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訪れた颶風  3

「パラレル」シリーズから、ユーリの話しです。「泡沫人の羽衣」後半の主人公、オリジナルキャラ・ユーリが主人公の話です。黎翔家族などは私個人の妄想によるオリジナルですので、御了承のうえ御読み頂けると嬉しいです。

では、どうぞ











ユーリはこれから会いに向かう義母の口調を思い出し、溜め息を零す。 
慇懃という言葉がぴったりだなと思い、強張る口が引き攣りそうになり急ぎ押さえた。
 
『黙って従う気がないのかしら』

黎翔に電話してから出掛けた方が良かったかと思うが、直ぐに駄目だと言われるだろう。
でも折角の誘いを断るのも、旦那の親に対して冷たい嫁と評価されるのも困る。 
自分は何を言われてもいいが、黎翔が悪く言われることだけは阻止したい。 
どんな話しをされるのかは判らないけれど、精一杯いい嫁を演じようとユーリは心に決めた。 電話での口調ではきっと楽しい話ではないだろうことは見当つくけど、それでも笑顔でいようと拳を握り締める。

ふと、国王陛下の唯一の妃として後宮にいる夕鈴さんは、国王陛下の家族とどんな風に付き合っているのだろうと思った。 庶民出の夕鈴さんも全く違う環境で苦労したことだろう。 あの若さで国王陛下をされているなら、お父さんは亡くなっているのだろうか。 その国王陛下を支えるなんて、夕鈴さんってすごいとユーリは胸を熱くする。 もう二度と会うことの無い人だけど、もっといっぱい話をしておけば良かったなと溜め息を零した。 
その溜め息に、隣に座るパウローが問い掛けてくる。

「・・・・気が進まないようなら、直ぐにでも会長に電話をしますが」
「あ、ごめんね。 気を遣って貰ってありがとう。 ちょっと他のことを考えていただけだから」

そのまま無言になったパウローは眇めるような視線を周囲に向けた。 どうやら迎えの人たちが気に入らないようで、睨み付けるような視線と態度を崩そうとしない。 確かに体躯のいい男性が黒い背広で威嚇するように沈黙している姿は、まるで軍用犬のようで緊張してしまう。 その軍用犬が目の前に、そして隣には豹のように殺気を放つ男がいて、ユーリは握り締めていた拳を静かに解いた。

程無くして到着したのは老舗の格式高いホテル。 ロビーに入ると案内係りが恭しく出迎え、黒服の男性が名前を告げると最上階へと案内してくれる。 老舗ホテルの落ち着いた雰囲気の中、骨董品がところどころに飾られた重厚なカーペットの廊下を歩き、そして案内係がスイートルームらしき部屋の扉をゆっくりと開く。

「ボディガードの方は部屋の外で御待ち下さい」

その言葉にパウローはユーリの腕を掴んだ。 そのまま開かれた扉から離れ、上がって来たばかりのエレベーターに向かおうとするから、慌ててそれは駄目だと言うと睨み付けられた。

「俺は警護対象者から離れるつもりはありません。 それが無理だというなら話し合いはキャンセルして邸に戻ることを選択します。 ・・・その方が清々する。 迎えに来た奴らの顔ときたら・・・・」
「ちょ! ちょっと待って!」

パウローの言うことも解かるが、相手は黎翔の義母だ。 それでもパウローは自分の信念を変えることはないだろうし、簡単に変えるようなら私の個人警護は任されていない。

「あの、お話は彼も一緒に聞かせて貰ます。 それが駄目だと言うなら、ごめんなさい。 お話を聞くことは出来ません。 例え黎翔の御両親からのお申し出でもです」

必死に足を踏ん張って黒服の人に伝えると、中に入り話を伝えてくれた。 直ぐに戻って来るとパウローと共に部屋に入るように言われる。 その返事に舌打ちをするパウローの袖を引っ張るが、逆に顎をしゃくられ泣きそうになった。 車の中で夕鈴さんのことを思い出していたからだろうか、異世界の桐さんがパウローに重なって、どちらも悔しいくらいに好きに動いていらっしゃるわとユーリは鼻を啜る。

迎えに来た黒服はそのまま廊下で待機となり、ホテルの案内人が 「どうぞ」 と部屋へ誘う。
リビングに入るとゆったりしたソファに座る女性がいた。 
邸では、あっという間でよく顔を見る暇もなかったんだと思い出しながら挨拶をすると、無言で前のソファに座るよう告げられる。 沈むようなソファに腰掛けると、コネクティングルームより新たな黒服の方が三人出て来て、義母の背後に立った。 私の後ろにはパウローが立ち、小さく鼻で嗤うのが聞こえ注意したくなる。

「個人警護の者が同席することをお許し頂き、ありがとう御座います」
「話し自体は短いから構わないわよ。 ああ、先日は突然お邪魔して悪かったわねぇ」
「いえっ! こちらこそ、お構いも出来ませんでっ!」

威圧感というのだろうか。 この現代社会のおいて身分差などないはずなのに特権階級という言葉が脳裏に浮かび、思い切り見下されるような圧迫感をヒシヒシと感じてしまう。 
同じような雰囲気を黎翔も持つが、威圧感というより彼から感じるのは強いカリスマ性だ。 指導者の立場に相応しい貫禄といった感じで、畏れるというより羨望の眼差しで見上げてしまう。 会長職にいるからではなく、本来持っている彼自身のカリスマに、周囲の者は畏怖を覚えながらも着いて行くのだろう。 そんな風に考えてしまうのは惚れた弱みなのかしら・・・・。 ぼんやりと物思いに耽っていると義母から声を掛けられた。

「ところで、珀コーポレーションを貴女はどう思っておりますの」
「え? あ、どう、とは? いえ、・・・・珀コーポレーションは多岐方面に亘っての経営を行っておりますが、どの方面も注目されており、特に今はバイオ化学の研究開発が着目されています・・・・が」
「会長として、あれは上手くやっているのかしら」
「成績と社会的なことを差しているのでしたら、会長は問題なく上手くやっていると思います」

真っ直ぐ見据えて忌憚無き意見を答えると、妖艶な笑みが返って来た。 黎翔のことを「あれ」呼ばわりするのは気に入らないが、今は無視するしかない。 黎翔の義母というには若い女性の笑みの意味は分からないが、顔を逸らさずに堪えるしかない。

「退陣したとはいえ主人も私も、珀コーポレーションの更なる進展を望んでおります。 そのためには貴女では何の役にも立たないと理解して頂きたいのです。 言いたいことを御承知頂けるかしら?」
「・・・・それは、どういう意味でしょうか」
「御想像出来ますでしょう? それともはっきり申し上げませんと理解出来ないかしら?」
「・・・・想像は出来ますが、理解は出来ません」

口元は僅かにも歪むことなく、しかし細まる視線を投げ掛ける義母を前に、ユーリも表情を変えることなく背を正す。 言いたいことだって厭だけど本当は理解出来る。 結婚前は黎翔に何度も自分が言っていたことだ。 こんな旨みの無い人物が結婚相手では会社の為にならないと。

「では、はっきり申し上げます。 あれと離婚して他国に移住して下さい」
「・・・え? い、移住? あ・・・・もしかして私の辞表を上部に送り付けたのは」
「それも先ほど再提出しておきました。 離婚手続きも私どもの弁護士に任せますから、貴女はお好きな金額を記入して、お好きな国をお選びになって。 ああ、母親の実家がある国がよろしいかしらねぇ」
  
テーブルに差し出された小切手帳とペンに眉が顰められる。 
殆ど強制的に連れ来られ、こんな雰囲気の中、これからは私たちは家族なのだから仲良くしましょうね・・・・なんて明るい想像は最初からしていないが、ここまで用意されていると言葉もない。 
膝上で握り締めた手が小さく震えるが、ぐっと堪えて口を結んだ。

「何が気に入ったのか、物珍しいと付き合うだけならまだしも、結婚するなど驚いたわ。 どのように口説き落としのか知りたくもないけど、あれの女性遍歴を御存じ? 上流と言われるお嬢様や一流のモデル、中には議員の娘様もいらっしゃったわ。 それに新しい妻候補はフランスの大手企業のお嬢様でね、以前パーティであれを見てからずっと気にされていたんですって。 貴族の血が流れる高貴な、とても美しいお嬢様ですのよ」

見下す視線がチリチリとユーリに突き刺さるが、結んだ口を開かずに真っ直ぐ見つめ続ける。

「・・・御両親が亡くなってから世話になっている家の義兄さんが、今勤めている会社の上司よね」
「な、んで・・・・」

突然話が変わったことに目を瞠って義母を凝視すると、さも楽しそうに口角が持ち上がるのが見えた。

「珀コーポレーションの外部会計監査などを任されているそうだけど、その信用が失墜したら他の大手企業からのオファーも無くなるわよね? 迷惑を掛けたくないはずの義理の家族、それと貴女がお勤めの会社・・・・・少し、考えてみては如何かしら」
「それは脅迫ということか?」

背後に立つパウローが抑揚の無い声で問う。 その時の義母の表情がどうだったかなど、視線を膝上の手に据え置いていたユーリには判らない。 頭の中は会社やおじさんたちを巻き込むのだけは厭だと思う気持ちと、黎翔の親だろうとそこまでする権利はないと憤る思いでいっぱいだった。

「脅迫だなんて、まあ。 ・・・・ただ人には立場があり、それぞれに相応しい相手がいると教えて差し上げているのです。 賢い貴女なら答えは自ずと解かるはずですけど、答えを伺うのは次回にしましょうかしら。 すべき答えなど一つしかありませんでしょうけど」
「次回などないと御承知された方がいい。 ユーリ様、帰りましょう」
「本当にあれの将来と珀コーポレーションを考えるなら、感情よりも優先すべきことが判るわよね」

頭の中が憤りで真っ黒に染まり、口を開いたら酷い言葉が漏れそうで、ユーリは唇を強く噛んだまま立ち上がった。 出来ることなら黎翔の義母を罵りたくはない。 執事さんから話は聞いていたから、これ以上は係わらない方がいいとも思う。 これ以上は何も語らずに、直ぐに立ち去るべきだ。

そう思うのにテーブルの上の小切手が視界の端に移り、この場で泣きたくなった。

パウローが痛いほど強く腕を掴んで扉へと足を向ける。 威嚇するように扉を開けさせ、早足でエレベーターに押し込まれ、タクシーに乗ってから自分が震えていると気付いた。 
あんな人が黎翔の身内なのかと悔しくて悔しくて、だけど口を開いたら堪えているものが決壊しちゃうと、耐え続ける。 隣に座るパウローも口を開かずにいるから、それが救いだと目を閉じた。


邸に戻ると黎翔はまだ帰って来ていないと言われ、ユーリはパウローに願い出る。

「今日のことは会長には報告しないで欲しい。 ずっとという訳じゃないの。 明日会社に再提出された退職届を撤回して、そして・・・・少しだけ考えるというか、頭の中を整理する時間が欲しい。 会長に伝えると直ぐに怒り出して私の話を全く聞かなくなるから、その前に少しだけ」
「俺の雇用主は会長です。 その要請にはお応え出来ません」
「・・・・どうしても駄目かな?」
「ここで揺れるようでしたらユーリ様の個人警護など出来ないでしょう。 それと何を少し考えるのか、甚だ疑問ですね。 先ほど調べましたが、前会長は珀コーポレーションに関する全ての権利を会長に引き渡して引退されています。 未だ多少の影響力があるとしても、それは前会長であり、あの奥方には一切有りません」
「いつの間に調べていたの?」
「ソファの後ろに立っている時です。 ですから考える必要もないでしょう」

彼の言っていることは間違いないのだろう。 項垂れそうになる顔を上げてパウローを見つめた後、泣き笑いしそうな自分に呆れる。 あれだけ腹を立てていたのに、時間の経過と共に碌に話も出来なかったと反省しそうになる自分がいる。 もう係わらないのが一番なのだろう。 そしてパウローの報告で、黎翔の機嫌が悪くなるだろうことが想像出来、困ったことだと息を吐く。 

明日は無事に出社出来るかしらと頭を押さえていると、桂香さんがやって来て食事の支度が出来たと声を掛けて来た。 黎翔はまだ遅くなるそうで、先に食べるように言われる。 
パウローが 「それでは」 と踵を返して去って行くのをぼんやりしながら見送った。
彼が戻るのは警備担当者が詰めている、宿舎のような建物だ。 邸から数分で到着する建物には宿舎の他、プールやトレーニングジムなどがあり、邸や敷地内警備、黎翔の警護を任される者たちがメインで使っている。 最近になってエアロビやヨガが出来るスタジオを作ったためメイドさんたちが通うことが増え、メイドさん目当てで警護や警備の者たちが色めき立ち、より一層筋トレに励んでいると聞いた。 その内カップルが出来るかしらねと、桂香さんと話すこともあり・・・・・・・・何時の間にか現実逃避して違う方向に意識を向けている自分に気付き哂いたくなる。

「ユーリ様、顔色が宜しくありませんわね」
「・・・・食欲はあるから大丈夫。 一晩寝たら復活するから」

体力を付けないと悪い方向にばかり思考が傾いてしまう。 黎翔が仕事している時に悪いけど、しっかり食べてがっつり寝かせて貰おう。 桂香さんに 「お酒もお願い!」 というと、それは却下されてしまった。

「お酒は旦那様とご一緒の時だけと言われております。 それに・・・・太りますよ?」
「・・・・水でいいです」

がっくり項垂れると苦笑しながら桂香さんが 「あとでブランデーを垂らした紅茶を用意します」 と笑う。 邸の皆はいつも温かい笑みと気遣いで包み込んでくれる。 
気が抜けて笑みが浮かんだ瞬間、小切手と妖艶な赤い口紅が思い出され、何度も瞬きをして堪えようとするが涙が溢れて零れそうになり、ユーリは慌てて 「着替えて来ます」 と階段を駆け上がった。 







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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

パラレル | 20:33:03 | トラックバック(0) | コメント(8)
コメント
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2014-02-07 金 21:00:20 | | [編集]
Re: タイトルなし
もんちゃり様、コメントをありがとう御座います。たぶん初めまして(笑)御読み頂き、ありがとうです。気の毒な人の御想像はばっちりです。長い話にはならない予定ですので(たぶん)、どうぞお付き合い下さいませ。
2014-02-07 金 21:52:28 | URL | あお [編集]
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2014-02-07 金 22:38:02 | | [編集]
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2014-02-08 土 00:01:28 | | [編集]
Re: タイトルなし
とあ様、コメントをありがとう御座います。インフルもノロも大流行ですね。都心では雪の心配もあり、今年の冬は大変だぁ! 体力が低下されているでしょうから、無理をせずに休める時にしっかりとお休み下さい。去年は旦那が風邪で寝込みましたので、手洗いと嗽はうるさく言ってます。パラレル好きって言ってくれて、超嬉しいです。余り長くなる予定ではないのですが(たぶん)、どうぞお付き合い下さいませ。
2014-02-08 土 00:29:49 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
ビスカス様、コメントをありがとう御座います。パウローが頑張るとユーリの寿命が縮むかも。(笑)黎翔がなかなか出せない展開なので、違う人を出しちゃいましょう! 私も四六時中の監視は厭だけど、細マッチョな身体が近くあると思うだけで超ドキドキしちゃうかな。(えへー!)嫁姑問題は世界共通なのかな。知り合いの韓国の方は「相手による。日本の方がいい」と言っていたから、そうなのかも。ヨーロッパでもそうなのかな??
2014-02-08 土 00:35:06 | URL | あお [編集]
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2014-02-08 土 20:09:25 | | [編集]
Re: タイトルなし
ぶんた様、コメントをありがとう御座います。娘が友人を呼び、カマクラを作るほど雪が降り、靴が濡れ、犬が濡れ、洗濯物が大量発生しております。明日は雪掻きです。スマホ修理、何というか御愁傷様で御座います。ラインとメモ、スケジュール管理くらいしか使っておりませんが、無いと落ち着かない現代人になっているので、修理で離れると辛いと思います。私は辛い!泣きます。 ユーリの鉄板・・・・ああ、何だろう。うぬぬ、頭が雪で冷やされ過ぎて回りません(涙)
2014-02-08 土 23:59:25 | URL | あお [編集]
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