スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


スポンサー広告 | --:--:--
錆びた逃避思考  16
今回の話は後半は冒頭のあっかるい雰囲気ぶち壊しの暗い方向に流れちゃいました。このパターンって、振り返ると結構ある様な気がする。うぬぬ、似たり寄ったりにしないようにするのは難しいですねぇ。

では、どうぞ












「・・・夕鈴、そのまま寝ていていいよ」
「陛下・・・?」

自分は何時の間に眠っていたのだろうか。 気が付けば馬車の中にいて、窓から差し込む光は茜色に染まり始めていた。 目を開けると陛下の顔が見え、自分はその膝枕で寝ているのかと急いで起き上がろうとして押さえ込まれる。 顔に白い手巾を押し当てられ、涙を拭うよう言われた。 頬を触ると確かに濡れていて、目を瞬くと新たな涙が零れて来る。 
ぼんやりしながら夕鈴はそうかと口の中で呟いた。
夢のような昔の記憶を垣間見て、私は泣いたんだと。 姜の邸に確かにあった幸せの記憶を見て、決して戻ることの出来ない過去を覗き見て、悲しくなって泣いたのだと胸を押さえる。 白い布で囲われた寒々しい部屋で娘を褒め称えていた姜の言葉が甦り、手巾で顔を覆い声を殺していると陛下から柔らかな声が掛けられる。

「そんなに泣かないで。 もう僕、怒ってないから。 ね、夕鈴」
「・・・・陛下、ごめんなさい」
「夕鈴がそんなに泣くなんて思わなかった。 本当に無事で良かったと思っているから」
「違うの・・・。 陛下は、白い蝶を見ましたか?」
「蝶? 見てないけど、夕鈴は見たの? だけど冬場に蝶なんて」

あの白い蝶はきっと姜の娘だ。 あの訳の分からない部屋から出る方法を、彼女は教えてくれたんだろう。 
炎に包まれた邸が脳裏に浮かび、その中で一人荼毘に付される彼女を思い夕鈴は新たな涙を零す。 
慈しみ育てた娘の亡骸を、妃を質にして陛下に勧める親の気持ちは判らない。 もしも彼女が今も生きていたら逆に諦めがついただろうか。 幾度か陛下に妃として召し上げて欲しいと推挙し、そのたびに跳ね返されて、数多の貴族たちのように諦めただろうか。
何処で歯車が軋んだのかなど解かる訳が無い。 軋んでも錆びても子のためにと歯車を無理やり回そうとするのが親の愛情なのだろうか。 それがただの歪んだ愛情であればいい。 
愛しい娘の願いを叶えたいと思う親の狂愛であったらいい。
貴族の矜持や裏の思惑が絡んでいなければ、娘のことだけを想ってのことであれば・・・・。

だけどそこまで狂えるのか。 恐ろしいほどの腐海に足を踏み入れたまま、彼は一年以上も普通の貴族のように暮らしていたという。 匂い消しの香を焚かなければならぬほどの異臭の中、日々変わりゆく娘の亡骸を前に正気でいられたとは思えない。 目の前の現実から目を背けていたのか。 現を現と認識しながら日常を送り、亡骸を前に夢を紡ぎ続けていたのかも知れない。 決して叶わぬ夢を、錆びた歯車を回しながら求めていたのかも知れない。 それはなんて悲しい音だろうか。  

「白い蝶が教えてくれたの、あの部屋から出る方法を・・・・。 きっと、湊麗さんだ」
「もう泣くな。 それ以上泣くと目が腫れてしまうから」
「姜さんは娘が大事過ぎたのかな。 だけど、あれじゃあ・・・・」
「考えるな、夕鈴。 終わったことだ。 君は巻き込まれただけで、考える必要などない」
「庭にいた女性は、お母さんかな・・・。 姜さんの奥様は? ・・・・まさか」

ぐいっと押さえ込まれた手巾が新たに零れる涙を吸い取る。 そうかと理解して震えそうな身体を丸めると、抱き上げられ陛下の膝上に乗せられた。 そのまま回された腕から温かい熱が伝わり、止めどなく涙が零れていく。 頭を預けると、もう陛下の衣装から甘い香りは漂っていなかった。 妃衣装を用意した桐が陛下の外套も新たに用意したのだろうか。 だけど自分の髪から仄かに甘い香りがして、振り払うように陛下の袖を握り締めた。

「夕鈴、そんなに気になるのか? ・・・・姜の妻と娘は流行病で一年以上前に亡くなっている。 その後も以前と変わらず出仕していたから、心の闇に囚われたなど知る由もない。 周到なようで抜けている妃誘拐を、奴はどのように語るのか、もう興味すらない」
「奥さんも娘も亡くなったんだ・・・。 辛かったでしょうね」

そう呟きながら自分でもわかっていた。 辛いのは彼ばかりじゃない。 世の中にはもっと辛い思いを抱えている人もいる。 痛みや辛さや苦しさを背負い、それでも真面目に生きている人もいる。 
病で子を亡くしたのは彼だけではないのだ。 
どうしたって、納得出来ないことは世の中に多々ある。 
不条理な世を嘆くばかりで深淵に堕ちる人もいれば、そこから這い上がる人もいる。 身内の死や嘆きは貴族も庶民も関係ない。 だから同情はするが、同調は出来ない。 してはいけないと思う。

「僕の言葉に泣き出したのかと思ったら・・・・。 急に気を失うから驚いたよ」   
「白い蝶が目の前に現れて、姜さんの過去が目の前に広がって見えたの。 いっぱいの花びらが舞い散る中、親子で楽しんでいる姿が見えてね・・・・。 白い蝶はきっと娘さんだと思うんだ。 幸せな時もあったんだよって見せてくれたのかな。 あ、あんなにも・・・・親子で幸せそうに・・・微笑んでいた時があったのにっ!」

再びぐっと涙が溢れ出し、手巾で顔を覆う。 
時に弱く、壊れやすく脆い人の心。 哀しさや辛さに人生を狂わすほどの心は、だけど本当は強いと信じている。 どんな局面にあっても、気持ちの持ちようで人は変われると夕鈴は信じたい。 
姜にも出来ることならあの優しい時を思い出して欲しい。 本当に娘さんを、湊麗さんを愛しいと思う心が残っているなら、少しでも心安らかに逝けるよう願って欲しい。 

「もう泣かないでいいから、王宮に着くまで寝ていたらいい。 戻ったら湯殿で汚れを落として怪我の処置をして、もう一度深く眠るんだ。 何も考えずに。 ・・・・僕、添い寝してあげようか?」
「・・・・李順さんが赦しませんよ、きっと。 でも陛下は私以上にずっと寝ていないのでしょう? 今の内、少しでも休んで下さい。 それと手、痛くありませんか?」
「夕鈴の方が痛いだろう? 本当の狼なら舐めて治してあげられるのに。 ・・・・試してみる?」
「遠慮致します。 少し寝ますね。 陛下も寝て下さい」 

今は笑顔を見せることが出来ないが、気遣う気持ちが嬉しくて素直に目を閉じることにした。 だが、眠る前に陛下にきちんとお礼を言おうと顔を上げた、ちょうどその瞬間、目頭の間に何かが押し付けられ目を瞠る。

「・・・・・・」
「あ・・・・寝たのかと思った、のに・・・」

大きく目を見開く陛下の顔があまりにも近く、夕鈴が目を瞠ったままでいると大きな影が落ちた。 
外套が夕鈴をすっぽりと包み込み、闇を作るが目を閉じることが出来ない。 じわじわと浸食するような動悸に襲われ、何度も何度も瞬きを繰り返す。 今のは何だろうと目頭を触ろうとする腕が外套の外から押さえられ、間近に見た陛下の戸惑いの表情が脳裏に浮かぶ。 それもドアップで浮かぶから思わず身震いしてしまう。 するときゅっと抱き寄せられ、夕鈴は頭の天辺から足先まで茹りそうなほど熱くなった。 熱くて熱くて外套を剥ぎ取りたいけど出来なくて、深く俯いて震えていると掠れた声が聞こえてくる。

「や、休んでね、夕鈴」
「・・・・は、い」

休めるのかしらと強く目を閉じてみるが、眠りは一向に訪れない。 ガタガタと揺れる音を聞きながら、とにかく目を瞑り、強張った緊張が伝わらないようにと夕鈴は必死に寝たふりを続けた。



**



夜も間近な時刻、王宮に着くなり李順さんが馬車の扉を恭しく開けて幽鬼の如く青白い顔を見せるから、外套から顔を出した夕鈴は狭い馬車の中で叫びそうになった。 自分の口を手で覆えたのは奇跡に近い。 
李順さんの背後から桐が無表情な顔でじぃっと見つめて来るから、どうにか唾を飲み込み陛下の膝から降りることに成功した。 あの無表情は人の気持ちを落ち着かせる作用でもあるのか、激しい動悸は続いているが、妃の演技を思い出して夕鈴は笑みを浮かべる。 馬車の前に陛下と並んで立つと、李順が拱手一礼した。 

「陛下、お妃様。 御無事のお戻り、臣下一同心より嬉しく思います」
「無事に妃を奪還することが出来た。 先に連れ来られた姜の詮議は済んだか」
「はい、済んでおります。 まずはお妃さま、御怪我をなさっているとのこと、後宮にて侍医に診て頂いて下さい。 明日にでも詳細を伺うために御時間を頂戴致します」
「・・・・はひ」
「妃は怪我をしているから私が後宮へ運ぼう。 まずは湯殿で汚れを取るがいい」
「・・・・はひ」

陛下の言葉にギリッと何かを噛み締める音が李順さんから聞こえ、再び抱き上げられた私は背中に氷水を掛けられた気分になる。 桐が薄く口角を上げて馬車を移動し始めるのが見え、慌てて周りを見回した。 禁軍将軍や兵の他に柳大臣の姿が見え、こんな遅くまで残っていたのは方淵が絡んでいるためかと息を飲み、姜の刑が確定した気分になる。 

「陛下、柳大臣が話があるとお待ちで御座います」
「妃を置いたら直ぐに戻る」

桐に礼を伝えることも出来ず、そういえば浩大はどうなったのかと尋ねようとして、陛下もずっと姜の邸に居たのだと思い出した。 いろいろな聞きたいことがあるが、今は妃演技の再開だ。 攫われた妃として、陛下直々に助け出された妃として震えなきゃいけない。 
_____いや、演技は必要ない。
李順さんからの睨ね付けるような視線を感じ、震えは増し息の根まで止まりそうだ。



陛下に抱かれたままの移動は恥ずかしいと伝えるが、妃が戻ったことに安堵する演技だからねと言われ、羞恥に染まる顔を伏せたまま後宮に戻ることになる。 そのまま湯殿に連れられ、やっと降ろして貰えたと思ったら、何故か顎を持ち上げられ陛下の顔が近付いてきた。 
馬車の中で眉間に口付けした時の仄かに恥じらうような表情はどこに消えたのか、そこまで必要ですかと問いたくなるほどの妖艶な笑みと色気を一点に注ぐように見つめて来る。 目を逸らすことも出来ず、夕鈴は蜜を溶かしたような視線を肌に感じて足が震え始めた。

「へぇか、ここまで運んで下さり、ありがとう・・・御座います」
「良く汚れを取り、ゆっくり温まるようにな。 傷の処置が終わる頃に顔を出せたらいいが、叶わぬかも知れぬ。 有能な側近が私を離さないだろう。 困ったものだ」
「へ、陛下はお休みになっておりませんので、御考慮下さるようお伝え下さい。 お仕事よりも陛下のお身体の方が大事で御座いますから・・・・・」
「嬉しいことを言う。 しかし愛しい妃が我が手に戻って来たばかりだが、李順も柳も私を離しはしないだろう。 兎に角、今日はゆっくりと休み身体を労わって欲しい。 君の身体は私のものでもあるのだから」
「わ、私も陛下の許に無事戻れて嬉しいですわ。 とても怖かったです・・・(今も怖いです!)」

湯殿番や侍女がいるため必死にプロ妃演技を続行するが、すいっと近付いた陛下が耳朶を掠めながら苦笑を漏らし、止めを刺すような低い声を落とすから腰が抜けそうになる。

「この香りは君には合わぬな。 全て拭い取り、いつもの香りを身に纏ってくれ」

腰を攫われた夕鈴が真っ赤な顔でどうにか頷くと、脱衣場の椅子に降ろされた。 戦慄く唇で浅い息を繰り返す夕鈴の頬を撫で上げると、妖艶な笑みをひとつ残して陛下は王宮へと向かって行く。 
侍女たちが近寄り、心配げな顔を見せながら汚れた衣装を脱がせてくれるが、既に湯上り気分の夕鈴はされるがままで碌にお礼も言えない。 やっと後宮に戻ったというのに、何故陛下にイヤガラセの洗礼を受けるのか理解が出来ないと茹る頭で考えた。








→ 次へ

スポンサーサイト

テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 23:41:16 | トラックバック(0) | コメント(6)
コメント
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2014-01-22 水 10:31:11 | | [編集]
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2014-01-22 水 12:26:35 | | [編集]
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2014-01-22 水 20:09:38 | | [編集]
Re: タイトルなし
ますたぬ様、コメントをありがとう御座います。ああ、桐はワンシーンでしたね。すいません。まあ、隠密なのでそこはご勘弁を(笑)浩大は次に出します。頑張りましたからね、うんうん。大好きなので、つい苛めちゃう。李順さんもやっと出せたし、方淵もまとめなきゃ。
2014-01-22 水 20:12:10 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
ビスカス様、コメントをありがとう御座います。膝小僧擦り剥き、お大事にして下さい。大人になるとマジに痛みに弱くなりますよね。その癖、ぶつける、転ぶが多くなる。危機回避出来ることも多いけど、ぶつけたら暫くは青痣が消えない。そこは悲しいっす。夕鈴も沁みると思いますが、きっと逆上せている間に湯番さんがさっと洗ってくれるかも。あ、それも陛下は計算? まあ、きっと違うだろうけどー。方淵の件は、うん、ズバリそのものです。その予定でしたー!ビスカス様、ビンゴ!
2014-01-22 水 20:33:37 | URL | あお [編集]
Re: 明日
ぶんた様、コメントをありがとう御座います。李順と桐の薄ら寒い笑みは夕鈴でなくても怖いでしょうね。特にバイト上司からの「勝手に攫われやがって。囮になるにも経費を考えて攫われやがれ」みたいな視線を浴び、更に妃衣装が・・・。なんて可哀想なのでしょうか。(落涙)姜の娘の気持ちは夕鈴に届いていると思います。ただ、それが親である姜に届くといいなと思います。こちらは24まで待てですが、ちゃんと待ちますよー。今からニヨニヨです。
2014-01-22 水 20:42:57 | URL | あお [編集]
コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。