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錆びた逃避思考  18
春近い日差しに、ベランダの犬が大欠伸。その横で本をむさぼり読みながら、私も欠伸。犬の欠伸も移るんだーと発見して友人に電話をすると、鼻で笑われました。 ・・・・・おろ?


では、どうぞ











「方淵殿が弁償して下さった衣装も素晴らしいものなのでしょうね。 まあ、李順殿がそのまま徴収され、見ることも叶わないでしょうが、しっかりと礼は伝えておきますわ」
「反物らしいが。 ・・・・そんなに方淵が気になるか?」
「もちろん気になりますわ。 柳方淵に仕出かしたことは・・・・充分反省が必要だと自覚しております。 御礼と御詫びは真っ当な人間として基本ですもの。 直接お会いして伝えたたいと思っております」

にっこりと笑みを浮かべてはっきり答えると、陛下の口角がきつく結ばれる。

「思わず風邪をひいてしまいましたが、陛下には移っておりませんよね。 手洗い嗽もしっかり行って下さい。 それと乾燥もいけませんので、濡れたタオルや水差しを近くに置いて下さいませ」
「風邪などひかない。 それより方淵に直接会うって、どうして」
「陛下、風邪気味の様子はないのですか? 熱など出ておりませんか?」
「・・・・ああ、私は大丈夫だ。 妃の気遣い嬉しく思う。 それより夕鈴」
「もう一つ、気遣いをさせて頂きますわ、陛下」

引き寄せる肩に置かれた陛下の手を見下ろし、夕鈴は指先でそろりと撫でた。 それには流石に陛下も驚いたようで、ピクリと動く手の甲に満足した夕鈴は視線を上に向ける。

「卓の政務が山ですわ。 先ほど李順さんが急ぎの政務と仰っておりましたし、陛下には頑張って戴きとう御座います。 そのために今から夕餉作りのため、厨房に向かいたいと思っております」
「・・・・・え?」
「陛下にも助け出された礼をしたいと、既に厨房を借り切っておりますの。 でも、このまま陛下に囚われていては向かうことも出来ませんわ。 ・・・・質素な品しか作れませんが、召し上がって頂けますか?」

途端に肩から陛下の手が離れ、大きく見開いた瞳と、ぱああっと花を咲かせる笑顔が私を見下ろす。 
小犬の耳と尻尾が見え、その尻尾が大きくバタバタと揺れ始めた。 視線を卓に移して溜め息を吐くと、陛下が素晴らしい速度で移動し、筆を持つ様を見て私はゆっくりと立ち上がり遣り切った感にほくそ笑んだ。

「陛下、頑張って下さいませ」
「うん、僕頑張るよ。 ここで待っているからね!」

ああ! 事前に李順さんに交渉しておいて良かった。 
何度も繰り返される陛下からの翻弄対策を思い付いた私は偉い!と、自分を褒め称えながら執務室を出る。 侍女さんに後宮に戻っているよう伝え、厨房に向かう途中で回廊に桐が姿を見せた。 ひと気がないとはいえ王宮にいるからだろう、侍官姿の桐は恭しく拱手一礼すると近付いて来る。

「お妃、厨房で何か作るなら少し余分に作ってくれるか? 腹が減ったと煩くて敵わない」
「・・・・それって浩大が言っているの? 工望から戻って来てるってこと?」
「お妃、声が大きい。 兎に角直ぐに出来る物でいいから急いでくれないか」
「う、うんっ!!」

桐の言葉に夕鈴は急ぎ厨房に向かった。 貸切の厨房で肉や海鮮たっぷりの豪華な湯を作り、大きな肉饅頭を蒸し、野菜炒めなどを作り終え、急いで後宮立ち入り禁止に向かう。 
隠密姿の浩大が卓に腰掛けて片手を上げるのを目にした瞬間、目の前が見えなくなるくらいに涙が溢れて、桐が呆れたように手にしていた盆や鍋を取り上げる。 入り口でぼろぼろと零れ始めた涙で前が見えず、浩大の笑い声のする方にヨタヨタと足を進めると、頭を柔らかく叩くように撫でられて夕鈴は声を張り上げた。

「こっ、浩大ぃーっ!」
「あーあ、そんなに泣くなよ、お妃ちゃん。 悪かったな、最後まで付き合えなくて」
「け・・・怪我、いっぱい・・・・血が出てて・・・・ごめ、ごめんなさい。 私が馬車から勝手に飛び降りたから捕まって、こ・・・・浩大まで、こ、こう・・・こ・・・ごめん、なさ」

いつも通りの浩大の声に、態度に、夕鈴はしゃっくり上げて涙が溢れ、鼻を啜ると噎せ込んだ。 桐が押し付けるように手巾を顔に当ててくれるが、一枚じゃ足りないと言うと髪を引っ張られる。 どうしても止まらない涙に老師が手巾を用意してくると部屋を出ると、浩大がもう一度頭を叩くように撫でてくれた。 その柔らかな痛みが嬉しいと必死に涙を拭っていると浩大の手首に白い布が巻かれているのが見え、途端眉を潜める。 視線に気づいた浩大が事も無げに笑いながら随分良くなったと笑ってくれ、ただ胸の骨にひびが入っているから余り笑わせないでくれと顔を歪めるから何度も頷いた。

「お妃ちゃんが馬車から飛び降りたのは、奴らから逃げようとしただけだろう? 面倒事引き寄せ体質なのはわかってるから大丈夫だよ。 それより無事で良かったな、お妃ちゃん」
「・・・・そ、そんな体質じゃないけど、ほ、本当にごめんなさ・・・」
「謝るなよ、お妃ちゃん。 な、もういいからさ」
「う、うん。 だけど、本当に・・・・ごめ、ごめんなさい」
「お腹空いてるから早速食べていい? 悪いね、陛下より先に手を付けちゃうけど」
「・・・・うえ? ・・・・あ」

頭の中いっぱいいっぱいだった。 夢中で作った。 李順さんが用意してくれた材料全部つぎ込んだ。
そして出来た物を全部・・・・持って来た。 それを浩大と話している間に桐が並べてしまった。 
桐が蒸籠に手を伸ばして 「冷めたら見回りの途中で食べる」 と、三つも持って姿を消す。 大きな肉饅頭は残り一つ。 にっこり笑う浩大がその残りに手を伸ばし、美味しそうに齧り付いたのを目にして、夕鈴は悲鳴を上げそうになった。

「こ、浩大! あ、あのね」
「口の中も切れててさ、ずっと粥ばかりだったから、温かい具だくさんの湯とおかずが超嬉しいっ!」
「あ、あう・・・・。 美味しい? いっぱい・・・・食べてくれたら嬉しいな」
「骨が折れてるから、まだ酒は駄目なんだよね~。 しっかり治ったら酒の肴を作ってくれる?」
「う、うん、もちろん作るよ。 湯は多すぎたかな? 残るよね・・・・」
「いやいや、オレ全部食えるよ。 なあ、じぃちゃんも一緒に食べるよな」
「おお、毒見をしてやるぞ」

あっという間に肉饅頭を平らげた浩大が嬉しそうな顔で湯を食べ始めた。 箸は舞うように野菜炒めや焼き餃子に伸び、気持ちがいいくらいに皿の上がきれいに片付いて行く様を目に、夕鈴は厨房に残った食材を思い浮かべる。 少しの野菜と粉・・・・しかないと眩暈を覚え、さっきとは違った涙を浮かべた。

「お妃ちゃん、旨いよ! ・・・・ああ、そんなに泣くなよ。 マジに大丈夫だからさ」
「うん、元気になって良かった。 ・・・・浩大、まだ無理しないでね。 お大事にね」

陛下用に用意された高価な具だくさんの湯を平らげていく浩大を眺めた後、夕鈴は一縷の望みを拾うために厨房に戻ることにした。 しかし、しんと静まり返った厨房には僅かばかりの野菜と粉が調理場に残っているだけだ。 夕鈴はそれらを丁寧に集め、野菜『くず』入りの素湯を作り、溶き卵と片栗粉を入れた。

「誤魔化されてくれる・・・・かな。 卵を入れたから色味はどうにかなったけど、すごく・・・・質素だ! 少し肉を残しておけば良かった。 あああ、乾し貝柱も乾し鮑も貝も魚も全部使っちゃった!」

残った粉で皮を作り雲呑として入れたが、これで陛下が喜ぶのか判らない。 
それでも仕方がないと出来上がった品を持ち、そろりと執務室に足を運ぶと、思い切り幻の尻尾を振る陛下が顔を上げ目を輝かせて卓から離れるから夕鈴の心臓は痛くなる。
長椅子に腰掛けると持って来た鍋の中を覗き込み、椀に盛うのをじっと見つめているから手が震えそうになり、仕事の進み具合を尋ねると心配いらないよと笑みを向けられた。 もう逃げ場がないと判り、夕鈴は質素な中身しか入っていない椀を差し出すしかない。

「どうぞ・・・召し上がって下さいませ」
「わあ、アツアツだね! 玉子がきれい、白いのは何? 野菜いっぱいで美味しいよ」
「ありがとう・・・御座います。 熱いのでゆっくり召し上がって下さい・・・・」
「ずいぶん時間が掛かったね。 出汁を取っていたの?」
「・・・・良心の呵責に耐えられないので、黙って召し上がって下さい」
「 ? うん」
「今度・・・・下町に行ったら美味しいお土産買って来ますね」
「ええー、行く時は一緒がいいなぁ。 そして夕鈴の家で御飯を食べたい」
「それでも結構です。 ・・・・ああ、胸が痛い」
 
出来ることなら李順さんに明日の厨房貸切も頼みたいが、連日では睨まれるだろう。 浩大が食べたことは後悔してないけど、その代わり陛下の分が質素になってしまったことが申し訳ない。

「陛下は明日も忙しいですか? 私、少しだけ下町に行っては駄目ですか?」
「どうして、夕鈴?」
「こ、浩大が戻って来てますよね。 そ、それで何か買って来てあげたいなと。 か、菓子とか」
「それはいいよ。 夕鈴には明日から政務室に来て貰いたいんだ。 妃が攫われたことで動き出そうとする輩を牽制するために仲がいいところを見せ付けたいんだ。 ね?」
「・・・・・はい」

バイトを優先させなくてはならない立場の自分だ。 妃演技を望まれたなら、プロとして仕事をしなくてはならない。 綺麗に食べ終えた器を片付けながら視線を彷徨わせていると、陛下が手を引いた。 心臓を跳ねさせながら顔を上げると困惑の表情を浮かべた陛下が顔を窺っていて、どうしようかと思う。

「夕鈴、まだ身体が辛いか? 寒気がしているのだろうか、震えている」
「だ、大丈夫です。 明日は政務室ですね、問題ありません!」

李順さんにお願いして近い内にもう一度厨房を借りるか、下町に行かせて貰おうと考えていると、その李順が執務室に戻って来て、長函にぎっしり詰まった書簡を持ち夕鈴を見つめて嘆息を零す。 慌てて立ち上がろうとすると掴まれたままの手が引かれ、いつものように陛下の膝上に囚われた。 今度は眇めた視線を陛下に向けた李順が再び嘆息を零し、長函から卓へと書簡を大量に移動させながら辛辣な言葉を言い放つ。

「陛下、卓上の書類は大方御済のようですが、次の書簡が届けられております」
「急ぎの分は横に分けておくように。 食休みが済んだら続きを行う」
「夕鈴殿は薬湯をお飲みになる時間では? 後宮に戻り、風邪がぶり返さぬよう休んで下さい」
「は、はい、李順さん、直ぐに!」
「夕鈴は薬湯をまだ飲んでいるの? それなら僕が送っていくよ。 寒くなって来たから、ね」

目を剥いた李順に器を片付けるよう伝え、夕鈴を抱き上げた陛下は風の如く執務室を出て行く。 怨嗟の叫び声が聞こえたが、それもあっという間に背後に消えていき、夕鈴は陛下の腕の中で慌てた。

「へ、陛下っ! お仕事して下さい!」
「顔色が悪い奥さんの方が優先。 李順の言うように風邪がぶり返したら大変だ。 明日の政務室も無理しなくていいよ。 夕鈴にご飯作って貰ったから明日も頑張れるよ」
「いえっ! あ、あんなの・・・・あんな、あんなものを・・・・」

優しい小犬の声に居た堪れくなる。 抱き上げた腕が風除けをするように背から腰を抱え込み、柔らかな瞳が自分を見つめて来る。 そんな陛下に自分は野菜『くず』素湯を差し出したんだと思い出し、夕鈴は泣きそうになってしまう。 その表情に驚いたのは陛下の方。 腕に抱えた夕鈴が言葉を濁したと思ったら鼻を啜り、えぐえぐと泣き声を上げるから慌てて後宮に急ぎ、侍女を下がらせると長椅子に夕鈴を降ろして頬を包み込んで顔を覗き込んだ。

「ど、どうしたの、夕鈴! あんなのって僕嬉しかったよ? 熱々で美味しかったし」
「もう一度、もう一度作らせて下さい! あ、あんなのは・・・・わたしぃ・・・・」

陛下の袖を掴んでしゃっくり上げると、背と頭を撫でながらオロオロとした声が頭上から落ちて来る。 浩大が元気そうだったのはいい。 いっぱい食べてくれたのも嬉しい。 だけど陛下のために厨房を借りたはずの自分が差し出しのは、残り物でどうにかしようと野菜くずで捻り出した品だ。 下町では当たり前の一品だけど、国王陛下に差し出すような物じゃない。 それが申し訳なくて、夕鈴はしゃっくり上げる。

「もう一度リベンジさせて下さい! 李順さんに厨房を借りられるよう、もう一度御願いさせて下さい。 今度はいっぱい作りますから。 熱々の豪華なものを作らせて下さい! へ、陛下が喜ぶものを」
「夕鈴、どうしたの? 僕は夕鈴が作ってくれるなら何でも美味しいよ」

首を振って思い切り鼻を啜った夕鈴はあれでは駄目だと顔を上げる。







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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 01:59:18 | トラックバック(0) | コメント(8)
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2014-01-26 日 11:09:32 | | [編集]
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2014-01-26 日 13:34:32 | | [編集]
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2014-01-26 日 14:37:56 | | [編集]
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2014-01-26 日 22:30:34 | | [編集]
Re: タイトルなし
ますたぬ様、コメントをありがとう御座います。はい、今回は可哀そうな陛下です。でも夕鈴大好きなので、お仕置きは・・・・・ほほほほ。浩大は逃げた方がいいでしょうね。何か遠くに仕事があるといいですが、まずは怪我を治して貰いましょう。
2014-01-27 月 19:43:15 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
ビスカス様、コメントをありがとう御座います。へこむ夕鈴と慰める陛下を可愛く書きましたが、そのままでは終わらないのが可哀想(って、誰が書いているんだ?)浩大はようやく書けたと自分がほっとしてます。夕鈴看病は・・・・うん、ごはん食べちゃったから無理。以前書いた風邪ひいた時のようにはいきません。というか、陛下がさせない? あと少し、お付き合い下さいませ。
2014-01-27 月 19:45:44 | URL | あお [編集]
Re: こんにちは!
彩華様、コメントをありがとう御座います。浩大にあげちゃったの、素直な夕鈴が黙っていられないでしょう。浩大の先が見えるようです。チーン! あ、本誌見ましたー! もう陛下にちゃんと守って貰えよと、既に来月号が待ち遠しいです。氾も柳も怖い、怖い。それが何とも萌えで御座います。己の欲望に忠実な中年。ぷぷ!
2014-01-27 月 19:49:13 | URL | あお [編集]
Re: オリンピック間近
ぶんた様、コメントをありがとう御座います。外、雪ですかー。北海道にいた頃、地元ははさらさら雪だったのでカマクラが夢でした。雪だるまを作るにも苦労したモノです。あああ、陛下に言って貰いたいっすね、夕鈴からの攻め台詞! どうなるか、想像するだけで・・・。いや、きっと小犬になってへたれっぷりを見せてくれると思います。
2014-01-27 月 20:36:36 | URL | あお [編集]
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