々な演技でバイト妃を翻弄しつつ、李順さんから何かを隠す。 臨時花嫁とこんなにたくさん仲良し演技をしているよと側近に知らしめておいて、本命を・・・・・って、そんな暇はないか。 
自室にまで運ばれる書簡の山に、厳つい顔をした大臣らとの会談、朝議、視察。 そして日々多くの報告と懸案を提出され、王としてそれらを捌いているのだ。 時間があれば書庫で仮眠されるくらい忙しい日々を過ごされている陛下が、ストレス解消に私をからかっているのだとしたら、それも上手く受け止めるべきなのかしら。

陛下を心から癒すのは、その内やって来る本物妃の仕事だ。

でも小犬でもなく狼でもない表情で私の言動に癒されると言ってくれることがある。 その言葉も演技なのだろうか。 優しく柔らかく抱きしめてくれる手も、すべてが演技だとしたら。

「顰めた顔で俯いていると運気が下がるぞ。 ほら煎じてやったから、ありがたく飲め」
「運気って・・・・。 へぇー。 桐さんもそういうの、信じるの?」
「財務管理担当の高官が愛人に貢物を届けながら、そう言っていた」
「・・・・まあ、愛人に貢物。 それは横領した金品で・・・・ということなのかしら」
「それを調べている最中に呼び出されたんだ」

珍しい台詞に、最初はもしかして慰めてくれているのかと思ったが、やはり違ったようだ。 
奴はその台詞を何となく使ってみたかっただけだろう。 淹れられた薬湯を口へ運びながら虚ろな視線を向けると、桐は 「時季的に偵察も苦労する」 と眉を顰めて珍しく仕事の愚痴を呟いた。 それにしても愛人へ貢物を運ぶ高官を偵察するって、それはそれで大変な仕事だな。 急に羽振りの良くなった高官の身辺を調べ、金の出所とその流れの行き先を調べるのは、まず精神的に疲れるだろう。
そんな折に今度はバイト妃の警護と監視だ。 ・・・・監視なんてしなくてもいいのに。 

「愛人・・・・・か」

陛下は何人もの妃を娶ることが出来る立場だが、普通は妻が一人。 大貴族になると本妻の他に側室を設ける人もいるらしいが、下町育ちの夕鈴には理解出来ない。 そうは言っても臨時花嫁としてバイトしている立場としては黙認するしかない。 貴族子女として後宮にいる立場なのだから、その内にたくさんの妃が来るだろうと受け止めるのが本当の姿だろう。 紅珠も妃の私と仲良く出来ると、当たり前のように話していたのを思い出す。 たくさんの妃がいるのが後宮としては本来の姿だと老師も言っていた。 何だか、急にやるせなくなる。 
とはいっても私はバイト妃として、陛下の唯一の妃として寵愛を独り占めしているのは当然という態度で、いちゃいちゃするのが仕事だ。 狼陛下に翻弄されようと、仕事は仕事と割り切るべきだろう。 割り切れないから悩んで胃が痛くなるんだ。 それではプロ妃失格ではないか。 ちゃんと妃らしく陛下の癒しとなれるように・・・・。
 
私の拙い演技でも・・・・陛下は癒されてくれるだろうか。 
・・・・・少しでいいから、癒されてくれたらいいけど。

 
苦みのある薬湯を飲み干した夕鈴は、自分の考えが暗すぎることに気付き愕然とした。 
こんな暗い考えばかり思い浮かぶなんて、そんなの本来の自分じゃないと卓に茶杯を叩きつける。 すぐに強過ぎたと慌てて茶杯を持ち上げる夕鈴を桐は鼻で笑う。 人の顔を見て笑うなんて、なんと失礼なと睨ね付けるが奴には通じない。 

「・・・・もう、寝ますから桐さんは出て行って下さいね」
「言っておくが陛下への報告内容は知らないぞ。 だが想像はつくだろう。 早々に覚悟を決めておくべきだな。 浩大を恨むも、陛下を睨むも、お前の好きにしろ」
「今日は桐さん、妙に優しい気がするんですが・・・・」
「陛下直属の隠密として浩大も俺も己の仕事をするだけだ」

その言葉に、今度は桐が何を陛下に報告するのかと恐怖が這い上がる。 お願いだから私をゆっくり休ませてと心から懇願するが、きっと叶えられることはないだろう。

「克右さんと会ったのは不可抗力だからね。 そのあとに几鍔に会ったのだって同じよ!」
「そうか。 わかった」

無表情にそう言い残すと、桐はさっさと家から出て行った。 目を瞑り、これからどうするかを考えようにも、頭の芯を掻き回すような眠気に考えることが出来ない。 そうだ、まずは風邪を治すために寝るんだったと思い出し、夕鈴は重い足取りで寝台へと向かった。

王宮に戻ったら、陛下がどんな演技をして来ようと、どんな質問をして来ようと、そ知らぬふりでやり通すしかない。 今は一刻も早く風邪を治して、陛下が下町に来ないようにしなくてはならない。
それなのに夢の中まで陛下に弄られ続け、自分の呻き声で目を覚ますと青慎が心配そうな顔で私の額に濡れた手巾を置こうとしているところだった。

「あ・・・・ごめんね! もう大丈夫よ。 すぐにご飯支度をするからね!」
「姉さん、寝ていていいよ。 今日は僕が作るから、ゆっくり身体を休ませて。 ね?」

ああ、本当にいい子に育った。 思わず目が潤んだ夕鈴は弟の姿を見つめ、感慨深く頷く。

「本当に大丈夫。 だけど風邪みたいだから夕飯を作ったらすぐに休むね。 片付けは明日私がするから放っておいて大丈夫よ。 家の掃除をしたら王宮に戻るけど、明日の夕飯も用意しておくからね」
「大丈夫なの? 風邪なんか滅多にひかない姉さんなのに」

体調不良の原因は後宮での陛下からの執拗な過剰演技も一環だと言えずに、夕鈴は青慎に大丈夫だと元気に頷いた。 薬湯も飲んだのだから、あとは気力だ。 気力や根性なら自信があると夕鈴は台所に向かう。 作るのはいつもと同じ庶民料理だが、ふと陛下は美味しそうに食べるなと思い出す。 すぐに首を振って、その陛下に翻弄されている自分を思い出し、リフレッシュ中だと忘れることにした。

夕飯を済ませて薬湯を飲む。 残った煎じ薬を大切に家用として貰うことにして戸棚にしまい、青慎に説明する。 風邪かなと思ったら直ぐに煎じて飲むようにと。
食事が済んで身体が温かいうちに寝台で横になることにして、早く体調が戻るようにと願う。

「明日こそは家の中の大掃除をして、思い切り身体を動かそう!」

そして王宮に戻ったら、プロ妃として頑張るぞと夕鈴は目を閉じた。





翌朝、確かに体調は良くなった。 さすが後宮管理人が寄越してくれた煎じ薬だと感心してしまう。 朝飯を食べ終えて学問所に向かう青慎を見送った後、思い切り掃除をしようと夕鈴が袖を捲っていると、再び几鍔が家に顔を出した。

「おい、調子は戻ったのか。 今年の風邪は性質が悪いらしいぞ。 無理して拗らせると借金返済が滞って、嫁遅れがますます酷くなるから気を付けろよ」
「・・・・朝から暇なあんたも、おばば様に勝手に縁談組まれる羽目になるわよ。 私のことなんて放っておいてよ。 それに人の家に勝手に入ってこないでよね。 私は忙しいんだから、さっさと」

ムッとしながら睨み付けている最中、卓に置かれた品に目を奪われて台詞が途中で止まってしまう。
高そうな布に包まれたそれは、どう見ても酒瓶の形に見えた。 夕鈴が眉を顰めて几鍔を見上げると、気まずそうに顎をしゃくって呟き出した内容に目を瞠ってしまう。

「まあ、あれだ・・・・。 ばあさんが迷惑掛けた・・・・詫びというか、家にあっただけで誰も飲まない品というか。 要らないなら持って帰るが、王宮で世話になっている人に渡すっていうなら、これくらいの品じゃないとな」
「・・・・・あんたの家にあった品なら、すごくいい酒だろうとは思うけど」

卓上の品から目を逸らして夕鈴は項垂れた。 もう遅い。 
陛下に報告を済ませた浩大は、顔を出すこともない。 顔を出さないで桐に交代するということは、やはり報告内容は私に言えないようなものなんだと教えているようなものだ。 
それでも気を取り直して朝から掃除をして思い切り身体を動かそうとしている時に、几鍔は思い出させるように酒なんかを持ち込む。 おまけに朝からこいつが家に来ていたと、桐が陛下に報告をしそうで寒気が奔る。 いや、絶対に報告するだろう。 何が己の仕事をするだけだ、だ。 バイトが可哀そうだと思わないのか!

「身分不相応な品は要らない。 あんたから借金するつもりもないし、おばば様の件は気にしてない」
「わざわざ持って来てやったんだぞ?」
「頼んでないわよっ! それに・・・・・もう、必要ないから」

浩大にこれ以上貢いだって、既に報告済みなら諦めるしかないのだ。 今は早く几鍔を家から追い出すのが先決だろう。 そう考えた夕鈴は、卓上の酒を几鍔に渡して背を押し出す。

「本当に必要ないし、金もないし、来て欲しくないし!」
「こ、のっ! 人の親切を無碍にしやがって!」
「頼んでないでしょう! いいから、それは本当に持って帰ってよ」

気を利かせるつもりなら、家に来ないでくれた方が助かる。 これ以上変な報告をされても困るし、実際に金もない。 ただのバイトが休暇に誰と会おうが、本来なら陛下には関係ないことだと思う。 だけど私がそう思っていても、イヤガラセされそうで怖い。 陛下のイヤガラセは心臓に悪すぎる。 
折角、事故を含めた二度の口付けを頭から追い出して日々バイトに精を出しているというのに、妖艶演技で迫られたら何度も思い出してしまうじゃないか。
だから、だからこそ早く几鍔に出て行って欲しい。


だけど・・・・・・ああ、どうやら遅かったようだ。 押し出した几鍔がビクとも動かなくなり、背を叩いて怒鳴ろうとした瞬間、私の耳に聞き慣れた声が突き刺さった。

「・・・・朝から金貸し君が夕鈴の家にいるのは、どうしてなのかな?」

几鍔の背で姿は見えないが、聞こえてきた穏やかそうな声色の中、不穏な空気が混ざっているように感じてしまう。 同時に、ちりりと背を這い上がる悪寒に身体が竦んだ。 今、陛下はどんな表情で私を見下ろしているのだろう。 いや、その前に視察はどうなりましたか、陛下。

そろりと顔を出すと、柔らかな笑みを浮かべた陛下が私に視線を合わせる。 眼鏡の奥の瞳が笑っていないことに気付き、私はまだ目が覚めていないといいなと現実逃避したくなった。 

「やっぱり来たのか、この暇役人は。 朝から誰の家にいようが、関係ないだろうが!」
「几鍔! あんたも関係ないんだから早く出て行ってよ! ほら、早く!」

そして陛下に訊きたい。 陛下が三、四日掛かるはずの視察はどうなったのでしょうと。 まさか仕事を放り出して、李順さんを放置して、バイトの実家に足を運んだのではないでしょうねと尋ねたい。

私の剣幕に陛下を睨み付け、更に舌打ちをしてから、どうにか几鍔は出て行ってくれた。 
息を整え、バクバクする心臓を押さえながら家に入り、湯を沸かす。 当たり前のように椅子に腰掛ける陛下に茶を出すと、手を掴まれた。 視線を上げられないまま掴まれた手を凝視していると、今は必要ないはずの狼陛下の声が聞こえて来る。

「・・・・・夕鈴、お酒を口にしたんだって? 私が視察で王宮を離れると同時に君は下町に来て、幼馴染君の前で酒を口にしたんだ。 ・・・・何があったのか、教えてくれる?」

知っている癖に!

夕鈴が睨み付けると、不思議そうな顔で見つめ返され、悔しさに唇を噛むと笑われてしまった。


 

  

→ 次へ


スポンサーサイト

テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 01:08:05 | トラックバック(0) | コメント(13)
コメント
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2013-12-09 月 06:35:44 | | [編集]
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2013-12-09 月 11:56:04 | | [編集]
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2013-12-09 月 14:11:11 | | [編集]
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2013-12-09 月 16:54:09 | | [編集]
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2013-12-09 月 18:45:27 | | [編集]
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2013-12-09 月 19:57:08 | | [編集]
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2013-12-10 火 07:35:33 | | [編集]
Re: タイトルなし
名無しの読み手様、コメントをありがとう御座います。夕鈴二泊出来ましたが、掃除、出来ていません(笑) 陛下はここからちょっと壊します。壊れた陛下が好きなんです、ごめんなさい。あ、桐が優しく見えますか?うん、それは気のせいですよー。
2013-12-10 火 23:20:15 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
ますたぬ様、コメントをありがとう御座います。桐の優しさはまがい物ですよー! 桐はドSですよー! 苛めっ子の優しさは危ないですよー(笑) 陛下が予定より早くなりましたー。夕鈴帰る直前にしようかと思っていたのですが、やっぱり几鍔との絡みを少し書きたくて(により)
2013-12-10 火 23:23:52 | URL | あお [編集]
Re: 陛下…
makimacura様、コメントをありがとう御座います。御久し振りで御座います。当方も御無沙汰しており、すいません! 夜にどうにか必死に書き綴っているので、なかなか時間が取れないと言い訳します! はい、言い訳です。ごめんなさい。『> 李順の極悪形相』に爆笑しましたー! 彼の眼鏡が白く輝くところが早く書きたいです!
2013-12-10 火 23:28:01 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
ぶんた様、コメントをありがとう御座います。夕鈴お疲れ様ー!・・・・としか言いようが御座いません。なんと哀れな子。よよよ。陛下を追い出すのが先か、青慎が帰って来るのが先か。う~ん、どうしようかと思案中。見切り発車のうえ、迷走しているので先がどうなるのか自分が一番わからない(笑) ぶんた様、あちらにもコメントをありがとう御座います!!
2013-12-10 火 23:30:24 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
ビスカス様、わーい、ビスカス様! コメントをありがとう御座います。そして、嬉しいっす! 怪我か病気かと心配しておりました。御実家の母って、私も緊張する。いい娘でいたいのかしら? そしてマクロビ、調べました。そうかー、炊飯前に入れる雑穀米とは違うんですよね。電磁波には・・・・・うん、その齢の人の言いそうなことだけど、今の世の中通じない。でも、我慢でしたよねー!(涙) まずは体調をゆっくり治して下さいませ。桐は浩大と同じで酒豪ですよ。付き合うのは大変そうー! でも週末は会社の忘年会が楽しみな私です。呑むぞー!!
2013-12-10 火 23:39:03 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
ぽんちゃん様、コメントをありがとう御座います。ああ、怒りでぶっ倒れる李順さんもいいですねー(笑)陛下の夕鈴センサーがすごいのか、浩大の報告のせいなのか、父ちゃんが置いて行った酒が悪いのか、それとも夕鈴の運が悪いのか・・・・・(爆) 兄貴をもう一度出させたい・・・・・けど、う~ん、どうしようかな(にやにや)
2013-12-10 火 23:42:58 | URL | あお [編集]
コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。