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錆びた逃避思考  5
冬コミに行った娘が置き去りにしたものを片付けながら驚いた。あいつはこの日のために購入した服を忘れて行っている。そのためにバイトをしたのに、馬鹿だ・・・・。まあ、問題なく楽しんだようなので良しとしよう。今度改めて写真撮りに行くと言っているし、たくさん写真撮って貰えたらしいし、苦労して作った装着もめちゃ褒めて貰えたと喜んでいたし。夏コミも頑張るそうです。ははは。


では、どうぞ












夕鈴は見えて来た光を目指し、寒さに耐えながら歩き続けた。 
今だけは余計なことを考えずにいようと、いや、考えることが出来ないと足を進める。 
寒さが眠気を呼び足をふら付かせ、慌てて近くの木にしがみ付き、幹肌の冷たさに震えが走り正気に戻るを繰り返していた。 足元に纏わり付く枯草が裾から出た肌を裂き、痛みと寒さを夕鈴に知らせる。 手は寒さでかじかみ、浅い息をするたびに漏れる白い靄が少し幻想的に見えるなと乾いた笑いが漏れた。 
見える光はきっと火だと信じるしか出来ない。 
あそこまで行けば暖が取れると信じて足を進めるしかない。 
何度も目を瞬かせて確認しようとするが、白い息と不安定な足元のせいではっきり見えず、足を止めると動けなくなりそうで怖いと思った。 今は信じて足を進めるべきだと何度も心の中で自分を叱咤する。

「・・・っ!」

石のような何かに躓き、近くの木に手を伸ばすが届かずに地面に倒れ込みそうになる。 
せめて衣装は汚したくないと踏ん張る足元に何かが突き刺さり、躊躇して振り向こうとしたのが間違いだった。 バランスを崩して宙に放り上げた手に何かが巻き付くのが見え、まさかと夕鈴の目が大きく見開く。 そのまま身体は横方向へ引っ張られ、巻き付いた何かが寒さで強張った皮膚に痛みを齎す。 木の蔓なんかじゃないと頭の奥で警鐘が鳴る。 浩大を呼ぶために声を張り上げていた自分が、今更ながら馬鹿だと思った。 浩大に助けを呼ぶつもりが、敵を誘き寄せていたと気付いても今更だろう。 このまま敵に捕まるくらいなら、最後に精一杯、声を張り上げて助けを呼ぶしかない。
手に巻き付いた縄に負けないように足を踏ん張りながら、夕鈴は大声を張り上げた。

「浩大っ! 助けて浩大! 浩大、浩大、ぐむ・・・っ!」

だけど深い闇から現れた闇色の衣装を着た男は四人いて、あっという間に囲まれてしまい、口に布が押し込まれ腕が後ろへと捩じ上げられる。 痛みを伴う容赦のない動きに背筋が凍りつき、そのまま肩に担ぎ上げられると今度は足を縛られた。 如何しようと考える暇さえなく、目標にしていた炎が遠ざかっていく。 
このままでは馬車の中にいるより悪い状況となってしまいそうだ。 
無言のまま林の奥へと移動しようとするから、肩の上で必死に身を捩るが相手は動じてくれない。
最後に叫んでみたけど、浩大は来ない。 陛下以外の人の名を口にした私を、妃じゃないと思ってくれないだろうと考えたが、それはないようだ。 馬に乗せられると首に縄が掛かり上体が倒される。 馬の首に夕鈴の上体が括り付けられ、もう逃げようがないと判る。 
これ以上の抵抗は無駄だろう。 下手に動いて怪我をするより、状況を見てから逃げ道を探した方がいい。 
下町でおばば様と捕らえられた時のように、実は闇衣装の男たちの中に陛下の臣下がいる可能性は・・・・・ないだろうな。 ああ、終始無言のままの男たちが怖い。

夕鈴の背後に男の一人が腰を据える。 最後の足掻きとばかりに身体を捩ってみるが、やはり手綱を持つ男は動じることがない。 そこへ枯草を掻き分け近寄る蹄の音が聞こえて来た。 
首に縄を掛けられた状態で、それでも必死に顔を持ち上げると、闇の中から飛び出すように馬が現れる。 男たちが一斉に構えを取るのが見えたが、その身体に撓る鞭が叩き込まれ次々に倒されていく。 

「狼陛下の妃に対する態度じゃないだろ、それはさ!」
「ぐぅ・・・・ぐふっ!」
 
浩大が来てくれたと安堵した瞬間、男が鐙を蹴り夕鈴が括り付けられている馬が駆け出した。 
あっという間に倒された男たちを目にした夕鈴が困惑する。 
既に馬に乗っていた男に浩大の攻撃は届かなかったのか。 それとも自分がいるから鞭を繰り出すことが出来なかったのかと頭に思い浮かぶが、直ぐにそれどころじゃなくなった。 
駆け出す馬の背で寒さと新たな恐怖が夕鈴を襲い、離れて行く浩大との距離に焦ってしまう。 闇の中駆け出した馬の速さに目も開けていられない。 耳元を掠める風の音に背は震え、もしも縄が緩んだら地面に叩き付けられ大怪我を負うと思えば動けなくなる。

きっと背後から浩大が追い駆けていると思うのだが、確かめることも出来ない。 
今は強張ったまま寒さに耐え続けるだけだ。
蹄の音が変わり、林から抜けたのが判る。 更に速度は上がり、揺れと寒さで気が遠くなった。 
猿轡のお蔭で舌を噛まずに済んでいると思えるほど馬は激しく揺れ、背後にいる男が押さえ込む背後に回された腕が痛みを訴える。 痛みで正気に戻り、頭に浮かぶのは狼陛下の顔だ。 
このまま命を落として陛下に会えないのは厭だ。 もう一度だけでいいから陛下に会いたい。 
だけど冷やされた頭の中では冷静な自分がいて、どうして妃が直ぐに殺されないのかと投げ掛ける。 陛下の枷になる可能性があると推測する自分に、如何したらいいのか問うが、答えなど見つかる訳もない。 
新たな妃推挙をするには、今いる唯一を消すのが一番だ。 
一人でいいと言っている陛下の許に妃を差し出すために、邪魔な妃を排除するのが最も簡単だろうに、何故こんなリスクを負ってまで妃を連れ攫うのか。 陛下が唯一と言って憚らない妃の命を枷に、陛下に何か要求するつもりなのかも知れない。 そう考えると夕鈴の眉間に皺が寄る。 
では何故方淵まで連れ出したのだと。
必死に後ろを見ようと頭を動かすが、男の闇色の衣装しか見えず、速度を落とさない様子から浩大が後ろから着いて来ていると信じるしかない。 



**



盛大に火の粉を舞わせる炎の前で暖を取りながら、方淵は苛立っていた。 
本来、後宮から出ることなく陛下の癒しとなるべき存在が自分を馬車から突き落とすなど、断じてあってはならないことだと唇を噛みしめる。 あまつさえ、頭に怪我を負わぬようにと妃が身に着けていた衣装を巻かれるという、迷惑としか言いようのない気遣いを受けてだ。 
その後の妃の安否が気に掛かるが、今は動けない。 
何度も立ち上がり、そして身体を休めるべきだと座り込む。 
方淵がまんじりともせず、集めた乾木を火に焼べながら眉間に深い皺を寄せていると、遠くから蹄の音が聞こえたような気がして急ぎ立ち上がる。
街道の奥からではなく、林の奥から聞こえたような気がして目を凝らしていると、突如飛び出して来た馬が方淵の前で方向を変えてそのまま駆け出して行った。 続けざまにもう一頭現れ、追うように駆けて行く。

「・・・・最初の馬に白い衣装が見えたが、まさか、あれはお妃か?」

既に深闇に飲み込まれた馬の姿を目を凝らして追っていると、背から多数の蹄の音が響き聞こえて来た。 今度は何だと振り向くと五頭の馬が見え、それも禁軍騎馬隊と直ぐに判る出で立ちをした馬が迫り、方淵の前で止まる。 混乱した頭のまま、騎馬兵に何から伝えようかと顔を上げるとそこには陛下がいて、方淵は一瞬声を失った。

「柳方淵、馬車にて我が妃と共に連れ去れた後、何があったか簡潔に説明しろ!」
「は、御意! まず、お妃様も私も怪我はありません。 縛られておりましたが馬車内でどうにか縄を解き、後方扉を開けることに成功した後・・・・あと・・・・」

報告の途中で、方淵の視線が陛下の顔から胸へと下がり、足から馬の脚へと落ちて行った。 
何と伝えたらいいのか愕然としてしまう。 そのまま伝えるとなると、馬車の中で陛下唯一の妃が酔っぱらいの如く暴れたことから、衣装を脱ぎ人の頭に巻き付けて馬車から突き落としたまで話さなければならないのか。 馬車から妃によって・・・・突き落とされたと。 
妃の意図が、例え自分を先に助けようとする親切心だとしても、結果は陛下の忠実なる臣下が妃よりも先に助かったという事実。 これは文武両道をモットーとしていた自分としては恥じ入ることだ。 
あの、莫迦妃のせいで・・・・・!
一体、どう簡潔に説明しろと言うのだ!

急に眉間に深く皺を刻み、ギリリと歯噛みしながら視線を落としていく方淵と、盛大に焚かれた炎の近くに置かれた女性ものの衣装を見て、陛下は厭でも大方の想像がついた。 
あの兎が何をして、ここにいないのか。 

「・・・・妃は馬車に乗ったまま、連れ去られたということか」
「そ、それが・・・・。 あっ! 私の見間違えでなければ、今しがた黒衣の人物と共に馬上にいるのを目撃しました! それに追従する馬も見ましたが、そちらはとても仲間とは思えない様子でした!」

顔を上げた方淵が真剣な顔で強く言い放つのを聞き、陛下は馬に鞭をくれた。 
方淵を馬車から先に逃がし、その後何があって敵に捕まったのかは判らないが、追従する馬はたぶん浩大だろう。 馬車が向かった方向と同じというなら、南州にいる貴族の内に夕鈴を拐った輩がいるということか。 

可能性となる怪しい疑惑のある者を挙げるとするなら三貴族の名が浮かぶが、王宮にその親族、息子がそれぞれ従事している。 それらを巻き込むまでの覚悟があるようにも思えないし、妃推挙に関しての動きがあるとの報告も来ていない。 
他に謀反の動きを見せる貴族はいるのか。 いくら狼陛下で脅そうとも表面は従順な面を被り、水面下では己の欲を満たそうと蠢き続ける輩のなんと多いことか。 
バイト妃といえど、夕鈴を命の危険に晒すつもりは毛頭ない。 
彼女を直ぐに我が手に返して貰おう。 澱んだ欲に溺れる輩に見せることさえ煩わしい。
仄かな月明かりだけを頼りに、馬に鞭をくれた陛下は真っ直ぐに前を見据えながら奥歯を噛んだ。





「ちょーい! 待った方がいいってよぉー!」

二人を乗せて前を駆ける馬になかなか追い付けない。 かなり脚力の良い馬を用意したものだと、こればかりは感心せざるを得ない。 感心している場合じゃないじゃんと自分に突っ込んで馬を蹴るが、背を追うだけで精一杯。 その速度を維持している相手にも驚くが、馬に括り付けられているバイト妃の体調も心配になる。 この状態で飛び道具など使える訳もないし、下手に回り込み馬を驚かせる訳にもいかない。 
あとから追い掛けて来ているはずの騎馬隊に、柳大臣の坊ちゃんは上手く説明するだろう。
この速度に追いつくのは至難の業だが、いずれ包囲網は敷かれるし、このまま根城に駆け込めば袋の鼠となるのは相手の方。  どう出るかと目を細めていると、前から甲高い笛の音が鳴り響き出した。

「・・・ちっ! 仲間かよ!」

浩大がこれ以上面倒事は勘弁してくれと馬を強く蹴る。 相手の前に回り込み強制的に止めようと動き出した瞬間、前方から大きな闇が浩大を包んだ。

「どんだけ仕掛けてんだよ!」

闇に包まれ、あとは後方からの支援を願うしかない。 ここまで用意周到な輩が妃を攫うだけとは思えないが、ここまでの経緯を考えると直ぐに命に別状はないのか。 楽観出来ないが、今は祈るしかない。







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長編 | 03:05:05 | トラックバック(0) | コメント(10)
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2013-12-31 火 06:24:31 | | [編集]
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2013-12-31 火 08:13:11 | | [編集]
Re: タイトルなし
ますたぬ様、コメントをありがとう御座います。今年はたくさんのコメントを頂き、本当に感謝で御座います。今年一年はのんびり更新が多かったのですが、お付き合い頂き嬉しいです。ペースを上げることが難しいお年頃になってきましたが(笑)、リアルを頑張るとストレス発散にサイトにのめり込み、睡眠不足の悪循環。人間、のんびりが一番ですね~。こちらこそ、来年もよろしくお願いします!
2013-12-31 火 17:00:43 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
ぽんちゃん様、コメントをありがとう御座います。陛下の心中は、まず「ぷちん」・・・あの兎は何を仕出かしたんじゃ、われ!でしょうね。そして方淵に・・・見たんか、われ!だと推測致します。方淵の命の灯火は残りどの位となるのでしょうか。あはれ・・・・。浩大も褒めて貰えて超嬉しい。がんばれ、浩大!負けるな、浩大! そして通常運転の旦那様、すてきです。以前コンビニに勤めていた時は祝日も年末も無い状態でしたから、そう言って貰えるとすごい楽チンですよー。マジ、イベントの時は帰ってご飯作るのが厭だったもの。来年もどうぞよろしくお願い致します。
2013-12-31 火 17:04:50 | URL | あお [編集]
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2013-12-31 火 19:03:07 | | [編集]
Re: また来年
ぶんた様、コメントをありがとう御座います。言われて見ると馬だー!ははは!午年だー! おお、そうかと、言われて気付くあたり呆けてます。突っ込みありがとう御座います。娘は夏コミに続いて取材を受けたそうで満足そうでした。装着した装備と武器も褒めて貰えて頑張った甲斐があったようですよ。夏は舞台のコスプレだそうです。暑いのにゴスだって。衣装作るのが大変そうだ。お仕事、頑張って下さい!! 応援してます! 
2013-12-31 火 20:32:08 | URL | あお [編集]
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2014-01-01 水 00:39:42 | | [編集]
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2014-01-01 水 01:51:49 | | [編集]
Re: タイトルなし
とあ様、初コメントをありがとう御座います。いろいろな話・・・・それだけ妄想が激しいということで御座います。仕事のストレスをぶつけているとも言いますが(笑) お仕事の疲れが少しでも癒せたら嬉しいことです。嬉しいコメント、ありがとーです。(^^)どうぞ、今年も宜しくお願い致します。
2014-01-01 水 23:35:14 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
ビスカス様、コメントをありがとう御座います。そして明けましておめでとう御座います。本年もどうぞ、のんびりした更新にお付き合い頂けたら感謝感謝で御座います。嫁稼業も楽じゃないですよね。同居なんで、私はすっかり慣れましたが、親戚付き合いはまだ苦手。でも子供はお年玉欲しさに田舎へ行きたがる。仕方がないか~。 年末から年明けまで、ちょいと飲み過ぎで昼寝をしたら胃が痛み、やっとパソコンを開いてます。ビスカス様も体調には重々お気を付けて、元気にお過ごし下さいませ。
2014-01-01 水 23:39:31 | URL | あお [編集]
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