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Love is sweet.
St. Valentine's day ですので、短い甘い話を。・・・・甘いかな?

では、どうぞ











「陛下の髪を触ってもいいでしょうか?」

小首を傾げて上目遣い。 隣に腰掛けた夕鈴が小悪魔のような仕草で突然尋ねてくる。
もちろん駄目な訳が無い。 にっこり微笑んで頭を傾けようとすると夕鈴は立ち上がり、椅子に片膝を乗せて僕の肩に手を乗せて髪をそっと撫で出した。 腕を回して、僕の頭を抱え込むように柔らかく掻き混ぜ始めるから、一体どうしたんだと僕は固まってしまう。

「ふふ、思ったよりも柔らかいです」
「そ・・・・・そう? ありがとう」
「少し寒いから膝上に乗ってもいいでしょうか?」
「・・・いいよ。 ・・・・あの、夕鈴? 今日はどうしたのかな?」

微笑みながら膝上に横座りした夕鈴が、今度は顔を傾けて肩に頭を寄せて来た。 ここまでされたら何があったのだ?と訝しんでしまうのは仕方がないだろう。 もしかして何かが憑霊したのか、熱でもあるのか、何か変なものを食べたか飲んだのか。

「何かないと、陛下に甘えてはいけないのですか?」
「そんなことはない・・・・けど」

侍女が少し離れたところに控え、警護兵も近くを巡回している。 妃演技をしているのだと思えば、その通りなのだが、いつもは僕の演技に振り回されている君が今日は僕を振り回しているようだ。 それも照れも躊躇もなく、滑らかな演技で僕の方がタジタジしてしまう。
まあ甘えてくれるなら愛でるだけだ。
君の腰をきゅっと引き寄せ、香油を纏わせた君の髪に唇を当てる。 くすぐったいと甘えるような笑い声が胸元から聞こえて来るから、目を瞠って君を見下ろした。 
僅かに頬と目尻を染めた君が僕を真っ直ぐに見上げてくる。 甘い雰囲気がいつもより甘すぎるような気がして、僕は一生懸命に考えた。 そして気付く。

「あ、そうか。 ・・・・わかったよ、夢かぁ」
「何が夢なんですか?」
「うん? いや、覚めないで欲しいなって思ってね。 夢なら夢で楽しむことにしよう」

それなら遠慮も躊躇もしない方がいい。 覚める夢なら思い切り楽しむだけだ。 柔らかい頬を撫でて頤を持ち上げると、君の瞳が正面から僕を捉える。 少し潤んで見える瞳に口角が上がってしまう。 

「我が妃が愛らしいなと思い、胸が高まるばかりだ」
「私もで御座いますわ。 でも・・・・そろそろ政務に御戻りになる御時間でしょうか」
「問題ない。 例え急ぎがあったとしても、今は泡沫の夢の狭間だ」
「何を仰いますか、陛下。 夢の狭間などでは御座いませんわよ。 だって、ほら」

蠱惑的な笑みを浮かべた夕鈴が長い袖から白い指を出す。 指し示した先には、肩を怒らせた李順が書簡をいくつか抱えて足早にやって来る姿が見えた。 夢の中でも奴は怒っているようで、実にリアルだなと眉を顰めると、近付いた李順の額に青筋が浮かんでいるのが見える。 ここまでリアルな夢だと次に李順が何を口するか想像に易い。 妃と侍女の姿を一瞥した李順はひとつ乾いた咳払いをして侍女を下がらせ、眼鏡を持ち上げると怒りに震えた声を出す。

「・・・・陛下、いい加減、政務室へいらして下さいませんかねぇ?」
「ああ、想像通り過ぎて面白くない」
「何が面白くないと?」
「お前の台詞だ、李順」

侍女を下がらせたとはいえ、大声は禁物だろう。 それでも抑え切れない怒りを卓に叩き付けた李順が、顔を寄せて来るなり凶暴な笑みを浮かばせ睨み付けてきた。

「では楽しませる台詞を伝えましょうか、陛下。 その書簡に関して、宰相が至急お話があると申しております。 そしてそのまま宰相部屋での耐久執務となる予定で御座います」
「ええー、それは厭だよ。 夕鈴と楽しいひと時を過ごしているのに」
「陛下、お仕事が最優先で御座いますわ。 では、私は失礼致します」

するりと膝上から降りた夕鈴が僕に拱手して頭を下げると柔らかな笑みを浮かべながら、四阿から離れて行く。 無意識に追い駆けようとして、李順に掴まった。

「何だか日常と変わりない夢になってきたな」

そうボヤキながら頭を掻き、李順に引き摺られるように中央殿に足を向ける。 
宰相部屋で周の顔を見て、そして書簡の山を前にして、部屋に漂う陰湿で鬱蒼とした雰囲気を感じ、ようやく僕はこれは夢ではないと気付かされた。
長函が幾段にも積まれ、近付いた李順の鼻息が荒いと判り、眉を寄せて困惑する。

「今日はずいぶんぼんやりされていますが、如何なさいました」
「・・・・いや。 ああ、いや・・・・」

書簡を渡され、筆を走らせる内に現実が身に染みて来る。 夕鈴の何時もと違う態度は何だったのだろうと首を傾げたくなるが、あれはあれでドキドキさせられ楽しかった。 夕鈴から仕掛けられるとこんなにも動揺するのかと、だけど可愛らしい演技にたまには翻弄されるのもいいかなと笑みを浮かばせていると、李順から鋭い咳払いが飛んで来る。

「・・・・終わるまでは部屋を出しませんからね・・・・」

現実を知らしめる険しい顔が近付き、目の前で口から白煙を出して来る。 
大きく溜め息を吐き筆を動かし始めると、周が景気の悪そうな蒼白い顔でぼそりと零した。

「・・・・十月十日後、白陽国の人口が増えることでしょう。 秋の収穫時期、実り豊かな国と民に、陛下は更に忙しさを増し、秋の嵐に翻弄されることでしょう。 ・・・・御気を付け下さい」
「お前の戯言は相も変わらず意味不明で面白くない」
「今の陛下には関係のないこと。 御聞き流しになっても構いません」
「ああ。 ・・・・しかし、妙に気になるのはどうしてだろう」
「・・・陛下、いつまでも宰相部屋で書簡に囲まれて過ごされますか?」

筆を止めて周を見上げると、李順から大仰な咳払いが飛んで来る。 それだけは厭だと周の言葉を頭の片隅に転がしたまま陛下は筆を走らせた。 






***



後宮の自室に戻った夕鈴は、遣り終えたと肩から力を抜いて花茶を口にする。
頬を染めた紅珠から異国の祭り話を聞き、厨房で何か作り陛下に召し上がって貰おうかと思ったのだが、しかし李順から余計な出費は駄目だと叱責を受け、厨房を借りることが出来なかった。 寒い時期だけに温かい食事を召し上がって貰えたら喜んで頂けるのではと考えたが、見た目が地味な庶民料理しか出来ない自分だ。 
では何を贈ることが出来るのだろうと考え、捻った頭から零れたのが甘い妃演技だ。 
仕事の延長のような気もするが、今日は特別に気合を入れて演技をしてみた。 

「甘い演技が出来たかな? あれ以上は・・・・・私には無理」

思い返すと頭が茹るほどで、卓に乗せた手が震え出し、卓上の茶器が音を奏でるほどだ。 あとは甘い菓子と花茶を用意してあり、侍女を下がらせた今、いつ小犬陛下が来ても用意は万全。 忙しい陛下が来ない場合もあるが、それなら明日に回すだけだ。
時間潰しに、紅珠から読んで欲しいと渡された巻物を広げることにした。 
正直、読むのに勇気がいる物語が綴られているが、感想を問われるので読むしかない。

「・・・・・・・・・・・」

冒頭からジワジワと頬が熱くなり、目が泳ぎそうになる内容に喘ぎながら読み進める。
 
紅珠の想像する壮大な愛の物語・・・・・・・・・
互いの手指を絡め、頬を染める少女を引き寄せる陛下がその胸に閉じ込めるように包み込み、愛を囁く。 冷たい雨から少女を守るように抱きかかえ、見つめ合う瞳はいつしか閉じられ、そして互いの唇が重なる。 気持ちを伝え合い、しかしそこへ登場するのは陛下と少女を裂こうとする悪の大臣。 その企みを陛下は退け、少女を我が側にと望み、そして二人は幸せの花園へ手に手を取り合って駆けてゆく。

「・・・・・・・・・・・」

全て読み終え、丁寧に巻物を閉じる。 熱を持つ頬を叩き、汗が滲む額を拭い、大きく息を吐く。
卓上の茶を飲み、もう一度大きく息を吐いた。 ・・・・無理だ。 もう何かいろいろ無理だ。
紅珠の壮大な物語を読むたびに思う。 こんな風にらぶらぶ~な妃演技は私には無理だと。
口付けといっても、どうせ陛下にとっては 『あれくらいのコト』 で、『一番効率的で手っ取り早い』 と言っちゃうような些細なもので、給料が発生する仕事の一環で、夢も希望もない・・・・。

「・・・・そうだよね、ロマンチックもラブラブもバイトには関わり合いの無いことですわね」

棚に巻物を置き、夕鈴は溜め息を零した。 甘いラブラブは演技だけ。 
その内陛下には本物の妃が来て、紅珠の物語のようなロマンチックな展開が子の後宮で繰り広げられるでしょう。 私は地道に借金返済に勤しんで、それが終われば下町に戻るだけ。 甘いいちゃいちゃも今だけのこと。 プロ妃としての演技の腕を磨いて、陛下の傍に居られるために頑張るだけ。 
『好き』が間違っても溢れて気付かれないよう、気を付けて気を張って。

「だけど・・・陛下の髪、触っちゃった。 ・・・・・ふふ」
「ゆーりん、いる?」

手を見て微笑んでいると背後から声が掛かる。 
侍女がいないと知り、小犬の顔でそろりと入って来る陛下に夕鈴は椅子を勧めた。 お疲れ様ですとお茶と菓子を出して夕鈴が隣に腰掛けると、陛下が手を持ち上げて握り締めて来る。 どうしたんだろうと顔を上げると小犬は狼になっていた。 持ち上げられた手が狼の口元へ運ばれ、妖艶な笑みと細められた目が鋭い視線を向けて来る。 バクバクと跳ね始める鼓動を必死に押さえながら夕鈴は首を傾げる。

「ど、どうして狼陛下ぁ?」
「昼間の夕鈴が可愛くて、続きをしに来た。 さあ、膝上に乗って」
「じ、侍女さんもいませんのに演技など出来ません!」
「プロ妃を目指している夕鈴の演技指導だよ。 さあ膝上に乗って髪を撫でて。 ああ、美味しそうな菓子があるな。 これを美味しそうな夕鈴の指で運んで食べさせてくれる?」
「わたしの・・・指は美味しくありませんよ?」
「じゃあ試してみようか。 ほら、まずは膝上においで。 夫からの願いを叶えてはくれまいか?」

駄々漏れの色気を醸し出す陛下が人の腰を攫い、あっという間に膝上に座らされた。 菓子盆が引き寄せられ、「さあ、口へ」 と口を開ける陛下にどうしていいのか夕鈴は目を瞠る。 
もしかして陛下は今日が何の日なのか知ってしまったのか? 
それで私の演技が悪いと演技指導をするために狼陛下に?

もし、そうなら徹底的にやってやる。 プロ妃として私はやるわよ! 
負けないわよ、イヤガラセ狼陛下なんかに! 渾身のプロ妃を披露して、参ったと言わせてやる!



妙な方向に燃え始めた夕鈴と、甘い演技が癖になった陛下の夜は更けていく。


Happy Valentine's Day!





FIN

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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

短編 | 23:55:14 | トラックバック(0) | コメント(6)
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2014-02-15 土 00:23:11 | | [編集]
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2014-02-15 土 00:45:35 | | [編集]
Re: タイトルなし
ぶんた様、コメントをありがとう御座います。雪です、雪。バレンタインの荷物があるため、娘は父を上手く利用して学校に送って貰っていました。何しろ友人と食べるためにチョコケーキをホールで作ったため、電車では無理だと。嬉々として送る旦那に呆れます。(マジに) 明日も雪掻きだー。筋肉痛が出るだろうな。それも翌々日あたりに・・・・年には勝てません。くすん。
2014-02-15 土 01:14:10 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
名無しの読み手様、コメントをありがとう御座います。こっちが甘い話・・・・になってるかな?(笑)毎度毎度厨房貸切は無理だろうなと、今回はこんな話になりました。笑納頂けたら嬉しいです。
2014-02-15 土 01:15:42 | URL | あお [編集]
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2014-02-15 土 20:52:18 | | [編集]
Re: タイトルなし
ビスカス様、コメントをありがとう御座います。最後まで夢落ちにしようかと思ったのですが、「不透明な片隅の」と同じになるなと、夕鈴からのバレンタインデーにしちゃいました。時間が無くて慌てましたー!時間もギリで日をまたぐかとドキドキでしたよん。宰相の予言通り、恋人同士のイベントの後には間違いなく子供が増えるでしょう。民が増えて忙しくなる陛下だけど、皆のために頑張って貰いましょうね。その前に自分も幸せになれたらいいね。(笑)そういえば周宰相って結婚されているのかしら。娘が同じ顔だったら・・・・。星離宮の女官さんと同じ顔になるのか?
2014-02-15 土 21:48:38 | URL | あお [編集]
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