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All Right! 1
やっと落ち着いて書く事が出来ました(爆笑)
~もしもシリーズ~です。 妄想が止まらないですので、話が爆走しています。


では、どうぞ












そっと陛下の唇に手を当てる。

目を閉じた陛下は動かない。

当てた自分の手の甲に・・・・・私はそっと唇を添わせた。


ぴくんと陛下の瞼が動き、手がすっと動く気配がする。

「動かないで下さい」

私の願い通り、陛下の手はそれ以上動かない。

そして私はそっと自分の手から唇を離す。

そのまま陛下の頭に覆い被さった。
そっと髪に唇を当てると、艶やかな感触に唇が震える。


震える唇を結び、ゆっくりと陛下から離れ、その肩に手を置き耳へ近付く。

そのまま 「好きです」 と掠れた声で・・・・・囁いた。











※ ※ ※ ※  








とうとうこの日が来た。
臨時花嫁として予定より長いバイトとなったが、借金も完済して此処から離れる日が。
バイト上司である李順さんより最後の給料が支払われ、受け取った夕鈴に深々と御辞儀をされる。

「今まで本当に長い間御苦労様でした。 予想以上の働きに心より感謝します」
「こちらこそ、長いこと借金の返済にお付き合い頂き、すいませんでした」

李順は今まで見たことのない困惑した表情で夕鈴を見ながら、眼鏡を持ち上げる。

「本当に陛下には何も言わなくて宜しいのですか?」
「はい、いつも通りに今日を終えたいのです。 陛下が後宮より御帰りになったあと、私もここから離れます。 荷作りも終えています。 と言っても、大した荷物がある訳ではないのですが」

夕鈴は小さく笑った。 あと半日もすると夕鈴は後宮より姿を消す。
バイト終了を陛下に伝えずに、長く住み慣れた後宮から離れて下町へ戻ることになるのだ。
下町で今まで通りの生活に戻り、また新たなバイト生活を始める予定となる。
今日で妃の装いともお別れだ。 裾をそっと持ち上げて、髪飾りを触り、ゆっくりと深く息を吐く。 午後より政務室で最後の 「妃」 を装い、そして消えて行くだけ。




思っていたより、自分が落ち着いていると不思議に思っていた。
ぼろぼろに泣いて陛下に見せられない顔になるんじゃないかと不安だったが、その日の朝を迎えても涙は出てこなかった。 侍女等に着替えを手伝ってもらい髪を梳いて貰ういつもの作業中に沢山お世話になったと鏡越しに微笑むと侍女が同じように微笑みながら手を止める。

「お妃様、どうなさいましたか。 良い夢でもご覧になられたのですか?」
「良い・・・夢? ・・・・ええ、長い夢を見ていたわ」

夕鈴が少し俯くと、侍女は微笑んだまま作業を続ける。 
後宮に来て陛下と出会い、私は 「恋」 を知った。 
知った恋は甘く苦しいものだったけど、やはり幸せだと心から思える。 一生に一度の初恋は切ないものになったけれど、この出会いを私は何度も何度でも微笑んで思い返すだろう。





いつものように方淵と睨み合いながら政務室での時間を過ごし、書庫でもいつもの様に整理を行い、官吏と書類分けを行なった。 庭園に咲いていた花を侍女と選び、数輪花瓶に挿して飾る。
少し早めに政務室を離れ、厨房で陛下の為の最後の夕食作りを行なわせて貰った。
温かくて美味しいと言ってくれた庶民派料理を。
いや、庶民派料理しか出来ないのだけど・・・・。 李順さんには 「塩分が・・・」 とか言われたけど、陛下は美味しいって言ってくれた品。 気持ちが伝わればいいわよね? 
ブツブツ言いながら真剣に料理を作る妃の姿は、料理長や調理師たちにはまるで呪いを掛けているように見え、近寄る者は居なかった。


「今日の夕餉は夕鈴の手作り? うわあ、嬉しいな」

ああ、その笑顔が好き。 
演技じゃない、素の陛下の笑顔。 
お茶を陛下に差し出しながら夕鈴はその笑顔に満足していた。
「いつもの庶民料理ですけど」 と照れる夕鈴に 「すごっく嬉しい」 と陛下が笑う。
早速箸を持った陛下の口に運ばれて行き、次から次へと皿が綺麗に片付いていく。

「美味しいね。 温かいね。 夕鈴、すごい!」

その褒め言葉が恥ずかしいくらいに嬉しい。 肉包みなどは湯気が出るほどの熱さで陛下は頬を赤らめながら、満面の笑みで箸を動かしていた。

「最近お疲れの様子でしたので、野菜中心の体が温まる料理にしました。 ちょっと色合いが地味なのは勘弁して欲しいですけど・・・・」
「美味しいよ。 本当に体がぽかぽかしてる。 本当に嬉しいよ、夕鈴」

小犬陛下の笑顔でお茶を飲みながら、幸せそうにお腹をさすってくれた。 
皿を片付けながら夕鈴は 「嬉しいです」 といつも通りに答える。 片付けている手を握られ、陛下から笑顔で 「ありがとう」 と伝えられると夕鈴は心までぽかぽかして暖かくなった。

「あとはぐっすり眠ることです。 良いですか、今日の疲れは今日の内に解消して、明日からの仕事に備えて下さい! 疲労蓄積は駄目ですよ。 今日はいつも言っている腹八分目より沢山召し上がって貰いましたが」
「うん、ちょっと食べ過ぎたかな? 夕鈴、一緒に食後の散歩しない?」
「はい、行きます!」

食器の片づけを呼び戻した侍女らに御願いして、部屋から夜の庭園に二人連れ添って歩き始める。 天空には半円の月が仄かに道を照らしていた。 足元の玉砂利が小気味良い音を醸し出す。 四阿までゆっくりと歩を進め、陛下が手を差し出し夕鈴を椅子へと誘う。

「寒くない?」
「いいえ、体が温かいので、ちっとも寒くありません。 陛下は?」
「僕も。 夕鈴のご飯で気持ちまで温かいよ」

いつものように陛下が夕鈴の髪を一房持ち上げ唇に触れさせる。 
頬を染めるが、少しだけ嬉しそうに見える夕鈴に陛下が驚いた顔をした。 
ふっと狼陛下の瞳で夕鈴の頬を撫でる。

「な! 陛下、何をするんですか?」

やっといつものように耳まで赤くなる彼女に、一瞬感じた戸惑いは霧散し、陛下は安堵した。 
仄かな月明かりにも彼女の顔の赤味ははっきり解かる。 
夕鈴が狼陛下に戸惑い、離れようとする気配がした。

「ごめん、ごめん。 離れないで、夕鈴」
「・・・・・変なことしないで下さるなら・・・」

雲が月を覆い、四阿の中は一層暗くなる。 暗がりの中で、夕鈴が小さい呟きを漏らした。
唇が動いたのは解かるが、何を呟いたのか聞き取れなかった。

「何? 夕鈴、何を呟いたの?」

黎翔の手を取り、夕鈴は 「ちょっと・・・・ 内緒」 と悪戯っ子のように言うので其れ以上は聞くことを諦める。 狼陛下で夕鈴に迫り強く聞きだすことも出来るが、それをすると泣き顔になるのは必死だ。

「ふうん、内緒ね。 ま、いいか」
「あとで解かりますから、今は聞かないで下さいね、陛下」

あとで解かるなら少しの我慢だと、陛下は笑った。
二人は立ち上がり次の四阿へ散歩を再開し、夜の庭園で夕鈴は花の宴のこと、政務室でのこと、掃除中の老師のことなど、普段と変わりなく話し続ける。 いつもより早口に話す上に、歩きながらだった為か息が切れて来た。

「夕鈴、戻ろうか。 腹ごなしも出来たし、やっぱり肌寒くなって来たよ」
「・・・・そう・・・ ですね。 折角温まったのに・・・ね・・・」

ふと上空を見上げる夕鈴につられて、空を見ると一段と月が輝いていた。 その月に夕鈴が手を伸ばす。 夕鈴を見下ろすと、彼女の表情は・・・・・。
思わず抱き上げると、顔が近くなり驚いた彼女のいつもの顔に安心する。

「どうしたの? 月が欲しいの?」
「欲しい訳じゃなくって・・・・ やっぱり届かないなって、つい手が出てました」

じたばたと腕の中で暴れながら夕鈴はそう応えた。 陛下は夕鈴の動きに笑いながら地面に降ろす。 「急に抱き上げないで下さい」 と怒りながら部屋へ踵を返す彼女の後を追い、陛下も月へ手を伸ばしてみた。 宙を掴んで、胸へと静かにその手を当てる。








「お休み、夕鈴」
「はい、お疲れ様でした。 陛下」

いつものように後宮で過ごした陛下が静かに部屋を去って行く。 その後姿をいつもと同じように見送った。 絶対に特別なことはしないと誓っていたから。
日常を繰り返し、そして 『自分の日常』 に帰るだけ。


妃の衣装を脱ぎ、下町でのいつもの衣装に着替える。 王宮に来た時の小さな荷物を持ち、後宮から一歩足を踏み出した夕鈴は、振り返ると建物に深々とお辞儀をした。 
侍女らへは簡単な文を書き、鏡台に置き、老師と浩大への文は李順に預けた。

陛下へは・・・・。

『いつでも、いつまでも陛下の味方です』 で始まる文をしたためて。








そっと指定された場所へ足を向ける。 後宮裏門の扉の前に李順が待っていた。
静かに扉を開けると、夜中の帰省のために馬車を用意してくれていた。

「本当に有難う御座いました。 李順さん」
「・・・・いいのですか? 最後まで本当に陛下に何も言わずに此処を立ち去って」

李順の気を遣う言葉に嬉しく思うが、もう心残りを増やさないで欲しいとも思った。

「これ以上陛下の顔を見ると正直辛いです。 李順さん、これからも陛下と共にお仕事、頑張って下さい。 本当にお世話になりました」

深々と頭を下げる。 夕鈴の頭上でから 「こちらこそ」 と柔らかい声が聞こえ、互いにぎこちない笑顔で頷き、夕鈴は馬車に乗り込んだ。











夕鈴は馬車に乗ると直ぐに瞳を閉じて、何も考えないようにした。 
馬車の揺れに体を預けて帰宅後の自分を想像する。 実家にはバイト終了の手紙をだしているから、今日遅くに帰宅することを青慎は知っている。 明日は一日家の片付けと、午後にバイト探しに行かなきゃならないわねと小さく息を吐いた。

家に着くと扉を開けて直ぐに出て来た青慎が笑顔で迎えてくれる。

「お帰り 姉さん。 長い間バイトお疲れ様でした。 最後の日なのにこんな遅くまで仕事があるなんて 王宮って人手不足なんだね? 掃除も大変だね」
「そう・・・なのよ。 陛下の代替わりでまだ内政が滞っているのかもね。 最後までこき使われちゃった。 青慎、私このまま休むわね。 あした、また・・・」

今日は何も考えずに休みたい。 父さんが出掛けて不在なのが幸いだ。
寝台に体を横たえると気持ちが昂ぶることもなく其の侭深い眠りにつくことが出来た。









朝、目が覚めて自宅と気が付く。
帰ってきたんだと思った時、想像していた胸の痛みがちくんと襲ってきた。 仕方がない、この痛みと暫らく付き合うしかない。 夕鈴は深呼吸をして朝食作りを開始した。
青慎の好きな朝粥を作りながら、 『昼食は何がいいかな』 『敷布を全て洗って』 『庭木の剪定もしなきゃ』 と次から次へと浮かんでくる雑事を想像する。
いろいろなことを考えて、体を動かしていけば、大丈夫。 何が大丈夫か判らないけど、大丈夫だと思えば過ごしていけると思うことにした。
掃除を済ませたあとは、食事の買い物をして、新しいバイトを探して・・・・・・。


いつの間にか目の前の風景がぼやけていたことに気が付いた。
大粒の涙がいくつも溢れて出し、急に胸が苦しくなってくる。

『・・・・・私、陛下の下から離れたんだ』

一晩立ってから実感する消失感に思わず脱力しそうになる。
手布で拭うが溢れる涙が止まらず、夕鈴はその場から動けそうになかった。

その時、裏戸が勢いよく開き、聞き慣れた声が響いてくる。

「やっぱ、お前かよ! 帰ってきたのか」
「几鍔・・・・? 朝から何の用なのよ・・・・・」

驚いた夕鈴が振り向くと、几鍔は眉間に皺を寄せた表情で近付いた。 大股で近付くと夕鈴の両頬を掴み、自分のほうへ上を向かせる。 慌てた夕鈴が几鍔の胸を押しやるが少しも動じない。

「何だ、お前。 普通にバイトを終えて帰って来たんじゃないのか? 奴のせいか? やっぱり泣いて帰る羽目になったのは。 確か・・・・ 李翔って言っていたな」
「なっ、何言ってるのよ、関係ないわよ!! あの人は関係ない!」
「実際にお前、泣いているじゃないか!」
「そうじゃない。 兎に角・・・・ 几鍔、離してよ!」

真っ赤な顔で夕鈴は少しでも離れようと暴れた。
暫く夕鈴を見下ろしていたが 「はっ!」 と鼻で笑い、几鍔がようやく手を離す。 涙目で几鍔を睨み付けながら、夕鈴は怒鳴りだした。

「なんで朝から人の家に勝手に現われるのよ!」
「・・・・なんで泣いていた? 説明しろよ」
「・・・!! 几鍔に言う必要ないでしょ! あ、あの人は関係ないからね!」

息を整えながら、手巾で涙を拭い、一つ大きな深呼吸をして自身を落ち着かせる。
訝しげに几鍔は夕鈴を見ていたが、頭を掻きながら溜息を吐き出した。

「・・・。 まあ、いい。 俺は珠に顔を出してるんだよ。 見回りだ、気にするな。 いつもより早い時間に人の気配がしたからお前だろうと思ったんだよ」
「余計なお世話よ。 男所帯なんだから見回りなんか必要ないでしょ」

もう言うことは無いとばかりに几鍔に背を向け、夕鈴は朝食の支度を続けた。 その姿を黙って見ていた几鍔は静かに近寄り、頭に手を置く。 その瞬間、夕鈴が小さく震えたが、それ以上の拒絶はなかった。 ぽんぽんと軽く叩いた後、几鍔は黙って裏口から出て行った。

姉と几鍔の盛大な遣り取りを、青慎は姿を現せずに厨房の影から黙って耳にして俯いていた。




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テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

もしもシリーズ | 07:59:06 | トラックバック(0) | コメント(0)
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