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迷宮への誘い  おまけ
どうしても会長室のその後が読みたいとリクを頂き、「迷宮への誘い」のアメリカ編、その後を妄想しちゃいました。お名前なし様、underではないですが、こんな話でも笑って頂けますでしょうか。わはははは。


では、どうぞ












背中のホックを外されそうになり、どうにか必死に身を捩るが黎翔とは体格差もあり、リーチも違う。 その上、前から包み込むように抱き締められた状態で頭やこめかみを啄ばむようにキスされ、耳朶や首筋に舌を這わされ、ブランケットを捲って腰を這い出した手の動きに力が抜けてしまい、上手く抗えない。
抗えないけど、抗うしかない! ここは会長室で、あと少しで迎えの李順さんがやって来るのだから。 

「れっ、黎翔! ま、まさか、ここで・・・・なんてこと、考えてないわよね!」
「いつでも、何処ででも君を欲しいと思うよ。 大丈夫。 私が呼ぶまでは誰も来ないだろうし、声が聞こえていれば中に入ろうとは思わないだろう。 ああ、でも君の艶めかしい声を聞かれるのは問題だな」

そういう問題じゃないとユーリは首を振った。  
大企業の会長が、仕事中に会長室でコトに及んでいるなんて醜聞以外の何ものでもないだろう。 幾ら相手が妻でも常識が無さ過ぎる。 ユーリ自身は書類運びの業務から外れているが、打ち合わせなどで他部署に顔を出すこともあるのに、もしも秘書課の人に会うことがあったら・・・・。

昼間から、会長と会長室で、会議前に、皆を待たせて・・・・てた人・・・なんて、そんな意味合いを込めた目で見られたら。 そんなの絶対に厭! もう外に出られなくなる。 第一、昼間からなんて絶対に駄目。

「ひ・・・・昼間は駄目! お仕事優先! 第一、ここは会長室でしょう!」
「島でひと時のバカンスを過ごした時は昼間から愛し合っただろう。 互いに仕事を放り出し溺れるほどだったのに、忘れたのかな? 会長室が厭だと言うなら会議室がいい? それともいっそのこと邸に帰ろうか?」
「や・・・いやです! 絶対にいや」
「大丈夫、直ぐに周りのことなど気にならなくなるから。 ユーリ、寒くはない? ・・・・まあ、直ぐに熱くなるだろうけど。 ほら、恥ずかしがらないでいいよ。 それとも煽っているのか?」

楽しそうに私を束縛する黎翔の顔を見て、血の気が引いて蒼褪めてしまう。 
島でバカンスって、モノは言いようだが、間違いなくアレは監禁だろう。 互いに仕事を放り出してと言ったが、勝手に私の有給を使って休ませて逃げ場の無い島に閉じ込めて、時間の流れも判らなくなるまで翻弄していた人が、そんな風に捉えるなんて、まぁ、なんて素敵な思考回路をお持ちなのかしら。

李順さんが来るまであと40分くらいか。 とにかくコトが始まっては大変だとユーリは必死に策を練った。 百戦錬磨の黎翔に通じるか不安が残るが、どんなことでもやってみなきゃ判らない。 
ユーリは小さく唾を飲み込み、肩に掛けていた最後の砦のブランケットを潔く床へと落とした。

「わたし・・・・会長室が厭だって言っている訳じゃないわ。 だけど他の人に・・・・あの時の声を聞かれるのは恥ずかしいって言ってるのよ。 だって・・・・・いっぱい声、出ちゃうし」

豊満とは決して言えない胸を黎翔の上着に摺り寄せながら、腰へ手を回す。 

「それに会議の前に李順さんと打ち合わせがあるのでしょう? ・・・・もう一時間も無いのに、そんな短い時間だと、きっと・・・・逆に物足りなくなっちゃう。 いつもは時間をたっぷり掛けて・・・・してくれるのに」
「え。 ユ、・・・・ユーリ」
「勝手に実家に泊まりに行ったのは、黎翔が私の話を聞いてくれなかったから。 だけど譲歩してくれたから、もういいの。 仲直りで抱き合うなら嬉しいけど、お仕置きされるのはイヤ。 ましてや短時間でなんて、そんな風に抱かれるのは・・・・イヤ」
「あ、うん。 あ・・・・・ユーリ。 どうしよう、このまま邸に行きたくなる」

黎翔の腰に回した手に力を入れ、じっと目を合わせながら口角を上げる。

「これから行なわれる会議は大事な、黎翔にしか出来ない仕事でしょう? 頑張って欲しいな」
「・・・・・うん、頑張るよ」
「私、携帯を会社で充電したままなの。 取りに行って来るわ」

するりと手を離してソファに置かれたままのシャツを羽織る。 背後から黎翔の手が私の肩を引き寄せ頭に沢山のキスを降り注いで来るから、したり顔で小さく笑いを零すと、切なげな声が頭上から落ちてきた。

「本当・・・・ごめんね、勝手にユーリを休みにして」
「それだけ黎翔に愛されているってことでしょう? こんなにも束縛されて、戸惑うほどだわ」

手早くシャツのボタンを留め、ジャケットを羽織る。 
バッグを持ち、くるりと振り返った私は黎翔の胸に飛び込み頬を寄せて、最後の仕上げをした。

「だけど勝手に休みにしないでね。 これ以上有給が減ると、黎翔の休みに合わせて出掛けることが出来なくなるから。 今度はカナダに連れて行くって言っていたでしょう? 私、楽しみにしているのに」
「ごめんね、もうしないよ! 今日は邸に真っ直ぐ帰る? 実家に行くなら迎えに行くよ?」
「ウォルターが家族を連れて実家に来ると言ったでしょう? それと長く心配掛けた分、今日も泊まると約束したのだけど、黎翔は駄目って言う? おじさんには電話して断った方がいいのかな」

眉尻を下げて見上げると、息を詰まらせて逡巡する黎翔がいる。 
今回私が異世界に行ったことで心配していたのは黎翔だけじゃない。 面会謝絶の病気だと、長い間連絡も取れなかったユーリに会いたいという家族の気持ちを、夫であるというだけで無碍には出来ないだろう。

「・・・・泊まるのは今日だけ?」

にっこり微笑みながら見上げていると、黎翔が小さな息を吐くのが見えた。 何と答えたら彼は理解してくれるかしら。 いや、ただ納得出来ないだけで、もう解かってはいるのよね。

「道場通いを許可したのは私だ。 今日の休みは取り消して貰うよう、電話するよ」
「ありがとう! 泊まるのは今夜だけ。 明日の夜は夕食を作って黎翔の帰りを待っているからね!」

ぱああっと黎翔の頬が染まり、満面の笑みが浮かぶと同時に大きな獣耳と尻尾が現れ、それがブンブンと大きく左右に振られている幻が見える。 ふと白陽国でも似たような光景を目にした覚えが頭を過るが、今はそれどころじゃない。 黎翔の笑顔を見て、今の内だと部屋を出ると李順さんが書類を持参して立っていた。

「上手く・・・・収めたようですね。 このまま立ち尽くさなければならないかと案じておりました」
「それだけは絶対に無いですし、そんなの絶対に阻止します! 会議があると言われたし、李順さんが来るのが分かっているのに。 第一、神聖な職場で黎翔がそんなことを、する訳がないでしょう!?」
「・・・・ははは」

李順さんの言葉に真っ赤になって慌てるが、彼は乾いた笑いを落として肩を竦めた。 その乾いた笑いを目にした私の背筋を思いきりイヤな想像が這い上がる。 イヤな想像が頭に到達した時、私は李順さんを凝視しながら口を開いた。

「李順さん? ・・・・まさか、過去にそういうことがあったの? 女性に手を出したことがあるって? この会長室で、仕事中に、黎翔が?」
「・・・・いえ、そういう・・・・あっ、ユーリ様っ!」

勢いよく扉を開くと、黎翔が笑みを浮かべて 「どうした?」 と手を広げてくる。 しかし私の表情に気付いたのだろう、顰めた眉と共に広げた手はゆっくりと下げられていった。 
もう焼きもちは妬かないと言った。 黎翔のことが好きだから、傍に居られる幸せを実感出来るから、誰よりも何よりも求めているのは黎翔だから、それが手に入るなら他はどうでもいいと思った。 諦めずに探し続けてくれた黎翔に好きだと直接伝えられる幸せは、私だけのものだ。 出逢う前の過去のことで、今更焼きもちを妬いてどうする。 今まで彼がどれだけモテていたか、今もどれだけたくさんの女性から熱く見つめられているかだって、厭でも知っているのに。

全ては自分の勝手な想像だ。 だけど・・・・何だろう、すごく悔しい。 やっと黎翔を本来の仕事に戻せると、捕縛から逃げられると思ったのに、自分の勝手な想像で腹が立ち、足は動かないし言葉が出てこない。 
大きく開けた扉を押さえたまま怒りに震えていると、背後から李順さんの慌てた声が聞こえて来た。 

「ユーリ様、それは貴女の想像です! そんなこと、私だって決して許しはしませんよ!」
「・・・・李順、何のことだ?」
「会長は少し黙って下さい! ユーリ様、いいですか。 私がそんなこと許すはず、ないでしょう!」
「・・・・で、でも李順さんの表情は・・・・・」
「私の表情で妙な想像をされるのは間違っています!」

李順さんの言うとおり、きっと私の醜い想像だ。 だけど黎翔は沢山の女性と付き合っていた。 今さら過去の女性に妬いてどうすると思うが、一度考え出すと簡単に治まってはくれない。
ぐっと堪えている内に目が潤んでくる。 李順さんに違うと否定されても、穿った考えは直ぐには消えない。

「れ、黎翔・・・・。 正直に教えて?」
「ユーリ、どうしたんだ。 何があって泣きそうな顔をしている?」
「会社で女性に・・・・。 ここで女性に手を出したこと、ある?」
「ユー・・・・・。 え?」

一瞬。 ほんの一瞬だけど、黎翔の瞳が私から外された。 
それを目にした瞬間、私は踵を返して役員専用の高速エレベーターに向かい走り出す。 李順さんが乗って来たままだったのだろう、直ぐに扉を開いたエレベーターに乗り込み一階のボタンを押して閉扉ボタンを叩くように押した。 閉まる直前、黎翔の顔が見えた気がしたが直ぐに強く目を閉じたから見間違いかも知れない。 

ああ! 今さら過去に焼きもち妬いてどうするのよ! そんなの重いでしょう、重すぎる!
そのまま黎翔の本社から飛び出して、タクシーに乗り込んだ私の頭の中に、過去何度も雑誌にスクープされていた女優や女性社長が妖艶な笑みを浮かべて黎翔にしな垂れかかる姿が浮かんで来る。 今は少しでも離れた方がいい。 今の感情のまま黎翔の傍にいたら、絶対に取り返しのつかないことを言ってしまいそうだ。 訝しそうな視線を向ける運転手に実家の住所を告げ、あとは流れる景色を強く見つめ続けた。

しかし十分ほどで乗ったタクシーが渋滞に巻き込まれ、ユーリが地下鉄に移動しようかと考えた時、窓を叩く音に目を瞠った。 荒い息を吐くパウローがドアを開けると数枚の紙幣を運転手に渡して、私を引き摺り下ろす。 運転手の驚愕に見開かれた視線に手を振って 「知り合いです!」 と伝えるが、彼はどう思っただろう。 強く腕を掴まれたまま歩道へ移動すると、右手首に手錠を掛けられた。

「・・・なっ!」
「騒ぐな。 着替え終えて戻ると、会長から怒声で指示を受けた。 お前を直ぐに本社へ連れ戻すようにな。 直前には会議が始まる時間が迫っているというのに、それどころじゃない状況になったと会長秘書長に電話で叫ばれた。 何があったか判らんが、連れて行くぞ。 全く・・・・」
「やっ、やだぁ!」

足払いを掛けようとしたら腕を捩じ上げられ、そのままバイクに乗せられた。 腕を掴まれパウローの腹前で左手首にも手錠が掛かる。 腕を上げて逃げようとした瞬間にバイクは発進し、あっという間に黎翔の本社に舞い戻る羽目となった。
バイクから降りても手錠は外されることなく、パウローを後ろから抱え込んだ歩きにくい体勢のまま会長室に連れて行かれて、顔を上げることも出来ずに俯いていると誰かが近付いて来るのが判る。 

「・・・・鍵を外せ」

低い声色に思わずパウローにしがみ付くと、腕を強く引かれる。 それでも声の主が判っているだけに厭だとしがみ付いていると、いきなり両脇を擽られ変な声を上げてパウローから手を放してしまった。

「あひゃあ! や、やめ・・・っ!」
「ユーリ!」

痛いほどに抱き締められ、前が何も見えなくなる。 解かるのは逃げること叶わず、捕まったということだけ。 背後から 「会議はあと30分後ですよ」 と声が掛かり、私は蒼白になった。 必死に黎翔のスーツを引っ張るが、腕の力は抜けずにぎゅうぎゅう締め付けて来るばかり。 扉が閉まる音を耳にして、私の身体が震え始めた。 悪い方にばかり考えが向かってしまうのは、黎翔のことを信じ切れていないのかな。 焼きもちを妬かないなんて、ちっとも守れない。 それも過去の女性に対して怒って飛び出し、会議が始まるというのに迷惑を掛けている始末だ。 ・・・・出来ることなら今、異世界に飛ばされたい。

「何処にも行くな・・・・ユーリ」

私の考えが聞こえたかのような黎翔の言葉に、思わず身体が強張った。 頭にいくつもの口付けが降り注ぎ、何を言えばいいのか判らなくなる。 気にしてないと言えばいいのか、過去のことだよねと流せばいいのか。 その前にそんなことを黎翔がする訳がないと盲信したらいいのか。

「ユーリに嫌われることなんてしない。 だから何処にも行くな」 

その声に眉を寄せて強く目を瞑る。 自分が恥ずかしすぎて何をどうしたらいいのか考えることも放棄したいが、あと30分で会議が始まるというなら、急いで黎翔を引き剥がさなければならない。 そして扉の向こうに引き渡すのだ。 そう思った私は腕の束縛からどうにか顔を出し、必死に声を掛ける。
 
「ど、何処にも行かない、から、会議に出てちょうだい!」
「・・・・だって、さっき逃げた・・・・」
「逃げた、のは・・・・会社に携帯を取りに行くって言ったでしょう? だから」
「ユーリに嫌われたら生きる気力がなくなる・・・・」

ジワジワと赤くなる顔を隠しながら会議に出て欲しいと訴えるが、黎翔の束縛は緩むことがない。 勝手に想像して勝手に逃げ出した私が悪い。 過去のことなら今それを言っても詮無きことと承知している。 ただ、自分はここまで心が狭い人間だったのかと情けなくなるだけだ。

「嫌いにならないよ。 黎翔が好きだって言ったでしょう! どんなに離れても、黎翔のことばかり考えていた。 さっきは・・・・ごめんなさい。 焼きもち妬かないっていったのに・・・」

引っ張っていたスーツから手を放して背に回すと、やっと黎翔の腕から力が抜けて来た。 窺うように私の顔を見下ろす黎翔が唖然とした表情を浮かべながら、背に回していた手を肩へ移動する。

「・・・・焼きもち」
「もう焼きもち妬くことはないって言ったのに、過去の交際相手にまで妬くなんてミットモナイことして、ごめんなさい。 も、もうそんなことしないから、だから早く会議に出て!」
「嫌いになった訳じゃない? 離れようとした訳じゃないのか?」
「は、離れたのは、嫉妬で何を言うか解からなかったから・・・・よ。 みっともない自分を晒したくなかったって言うのもある。 だけど黎翔を嫌いにはならない! 黎翔は・・・・イヤになった?」

今度は柔らかく抱き締められる。 そっと包み込むように腕を回して抱き締められ、私は詰まらせていた息を深く吐くことが出来た。 黎翔が同じように息を吐くのが聞こえ、背中を何度も擦られる。

「ここで女性と何かをしたことはないよ。 警備室に知られるからね。 ただ誘うように服を脱ぐ女性や、掻い潜って入って来た他企業の女性幹部に迫られたことはある。 直ぐに一蹴して追い出したが」

そうか、さっきはそれを思い出して視線が私から外れたのか。 警備室に知られるということは監視カメラでもあるのかしら。 会長室だからそれくらいは当たり前なのかな。 ・・・・・って、それじゃあ、さっきの私たちのことも警備室の人たちはばっちり見ていたということになるの!?

「じゃ、じゃ、じゃあ、さっきの私も警備室の人たちに見られていたって言うの!? ブラだけの姿を? 黎翔に抱き着いていたのを? 何を言っていたのかも、全部っ?」
「いや、ユーリを連れて来てから直ぐにカメラスイッチを切ったから・・・・」

膝から力が抜けていく。 見られてなくて良かったと思うと同時に、勝手な想像で迷惑を掛けたのだと恥じる気持ちが混雑し、泣きたくなる。 早く黎翔に会議に行って貰わなきゃと思うのだけど、恥ずかしすぎて顔を上げることが出来ない上に、足に力が入らない。 

「あ、あの・・・・暫くこの部屋にいていい? ちょっと力が入らなくて立てないの」
「じゃあ直ぐにコーヒーを持って来させるよ。 ユーリ好みの砂糖少しとミルクいっぱいのをね」

すごくいい笑顔の黎翔に抱き上げられソファに座らされる。 勝手な想像で焼きもちを妬き、迷惑な騒動を起こしたというのに黎翔は異常なほど嬉しそうな笑みを零していて、顔を上げるとキスが落ちて来た。 

「君からの嫉妬は心地いいな。 すごい思い込みで翻弄されるけど、それだけ愛されていると実感出来る。 会議が終わるまで待っていてくれる? 昼だけでも一緒に食べようよ。 謝られるより、その方が嬉しい」

そう言われると駄目なんて言えなくなる。 これで妻だなんて見っとも無いことこの上ない。

「黎翔は・・・・イヤにならない? 面倒だって思わない?」
「思う訳がない! 信じられないなら会議よりも君に解かって貰えるまで説明する時間を優先するよ? だけどそれは君も望まないだろう? 望んでくれても構わないが」
「・・・・会議に行って下さい。 お願いします」

もう一度キスされてユーリは俯いた。 頭に思い浮かんだのは夕鈴さんだ。 
黎翔と同じ顔の国王陛下もおモテになるだろう。 国王であり後宮制度がある国のこと、他の妃を娶るよう推奨されていると聞いた。 だけど彼が望むのは庶民出身の妃だけ。 一人の妃を慈しむ国王陛下と、刺客に狙われても傷付くことがあっても陛下のそばに居ることを望んでいる妃。 幸せな二人を見て、自分も黎翔だけを信じてそばに居ようと思ったはずなのに、なんて情けないんだと項垂れるしかない。
そっと頬を撫でてくれる手にも顔を上げることが出来ない。

「ユーリと出会ってからまだ一年と半年だ。 その内二か月以上も君は異世界に行っていて、夫婦としても互いに知らないことがまだ多い。 君は私の過去に妬いてくれたが、私も君の過去や会社の奴らに妬き続けているよ。 だからこそ話す機会を持つことが大切なのだろうな」
「うん・・・。 でも黎翔が妬くよう過去は、残念なくらいに皆無だけどね」
「道場で組み手をする相手にだって妬くくらいだ。 ウォルターに妬いたこともあったよ。 他にもいろいろね。 ・・・・・さっきパウローにしがみ付いていたのも・・・・お仕置きしたくなるほどだ」

後半の台詞が聞き取り難く、思わず顔を上げると再びキスされる。 聞き返そうとした時に扉を叩く音がして、もう時間が来たのだと判った。 眉間に皺を寄せた李順さんが私を睨ね付けるから小さくなるしかない。 きっとあとで説教タイムだ。 黎翔が私を会長室に連れ込んだのは彼が悪いけど、そこから逃げるように姿を消したのは思い込みの激しい私が悪い。 あのまま静かに消えたら良かったのに・・・・。
だけど誤解が解けて良かったと思う気持ちもあって、その分李順さんに悪いと思ってしまう。

「そこで待っているように。 ユーリが少しでも悪いと思っているなら」
「・・・・待っています」

そのまま会長室を出て行った二人を見送り、ユーリは深くソファに沈み込む。 確かに互いに知らないことが多い。 振り回され続けて翻弄されてのめり込むように付き合い、結婚したばかりだ。 二か月以上の空白があると言われてもユーリの体感は一週間離れていただけの感覚で、結婚してまだ気分的には三か月ほど。 元から忙しい黎翔は海外視察や会議でアメリカを離れることもあり、仕事を続けている私自身忙しい時もある。
これからなんだと思うと、力が抜けてくる。 
そして過去に焼きもちを妬いた自分が一層恥ずかしくなった。 それさえも嬉しいと言ってくれた黎翔だけど、やはり大人げない態度と行動が情けない。 もっと大人の女性として、黎翔の妻として頑張らなければ。 密かに続けている外国語講座を真面目にやろう。 あ、三月以上通っていないから再申し込みしなきゃ駄目かしら。 パウローが送迎に就くということは、それもばれちゃうのかな。 ああ、携帯を取りに行くのを忘れていた。 

「駄目駄目だわ・・・・。 まずは焼きもちを妬かないようにしなきゃ駄目ね」

それもいつまで続くかしらと、ユーリは溜め息を吐く。



「会長、その顔をどうにかされて下さい」
「そうは思うのだが、ユーリの可愛さに惚れ直したばかりだ。 にやけるのは仕方がないだろう」

黎翔は会議室に向かいながら李順に崩れた顔を向ける。 過去の自分にまで妬いてくれるユーリが可愛くて仕方がない。 今までの自分なら、全てを知りたいと縋るような相手に対しては煩いと一瞥して直ぐに記憶から抹消したことだろう。 もっと自分に関心を持って欲しいと願うのはユーリだからだ。 正直知られて嫌われる可能性もあるが、隠すつもりはない。 もう逃せないし、逃すつもりもないのだから。

「明後日の会議は中止だ。 一日遅らせるよう調整しろ」
「・・・・・今回だけですよ。 良心の呵責など、本来感じたくはないのですが」
「今回はお前にも責任があるだろう。 ユーリがあのまま逃げていたら今日の会議など、絶対にまともに進まかっただろうからな。 第一、会長室に女性などそのつもりで招き入れたことはないぞ」
「存じております。 ・・・・そのように深く勘ぐられるとは思いませんでしたよ」

李順はその時どんな表情を見せたのだろう。 まあ、それよりも明日の夜はお仕置きだな。 パウローには厳重注意をするが、ユーリは私の前で奴に明らかにしがみ付いていた。 それは注意では足りないだろう。 今日は実家に泊まる予定なら、その分私は仕事を進ませておこう。 
明日の夜は兎料理を堪能出来る!
やる気になった黎翔を横目に、次の嵐が来る予感に背筋を震わせる李順は会議室の扉を開きながら呟いた。

「次の嵐に、私と仕事を巻き込まないよう祈っておりますよ」





FIN

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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

パラレル | 00:51:01 | トラックバック(0) | コメント(8)
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2013-12-25 水 02:09:40 | | [編集]
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2013-12-25 水 08:01:45 | | [編集]
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2013-12-25 水 11:04:49 | | [編集]
Re: 手錠
ぶんた様、コメントをありがとう御座います。パウローの本領発揮。え、捕縛が本領? わはははは! その通りかも。そして狼に食べられる運命が決まった兎はどのようの食されるのか。いやいやunderは書きませんよ。ちょいと時間がないので。うん、今回は無理・・・・です。たぶん。
2013-12-25 水 19:53:27 | URL | あお [編集]
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2013-12-25 水 20:09:08 | | [編集]
Re: ユーリ最強!
名無しの読み手様、コメントをありがとう御座います。朝からうにょうにょありがとうです。クリスマスは美味しいワインを飲み過ぎて超気持ち良かったです。えへへ。アメリカ黎翔は陛下と比べると甘さがない、というかエロ度が高かったのですが、今回はうまく小犬になってくれた・・・・様な気がする。クリスマスに間に合って良かった~。
2013-12-25 水 20:10:20 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
ますたぬ様、コメントをありがとう御座います。気になっているとリクがあると、つい妄想してしまう。思わずノリノリで書いちゃいましたー。気の毒なのは李順さんと、パウローになるのかな。パラレルは楽しいです、やっぱり。
2013-12-25 水 20:18:26 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
ビスカス様、コメントをありがとう御座います。こっちの夫婦は書きやすいというか、勝手に動くのでまとめるのが大変な面もあります。こっちの夫婦の話、リク頂けますか! もう、ビスカス様、ありがとう御座います。 えっと、しばらく時間を下さいませ・・・・。本当に時間を下さい。時間を止めてー!! その前にバイト夕鈴の話に戻り、今度は久しぶりの若者を出しちゃいます。そちらも宜しくお願いします。
2013-12-25 水 20:43:13 | URL | あお [編集]
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