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千思万考  9
寒いですね。雨が山沿いでは雪になり、実家の北海道では積もっており、今年は灯油が高いと愚痴っています。見直しされている薪ストーブもあるので、時々それを使っているそうです。基本は床暖房が出来る灯油ストーブですが、昼間は薪を使ってると電話でお話。薪ストーブって超暖かいんですよー。


では、どうぞ











目が覚めると朝で、侍女さんが朝の挨拶と共に洗顔や着替えの用意を始める。 今日から改めてバイト妃だと気合を入れ直して朝食を済ませて髪を整えて貰っていると、侍女さんが慌てて寝所に駆け込んで来た。

「陛下のお渡りで御座います。 あ、あの・・・・」
「ええ! こんな時間に陛下が? 朝議はどうされたのでしょうか」
「わ、わかりませんが、あの・・・・」

侍女さんが狼狽していたので陛下の機嫌が悪いのだと判る。 朝議の時間だろうに、一体どうしたのかと急ぎ隣の部屋に移動すると、茶杯を手にしていた狼陛下は嫣然とした笑みを浮かべて立ち上がった。
一見すると機嫌は悪そうに見えないが、醸し出す雰囲気は間違いなく狼だ。 ピリピリした雰囲気を察した侍女さんたちの顔色が蒼褪めていくのが見えて、夕鈴は妃演技で場の雰囲気を盛り返そうと必死になる。

「まあ、陛下。 朝からお会い出来るなんて嬉しいことですが、どうかなさいましたの?」
「我が妃に朝の挨拶をしに来た。 愛しい妻の体調が気になり、仕事が手に着きそうもないのでな。 ああ、顔色は良くなったな、淡く染まる頬に思わず口付けたくなる」
「お・・・お陰様で体調は申し分御座いません。 それよりも陛下は朝議のお時間では?」
「愛しい妃が健やかなのを確認出来たので、安心して励める。 今日は政務室には行かずに後宮内でゆっくりと過ごすように伝えておく。 私のために早く元気になってくれないと困る」
「まあ、陛下のお心遣いに・・・・感謝申し上げますわ」

今日は政務室に来なくていいということか。 それなら老師のところで掃除を・・・・・。

「部屋から出ずに身体を休ませておくように。 お前たち、妃は風邪気味だ。 時間ごとに薬湯を用意し、果実を運ぶように。 部屋を温かくして気を配せよ」

えええええーっ! 風邪なんか、もう治ったって! もう大丈夫だって!
問題なく働けるわよ! 何を突然言い出すのよー!

陛下の言葉に拱手低頭する侍女が、一斉に心配げな視線を向けて来る。 小さく頭を横に振るが、陛下の手が伸び私の顎を持ち上げると、整った狼の顔を近付けて来た。 心の中で盛大な叫び声を上げる私に向かい、朝から駄々漏れの色気を醸し出しながら低い声を落として来るから固まるしかない。

「我が妃が風邪だというのに、君から離れる私を許してくれるだろうか。 午後には必ず顔を出すから、ゆっくりと体を休ませ、夜には愛しい笑みを見せてくれるか」
「・・・・ええ・・・・・もちろんですわぁ・・・・」
「いつもの可憐な笑みを、私のためだけに向けてくれるか」
「も、もちろんでございますぅ・・・・・」
「君のすべてが私のものなのだから、私のものを大切に愛おしむようにな」
「は・・・・はいぃ・・・そのようにぃ・・・」

耳朶に掠める低い声と、頬をなぞりながら髪を撫でる手の動き。 何より近距離での狼陛下は涙が滲むほどに妖艶すぎて、バイト妃では対応し切れないと夕鈴の視線は彷徨う。 急にどうしたんだと視線で訴えるも、朝議が迫っているはずの陛下は演技を止めてくれないし、侍女が控えているから逃げる訳にもいかない。

「折角私のために整えただろう髪だ。 私が解くのがいいだろうな」
「え? あ・・・・」
「夜着に着替えさせるのも、私がした方がいいだろうか」

簪や花飾りを外していく手の動きに驚いている私に、狼は片手を人の肩から背に滑り落とす。 妙な声が出そうになり慌てて口を押えると、今度は手を掴まれ持ち上げられた。 
もう、涙が滲む段階ではない。 
零れる、流れる、おまけに叫ぶ一歩手前ですと陛下に必死に目で訴えるが、もちろん聞いてくれそうな気配はない。 その上、持ち上げられた手が陛下の唇に触れ、余りのことに身を引こうとして椅子から転げ落ちそうになる。 背に回っていた手に傾いた身体が引き寄せられると、自然と私の頭が陛下の胸に飛び込み、そのまま抱き上げられてしまった。

「・・・・ひぃ!」
「まだ風邪で身体がふら付くのか。 寝所でゆっくりと休むがいい」

最初は蒼褪めていた侍女さんたちが次第に頬を染め出して、風邪をひいた妻を心配する陛下を注視しているのが視界の端に見えた。 過剰演技に身悶える私を侍女さんはどう見ているのだろうか。 嬉しそうに陛下に凭れ掛かっているように見えるかしら。 寵愛を一身に受けた幸せそうな妃に見えているかしら。 本当は狼陛下の演技に脱力して、ただ捕縛されているのだとしても。 

寝台に転がされた私は頬を撫でられ、強張った笑みのまま陛下を見上げた。

「夕鈴、ちゃんと休むんだよ。 後で顔を出すから、間違っても掃除に行っては駄目だよ」
「も、もう大丈夫だって言ったのに・・・・」
「夕鈴の言うことなんか聞かない。 奥さんは夫の言うことを聞いて風邪を治すことだけを考えていればいいよ。 あとで視察の土産を持って来るからね。 それまではちゃんと寝ておくことだ」
「・・・・視察だって途中で抜け出した癖に」
「やることはやったさ。 それに、王が視察に行くというだけで気が引き締まるだろう?」
「・・・・李順さんに怒られた癖に」
「それは夕鈴が悪い。 内緒で実家に帰るし、お酒を飲んで幼馴染君に抱かれるなんて」
「だっ! 抱か」

直ぐに大きな手が夕鈴の口に覆い被さり、耳元に低い声が落とされる。

「しぃ・・・。 侍女が隣にいるから、大きな声は駄目だろう」

涙目で陛下を見上げるも、楽しそうな狼陛下の演技は続行中らしいと判るだけ。 だけど最後の台詞は間違っているし、なにより言い方が恥ずかしい。 飲みたくて飲んだ酒じゃないし、酔って正気を失った私が几鍔に運ばれたことを、いつまでも苛めるとは、なんという仕打ちか。 せっかく妃衣装に着替えたというのに、体調はすっかり戻ったというのに、朝から突然やって来て、一日を寝て過ごせとはバイトに仕事をさせない気か。 

「ちゃんと寝てますから、陛下は朝議に御参加下さい。 ここに来ているのが判ったら、李順さんは絶対、必ず、間違いなく、私をも叱責するでしょう。 それは陛下のせいですからね!」
「夫婦は一蓮托生だからな。 共に叱られてくれ」
「・・・・そんなの妃の仕事じゃありません!」

やっと立ち上がった陛下と入れ替わりに侍女が夜着の用意に寝所に入って来た。 真っ赤な顔で憤る私を見て、侍医を呼んだ方がいいかと心配げな表情で訊いてくるから、頭まで掛布を被り大人しく寝ることにした。

 

約束通り、午後に顔を出した陛下は視察先で買ったという土産を持ち寝台に腰掛け、茶の用意が終わった侍女を下がらせると、途端に小犬になる。 ニコニコの笑みで土産の袋から菓子を出して来るから、朝の怒りは霧散してしまう。 時間の経過と小犬効果で怒るのをすっかり諦めた夕鈴が眉尻を下げて菓子を口に運び出すと、そろりと窺って来る気配を感じた。

「何ですか、陛下」
「うん、夕鈴・・・・もう、怒ってない?」

怒る気力を根こそぎ取った張本人が何を言うんだと眇めた視線を向けると、そこには耳と尻尾を項垂れた小犬がいる。 過去、何度この光景に降参したことだろう。 何度も酒を飲んだことと、几鍔に寝台へと運ばれたことをネチネチと口にしていたのに、今さら菓子で懐柔出来ると思っているのだろうか。
そして、私は確実に懐柔されていた。
高価で美味な練り菓子と小犬の陛下の窺うような視線に、すっかり陥落済みだ。

「怒ってません・・・・けど、もう言わないと約束して下さい。 酒を飲んじゃったこと、几鍔に寝台に連れて行かれたこと。 不本意だったと私は何度も陛下に伝えていますよ?」
「わかった、もう言わない。 ごめんね?」

簡単に謝る陛下に、本当に解かっているのかと胡乱な視線を向けるが、肩を落として下を向かれたら夕鈴はそれ以上言えなくなる。 心配してくれているのは判っている。 もっと頼って欲しいと言われるのも、実は嬉しい言葉。 嬉しいと素直になれないのは、それに頼ってしまう自分が弱いとわかっているからだ。 
頼ってどうする。 自分で立てなくなる頃にはバイト終了で、陛下からも王宮からも離れることになる自分だ。 李順さんの言う通り、境界線は必要だろう。
時にそれがじれったく感じても、陛下と自分は住む場所が違うのだから。
間違って踏み込んだ時、傷付くのは私の方。 だからこそ溜め息を吐いて終わりにしよう。

「考えても仕方がないことを幾ら考えても無駄だということが判りました。 きっと何度も悩むでしょうけど、これが自分の性分なので仕方がありません」
「僕、ごめんねって謝ったのに」
「ええ。 ですから、もういいです。 いいことにします」

狼陛下に翻弄されて、小犬陛下で癒されて、グルグル考えることはいつも思う通りにならないなら、目の前のことだけに一生懸命になるしかない。 それでもまたグルグル考えることになるだろう。 その時は、その時だ。 どうしたって陛下には敵わないのだから。

「夕鈴、もう胃は痛くない? 頭も痛かったの? 寒くない?」
「だから風邪は治ったと・・・・・。 もう痛くも痒くもありません」

僕の言葉に眉に皺を寄せて、それでも菓子を口に運ぶ夕鈴に笑ってしまいそうになる。 
いつも何事にも一生懸命な夕鈴だが、酒を飲んで幼馴染に容易にその身を触れさせるなど、どれだけ僕が心配したか解かっていないだろうな。 君が時折、熱心になるプロ妃だって僕は望んでいないのに。 
君らしい君を望んでいると何度伝えたら解かってくれるのかな。 それとも判らないままバイト期間が終了となる? このまま逃がすべきか、もう逃がせないと自覚するべきか。 何度も何度も考えるが、納得する答えが出る訳がない。 夕鈴の気持ちが判らないのだから。

自分の気持ちが溢れてしまい、時に君を狼で翻弄するほど追い詰める。 だけど嫌われたくないと小犬で懐柔に向かう。 思ったように君が揺れ動く姿に目が離せない自分は、やはり君を逃すべきではないのだろう。 徐々に囲いを狭める方法がいいのか、直接噛み付いた方がいいのか。

今日も考えに答えが出ないまま、一日が終わりそうだ。 

「夜には別の土産を持参するね。 それまではちゃんと寝ているんだよ」
「寝てばかりでは仕事になりません。 明日は妃として政務室に行きますからね!」
「うん。 じゃあ明日を楽しみにして待っているよ」

元気な声に癒された僕は夕鈴の部屋を出るが、途端に足が重くなる。
どす黒いオーラを醸し出す側近の待つ政務室へ入ると予想通りに山のような政務が待っていて、僕は眉間に皺を寄せる。 嘆息を吐きながら椅子に座ると、書簡を持った官吏が狼に怯えながら入室して来た。

「・・・・李順、これらはいつ終わる予定だ」
「陛下次第で御座いましょう。 急ぎ終わらせたいなら、いちいち休憩に後宮へ足を向けなければいい話です。 それが御厭でしたら、仕事が捗る宰相室へとご案内申し上げますが?」

辛気臭い顔を前に政務の耐久レースなど御免だ。 署名の済んだ書類や書簡を持って李順が部屋を出ると、窓から桐が顔を出す。 王が視察に向かっている間に慌ただしく蠢く輩を泳がせ、上手く証拠を掴むことが出来た。 大木の陰で動かずにいた輩を誘き出すのも一苦労だ。 裏帳簿など証拠を残していること自体、小物の証拠だろう。 早々に鎮火出来て良かったとすべきか、情けない臣下ばかりだと失笑すべきか悩むところだが。

「陛下、州刑吏からの書類を貰って来ました。 高官二名が係わっている裏はこちらです。 あと、こちらは李順殿に頼まれていた元々の仕事です。 着服金のおおよその内容はこちらに」
「浩大と交代で動き回っていたから、大変だったろう。 特に愛人に貢ぐ高官邸への潜入は」
「思わず元の本業を思い出しそうになりましたよ。 ところでお妃の体調は如何ですか」

しれっと語る元刺客は余程面倒な仕事だったらしく、話を直ぐに打ち切った。 

「ああ、ずい分良くなったようだ。 問題は我が妃が直ぐに動こうとすることだけだな」
「良くなりましたか。 実家では憔悴して妙な顔を見せていましたが、薬湯が効いたのでしょう」
「・・・・妙な顔とは何だ?」
「例の幼馴染と町で会った徐克右、浩大の報告内容など、埒も飽かぬことを悶々と考え込んでいたのでしょう。 妙な顔としか言いようがありません。 まあ、陛下がよく 『可愛い』 とお褒めになる顔だと思って下さい。 では私は次の高官調査に移動させて頂きます」

拱手低頭した桐が窓から姿を消す。 窓くらい閉めて行けと文句を言いたくなるが、既に姿はない。 
立ち上がり窓を閉めようとして一気に寂しくなった庭園を見回した。 次の春が来る頃まで夕鈴はいてくれるだろうか。 長くなったバイト期間だが、それを彼女はどう思っているのだろう。
借金完済を願っているのは判っている。 いつまでも借金に纏わり付かれるのは厭だというのも判っている。

「だけど僕から逃げるのは別のことだよね。 いくら君が妙な顔でいろいろ考えても悩んでも、やっぱり逃がすことなんか出来ないな。 寂しい庭園も君と歩くだけで楽しくなるのだから」

冷たい風に頭が冷えたと、陛下は椅子に腰掛ける。 今頃夕鈴は、ちゃんと僕の言う通りに薬湯を飲んで寝ているだろうかとほくそ笑みながら次の書類に手を伸ばした。





「・・・・っしゅん! あれ? 治ったと思ったけど、ぶり返したかしら」

人払いをした寝所に籠り、青慎の衣装を繕っていた夕鈴は上着の襟を引き寄せた。 
夜に陛下が来るまで寝てばかりでいる訳にはいかないと、密かに針仕事をしながら鼻を啜る。 
次に下町に行く時は、いっそのこと最初から陛下を伴った方が心臓にはいいのかも知れないと考え、いやいや李順さんがそんな許可を出す訳がないと失笑する。 
もういくら考えても狼の考えなど、解かる訳がない。 臨機応変とういう言葉は陛下のために存在するのだと理解した夕鈴は黙々と針を動かし続けた。 






FIN

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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 23:59:09 | トラックバック(0) | コメント(6)
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2013-12-23 月 11:25:01 | | [編集]
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2013-12-23 月 14:09:41 | | [編集]
Re: 考え込まないで…
makimacura様、コメントをありがとう御座います。そうそう、夕鈴も陛下も考えすぎ。立場が上の陛下が若さに任せてガブッと噛んじゃえばいいのにと思ってしまう。だけど鼻じゃ駄目よ、陛下。(笑)じれじれが好きですが、後ろから誰か押さないかなと思っちゃう。浩大が媚薬を盛っちゃうとか(爆)殺される覚悟が必要だよね。こわい、こわい。
2013-12-24 火 00:32:50 | URL | あお [編集]
Re: ままならない…
ぶんた様、コメントをありがとう御座います。社員食堂があるんだー。羨ましい! 食事は出るけど狭いから会議室を使ってますよ。時々隣りのコンビニに走ったりするし。娘へのクリスマスプレゼントは希望の品をあげることになりそう。少し小遣いも奮発しなきゃと思っております。今回の話は題名通りなので、結局は今まで通りなんですが、本誌の方では少しずつ動きがあって、ドキドキですよね。 ・・・・・方淵の歌声って、とても力強そうだわ。軍歌なんかがとても似合いそう。隣りで水月が無言で微笑んでいる姿が想像出来ます。
2013-12-24 火 00:40:17 | URL | あお [編集]
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2013-12-25 水 20:02:59 | | [編集]
Re: タイトルなし
ビスカス様、コメントをありがとう御座います。おわわ、大丈夫でしたか。年末に倒れたら家が大変です。日本酒が合わないのかな。私もクリスマスには白ワインを楽しみました。つい飲んじゃって夜中にトイレに行くのが寒い、寒い。そして、そうそう! 本誌見て悶えちゃってコミックスが出るのが超楽しみです。どんどん書ける範囲が増えますからね。にょほほですよ。尻を突きたくなります。
2013-12-25 水 20:33:58 | URL | あお [編集]
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