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錆びた逃避思考  17
娘の誕生日。うちは義理母、私、娘と月は違えど日は同じ日にオンギャーと生まれているので覚えやすい。私の父母と旦那も同じ日。息子はそれをひっくり返した日。だけど義理父だけが覚えられない。6月なので父の日と合わせて祝っちゃってます(ごめん)


では、どうぞ












部屋に戻り侍医の治療が済む頃には真夜中近くなり、寝台に横なると身体は疲労に痛みを訴え始めた。 
馬車の中で身体を強張らせ続けたのも原因か、太腿や二の腕が異様に疲れているようで、明日には筋肉痛になるかもと思えるほどだ。 思い出すのは馬車の中での戸惑うような陛下の顔と、湯殿での妖艶な低い声。 小犬と狼を上手く使い分ける陛下だが、バイトを翻弄するのはストレス解消か? それとも寝不足なのに柳大臣に呼ばれているから苛立ちをぶつけたのか? どちらにしてもイヤガラセだ。
もしかして攫われたこと自体に文句があるのだろうか。 
顔を横に倒すと目の端に自分の髪が見えた。 しっかり拭き取って貰ったが、まだしっとりと濡れている髪を鼻に寄せ、匂いを嗅いでみる。

「・・・・匂い、取れたよね?」
「お妃、怪我の治療は終わったか。 終わったらさっさと寝るよう陛下より伝えられている」

窓から姿を見せたのは桐だ。 彼も疲れているだろうに、馬車を繰り長い間寝ていないはず。 
思わず窓に駆け寄ろうとして、疲労を訴える足が戦慄き床に膝がつきそうになった。 慌てて近くの卓に縋り、ふら付きながら窓に近寄る。 長く縛られていたせいだとは思うが、邸に来て妃捜索や姜捕縛をしていた皆より動いていないのに申し訳ない。 薄く開いた窓から桐が呆れたような声で 「新たに傷を作るなよ」 と呟きを落とすのを聞き、大丈夫だと笑みを見せた。

「さっさと寝ておかないと熱が出るぞ。 それ以上陛下に心配をさせるな」
「う、うん。 桐さんも休んでね。 だけど浩大は? 浩大の怪我の具合はどうなの?」

ずっと気になっていたことなのに、箱のような部屋に閉じ込められてから陛下のことだけしか考えていなかった。 馬車に乗ってからはその陛下に翻弄され妙な雰囲気の中眠ることも出来ずに震え続け、湯殿では唐突に妖艶な狼陛下の演技が始まって、今の今まですっかり頭から抜け落ちていた自分が情けない。

「浩大は工望にいる。 様態が安定したら戻る予定だ。 生きているから安心しろ」
「・・・・直ぐには戻れないほどなんだね。 桐さんは足、大丈夫? 天井から落ちた時にグギッて」
「落ちたのでない、降りたんだ。 問題はないから早く寝ろ。 ・・・・眠れないなら陛下を呼ぶか?」
「ねっ、寝ます! 忙しい陛下を呼んじゃダメ! 逆に眠れなくなるし!」

慌てて寝台に移動すると、微かな嗤いと共に桐の姿は見えなくなった。 
丸一日経過しただけなんだと、横になった途端に実感する。 急に胸が痛くなり、姜の娘さんが見せてくれた過去が甦る。 広い邸、広い庭。 そこで楽しげに繰り返されていた柔らかく愛おしい日常が壊れた。
誰にでも起こりうる肉親との別離。 
一度に妻と娘を亡くされた姜は、想い出に思いを馳せずに夢想の中の在るべき未来に思いを馳せた。 妄執という名の歪んだ未来を夢見て、愛しい娘の亡骸を陛下に差し出そうと試みた。 それを最後に止めたのは姜の娘だ。 姜の娘が最後に私を助けてくれた。 あの場所から出る方法を教えてくれた。 そう言えば、あの箱は何だったのだろう。 カラクリでしか開かない部屋に私を連れ行ったのは誰だったのだろう。 
考えていると甘い香りが頭の中に広がり、夕鈴は眉を顰めて掛け布を被った。


翌日の朝、侍医より、今日一日は後宮で過ごすよう言われた。 
一晩経過すると腰や背中にもじわりと痛みが滲み出て、更に手足の縄で擦った箇所が酷く痛んだ。
こうなると、馬車から突き飛ばした方淵の身体が気になる。 自主的に飛び降りた自分がこれだけ痛むのだ。 突き飛ばされた方淵はどれだけ痛みを覚えているだろうか。 誰かに尋ね訊くことも出来ず、心配げに妃を気遣う侍女に大丈夫だと笑みを浮かべるしか出来ない。
方淵や李順の険しい表情が時折脳裏に浮かび、襲う寒気に身を竦まる夕鈴は背筋に流れる厭な汗を感じつつ、妃らしい笑みを貼り付け続けた。 李順に呼び出されるのはいつになるだろうかと怯えながら。


しかし李順に呼び出されたのは、攫われてから数日経過してからとなった。 
身体の痛みで熱が出たのかと思っていたが、実は風邪をひいた夕鈴が数日寝込んだためと、山と積まれた政務に陛下が捕らわれたからだ。 宴の後に話し合う事項も延期されたと聞き、そのスケジュール調整に李順が翻弄されたと聞けば、絶対に機嫌は悪いはずだと廊下を歩く足が震えてしまう。 
夕鈴が部屋に入ると、大量の書簡を前に陛下が虚ろな顔で出迎え、李順が眼鏡を白く輝かせた。

「体調は戻ったようですね、夕鈴殿」
「はい、御心配をお掛け致しました。 ・・・・今日は攫われた時の報告、ですか?」
「それは夕鈴殿が寝込んでいる間に柳方淵殿より伺いました。 方淵殿を馬車から突き落とした経緯も聞いております。 夕鈴殿が脱出のために練り絹の腰紐で窓ガラスを掴んだことも、方淵殿に傷を負わせぬようにと宴に着用していた高価な妃衣装を頭に巻き付けたことも」
「・・・っ! もっ、申し訳御座いません!」

静かな声色が逆に怖くて、蒼白になった夕鈴は思わず床に平伏せそうになった。 
すると間髪入れずに李順から鋭い声が飛ぶ。

「それもレンタル衣装です!」
「は、はいぃっ!」
「・・・李順、そこはいいだろう。 方淵が妃衣装を贈って寄越したのだろう?」
「え? ほ、方淵殿が・・・・衣装を贈って?」

涙目の顔を上げると苦笑する陛下の顔と、苦み虫を噛んだような李順さんの顔が見え、腰から力が抜けそうになる。 あとで方淵に会ったら一生懸命にお礼を言おう。 妃衣装を弁償してくれてありがとうと一生懸命お礼を言おう。 そして突き飛ばしてごめんなさいと言おう。 怪我はなかったか、あの後どうなったか、方淵の顔を見て話をしたい。 
ぐっと唇を噛み締めると、滲んだ涙が零れそうになり袖で拭こうとして慌ててしまう。 これもレンタル衣装だ、汚す訳にはいかないと。 差し出された手巾を手に顔を上げると、陛下が頭を撫でてながら夕鈴を長椅子に誘う。

「衣装のことはいい。 馬車から飛び降りた夕鈴は、その後どうして姜の配下の者に攫われたのかを聞きたい。 姜の取り調べに必要なことだ。 工望の本邸内でのことは浩大から詳細を聞いているが、そこから移動した夕鈴がどのように扱われたのかも知りたい」
「・・・・内容によっては姜さんの刑が重くなる可能性も?」
「夕鈴殿は訊かれたことだけを答えるように」
「・・・妃誘拐を目論んだ時点で終わりは見えているが、書き留めねばならない」

膝に視線を落とし、震えそうな手を握り締める。 今度も同じことが起こらないよう、間違っても妃を誘拐されれぬよう、殺されぬよう警備体制の見直しもあるという。 今回は複数人数が爆煙を用いて誘拐を企てたが、その場で刺されていた可能性もある。 それを考えると血の気が引いて行くのを感じ、夕鈴は口を開いた。
林の中を隠れながら歩いていたが見つかったこと。 縄で縛り上げられ馬に括り付けられたこと。
その後助けに来た浩大が捕まり、ひどい拷問を受けているのを見せられたこと。
場所を移動した先で白い布に囲まれた部屋に閉じ込められ、姜の語る話を聞かされたこと。
何度か何かを嗅がされたようで、移動途中の記憶がないことも話した。 
だけど馬車の中で話した姜の娘さんが蝶になって現れたことは口に出せない。 現実主義の李順さんに馬鹿らしいと一刀両断されるだろうと思ったし、今更言っても詮無きことだと思ったからだ。

あれは、娘さんの想いは姜さんに罪を認めて欲しい訳じゃない。
あんな幸せも自分には有ったのだと、ただ見せてくれただけだ。
隣に座る陛下が握り締めたままの手巾を私の手から外し、堪え切れずに零れた涙を拭ってくれる。 話し終えたから部屋を出なきゃならないと解かっていても、肩から手に力が入り、ただ膝の上で強く強く握り締めていた。 優しく押さえ込む手巾の動きが嬉しくて、姜の娘の想いが哀れで、涙が止まらない。

「李順、姜の取り調べをしている者に妃の報告を伝え、刑房監理官へ伝えるよう指示しろ」
「承知致しました。 ああ、卓上の書簡は宰相より急ぎと伝えられておりますので、終わるまで部屋から出ませんよう、くれぐれも御願い致しますよ。 夕鈴殿は侍女が驚かない程度になりましたら、部屋にお戻り下さい」
「は、はひ、李順さん」

項垂れながら返事をすると、大仰な嘆息が聞こえて来る。 鼻を啜りながら顔を上げると李順さんの姿は既になく、陛下が押さえる手巾を受け取ると、頭を抱え込まれた。

「もう泣くなと何度言えばわかるかな。 また目が腫れるぞ」
「そうですね、侍女さんも心配しますよね。 だけど、もう少しだけ・・・・」

大きく息を吐きながら椅子に背を預け、胸を押し潰すような想いに目を閉じる。 これ以上はバイトが立ち入るべきではない。 もう姜のしたことに係わるべきではないし、係われない。 ただ彼がしてしまったのは妃誘拐よりも罪深いことなのだと、本人が解かればいいだけだ。 彼の前にも蝶が現れ、懐かしいあの時を思い出してくれたらいいのに。

抱え込んだ頭を静かに撫でる陛下の手の優しさを、いつか他の人が知る。 
だけどそれは『いつか』だ。 今は自分が唯一の妃で、傍に居ることを、見つめることを、触れることを許されている。 バイト妃をしていたことを、数年後には懐かしむことになるだろう。 その時、自分は何処で何をしているのか判らないが、絶対に微笑んで懐かしがってやると夕鈴は思った。

「・・・・過去は糧にしなきゃ駄目ですよね。 あんなこともあったなって、時々振り返るくらいがいいですよね。 悲しんでも憂いても戻れないのだから。 糧にしてもっと良くしようって思って・・・・そうか、姜さんは生きるつもりもなかったのか」

娘の未来を失い、自分の夢も儚く消えたから壊れたんだ。 壊れた先に見た夢に未来などない。
壊れて、もっと壊れて、未来を紡ぐ歯車が錆びて回らなくなっていたら妃誘拐なんて考えなかった。
現と夢の狭間に取り残されたから、どちらかに傾こうと誘拐を考えたのか。 

「娘さんと奥さんの幸せな時間を知っているのは姜さんだけなのに・・・・・」

目を閉じたまま呟くと、肩を引かれて抱き締められた。 この抱擁も今だけだと思うと素直に身体を預けることが出来る。 もちろん恥ずかしい気持ちは消えないけど、嬉しいと思う気持ちも本当だ。

「過去を糧にするには姜は弱過ぎたのだろうな。 ・・・・後押しをしたのは女の執念か」

陛下の声は掠れて聞こえ、後半は聞き取り難かった。 だけど終わったことだと夕鈴は黙って口を閉ざす。 もう自分が出来ることはない。 あるとしたら精一杯、バイト妃をして借金を返済することだ。

「ほ、方淵殿が妃衣装を弁償してくれたって、本当ですか?」
「妃より先に馬車から降りる羽目になったことを、奴は口惜しそうに語っていた。 助けるべき相手に逃がされたと眉間に皺を寄せていたぞ。 ここだけの話にすると約束して、馬車の中でのことを話してくれた。 方淵の前で夕鈴が妃衣装を脱ぎ、奴の頭にその温もりを与えたこともな」
「・・・・何か、言い方が激しく間違っているように聞こえるのですが」

声色も柔らかさが抜け落ちたように聞こえ、身体を離そうとして気付く。 がっちりと固定されていて、逃げられないと。 そろりと視線を上に向けると細めた目には狼陛下の紅い虹彩が見え、夕鈴は妃らしい笑みを浮かべた。 衣装はいいって陛下は言ったはずなのに、今はどう見ても怒っているようにしか見えない。 それに方淵の前で衣装を脱いだ覚えはない。 背を向ける方淵の頭にいきなり被せたのだ、見ている訳がない。

「衣装を方淵殿の頭に巻き付けたのは間違い御座いませんが、背後から巻き付けて突き落としましたので、脱ぐところなど見られておりませんわ。 それは何方様の想像でしょうか」
「想像か。 それならばいい」
「ええ、ただの想像で御座いましょう。 方淵殿は見たと仰ってませんでしょう?」

袖を口に宛がい笑いを零すと、狼陛下からも笑いが返って来る。 
何を言わせたいのか判らないが、いきなりストレス解消に妃を翻弄しようというのか? 大事な臣下に傷を負わせないよう気遣った私の配慮が、大きく間違っていたのはもう承知している。 黙って待っていたら良かったと言われたことも納得したし、反省もした。
それなのに今更突くのは何故なのか。 イヤガラセだとしたら反抗してやる!






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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 02:10:17 | トラックバック(0) | コメント(11)
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2014-01-24 金 03:35:06 | | [編集]
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2014-01-24 金 08:06:36 | | [編集]
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2014-01-24 金 09:54:51 | | [編集]
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2014-01-24 金 19:51:21 | | [編集]
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2014-01-24 金 20:06:58 | | [編集]
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2014-01-24 金 20:10:10 | | [編集]
Re: タイトルなし
らぁ様、コメントをありがとう御座います。兎キックを受けるか、陛下。それとも包み込んで食するか。らぁ様のコメントを読み、昔の(昭和)小説を出して読み耽り、休みを過ごしちゃいました。星新一やなだいなだを一気読み。腰と肩が痛いです。・・・・賢者がんばります(やばい、滞ってました)
2014-01-24 金 20:49:30 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
ぽんちゃん様、コメントをありがとう御座います。陛下の「カマ」解りました? やっと焼きもちを妬かせられると安堵してます。ああ、方淵の顔に夕鈴の胸がダイブした件は・・・・言えないですよね。陛下大好き方淵ですもの。陛下唯一の妃の胸と接触したなんて、言えないですよね!!!! 殺されちゃうか、自決しちゃう! ああ、だけど書きたい!うぬぬ、どうしましょうか!?
2014-01-24 金 20:53:58 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
あああ、ますたぬ様、コメントをありがとう御座います。だけど桐は、もう・・・・。え、出すんですか?オロオロ。んん、が、頑張ります。ちょろりでも宜しいでしょうか。そして方淵もちゃんと出します。浩大も書きたいので、ちょろりになるでしょう。
2014-01-24 金 20:55:42 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
ビスカス様、コメントをありがとう御座います。うちは誕生日おめでとーで食事を豪勢にして終わりです。あとは友達から貰ったり、私の実家から祝い金が送られて来るので。小学生まではプレゼントを買ってましたが、中学からはないですね。 方淵のプレゼント、うん、夕鈴が見れたらいいね。李順さんの手に渡ったが最後、氾家からの贈り物のように、二度と夕鈴の手には・・・・・。(落涙)浩大は元気かなー、出さなきゃ~!
2014-01-24 金 21:28:44 | URL | あお [編集]
Re: 昔はよかった…?
ぶんた様、コメントをありがとう御座います。娘の誕生祝も受け取りました。ありがとう御座います。ケーキ食べて満足の娘です。確かに今日は温かったですね。花粉情報もTVで頻繁に伝えられるようになり、少ないという情報に縋っています。(涙) 李順のバイトに対する態度は一貫して変わらないようですが、周囲がキナ臭い感じになっている本誌を読み、によによしちゃいます。今から来月号が楽しみで、楽しみで!! フリーズしている場合じゃないと激しく同感で御座います。
2014-01-24 金 21:39:00 | URL | あお [編集]
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