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錆びた逃避思考  13
雪が降らなかったと子供は(高校生の癖に)ぐずりますが、通勤には雪じゃない方が断然いい。バスだって遅延するし、自転車だって大変。寒いのも花粉も苦手です。


では、どうぞ











「出してーっ! 誰か、ここから出してーっ!」

壁のあちこちを叩きながら叫び続けるが、音は部屋に反響して外に聞こえているのか判らない。 それでも叫び続ける以外に方法はなく、手が痛むが必死に叩き続けるしかない。 問題は寒さだ。 
それと何故か部屋の中の様子が判り、何処から明かりが漏れているのかと探し続けるが見当たらず、考えると怖い方向に走り出しそうなので、そちらは考えることを放棄していた。

消毒して布を巻いただけの腕が悲鳴を上げるが、骨が折れている訳じゃないと自分を叱咤して叩き続ける。 叫び続けて咽喉が痛いが、ここで自分に負ける訳にはいかない。 
絶対に戻るのだと、借金完済まではバイトを続けなきゃ駄目だと腕を振り、思いきり叫ぶ。
・・・・・だけど、人間には限界がある。 
叩き続けて腕は上がらなくなるし、叫び続けて声は嗄れ、床に座り込んで夕鈴は荒い息を吐いた。

「・・・・考えるのも厭だけど、私、ここにどうやって入ったの? どうやって出られるの?」

膝を抱えて冷え切った足を裾の中に入れる。 
明りもないのに部屋の様子は解かる。 だけど出口はない。 
誰かに誘導されるように勝手に動いた足。 寒い部屋。 漂う甘い香に息をするのも辛い。

「陛下ぁ・・・。 たすけてぇ・・・・」

抱えた膝に頭を乗せると、寒さと不安に襲われ泣きたくなった。 こんな部屋にいたんじゃ絶対に見つけて貰えない。 どうしたらいいんだろうと考えるけど、自分に出来るのは壁を叩いて叫ぶことだけだ。 
少しだけ・・・・少しだけ休んだら、もう一度頑張ってみようと夕鈴は目を閉じた。 
その頭上を白い蝶がふわりと舞い飛び、静かに壁から消えていく。









声のする方向に走り出した陛下を呼び止める声があり、庭園が望む回廊で足を止めると方淵が駆け寄って来た。 残った騎馬兵と合流して捜索をしていたと告げ、探しに向かった場所での報告を述べる。

「陛下、厨房にも湯殿にも姿は見えません。 既に邸から連れ出された可能性はないでしょうか。 王宮から拐った時のように何かを嗅がされて、裏手から」
「では柳方淵、騎馬兵と共に工望にある姜の本邸の捜索に向かえ」
「御意。 ・・・・陛下はまだこちらをお探しになるのですか?」
「配下の者が東側以外を捜索している。 報告が上がり次第、本邸に向かおう」

方淵が踵を返し、騎馬兵を引き連れて邸を離れて行った。 焦燥交じりの溜め息を吐き、陛下が次の部屋へ足を踏み入れると桐が姿を見せるが、その表情が何ら進展はないと伝えて来る。

「見当たりませんね。 しかし他に連れ去られた可能性はないでしょう。 周囲を騎馬兵が囲み、逃げようがない状況でしたし、邸内にいたのは姜のみ。 外にいた配下の者は殺しておりますから」
「しかし夕鈴はいない。 桐、怪しいと思われる場所をもう一度調べ直せ。 先ほどのように仕掛けがある場合も考え、慎重に行動しろ。 探した場所は徹底的に破壊しておけ!」
「御意・・・・」

桐が離れ、静かな邸内に鳥の声が静かに響き渡る。 
纏わり付くような甘い香りに顔を顰めた陛下は、ふと今頃になって気付いたことがあると顔を上げた。 
香はどこで焚かれているのだろうか。 
邸中に漂う匂いに何度も顔を顰めていたが、香炉を目にしてはいない。 邸に一歩足を踏み入れた時から纏わり付くような匂いの元は何処だと、一層強く香った部屋へ向かった。
姜の娘の遺体が横たわる部屋は、蹴破られ大きく開口した場所から冷ややかな風が舞い込んでいるというのに、未だ甘すぎる匂いが立ち籠めている。 腐敗臭を誤魔化すための匂い消しだろうが、香炉が部屋に見当たらない。 部屋は真っ白な布地に覆われ、姜と娘の華美な衣装に目が向いていたが、匂いの元を発する香炉の存在に気付かないはずがない。 
そして部屋を見回すも香炉は見当たらず、陛下は厭そうに一段と強く香る場所を探すことにした。 
ゆっくりと足を進めていると、裾を引く感触がして振り返る。 
しかし見えるのは氷の上に散らばる瑠璃硝子と倒れた衝立だけだ。 
さっきは袖を引かれた感じがしたなと動きを止めると、小さな笑い声が聞こえて来る。 
女の声と判り、寝台に視線を向けた。 
白い布に覆われた遺体はもちろん動くこともなく、たが確かに声は続いている。 

「妄執か? それとも我が妃を上手く連れ去ることが出来たと嘲笑っているのか」

声として認識出来るが何を言っているのかは不明だ。 苛立ちながら帯刀しているモノに手を伸ばし、寝台へ近寄った。 一段と強く香る匂いに刀を向けると、声が明瞭に聞こえて来た。

『お止め頂けますか、王よ』
「何を止めよと? 私は我が妃を返して欲しいと望むだけだ。 妄執の謗りを受けるつもりはない」
『謗りなど・・・・。 陛下の御越しを喜んでいるだけで御座います』
「我が妃は何処だ。 早々に返して貰おう」

刀の切っ先で白い布に包まれた遺体を突くと、声は歌うように続く。

『私たちの願いは娘の幸せのみで御座います。 国一番の権力者に嫁ぎ、その御方の子を儲けることこそ、娘の幸せと思ってのこと。 その願いを御汲み下さいませ、陛下』
「・・・娘御の母か。 いつの世も親というのは・・・・・」

口角を持ち上げた陛下は布地を刀で捲る。 腹に置かれた白い包みは転げ落ちた娘の頭だろう。 
それを切っ先で突くと声が僅かに震えた。

『・・・いくら王の振る舞いと言えど、貴方様の妃となろう我が娘に無体なことを』
「私の妃は一人だけだ。 その妃を返さぬと言うなら、どのような目に遭おうとも甘んじて受けよ。 切り刻まれようが嬲られようがな。 お前に刀の動きを止めることなど出来ぬ」
『その妃を取り戻したいと御望みなれば、我が娘を王の妃に・・・!』
「出来ぬ相談だな。 夕鈴は私の手で取り戻す」

刀を頭上に持ち上げ、冬の嵐のような悲鳴を耳にしながら陛下は躊躇することなく振り下ろす。 
振り下ろされた刀は布地ごと頭から腹部へと貫き、寝台へと沈み込んだ。

『湊麗ぃーっ!!』

発狂したかのような声が寝台から部屋中に響き、それは壁にぶつかり天井に跳ね返り、爪痕のような筋を残した。 耳を劈く狂声が暴れ狂うように陛下の裾を引き裂き、頬に鮮血を迸らせる。 鋭い風の刃と化した声が身体に当たるのを感じるが、捕まえることが出来ない。 引き抜いた刀で応戦しながら足で遺体を蹴り飛ばす。

『ひぃああああーっ!』

背後から悲鳴が襲い掛かって来る気配に肌が粟立つ。 恐ろしいほどの忿懣を募らせ、その怒りをぶつけようとしているのが判り陛下は身体を翻した。 瞬間、声の刃が寝台の遺体に突き刺さり、布地と共に遺体を真っ二つに引き裂く。 骨が砕ける乾いた音と、ぐちゃりと腐敗した中身が壁に叩き付けられる音が寝台から響いた。 振り返りその惨状を目にした陛下が声を張り上げ、魍魎となった声に叫んだ。

「自ら引導を渡したか! 潔いことだ!」
『あああああーっ!! 湊麗、ああ、湊麗・・・っ!』

悲痛な声は泣き叫びながら寝台奥の壁にぶつかり、悲鳴を上げながらのた打ち回る。 
それは娘の身体を壊した自分の愚かさを嘆いているようにも、王へ捧げる身体が失われたことの悲しみに叫んでいるようにも捉えられる。 母親としての本意はどちらにあるのかと冷笑を浮かべながら寝台の敷布を剥がすと、思わず嘔吐したくなるほどの甘くきつい香りが立ち上った。 ここかと当たりを付け、陛下が膝高さの寝台に蹴りを入れるが、もちろん容易に壊れる訳がない。

「陛下、お退き下さい!」

桐の鋭い声に身体を反転させると、振り下ろされた錘が寝台の角を叩き壊した。 そのまま回転を続ける錘が再び叩き付けられると、背後から迫り来る狂声が寝台に掛けられた天蓋を裂く。 甲高い嬌声にも似た叫びが二人の身体に向かって来る気配を感じた。 桐が流星錘を声にぶつけると、悲痛な叫びに変わり一瞬霧散する。 その隙に陛下が卓を持ち上げ、寝台に叩き付けた。

「陛下。 万が一、寝台下にお妃がいましたら潰れますよ?」
「ここに夕鈴は居ない。 大事な娘と夕鈴を一緒の部屋に置く訳が無いだろう。 だが、匂い消しのためだけに香炉を置いたのではあるまい。 これだけの匂いだ、近寄らせないために焚いた可能性もある」
「・・・・何度も消えるお妃に腹を立て、潰す気になったのかと思いましたよ」

再び流星錘を振り下ろし寝台の破壊を開始した桐が哂うと、陛下が肩を揺らした。

「・・・・潰す気などないが、私を翻弄する兎には少し仕置きが必要だな」
「王宮に戻り、そんな暇があるといいですね。 ・・・・大量の香炉が見えます。 その奥に扉がありますが、何処に続いているのか不明です。 私が先に参りましょうか」
「いや、この先に妃がいるなら私が迎えに行こう。 お前は丁重に奥方の相手をしていろ」
「御意。 ・・・・では、丁重にお相手させて頂きます」

思い切り厭そうな桐の声を聴きながら、近くの壁から白い布を引き下ろして香炉に覆い被せる。 匂いが消える訳ではないが、多少は緩和するだろう。 背後から狂気に陥った禍々しい悲鳴が聞こえ、再び嵐のような強風が吹き荒れた。 布を被せた香炉を足で横に蹴り飛ばし、異様に深い寝台下に身を潜らせる。 
壁が軋む音や氷の割れる鈍い音がしたが、振り返ることなく奥の扉を叩き壊した。 
直ぐに階段が見え、万が一の時の避難経路だと判る。 大貴族ともなると盗賊に夜襲されることもあり、それに備えて逃げ道や避難場所を用意していることは珍しくない。 

階段を上がると長い廊下がある。 腰を屈めなければならぬ高さでそれを奥まで進むと再び扉だ。
鍵が掛かっているようだが、数度の蹴りで扉は壊れ、外に出ると北邸側厨房裏手の小屋とわかる。 ここから裏手の竹林へ逃げるのだろう。 小屋の中を調べるがただの貯蔵庫のようで、壁を叩くも扉のようなものは他には見当たらない。 

「夕鈴っ! 声は出せるか? 無事か!」

耳を澄ますと竹林から鳥の鳴き声が聞こえた。 風が竹笹を揺らし乾いた音を出す。
ふと何かを叩く鈍い音が聞こえたような気がして、眉を寄せるが音は途切れてしまった。 避難経路から聞こえて来る東邸の音かと思ったが、聞こえて来た方向が違う。 そこへ陛下の声を耳にした隠密が姿を見せる。

「邸内捜索を続けておりますが、お妃様のお姿を捉えることが出来ません」
「捜索は私が行う。 お前たちは西邸奥の倉庫部屋に置かれた油を邸中に撒け。 この邸は浄化が必要だろう。 あと、東邸で桐が魍魎と争っている最中だ。 手助けがいるとも思えぬが様子を見に行け」

隠密が姿を消すと、やはり葉擦れの音と異なる音が聞こえて来る。 
くぐもった鈍い響きは何処から聞こえて来るのか、揺らぐように撓る竹と笹葉の音に苛立ちが募る。 







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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 22:30:13 | トラックバック(0) | コメント(6)
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2014-01-17 金 00:11:44 | | [編集]
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2014-01-17 金 11:15:06 | | [編集]
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2014-01-17 金 14:11:42 | | [編集]
Re: タイトルなし
ビスカス様、コメントをありがとう御座います。いやいや、そんなに怖くはないですよん。でもありがとう御座います。もっと怖く書けたら良かったのですが、本題ではないので省きました。やっとラストに流れます。妙に長くなって、内容が内容と自分突っ込みをしています。夕鈴は相変わらずですしね。柔軟剤はいろいろ変わりますが、今は一年以上同じものを続けて使用中。ふんわりしないと、他のものを使うと匂いが好みじゃなく、試行錯誤して諦めたと言った方が早いか? 香りに関して男性陣より文句がないので、そのままです。言わせないけどね。
2014-01-17 金 23:40:36 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
ますたぬ様、コメントをありがとう御座います。桐への賛辞は毎回爆笑です。そして方淵に冷たすぎ?(笑)そこも好きです。さて、やっとラストに近付き、そろそろ浩大も出さなきゃと手を動かしています。姜と対峙するまでには回復させてあげなきゃね。可哀想すぎるもの。
2014-01-17 金 23:43:22 | URL | あお [編集]
Re: 蝶
ぶんた様、コメントをありがとう御座います。そして朝からニュースで繰り返される震災の模様に何とも言えない気持ちになります。福島もそうですけど、その時その場にいた人じゃないと判らない気持ちでしょうね。残された人も、逝った人も。突然の天災は避けようがないだけに大変です。もしもを考える必要はありますが、日々の生活に押し流されて忘れがちなことでもあります。だからこそ、こういう日くらいは心構えを持つのが必要なのでしょうね。話はガラッと変わるけど、『28時間15回S●X』すげぇです。まあ、一種のスポーツなのでしょうね。
2014-01-17 金 23:47:31 | URL | あお [編集]
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