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錆びた逃避思考  20
ラストー! 最初の構想から大きく曲がりまして、方淵主体だったのに話がまるで違ってしまいました。わははと笑って誤魔化すしかない。方淵、ごめんね。次はリクが来ている「パラレル」にしようか、「バイト」にしようか思案中です。まずは短編が書きたいな。もちろん、翻弄される夕鈴で。


では、どうぞ











「まあ、陛下。 ・・・何かお探しでしょうか」
「愛しい我が妃を探しに足を運んだところだ。 しかし方淵に謝罪をしていたから邪魔はいけないと隣室の資料室で待っていた。 無事に衣装の礼と謝罪は済んだようだな」

押さえていた手が取り上げられ、くるりと回されると正面に狼の妖艶な笑みが迫って来た。
ここは書庫で官吏がいつ訪れるか知れない場所。 妃演技は必須だ。 仕事場でバイトが仕事をするのは問題ないが、陛下はこんなところで妃といちゃいちゃしていていいのかと疑問は浮かぶ。

「お陰様で、お礼も謝罪も済みました。 書架の整理を終えたら後宮に下がりますわ」
「愛しい妃は我が身を焦らすようなことを口にする。 書庫まで追い掛け、他の男に心を残したままの妃の視線を自分に向ける時間をくれないのだろうか。 君はもっと夫を慮るべきではないか?」
「・・・・・へ?」

掴んだ手に頬を摺り寄せる狼の色気に顔を染めながら夕鈴は必死に考えた。 
今、陛下から自分は何を言われたのかを。
書庫まで追い掛けって、それは方淵がなかなか政務室に現れなかったからでしょう?
まあ、結果政務室では言いにくい謝罪だったから良かったけど、追い掛けたなど誤解も甚だしい。
それに方淵に心を残したままだって? それは何か妙な方向に激しく誤解している。
馬車の中で私が仕出かした『何か』が気になるのであって、方淵自身は気にならない。

「あの・・・そう言えば、ここだけの話にすると約束して、馬車でのことを方淵殿が話してくれたと言ってましたよね? 衣装を巻かれて突き飛ばされただけじゃなく、その前に窓ガラスを割ったことや、それを腰紐で掴んだことや、手足の拘束を取るために苦労した話をしたのでしょうが、他には何か言ってませんでしたか?」
「夕鈴が今言ったのは方淵から聞いた。 座席を外された揺れる馬車の中で背中に括られた紐を外すなど、苦労したことだろう。 夕鈴は馬車にも酔ったそうだな」

言われて思い出すのは酷い馬車の揺れ。 そして馬車の揺れに気持ちが悪くなり、縛られて痛む身体でどうにか移動し、背後の扉に寄り掛かって出来た隙間でようやく息が出来たのを思い出す。 その前に何があったかなど、朦朧としていて全く覚えがない。 気持ち悪さに意識がはっきりして、そこで方淵がいると知ったのだ。

「私が覚えているのはそれだけです。 だけど方淵があんなに真っ赤になるほど怒るなんて」

嗅がされていたせいでの行動と言っていた。 思い出したとしても口を噤んだ方がいいと言っていた。
いったい、自分はどんな暴れ方をして、どんな迷惑を掛けたのだろう。 両手が縛られていたのは覚えている。 薬を嗅がせて昏倒させた上に、後ろ手に縛り上げるなんて酷過ぎる。 方淵は確か足首も縛られていたが、私は手首だけだったなと思い出し、では足で方淵を蹴っ飛ばしたのだろうかと蒼褪めた。

「・・・・蹴ったのかな。 きっと一発、二発・・・・もっと蹴ったのかも知れない」
「蹴ったの?」
「あ、記憶はないのですが馬車の中で私は手首だけ縛られていたので、足は自由だった・・・はず」
「侍医が身体中に青痣があったと言っていたが、打撲痕だろうね。 馬車の中で立とうとして転んだ可能性もあるだろう。 ・・・・・覚えがない夕鈴に、言葉を濁す方淵か。 奴は顔を赤らめていたな」
「ええ、かなり怒っていましたよね。 怖っ!」

夕鈴から零れる言葉は僕の考えの真逆だが、彼女がそう思っているなら、そういうことにしてもいい。
気になるのは方淵が残した言葉の意味。 暴れたことを覚えているのかと問うた割りには歯切れが悪く、最後は顔を赤らめながら自分の口からは言えないと、思い出したとしても他には言うなと言っていた。

顔を赤らめてしまうような他人には言えないようなことを、二人きりの薄暗い馬車の中で、何かを嗅がされた夕鈴がしたということか。 そして今はその記憶が戻らない。 
不思議そうに首を傾げている兎を問い詰めても、望むような答えなど返って来る訳もなく、方淵に尋ねても私の政務に関係のないことは不必要と切り捨て、喋ろうとはしないだろう。 奴の勤勉さと敬畏が重々判るだけに面倒なことだ。 まあ、言い難いことがあることだけは判った。

「夕鈴、方淵が怒るのはいつものことだろう? それよりもお茶にしない?」
「・・・・それもそうですね。 それよりも陛下、お茶をする余裕はあるのですか?」

眉を寄せて僕を見上げる夕鈴の可愛らしさに頬が緩む。 頷くと逡巡する表情さえ僕をドキドキさせる。
そろりと見上げる瞳が真っ直ぐに僕を捉え、「では侍女さんに用意して貰いましょう」 と嬉しいことを言う唇に注目してしまう。 幾度も掠めたその唇をじっと見つめていると、今度は辛辣な言葉を吐き出した。

「行くなら急ぎましょう。 そして休んだら、今度はしっかり仕事ですよ!」
「はいはい、愛しい我が妃の言う通りにしよう」
「『はい』 は一回です!」
「はい、夕鈴。 ほら、侍女に声が聞こえちゃうよ。 仲良し、仲良し」

・・・・あとは我が妃が作った料理を私よりも先に食べた浩大か。 
残念だが、奴は直ぐに報復することが出来ない。 後宮立ち入り禁止区域で養生しつつ王宮全体を警備している隠密からの情報を逸早く把握している奴のことだ。 私が足を運ぶことも事前に把握し、あの身体でもいち早く逃げることだろう。 おまけに夕鈴が一日一回は様子を見に行っている。 目の前で行われた拷問という悲惨な出来事を容易に忘れることが出来ない夕鈴が、浩大の体調を気遣っているのが判るだけに懲らしめることが、今は出来ない。 ・・・・・奴の、全ての傷が癒えた時が楽しみだ。

もう一人、昨夜妙にいい匂いをさせて動いていた輩がいたと聞く。
他の隠密から湯気を立たせる膨らんだ胸の者がいたと報告が上がっている。 そんなことをするのは、厨房に向かったはずの夕鈴を浩大のいる場所に連れ行った桐しかいないだろう。 私の手に来る前に浩大が食べたことも赦し難いが、横取りした桐も赦し難い。 浩大の代わりに後宮で夕鈴警護を任せている内に、一度しっかり捕まえて話し合いが必要だろう。

池に突き出した亭でお茶を飲みながら夕鈴を見つめると、頬を染めて首を傾げる。
今、私が考えていることを夕鈴が知ったら真っ蒼になって李順の許へ走り、厨房を貸してくれと希うことだろう。 涙目で、浩大と桐が殺されてしまうと恐れ戦きながら、奴らのために私の食事を作ろうとするのが目に見えるようだ。 それは駄目だと首を振ると、夕鈴が 「寒いですか?」 と心配げな表情を見せる。 
卓上に会った手を握って顔に寄せると、真っ赤な顔になり大きく見開かれた瞳が手に集中した。 
この後の展開が読めているのか、夕鈴は手に力を入れるから楽しくなる。 直ぐに手を解放すると安堵の表情と少しの戸惑いを見せるから、その瞬間に腰を攫って膝上に乗せてしまう。

「こうしていると寒さなど感じぬな。 我が妃の温もりで午後からも仕事が捗りそうだ」
「ま、まぁあ、それは宜しゅう・・・・御座いますわぁ」
「冷めない内に私が飲ませてやろう。 それとも口移しで飲ませようか?」
「へっ、陛下こそ、冷めない内にどうぞ御飲み下さいませ!」

狼狽する夕鈴を引き寄せると、押し殺したような小さな悲鳴が聞こえた。 必死に妃演技をしているが、鼓動は羞恥に跳ね続けているのだろう。 強張る身体を引き寄せたまま頭に頬を寄せると、また悲鳴が聞こえる。 一度離した手を掴み、「妃の手は冷たいな」 と囁きながら唇を寄せると大きく息を吸い込み過ぎたのか、直後に激しく噎せ始めた。 背を擦りながら腹に回した手に力を入れると、「ひぁっ!」 と変な声を出すから笑いたくなる。 本当に夕鈴に癒されるなと頭を引き寄せて唇を押し当てると、真っ赤な顔で振り向くから顔を近付けた。

「何か言いたいことでもあるのだろうか、我が妃よ」
「お戯れが過ぎますわ、陛下。 ・・・・・今は逆らえないからって遣り過ぎです」
「プロ妃を目指しているのだろう? 協力をしているだけだよ」
「そ、それにしても限度があると思うのですがっ!」
「愛しい妃を愛でているだけだ。 仲良し夫婦ならこれくらい当然だろう。 ほら、侍女が見ているよ」
「・・・うぅ」

瞳を潤ませながら膝上から逃れようとする兎を引き寄せると、突然手を叩かれた。 もちろん周囲には気付かれない程度の動きだが、侍女がいる前で珍しいこともあるものだと驚いて顔を覗くと、夕鈴から溜め息が零れる。 肩を落とし、全身から力を抜き、染まっていた頬の色も抜け落ちていた。

「ど、どうしたのかな、我が妃は」
「・・・・陛下、人払いをお願い出来ますか?」

その落ち着いた声色に、僕は急ぎ手を上げて侍女を遠ざける。 
胸が痛いほどに跳ね、小犬の顔になって夕鈴に尋ねた。

「あの、どうしたの? 寒くなったから部屋に戻りたくなった? それとも体調が優れない?」
「私、今すぐ李順さんに言って厨房をお借りして来ます!」
「・・・・・え?」

考えていたことが伝わったのかと目を瞬くと、膝上から降り立つ夕鈴はもう一度僕に向けて溜め息を吐いた。

「やはり昨日のことを根に持っているのですね。 何度も謝って、いいよって言ってくれたのに」
「本当にいいよ! ちゃんと元気になってから作ってくれた方が嬉しいから」
「では、何故イヤガラセをされるのですか?」
「イヤガラセなんかじゃないよ。 夕鈴が一生懸命演技しているのが可愛いなって・・・・」

うるりと瞳を潤ませた兎がぷるぷると震えている。 姜の邸から奪還し、今日まで擦り寄っていた兎が反旗を翻したように見え、人払いが済んだ亭で小犬陛下は秘かに動揺を覚えた。 しかし狼の笑みを浮かべ、何事もなかったように夕鈴の手を掴み腰を引き寄せる。 

「本当に夕鈴が作ってくれた湯は美味しかったよ。 それに言っただろう? 妃が攫われたことで動き出そうとする輩を牽制するために見せ付けたいって。 そのためにイチャイチャしているだけだろう」
「そ、それは確かに言ってましたけど、手、手にく、口・・・・必要ありますか、人前で!」
「妃を寵愛している姿を見せ付けるのは君の仕事でもある。 それより余り大きな声を出すと人が来るよ」
「・・・ぐっ! でも、侍女さんの前で過剰演技は必要ですか、陛下」
「そうだな。 では政務室に戻って皆の前で先ほどの続きを行うか」

妖艶な笑みで抱き上げようとする狼に悲鳴を上げる寸前、亭に姿を現したのは有能な側近様だ。

「陛下、御休憩は御済ですよね。 宰相がお呼びで御座います、至急にと!」
「で、では私は後宮に戻らせて頂きます。 陛下、お仕事頑張って下さい」

李順の姿に冷静を取り戻した夕鈴が妃然として立ち上がる。 震えも頬の赤みも消え、うちわで口元を隠して楚々と回廊を渡って行ってしまう。 振り返りもしない夕鈴の後姿を見つめていると背後から咳払いがした。

「陛下、人払いまでしてバイトをからかっている暇があるようでしたら、宰相の許でごゆっくり政務に励まれて下さいませ。 ・・・・姜の調べも終わり、刑房監理官より書類も届いております」
「姜の兄弟親族への通達も済んだか?」
「はい、済んでおりますが、まあ陛下に逆らう気概はないでしょう。 姜のしたことの重大性を親族の方が承知しております。 本邸から妻の亡骸が、別宅より娘の焼躰が出ており其々丁重に埋葬したと報告が来ております。 別宅は見事に燃えておりましたので・・・・更地にして農地にする予定ですが、数年は放置となるでしょう。 新しい領主は既に決まっております」

政務室に戻りながら李順からの報告を聞くが、姜に関することに興味はない。 次の領主がしっかり統治するなら、領地内に新たな問題が生じないならそれでいい。 もちろん暫くの間は偵察が配され、問題が起こる前に報告が来る。 白陽国全土に散っている偵察から順次報告は届けられているが、全てに目を通すには時間が掛かる。 水面下で他人の動向を探りながら、自分だけは甘い蜜を吸おうとする輩が蠢く世界だ。 いつになったら内政も安定することか。 

「・・・・思うようにならぬことばかりだな」
「それを上手く動かすために王宮があります。 そしてその王宮に狸や狐が跋扈していようとも、それらを牛耳るのは我らが王の仕事で御座います。 ですからさっさと宰相の部屋へお急ぎ下さい!」

思うようにならないのは夕鈴だ。 小犬でも懐柔出来ず、狼では頑なになる。
バイトを頑張ろうとする夕鈴が引く線の向こうに、いつ僕を入れてくれるのだろう。 

「李順、近々厨房の貸切をしてくれ。 愛しい妻の手作り夕餉を楽しむ予定だ」
「・・・・陛下の仕事の進み具合によります。 それに昨夜厨房を貸切にしたはずですが」
「浩大と桐に盗まれた。 ああ、面倒な仕事は桐に回せ。 その次は浩大だな。 奴の怪我が癒え次第、任せるつもりだ。 確か東方面で揉め事が起きていると聞いたが」
「怪しげな薬を州管轄の花街にばら撒いている輩がいるという件ですね。 残念ながら、まだ確たる証拠が見つかっておりません。 ・・・・そこへ?」
「浩大の傷が癒え次第、向かわせろ。 奴はしてはならないことをした」
「・・・・・御意」


僕の心配を全く気付かない鈍感な夕鈴を怒らせた自覚はある。 
それならば急ぎ修正しなくてはならない。
彼女の安寧が僕の安寧に繋がっているのだから。

「ご飯美味しいっていっぱい食べたら、きっとすごくいい顔を見せてくれると思うんだ」
「・・・・お待ちの宰相も素晴らしい顔を見せて下さることでしょう」

早く行けとばかりに李順が辛辣な独り小言を漏らすが、陛下の耳に届いたかどうかは誰にも判らない。






FIN

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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 23:35:20 | トラックバック(0) | コメント(6)
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2014-01-31 金 11:54:01 | | [編集]
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2014-01-31 金 19:45:22 | | [編集]
Re: タイトルなし
ますたぬ様、コメントをありがとう御座います。宰相の笑顔が想像出来ないくせに、思わず書いてから首を傾げた私です。翻弄された人は・・・・やはり方淵でしょうかね。いい思いをしたというのもあるのか? 彼にとっては悪夢か? 次もどうぞ宜しくお願い致します。
2014-01-31 金 22:13:21 | URL | あお [編集]
Re: やはりヘタレでしょうか…
ぶんた様、コメントをありがとう御座います。やっと完結です。年マタギです。そして浩大と桐の冥福を祈って頂き、ありがとう御座います。きっと安らかな旅立ちが出来ることでしょう。陛下を弄るのも命がけだと思うのですが、止められないのでしょうね。そしてストーカー陛下。爆笑です。毎度、笑いをありがとう御座います。
鼻水と目の痒みに負けずに、のんびり頑張ります。
2014-01-31 金 23:26:54 | URL | あお [編集]
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2014-02-01 土 17:56:51 | | [編集]
Re: タイトルなし
ビスカス様、コメントをありがとう御座います。今回は本当にのんびり更新をさせて貰いました。月も変わり、また引き続き宜しくお願い致します。パラレルのリクもあり、今回のおまけ希望もあり、によによしながら締め切りに追われた気分で、花粉症の鼻水を啜っております。おまけ・・・・どうしようか、悩み中。胸を膨らませた桐を書くと、桐に殺されそうで(笑) あちらも方もご覧頂き、本当にありがとうです。あちらものんびり更新していきます。
2014-02-01 土 21:10:24 | URL | あお [編集]
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