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錆びた逃避思考  7
前回出ていない夕鈴がメインの回となります。浩大への心配も多く、桐を活躍させろの声も多く、嬉しい限りです。今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。


では、どうぞ












夕鈴が目を覚ますとそこは真っ白な世界だった。 
白い色彩が視界いっぱいに広がり、まるで夢の中にいるように感じる。 目に映る床は一面の白、顔を動かして見える壁も真っ白。 これは夢の続きだと言われると、素直にそうかと納得してしまいそうだ。

寒くて寒くて、馬上で何度も意識が薄れた。 だけど何度も自分を呼ぶ浩大の声が聞こえた気がする。 あれも夢なのだろうか。 何か浩大に危ないことがあったような気がするけど、今は思い出せない。 
馬上では酷い寒さに襲われ、歯の根も合わなかったことが思い出される。 寒くて後ろ手に括られた腕の痛みよりも寒さが身を苛み、意識が途切れて私はそのまま気を失ったのか。
いや、そのあとで浩大と向かい合った。
連れて来られた、ここ以外の場所で浩大が私の前にいたのを思い出す。 
そして、その時、私の目の前で浩大は・・・・。
脳裏に浮かぶ映像に思わず強く目を瞑った。 胸が引き裂かれるように痛くなる。 浩大に向けられた仕打ちと、それをただ見つめるしか出来なかった自分。 浮かぶ映像から目を背けようと頭を振ると床にぶつかった。 

「ここは・・・・何処?」

痛みと共に、私は今の現状に目を向ける。 
まだぼんやりしたままの頭だけど、目の前に広がる白い世界が最初に連れて来られた場所ではないことだけはわかった。 壁一面の白は大きな布だ。 天井から床までを覆う一面の白。 
寒々しい雰囲気と清廉な雰囲気を醸し出すその色をじっと見つめている内に、自分の体が動かないことにようやく気付く。 改めて縛り直されたのか、首しか動かせない。 腕は背で括りつけられ、足首にも膝にも縄が打たれていて、立ち上がるのも逃げ出すことも敵わないと知った。 それでもどうにか身体の向きを変えるが、何処を見ても白一色の部屋で、卓にも衝立にも長椅子にも白い布が被せられている。 窓に覆われた白い布地から差し込む光で部屋全体が見回せるが、白しか見えない。
 
部屋の中だというのはわかるが、一晩中外で寒風に晒されていたせいで、足元から這い上がる寒気に身体の震えが止まらないし、熱があるのか目の前がぼやけて見える。
ここが何処だか、今はいつだか、どうして自分がここに転がされいるのか理解出来ないが、部屋の広さと白い布地の質を見ると高貴な人の邸内だということだけはわかった。 やはり陛下唯一の妃が邪魔で攫ったというのだろうか。 では何故今自分は生きているのか。
考えられることは陛下に対しての人質だ。 殺されるのは厭だけど、陛下の足枷になるのも厭だ。 
だけど動けない身体が口惜しい。 どうしたらいいのかと考えようにも寒気に襲われ、考えをまとめることが出来ない。 布地が敷かれた床とはいえ、その薄さでは直に床上に寝ているのと同じで冷えは否応なしに夕鈴の体から熱を奪っていく。 これからの展開を思うだけで頭痛と胸の痛さに目の前が歪んで見えた。
目を瞑り、寒さに震える内にまた眠りに落ちていく。





***





「そろそろ、お目覚めになって頂けませんか?」

唐突に掛けられる声に背が震える。 
顔を上げると白い布が被せられた衝立から姿を現した男性が見えた。

「ようこそ、お妃様」
「・・・・私を警護していた隠密は・・・・・無事?」

喋ると口の中に錆びた鉄の味が広がった。 きつく縛られた猿轡のせいで口端が切れて乾いていたのだろうか。 喋った途端にまた切れたのか血の味と痛みが奔る。 生理的な涙が滲んできたけど、瞬きを繰り返して零さないようにするだけの意地は残っている。 
歪みそうな視線の先に、上品な笑みを浮かべた貴族が恭しく拱手するのが見えた。

「無事、と申しますか・・・。 貴女に着いて来た警護の方は、私の『道具』の不備により逃げられてしまいました。 あのような身体でどうやって縄を解けたのか、思わず首を傾げてしまいましたよ。 流石我らが狼陛下の隠密です。 お蔭で私の『道具』がかなり減っていました」

その表情は心の底から浩大の逃亡を褒め称えているようで、夕鈴は視線を逸らした。 
四十を過ぎた、氾大臣に通じる面持ちの男性は、貴族らしい優雅な立ち振る舞いで夕鈴に柔らかな笑みを見せる。 しかし自分の配下を『道具』と言い捨てる物言いから、残虐な嗜好の持ち主ではないかと思えた。 
目の前で捕らえられた浩大に対する仕打ちを思い出すだけで息が詰まる。 
耐えていた涙がとうとう溢れて床へと零れた。 それでも浩大は逃げられたんだと、傷付いたけど頑張って逃げたんだと思うしかない。 あのひどい傷を思うと胸が締め付けられるように苦しくなるが、きっと大丈夫だと思うしか今は出来ない。 きっと大丈夫だと思いながら浩大に申し訳なくて、悔しくて涙を止めることが出来ない。

「ああ、今はお妃様に手を出すつもりはありませんので御安心下さい。 かの隠密が向かった先は国王陛下の許で御座いましょう。 それならば私の意を上手にお伝えしてくれるはず。 ここまで掻き回されるとは思っておりませんでしたが、それも仕方ありません」
「貴方がなさりたいのは・・・・陛下への妃推挙、ですか?」

優雅に微笑む人物は窓の布地をひとつ取り払い、白い布が掛けられた椅子へと腰掛けた。 
長衣には金糸銀糸で精緻な刺繍が施され、窓から差し込む陽の光をあびて輝きを放っている。 朱色に染められた肩衣には黒糸と銀糸で龍が刺繍されていて見事としか謂えない。 帯は色鮮やかな糸で細かな華が刺繍された上、玉堅を垂らしていて一介の貴族にしては過ぎるくらいに豪奢な衣装だと思えた。 
柔和な笑みの下に隠された彼の心の闇がとても怖いが、夕鈴もただ黙って聞いている訳にはいかない。

「陛下は内政安定と財政難の立て直しに日々奔走されております。 陛下の御世が盤石となれば、きっと他の妃を娶ろうという気にもなるやも知れません。 ですから、まずは陛下と話し合うのが一番です」
「そうは申されても、我らが王は貴女だけでいいと仰る。 自慢の娘を見ることもなく、話さえ聞いてはくれない。 たが他の者たちのように諦める気になれません。 私の娘は生まれ持った気品と美貌、長い間培った教養を陛下のために磨き続けていたのですから」

陛下の寵愛を受けるべく、貴族の娘は生まれ落ちた時からその可能性に己を磨き続けるというのは、紅珠や瑠霞姫が集めた貴族の娘たちを見れば理解出来る。 後宮はたくさんの貴族息女が陛下の寵愛を求め、栄華を競い、世継ぎを設ける場所だ。 いつか来る未来、それは現実となる。
だけど今すぐじゃない。 今は諸事情によって (特に陛下の二面性を隠すという事情によって) 私はそれらを退けるために雇われたバイトだ。 黙って頷く訳にはいかない。

「陛下のためと仰りながら、その陛下唯一の妃に対してこのような仕打ち。 陛下はきっとお嘆きになりましょう。 娘さんを陛下にと望むのでしたら、さっきも言いましたが話し合いを」
「ええ、陛下はお嘆きになりましょうね。 唯一の妃が、陛下以外にその心を向けられたとしたら」

彼の台詞を耳に、夕鈴の眉間に皺が寄る。 
どうして王宮から無理やり連れ去られた妃が、陛下から他へと心変わりをするというの。 
まさか、心変わりの相手役として王宮から方淵を連れ出したというのか? 
え・・・・方淵と私が? 
いやいやいや、あり得ないでしょう! 
あの陛下大好き人間が、妃妾と馬鹿にしている私と共に駆け落ちって、沢山の人が見ていたあの現状でそれを言うのは無理があるにもほどがある。 直ぐに嘘だとばれるだろうし、そんなの誰も信じない!

「あ、貴方が王宮から連れ出したのは柳大臣の御子息ですよ? こ、こ、心変わりの相手役にしたのは、あの柳大臣の息子です! そんな・・・・無謀にも程がありますよ!?」
「・・・・王宮に従事する者でしたら誰でも良かったのですが、柳大臣の子息でしたら陛下唯一の妃の相手として不足はなかったでしょうに。 失敗した今、それも叶いませんが」

王宮に忍び込み、爆薬や馬車を用意し、一見用意周到にも見えるが、誰でも良かったというその言葉に夕鈴は目を丸くして動けなくなった。 失敗したこと事態、何でもないような物言いに眉間に深い皺を寄せて見つめ続けるが、相手の表情は穏やかなままだ。

「ああ、紹介が遅れました。 私は南州工望を統括しております姜瑛玖と申します」
「姜瑛玖様、ですか。 その・・・・姜様の御望みは私を殺す・・・・ことですか?」

私の言葉に、彼は何故か眉を僅かに下げて困った風な笑みを向けた。 火の気のない部屋で薄着のまま床にいる私は寒さに身を震わせながら何故そんな笑みを向けるのかと不思議になる。 彼が向ける困った顔さえも背筋を凍らせるのに一役買うだけで、何が望みなのか理解しにくい。
ゆっくりと椅子から立ち上がった姜は静かに歩を進め、近くの床へと片膝をついた。

「陛下唯一の妃を弑する・・・・。 最初はそれも考えましたが、唯一の妃へ向ける陛下の寵愛を目にして、諦めざるを得ませんでした。 あのように熱い視線で見つめ、抱き上げ、悩ましいほどの笑みを貴女だけに向けるなど、狼陛下ともあろう御方がそこまで溺れていらっしゃるとは、目にするまで信じられませんでしたが」
「そ・・・そう、ですか」

政務室での演技を指摘され、改めて耳にするとこんな時だというのに恥ずかしくなる。 普段、皆からどんな目で見られているのだろうと想像すると、さっきまで寒さに震えていた自身が火照って来るように感じた。 

「しかし寵愛されている妃が陛下を見限り、他の男と王宮から逃げ出したとなれば、その御心は他へと向かうのではないかと考えました。 殺したがために陛下の心にいつまで住まう妃より、憎しみで消えゆく妃の方がいい。 そして、傷付いた陛下の御心を慰めるのは私の娘、湊麗が良いでしょう」

ふわりと笑みを零す姜が私の頬をなぞり上げる。 頬に触れる彼の指はとても冷たく感じた。 
怖いと感じるのは彼の笑みが表面だけで、目が笑っていないからだ。 彼の心の裡には様々なものが葛藤しているようで、痛みとも憎しみとも憂いとも謂える、胸が痛くなる感情がその瞳に浮かんでいるように見える。 
夕鈴が何故彼がそんな感情を浮かべるのかとじっと見つめていると、姜は静かに立ち上がった。
追い掛けるように背を撓らせ、夕鈴は叫ぶように問い掛ける。

「どのような形であれ、王宮から妃を連れ出せば追手が掛かるのは判るでしょう! もし陛下が駆け落ちしたと信じたとして、それに加担したことを問われるのではないですか?」
「私は妃に泣きつかれ、相手の男には妻と娘を質にされ、無理やりそのお手伝いをさせられた。 そういう台本を考えておりました。 その後お二人を共に簀巻きにして毒針を四肢に突き刺して腐り崩れたところで山に打ち捨てようか、山犬にそのまま喰わせようか、湖に沈めようか、または邸の刑房にて暇をしている輩の慰み者にしようか・・・・・。 いろいろと考えてはいたのですが、こうなりましたので貴女を質に娘を妃することにします。 結果が大事であって、その過程には多少目を瞑りましょう」

姜の口から零れる音色は柔らかく軽やかなのに、内容はおぞましいほど腐乱していた。 妄執に似た語りは自分の娘へ向けた深い親の愛で溢れていて、きっと他者の意見には見向きもしないだろう。 滔々と語りながら向けられる柔和な瞳は私を見下ろしたまま、実は何ひとつ映してはいないのが判る。

「あの御方の隣に立つに相応しいのは私の娘だけです。 陛下に慈しまれ、愛され、共に寄り添い、国母となるに相応しいのは私の娘だけ。 この機会によく存じて頂き、そして英断して頂かねばなりません。 最高の衣装と宝飾で飾った私の愛しい娘を、湊麗を見て貰いましょう」

楽しげな声で謳うように語ると、何も映さない瞳を宙に向けて彼は部屋から出て行った。
その表情と語りの内容の違和感に泣きそうなくらい恐怖を感じる。 再び背に這い上がる恐怖に、今度こそ駄目なのかも知れないと考えてしまう。 此処が何処だかわからない上に、浩大はひどくひどく傷付いていた。 

「浩大・・・・大丈夫、だよね。 きっと陛下が来てくれるよね・・・・」

呟きながら身体を丸めると、縄が軋んで痛みを伝えて来る。 それよりも心が痛いと夕鈴は目を閉じた。








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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 21:35:07 | トラックバック(0) | コメント(6)
コメント
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2014-01-04 土 23:27:50 | | [編集]
Re: タイトルなし
ますたぬ様、コメントをありがとう御座います。姜様、お好みではないですか?(笑) 桐を含めた皆様にはこれから頑張って貰います。方淵もね、あのままでは余りにも哀れですものね。ちょいと悩みながら、活躍の場を考えましょう。引き続き、お付き合いお願い致します。
2014-01-04 土 23:53:00 | URL | あお [編集]
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2014-01-05 日 00:10:10 | | [編集]
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2014-01-05 日 15:09:04 | | [編集]
Re: タイトルなし
名無しの読み手様、コメントをありがとう御座います。はい、皆痛いです。今回久しぶりに痛いシーンが書けてうれしい(って非道)。桐も浩大も方淵も、陛下と共に次から頑張って貰います。正月期間はどうしても見たい特番や映画が目白押しで、忙しいですが(え?)のんびり頑張ります。
2014-01-05 日 21:15:26 | URL | あお [編集]
Re: 食堂から再び
ぶんた様、コメントをありがとう御座います。お忙しいようですが頑張って下さい! 娘に請われてハイキュー!CD付きを購入し、同時に小説を買い、二人で腐っておりました。もう『萌え』です。ははは。話は変わり、夕鈴大変。方淵はどうしようかと思ったのですが、放置はさすがに可哀そうになりました。正に放置ですものね。ああ、非道(誰が?) 「愛の逃避行」には爆笑です。ナイス! あとで夕鈴はお仕置き? それは違う話か。
2014-01-05 日 21:28:24 | URL | あお [編集]
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