スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


スポンサー広告 | --:--:--
訪れた颶風  6
「パラレル」シリーズから、ユーリの話しです。「泡沫人の羽衣」後半の主人公、オリジナルキャラ・ユーリが主人公の話です。黎翔家族などは私個人の妄想によるオリジナルですので、御了承のうえ御読み頂けると嬉しいです。やっと、ラストです。ここまで御読み頂き、お付き合い頂き、ありがとう御座います。

では、どうぞ










邸に到着しても、黎翔に抱きかかえられたままの状態で二階の自室に向かう。
部屋で夕食の準備がされる中、桂香さんが用意してくれたお茶を口に運ぶと、頭の中の朦朧とした気分がやっと晴れて来た。 黎翔の腕を叩き、もう大丈夫だと伝えると束縛が外れて椅子に降ろされ、食事を始める。 
未だ訝しい視線を向けられるが、何と説明したらいいのか判らない。 パウローから昨日の報告を聞いていて、今日のことは携帯で全て耳にしていたという黎翔から、この後で何を言われるのか想像も出来ない。

食事が終わると李順が書類を持参し、執務室に向かう黎翔が私に大人しくしているように言う。 
食事が終わり、することがない私は大人しく部屋にいるしかないだろうと頬を膨らませながら頷きを返すと頬を突かれ、「心配したんだ」 と呟かれて胸が痛んだ。

「ごめんなさい。 ちゃんと大人しく・・・・待っています」
「もう香の影響はないみたいだが、休んでいてくれ。 直ぐに戻る」
 
嗅がされた香の影響は既に消えていたが、まだ髪や衣服に纏わり付いているような気持ちの悪さが残っているような気がして、入浴することにした。 温かい湯の中で手足を伸ばして大きく息を吐くと、蒼褪めた顔の義母と鷹揚に構えていた義父を思い出す。

ルーベンさんが滅多に邸には来ないから安心して下さいと言った意味が解る気がした。 
好かれるまではいかなくても、私という人間を知って貰いたかったが、育った環境や周囲の影響で、それぞれ考え方の相違があるのは否めない。 どうしても通じ合えない人もいるのは承知している。 
黎翔と付き合っている時、嫉妬や憎悪を絡めた視線に顔を伏せたこともあった。 近寄る人たちから老若男女問わず、値踏みされるように見下ろされ、聞こえるように罵倒されることも珍しくなかった。 あんな普通の女の何がいいのだと揶揄される中、強張った笑みでパーティに出たこともある。 
気にしないようにしているふりが上手くなるばかりで、気持ちは昏い方へ引き摺られそうになる。
そうならないのは黎翔が解かってくれるからだ。 そして邸の皆が笑顔で迎えてくれて、仕事場では皆と笑い合える。 その環境を黎翔が私に与えてくれるから、私はいつでも気持ちを前向きに出来る。 このままの自分でいいのだと胸を張って前に進むことが出来る。

だけど黎翔の親にだけは認めて貰いたかった。 黎翔に釣り合わないと言われても、引き下がる気も別れるつもりもないが、嫁として認知だけでもして貰いたかった自分に深く息を吐く。

「結構・・・・欲深い人間だったという訳か」

自嘲的な笑いを漏らしながら湯から上がったユーリは、ガウンを羽織ってベッドに転がった。
黎翔が自分を好きだと言ってくれたことで満足だったはずの自分が、それ以上を求めている事実に情けないほど恥ずかしくなり、そして求めていたことを知る。 泣きたいのとは違う。
ただ哀しいと胸に圧し掛かる苦しさを吐き出そうとして深呼吸を繰り返していると、ドアが開いた。

「ユーリ、寝ちゃった?」
「まだ寝てない。 お仕事終わったの? ・・・・忙しい時に本当にごめんね」

起き上がってベッドに腰掛けると黎翔が隣に座り、手を握り締める。 大きな温かさに包まれた自分の手を見つめながら、ユーリは薄く笑いを浮かべている自分を自覚した。

「・・・・黎翔に何も話さないで勝手なことをした。 ごめんなさい」
「仕事よりもユーリを優先させるのは当たり前だろう。 謝って欲しい訳じゃない。 心配したのだと判って欲しいだけだ。 ・・・・ルーベンから話は聞いているだろう」
「聞いた。 でも、黎翔の身内には知って欲しかった、私が黎翔の奥さんだって。 私という人間を知って・・・・認めて貰いたかった。 好きな人の家族に認めて貰えたら嬉しいもの」

笑いながら黎翔を見上げる。 駄目だったのなら諦めるしかない。 黎翔が私を認めているなら、それでいい。 手を伸ばしたら抱き締めてくれる存在が自分を好きだと伝えてくれるなら、それでいい。

「ユーリがこんなことで悲しむことはない。 それと正直、・・・・家に係わらせるつもりはなかった。 うちは普通とは違うからな。 特に親戚は面倒な輩ばかりだ。 その筆頭が父だ」
「黎翔に似て恰好いいよね。 齢を取ったらお父さんみたいになるのかな」
「・・・・妬かせているつもりか? 年上男性に弱いからな、ユーリは」

面白くなさそうな声に笑ってしまう。 確かにルーベンさんや庭師、ウォルターのお父さんに私は弱い。 だけどそれ以上に黎翔に弱いと、彼は知っているのだろうか。
自分から膝の上に座り、肩に頭を乗せて首に擦り寄る。 
私に甘えられるのが好きな黎翔が直ぐにぎゅうぎゅうに抱き締めてくれるのが嬉しいと、首筋にキスをすると頭上から 「キスする場所が違う」 と文句が落ちて来た。 手を伸ばして頬を包み込むと、近寄る顔が柔らかな笑みを浮かべている。 唇を軽く重ねると啄むようなキスが返って来て、そして深いキスへと変わる。

「・・・・他に訊きたいこと、ある?」
「黎翔が言いたくないならいいけど、お母さんが体調を崩してから・・・・珀コーポレーションを引き継ぐまでに何があったのかなって。 ルーベンさんは元々お父さんの家で働いていたって。 ここは黎翔の生まれた家じゃないんだね。 いろいろ・・・・知ろうともしなかったけど、知っておいた方がいいのかな」

抱き上げられて枕元へ移動する。 横になると黎翔の手や足が身体に絡み付く。 深く息を吸うと黎翔の匂いが鼻を擽り、それが嬉しいと胸に顔を摺り寄せた。

「この邸は母の体調が悪くなり、父から離れた時に贈られたものだ。 その後、進学費用を出す代わりに必要過程を習得するよう言われ大学院に進んだ頃、当時会長だった父に体調不良が見られた」

跡継ぎから外れていたはずのレールを戻したのは、母を追い出した親戚たちだと黎翔が笑いながら私の髪に口付ける。 何故そんなことを言い出したのかと不思議だったが、長兄が傾けた業績が余りにも酷かったからだと判り、莫迦らしいと相手にしなかった。 
しかし自分を跡継ぎにしようとする真意が、これ以上経営が傾くようなら私のせいだと詰り、潔く他企業に買収して貰おうとするものだと知り、考えを変えることにした。 傾いた経営を修正して、そのまま自分のものにしようと。 その時、秘書として働いていたのが李順で、長兄が社長をしていた時に散々な目に遭ったと話し、このままでは面白くないから全てを掌握して余計な者たちを追い出しましょうと協定を組んだという。

「だから李順さんは邸に泊まり込むほど忙しくても、あんなに頑張っているんだ」
「ユーリが他の男を褒めるのを聞くのは面白くないけど、李順に関しては仕方がないな。 私も李順には頭が上がらない時がある。 余程長兄の秘書時代、ひどい目に遭ったのだろうな」

笑いながら抱き締める腕の中、黎翔の辛い子供時代を想い唇を噛んだ。 広くても冷たい邸の中、日々やつれ体調を崩す母親を見つめながら、黎翔がどんな思いで過ごしたのかと考えるだけで目が熱くなってくる。

「私は黎翔を幸せに出来る? 努力するけど、努力しても出来ないこともある。 会社のために貢献出来るほどの伝手も、魅力もない。 好きでいることしか出来ないけど、それだけでもいい?」
「その気持ちが欲しくて結婚で繋いだ。 その気持ちが一番の望みなんだよ、私は。 ユーリも自分で言っていただろう? 私が望むのはユーリで、ユーリも共に居たいと強く望んでいると。 あれは惚れ直した」

頭にキスされながら聞こえて来た言葉に、一瞬思考が止まり、そして真っ赤になった。
確かに自分が言った台詞だが、黎翔に改めて言われると恥ずかしくなる。 愛おしそうに柔らかなキスが降り注ぐから、ジワジワと熱くなる頬を押さえるが、熱は一向に冷めない。

「私と離れたくないと、泣きそうな声で言ってくれた時は嬉しかったよ」
「・・・・部屋の前に到着したのは、どこら辺からなの?」
「えっと、パウローが何かを噴き掛けられて倒れた演技が始まった頃にホテルに到着して、部屋の前に着いた時に丁度私が望むのはユーリだけだと強く言ったんだ。 そのまま扉を開けたくなっちゃった」

嬉しそうな黎翔の声に、何故そこで直ぐに扉を開けなかったのかと睨み上げるとキスが降って来た。 

「義母の台詞を聴かせたい相手が少し遅れて来てね、待たされたんだ。 ごめんね」
「・・・・そういう訳なら、仕方がないって思うしかないのかな?」

義母の台詞を聴いて、夫である黎翔の父親はどう思っただろう。 聞こえて来た言葉では特に気にした風もなかったように思うけど、それは本意なのだろうか。 それがどうであれ、ユーリはこれ以上係わるべきではないのかも知れない。 悲しいけれど、義母とは分かり合えないのは確かだ。

「傷付けてごめんね。 だから会わせたくなかったし、話しもしたくなかった」
「傷なんかないよ? 直ぐに振り解いて押し倒したし」
「・・・・言われた言葉で心が傷付いただろう。 昨日も顔を合わせられなかったから、ユーリの表情がこんなに塞がっているなんて知らなかった」
「気にならないって言ったらウソだけど、こうして黎翔が抱き締めてくれるから私は大丈夫。 聞き慣れている分、悔しいけど耐性はあるから。 だけど仕事は本当に大丈夫なの?」

小さな笑いが耳元に落とされ、心配しているのにと黎翔の顔を押し退けると指を噛まれた。 顔を上げる前に強く抱き締められ、背を何度も何度も擦られ、じわりと涙が滲んでくる。 言われた言葉は確かに聞き慣れた言葉で、気にしない振りも出来るようになったはず。 だけどやはり黎翔の身内から受ける言葉は別だった。 鼻の奥が熱くなり、抱き締める腕に縋りながら顔を擦り付ける。

「仕事は問題ない。 莫迦らしいと一笑に付すくらいだ。 現地でどうにか出来なかったのかと昼間叱責を落としておいた。 早々に片付いたようで先ほど細報告が届けられたが・・・・・ユーリ分の詳細報告は叱責で治まるかどうか、私も先が読めない」
「・・・私の詳細報告? え、だってパウローから昨日のことも今日のことも聞いているのよね」

背に回る腕に力が入ったのが判る。 
言われた意味が解らないと顔を上げようとしても押し付けられて動けない。

「振り解いて押し倒した。 ・・・・それは誰のことだ?」
「誰って、パウローに何か噴き掛けられて、その時に私を背後から羽交い絞めした黒服を・・・・」
「会社ではウォルターと密室に二人きり、しばらく閉じ籠ったと聞くが」
「・・・・辞表がまた勝手に出されていたから、その説明よ」
「ハルという男が何故ユーリに抱き着く? それにユーリも抱き返していたな」

そこまで言われると黎翔が何を言いたいのか理解して、溜め息しか返せない。 
どうして私なんかに近付く男に、黎翔が焼きもちを妬くのか、未だに理解出来ない。 

「ハルは半年くらいアリゾナに出向していた同僚で、私が暫く休んでいたと訊き心配して抱き締めて来たのよ。 それと・・・・、パウローを見て興奮しちゃったみたいで」
「心配したからといって、人の妻に勝手に抱き着くなど」
「あ、ハルに関しては中身は乙女だから気にしないでね。 だけど個人警護なのに社内のことまで報告させるのはどうしてなの? 前にも止めてと言ったでしょう。 私はそこまで信用無いの?」

怒った声を上げると、ようやく腕の束縛が緩んだ。 顔を上げると「乙女?」と呟く不思議そうな顔が見え、怒っていた私は思わず笑いそうになる。

「ハルはパウローに一目惚れしたんだって。 だから個人警護で私に就いていると知って感激しただけよ。 パウローは警戒していたようだけど、視線の意味を知ったら違う意味で警戒するかもね」
「・・・・まあ、それならいい。 あと、ホテルでパウローを庇っていただろう」
「当たり前でしょう!? 意識が無いと思っていたんだから! あんな演技までして、人がどれだけ心配したか判っているのかしら! ぐったりしている重い身体をソファまで運び、何処かに連れ去られそうになるから必死に押さえて、何だか眠くなるし身体は思うように動かないし、どうしようかって一生懸命考えていたのに、するっと起き上がって莫迦にしたような顔で見下ろして!」
「ああ、判った。 ・・・ユーリ、落ち着いていいから」

抱き締めながら起こされ、頭や顔にキスされる。 宥めようとしているようだが、怒りは収まらない。
義母に対する行動とはいえ、少しでいいから話しておいて欲しかった。 もう今更な話だが、警護対象に何も教えずに動くなど、あり得ないだろうと憤る。

「確かに黎翔に伝える間もなく私は行動してしまったけど、この結果にお仕置きなんて言ったら私は怒るわよ。 私が怒ったらどうなるか、黎翔は重々承知でしょう? これ以上私を」
「わかったよ、お仕置きなんてしないよ、ユーリ」

ぎゅうっと抱き締める腕にユーリは秘かにほっと息を吐く。 怒涛の勢いで喋らないと、黎翔に敵うはずがないとユーリの方が承知しているからだ。 いつも黎翔の勝手な思い違いで翻弄されてしまうことがあるから、そこは慎重になる。 だけど、こんなに愛されているのに、こんなに好きなのに離れるなんて考えられない。 黎翔の側に居られるのが嬉しいと頬を摺り寄せると、抱き締める腕の力が増し、そして予想外の声が落とされる。

「ただ・・・・・後ろから羽交い絞めされたり、パウローを引きずったり、ハルとかいう男に抱き着かれたり、几鍔に頭をぐしゃぐしゃに掻き回されたり・・・・・それらの消毒をしなくてはいけないな」
「・・・・お仕置きはしないって言った・・・・」
「お仕置きなんかしないよ。 今、言っただろう? これからするのは消毒だ」

抱き締める力が増し、バスローブの腰紐が引き抜かれた。 逃げ出そうとする間を与えられずに深い口付けが襲い掛かり、罠だと知りながら溺れていく。 舌を絡まれ、甘く噛まれて吸われる。 耳に響く淫靡な水音に手から力が抜け、背に回る腕に身体を預ける頃にはベッド中央に寝かされていた。

「他の男がユーリに触れた、その全てをしっかりと消毒してあげる。 明日は二人とも休みだから、じっくり丁寧に消毒して、私をユーリに刻み付けてあげるよ。 いつでも私の存在を忘れないよう、その身に深く刻みつけてあげよう」

口付けに惚けた頭に不穏な台詞が聞こえて来る。 重なった唇から苦笑が漏れ聞こえ、動かそうとして手が拘束されていることに気付く。 柔らかなバスローブの腰紐だけど、しっかりと解けないように括られ、それはベッド柵に固定されていた。 目を瞠っても既に遅い。

「明日のことなど考えなくてもいいよ、ユーリ。 考えるのは私のことだけだ」

明後日の夜はどうなのでしょうか。 明々後日は仕事に行ける状態なのかしら。 ふと思い出すのは几鍔の険しい視線だ。 月曜日に出社して疲れ果てていたら何と心配されるだろう。 その時に私は何と答えたらいいのかしら。 近付く狼の気配から逃げ場を失った兎は、声無き悲鳴を上げて・・・・・・。





後日、邸に突然現れた黎翔の父が、私に贈り物だと箱を差し出してくる。
黎翔が仕事でいない時を狙って来たと哂うから、強張った笑みを返して箱を開けた。 箱の中にはネックレスチェーンが入っていて、持ち上げると四か所に小さな石が輝いている綺麗なチェーンだ。 小さな石は深みのある真紅で、血豆のような色合いに見える。 

「父として黎翔の嫁に贈り物をしたいのだが、受け取って貰えるだろうか」
「・・・・あ、あの・・・ありがとう御座います」
「今しているネックレスのトップをこちらに移して、普段使いにして貰えると嬉しいのだが」
「は、はい。 ありがとう御座います」

何故私のネックレスのことを知っているのだろうと思ったが、義母が鑑定書を用意していたことを思い出し、それで知っているのだろうと問うことを止める。 足を優雅に組み替え、膝上で手を重ねながら 「今見せてくれないか」 と微笑まれ、ユーリは急いでネックレスを外した。 ルーベンさんが丁寧に受け取り、両方のネックレスを持ち部屋を出る。 贈られたネックレスには石がついているため、ペンダントトップのパーツを取り換えるのだと言う。 メイドの他、二人になった応接室で緊張した私に黎翔の父親が笑う。

「そんなに堅苦しく構えることはないよ。 私は黎翔の結婚に反対などしない」
「挨拶が遅れて申し訳御座いませんでした。 ・・・・私のことは全て御承知なのでしょうね」
「黎翔からも私のことを聞いているだろう。 ああ、ルーベンから聞いているのかな?」

視線を落として何度も瞬きをする。 全てお見通しだと口角を上げて笑みを浮かべるのが精いっぱいだ。
そろりと顔を上げると老齢な、それでいて壮健な顔貌に見惚れそうになる。 齢を重ねたら黎翔も同じような顔になるのだろうと思うだけで緩みそうになる頬に力を入れ、ユーリは紅茶に手を伸ばした。

「あれは私を恨んでいるだろうから、いい話は耳にしていないだろう。 しかし、私は珀の全てをあれに任せて今は他国でのんびり過ごしている。 全てから退いているから君も安心して過ごすがいい」
「・・・・私は黎翔に寄り添うだけです。 安心は彼から充分与えられています」
「それがいい。 妻が迷惑を掛けたが、二度はないから、それも安心して欲しい」  

低い声が心地よく、ユーリはそれ以上何も言わずに頷いた。 ルーベンさんがネックレスを持って来て、私の首に掛けてくれる。 今までのチェーンより少しだけ短くなったが、視界に入る輝きに手を伸ばすと声が掛かった。

「それは黎翔が贈ったものではないそうだね」
「はい。これは私の母の形見です」

黎翔が贈った相手は夕鈴さんだ。 だけど黎翔が購入したものでもある。 
説明する必要もないだろうと微笑むと、お父さんは 「そうか」 と、ゆっくりと立ち上がった。 
ルーベンさんと見送り、黎翔にメールを送る。 あとで文句を言われる前に先に知らせておくべきだろうと思ったのだが、直ぐに電話が来た。 贈り物をされたことと直ぐに帰って行ったことを伝えると、面白くないとばかりに文句が続き、他にはと問い詰めて来る。 何も心配するようなことはないと伝えたが、黎翔はなかなか電話を切りたがらない。 背後から李順の怒鳴り声が聞こえ、可笑しくなり笑って電話を終わらせたが、黎翔が帰宅してから私の笑いは固まってしまう。

「ピジョンブラッドルビー・・・・・名前だけは私でも知っている」
「それがこれだ。 小さいが非加熱のものだな、これは」
「非加熱だと、どう違うの? っていうか、すごく高い・・・・でしょう?」

宝石店を幾つか持つ黎翔がルーペを持ち険しい顔を見せる。 チェーンはプラチナで、それも高いだろうが問題は血豆色した石だった。 眉を寄せて黎翔を見上げると唇を噛んで肩を竦める。

「ユーリは値段を聞かない方がいいだろう。 普段使いにするのだから気にすることはない。 だが贈られた相手が気に入らない。 私の留守を狙って来るなど・・・・それもチェーンと来たか」

どうにか唾を飲み込み、黎翔の手にあるネックレスを見つめる。 大きな宝石が贈られていたら直ぐに断っていた。 相手が黎翔の父親だとしてもきっと断っていた。 だけど血豆のような小さな石が時折黎翔の瞳に浮かぶ色に似ていて、素直に受け取った自分だ。 今になって相手が黎翔の父親だと震えが奔る。 
高い、高い、きっとものすごく高いと思うと、元のチェーンに取り換えて欲しいと口にしてしまう。

「贈った相手は気に入らないが、タンザニアの質の良い品だ。 遠慮なく使ってやれ」
「く、首が凝る。 首が回らなくなる。 い、いや・・・・」
「悔しいけど似合うよ、ユーリ」

眉を寄せながら黎翔が首に掛けてくれるけど、手が震えて触れることが出来ない。 
暫くは首が隠れる洋服にしようとユーリは心に決めた。 万が一にでもチェーンが切れたら・・・・そう思うだけで首を動かすことも出来なくなりだ。 もう宝石の贈り物なんて絶対に受け取らないぞと拳を握ると、黎翔が手を握り締める。

「今回、他の男からの贈り物を受け取った奥様だ。 夫からの贈り物を受け取らないなど、そんな冷たいことは言わないよね。 そんなことを言われたら・・・・それこそ期待通りにお仕置きだな」

後日、黎翔が小さな箱を持って帰宅した。 夫からの贈り物だと笑みを浮かべて私の手を引き寄せる。 抗うことも出来ずに、だけど怖くて目を閉じていると楽しそうな声が響いた。

「ほら、可愛い兎のリングだよ。 これならユーリも喜ぶだろうと思って」
「・・・え? あ、赤い目で可愛い!」

見ると金色の兎が指に巻き付いているようで、とても可愛いと顔が綻んでしまう。 これなら普段していても気にならないと笑顔を向けると、黎翔のほっとした顔が見え、素直に嬉しいと伝えた。
まさか兎の眼がインペリアルトレッドパーズだとは思わずに・・・・・・。

宝飾に詳しい同僚が 「愛されているわね~、こんな高いものを!」 と目を丸くしたのを見て、ユーリはこんなお仕置きも有りなのかと頭を抱えることになった。







FIN

スポンサーサイト

テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

パラレル | 15:51:56 | トラックバック(0) | コメント(8)
コメント
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2014-02-14 金 21:15:08 | | [編集]
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2014-02-14 金 21:40:39 | | [編集]
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2014-02-14 金 22:55:16 | | [編集]
Re: タイトルなし
ますたぬ様、コメントをありがとう御座います。パラレルなので、短めにまとめちゃいました。最後詰め過ぎ感があるけど、ご勘弁を。まあ、パウローはハルに追い掛けられるのが厭で直ぐに社外待機警護に戻るでしょう(笑) 引くパウローも書きたかった。 あと10日で本誌発売。楽しみで仕方がありません。
2014-02-14 金 23:11:55 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
名無しの読み手様、コメントをありがとう御座います。あんだー・・・・ちょいと考え中(爆)自分の首を占めそうですが、妄想がぁああ! バレンタインものをもう一点考えてますが、間に合うかな。ドキドキ。パウローは余り出番がありませんでしたけど、また次回にでも頑張って貰います。御読み頂きありがとう御座います。
2014-02-14 金 23:13:44 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
ビスカス様、コメントをありがとう御座います。この時期からホワイトデー用に宝石の広告がやたら目について、最後は大旦那様に貢がせてしまいました。個人的に好きな宝石はブラックオパールなのですが、オーストラリア産のがいいなと秘かにへそくりしてます。(笑)普段はルビーをしてます。義母からのタイ土産で、すごくお気に入りなんです。 今日の日に合わせて今、慌ててもう一点書き書きしてます。間に合うかな??(汗)ユーリもお気に召して頂き、ありがとう御座います!!!!マジ、嬉しい。
2014-02-14 金 23:18:13 | URL | あお [編集]
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2014-02-15 土 00:32:22 | | [編集]
Re: タイトルなし
ぶんた様、コメントをありがとう御座います。親子で張り合う。わははは。父にその気はなくても、黎翔はその気ばっちりですわね。ウサギのリングは持ってないのですが、カエル好きなのでカエルのリングは持ってます。目はふつーのダイヤですが、お気にです。 パウローに近付くハルの存在に結構応援が(?)あり、笑っております。ハルさん、胸毛あった方がいいでしょうかね。体躯の良い長身で、髪は金で少しゆるふわをイメージしています。そして何より熱い視線をパウローに・・・・。 仕事場でのストレスもあると思います。本当に無くならないのは腹の立つこと。あちこちカメラを仕掛けておくか、ツ〇ヤ方式にして本にチップを挟むしかないか?
2014-02-15 土 01:11:19 | URL | あお [編集]
コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。