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錆びた逃避思考  14
お休みにのんびりしていると電話が。スキンケアや通じの良くなる茶葉や住宅情報やソーラー発電や金や墓を勧める内容の電話。大抵直ぐに断るけど、「一、二分だけ宜しいですか」の言葉に時々惑わされる。電話を掛ける人も仕事なんだよなと絆されそうになる自分もいて、本当にこういう電話は困ります。


では、どうぞ












目の前を何かが通り過ぎた・・・ような気がして、それを追おうとして夢だと気が付く。 

「はっ! ・・・寝てた?」

少し休もうと思っただけなのに、身体は横たわり眠っていたようだ。 慌てて身体を起こすと肩と腕が痛み、馬車から飛び降りた時に傷付いた腕を枕にして寝ていたと気付く。 何て莫迦なことを思うけど今更なことで、今すべきは休んだら働くだけだ。 ここから脱して後宮に戻り、バイト妃として働く。

「よし、頑張って叩きましょう!」

口に出して自分を奮い立たせ、夕鈴は動く方の手を思い切り振り上げた。 
相変わらず四方八方出入り口も見当たらない壁だけなのに、何処から明かりが入って来るのか部屋の様子はわかる。 わかるといっても何もない部屋で、夕鈴が大の字で転がるくらいの広さしかない。 寒さと甘い香りと痛さと怖さに身体は疲労しているが、少し休んだのだから大丈夫だと腕を振り上げる。

「誰かーっ! 出して下さーい! って言うか、出せーっ!!」

いったいここは何処なんだと考えるのは後にして、夕鈴は必死に声を張り上げた。 
明りが入り込んでいるんだから、甘い香りがするんだから、自分の声も叩く音も絶対に外に響いているはずだ。 だから誰かの耳に届いているはず。 時間の経過はわからないけれど、邸から離れていなければ陛下がいて、桐がいる。 警備兵か禁軍が一緒なのだから邸制圧も済んでいるだろう。 きっと助かる。 ここにいると気付いて貰えば、助け出して貰える。
そう信じて叩き続けるしかない。

「もう! 出してって言ってるでしょーっ!!」

必死に叩き続ける夕鈴は、陛下と桐以外の人間が近くにいる場合など頭に思い浮かばない。 
ただ必死に叩き、叫び続けた。

「青慎ーっ! 絶対に姉さん帰るから! 李順さーん! 衣装の汚れは洗いますから、借金にはしないでぇー! 父さーん、借金増やしたら呪ってやるからーっ! 几鍔に借りていたらシバキ倒してやるからー!」

・・・・少し違う方向に叫んでいるなど、今の夕鈴は全く気が付かない。





**





枯れた笹が乾いた音を立て、鳥が啼く。 
遠くから微かに甘い香りがするようで眉を顰め、自身の衣装から香るのかと舌打ちをする。 腐臭がするよりいいかと諦め、再び耳を澄ますと鈍い音が聞こえて来た。 目を閉じ、周囲の音から鈍い何かを叩くような音を拾い上げる。 遠くから聞こえるような音は案外近いような気がして、陛下は気を集中した。

声は一向に聞こえない。 微かな打音が響くだけ。 その打音は手で何かを叩いているようで不規則だが、力強い。 確信に近い気持ちが湧き上がる。 それは夕鈴だと。 その音を拾いたいと思うほどに自身の鼓動まで邪魔に感じ、息を止めて周囲に神経を張り巡らせた。

聞こえた方向は出て来たばかりの貯蔵庫だ。 もう一度中に入り壁を叩く。 乾いた藁や芋、漬物が置かれた場所を蹴飛ばし、隠された扉がないかを探す内に奇怪なことに気付いた。 邸と通じる隠し通路への扉以外、小屋の中には棚しか見当たらない。 それだけの場所だ、ここに籠城する予定はないだろう。
一度小屋を出て外見を見直し、感じた違和感に目を細めた。
内部と外装は大きさが違う。 刀で外壁を接ぐと貯蔵庫本来の小屋部分とは違う構造が見えて来た。 そのまま板を接ぎ続けると、新たに頑丈な壁が現れる。 
剣首で壁を叩くと中から叩き返す音が聞こえ、三度叩くと三度返って来た。

「夕鈴っ! 中か、無事か!?」

しかし中から返答はなく、しかしもう一度叩くと力強い叩きが返って来る。 指笛を吹くと二人の隠密が姿を見せ、直ぐに小屋の外板を接ぐよう命じた。 屋根部分まで覆われており、隠し部屋にしては何処から入るのか判らない。 貯蔵庫内部からは無理だと判り、しかし外側を見回っても扉らしきモノが見当たらない。 中から叩く音が聞こえて来て、同じように叩き返す。

「・・・・夕鈴、もういい。 手が痛くなるだけだ。 必ずそこから出すから、もう叩くな」

その声は中に届かないのか、いつまでも叩く音が聞こえて来る。 
暫くして、外板を外していた隠密の一人が陛下に首を振った。 

「カラクリがあるようですが、外からは開けません。 何処から入るのかの見当も付きません」
「だが中に夕鈴は居る。 さて・・・・尋ねる者もいないしな。 姜の私室よりカラクリを解く書面がないか調べて来い。 ついでに斧か、それに準ずるものがないか調べ持って来るように」

二人の隠密が邸に走って行くのを見やり、全体が見えて来た『箱』に振り返った。
中に夕鈴がいるのは確実だ。 叩くだけの体力もあるようだが、これ以上無理はして欲しくない。 それなのに規則的に聞こえて来る打音に安堵する自分もいる。 この音が聞こえなくなったら・・・・そう考えるだけで足元から這い上がる焦燥感に身が焼かれる思いがした。



**



突然外から響き聞こえて来た硬い音に驚いた夕鈴は、直ぐにそれが助けだと理解して叩き返す。 
声は聞こえないが陛下だと感じて、泣きたくなった。 三度叩く音が聞こえ、同じように叩き返す。 暫くして大きく一度叩かれ、すぐに大きく叩き返した。 それだけで安堵に足が震え力が抜けそうになり、夕鈴は唇を噛みしめて踏ん張る。 陛下の顔を見て、後宮に戻るまで、まだ気を抜いちゃいけないと。 
だけど、どうしても涙は溢れて頬を伝って滴り落ちる。 
泣いたら力が抜けちゃうと、気を抜く訳にはいかないと思うのに、くぐもった嗚咽は止まらない。 
外の声が聞こえないということは、自分の声も届かないのだろうか。

「へいか・・・・来てくれて、探してくれて・・・ありがとう。 すごく、うれしい」

壁をもう一度叩いた後、夕鈴は両手を伸ばして距離を取り、囁くような声で呟いた。

「いっしょに・・・・他の人を連れずに、陛下といっしょに後宮に戻りたい」

袖で涙に濡れた顔を拭いた後、夕鈴は中にいると伝えるために腕を振り下ろす。
叩くと直ぐに反応があり、それが嬉しいと涙が零れる。 
袖で拭うがいくら拭っても涙は止まらず、抜けそうな力を取り戻るために腕を持ち上げる。
 
ふわりと目の端を泳ぐように何かが動くのが見え、そちらに顔を動かすが見えるのは何もない部屋だけだ。 背中に厭な寒気が這い上がり、一度目を瞑り深呼吸して腕を振り上げる。 
見えたのは錯覚だと思わなきゃ怖くて叫びそうになる。 叫んだところでこの部屋からは出られないのだから、体力が消耗するだけだと必死に考える。 足元を冷たい何かが通り過ぎているような感じも錯覚で、見ちゃいけないと顔を目の前の壁に固定した。
怖い話は苦手だ。 心臓はバクバクしてくるし、震える足で立っているのも辛くなる。 
それなのに視界の端にふわりと何かが動く気配がして、夕鈴は必死に壁を叩いた。

叩くと直ぐに反応があり、ほっとする。 拳は痛いが、それよりも外から反応がなくなる方が怖い。 
陛下は置き去りにするような人じゃないけど、ここに連れ来られた経緯や姜の娘も気になる。 
妃を質とされて仕方なく姜の娘と会ったとして、どうして陛下の心が変わらないなど言えようか。
家柄の良い教養ある貴族息女に限られるだろうが、何処の誰を娶ろうと陛下は自由な立場の人だ。 内政が安定するまで、陛下の敵が減るまで、陛下の二面性が知られるのが困るからという理由もあるが、それでも目が奪われるほどの美しい女性を前に、心が動かないなど確証はない。 
そして陛下がそうすると決めたら、何も言えない立場の自分だ。

「・・・・いや、陛下は・・・・」

ここから出た時、美しい女性が陛下の隣に立っていたら、私はどうしたらいいんだろう。 
手が痺れたような感覚に包まれ、叩く力が弱くなる。 
ここから出ることだけを考えなきゃいけないのに、余計な心配で頭がいっぱいになる。
 
その時、驚くほど強く外から叩かれ、夕鈴は項垂れていた顔を上げて目を瞬き、急いで力強く叩き返した後に思わず笑いそうになった。 自分は何を考えていたのだろう。 
頭を振ってもう一度叩くと、同じように叩き返された。

「・・・陛下、手が痛くなりますよ。 あとで湿布を貼りましょうね」

ああ、早くここから出たい。 ここから出たらまず沓を履きたい。 お腹も空いた。 浩大の看病もしたい。 方淵に謝りたい。 青慎にも父さんにも会いたい。 助けに来てくれた皆に御礼が言いたい。 
そして何より陛下の顔が見たい。 側に誰が居ようといい。 陛下を慕う気持ちが変わる訳がない。 
絶対にここから出て陛下に会うのだと拳を握り締めた夕鈴の目の前に、突然白い蝶が現れた。








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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 01:48:14 | トラックバック(0) | コメント(8)
コメント
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2014-01-18 土 11:10:52 | | [編集]
続きをドキドキしながら待ってます(≧∇≦)

セールスの電話、「来客中ですので」とか「今、大事な電話を待っているところなので」といって切ります。相手も仕事とはいえ、買う気もないのに電話を続けるより、買ってくれるかもしれない人と話してねって気持ちできれば罪悪感(?)も薄くなりますw
2014-01-18 土 12:20:50 | URL | Norah [編集]
Re: タイトルなし
ますたぬ様、コメントをありがとう御座います。ああ、毎回桐賛辞に微笑みが浮かびますわ。蝶は次も出て来ます。陛下と桐も頑張っておりますが、いや・・・方淵も頑張っているから少しは応援してぇ。本当は方淵と一緒に閉じ込めようかと思ったけど、しなくて良かった?
2014-01-18 土 20:44:11 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
Norah様、コメントをありがとう御座います。そしてセールスの電話、これから出掛けるとか、拒否しますと電話を切ること多いのですが、声にやられる時があります。穏やかな女性の声を耳に、何となしに聞いてしまうことが。悩みますと言いながら、十分くらい聞いているとやられそうになる。熟女に弱いのかしら、私(笑)
2014-01-18 土 20:49:24 | URL | あお [編集]
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2014-01-18 土 23:43:09 | | [編集]
Re: アニメ化
ぶんた様、コメントをありがとう御座います。アニメ化か~。モノによりますよね。「それでも世界は美しい」はコミックだけ買ってますが、好きな展開だけにあとは声優頼みか。好きなものほど、好みの声じゃないと辛いものがある。同じ4月からアニメ化する「ハイキュー!!」は主人公の声優が変更されてますからね。コミック+ボイスでVOMICというのを聞いたけど、確かに新しい声優陣の方が好み。 そしてコミックパッケージは同意見です。
2014-01-19 日 01:38:54 | URL | あお [編集]
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2014-01-20 月 09:23:49 | | [編集]
Re: タイトルなし
ビスカス様、コメントをありがとう御座います。電波が届かない地域からの帰還、お疲れ様です。こっちは昨日一日パソコンネットワークの繋がりが悪く、娘と困り果てていました。めちゃ遅い、重い、切れる。どうしたらいいんだーと諦めるとサクッと動き、その気になると焦らされる。テクニシャンなパソコンを放置して出掛けると、つい買い物に力が入り・・・・・。給料日が待ち遠しいです。
2014-01-20 月 13:43:30 | URL | あお [編集]
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