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融けた泉の扉  1

バイト夕鈴の話しです。 頑張る夕鈴が痛い目に遭う、二次としては王道で御座います。
・・・・・あら、痛い目に遭うのは王道か? あらら?

では、どうぞ











昨日降った雪の影響で、使われていない後宮立ち入り禁止区域の部屋は息が止まるほどに寒い。
火の気のない部屋で白い息を吐きながら掃除をしていると、回廊に屋根からの雪が落ちる音がした。

「お日様が出たから雪が融けて・・・・ぐちゃぐちゃだな」

昨日の雪が嘘のような青空が広がり、屋根から落ちる雪が水気のある音を立てて、また滑り落ちる。 
その音を聞きながら、下町を思い浮かべて子供の頃は真白い雪が土に混じり、泥だらけになるまで遊んだ記憶が甦る。 突然、その子供の頃の記憶に几鍔が乱入して来て、夕鈴は怖気に身を震わせた。 

「さっ! 仕事、仕事!」

ただでさえ寒いのに過去の記憶に几鍔が登場したことで余計に寒くなる。 
箒を動かし埃と共に几鍔を頭から叩き出し、拭き掃除に取り掛かることにした。 ある程度掃除が進み、汚れた水を回廊から庭へ捨てて腰を伸ばす。 水音に気付いた老師が顔を出して 「一休みしたらどうか」 と声を掛けてくれるから、夕鈴は白い息を吐きながら返事をした。

「老師、冷えると腰に来ますから温かくして下さいね。 この時期ぎっくり腰は辛いですよ」
「着込むと動きにくくなるが、冷えには敵わんからのぅ。 しかし御子が出来た話でも聞けば、寒さなど感じずに一気に春が来るというのに、全くお前さんには色気が足りぬわ!」
「それはバイトには関係のない話で御座いますからね」

いつもの不毛な会話をしながら温かいお茶を淹れていると、外からくしゃみが聞こえた。 
夕鈴が何だと顔を上げると、老師が 「浩大じゃろ」 と呟く。 寒いのに外で警護をしているのかと夕鈴は慌てて扉を開けて声を掛けるが、姿が見えない。 日が差しているとはいえ、外はやはり寒いから心配になる。

「浩大ー、お茶を淹れたから飲みましょうー」

雪が積もった屋根上にいるのかと思い、回廊に出て手摺を掴もうとして、その手が滑った。
手摺が雪で濡れていたためと融けた雪で濡れた回廊に足が滑り、更に屋根上の浩大に声を掛けようと上を向いていた夕鈴は、手摺を乗り越え、そのまま勢いよく庭へ転がり落ちる。

「のわぁああ!」
「お妃ちゃんっ!」

粗忽者という言葉が夕鈴の頭を過ぎり、屋根から飛び降りる浩大の姿が見えた。 
直後、目の前に星が瞬き、鋭い痛みが全身に奔る。 
声も出ないほどの痛さにのた打ち回っていると腕を引かれ、回廊の階段に座らされる。 口を開けるが声も出ないほど痛いと地団駄を踏むと頭に響き、痛みは頭から響いていると判った。 浩大が落ちた眼鏡を雪の中から探して持って来るが、掛ける余裕もない。 そしてお尻からジワジワと濡れた感じが背を這い上がり、見ると全身が雪と泥で汚れていた。

「ひぐ・・・・い、痛い・・・。 汚い・・・」
「庭石に思い切り頭を打ち付けていたからねぇ。 他に痛いところは?」
「わ、わかんな・・・・頭が一番痛い・・・・」

浩大が呆れた風に、それでも安堵した顔で息を吐き、雪を掬って頭に押し当てる。 
痛みが奔り思わず身体を捩ると、落ちた雪に血が着いているのが見えた。 
息を飲む夕鈴に浩大が 「それだけ動くようなら大丈夫だな」 と息を吐く。

「ぶつかったところから血が出てるね。 多少切れたみたいだ。 侍女に何て説明しようかぁ」
「う・・・・痛い。 さ、寒い」
「ああ、まずは着替えようか。 オレ、お湯を用意してくるから少し待ってなよ」

頭に雪解けの泥がついていて、頭巾を取るとそこにも血が着いていた。 雪を掬って頭巾の血を取ろうと揉んでいると老師が顔を出し、冷えるから部屋に入れと言う。 
情けないと思うが痛くて頷くことも出来ず、泥だらけのまま椅子に座って老師に傷の具合を診て貰うことにした。 大きな瘤が出来ており、出血は思ったほど無いが今日は掃除を止めて安静にしていた方がいいと強く言われる。 少し頭を動かすだけでズキズキと響くように痛むようでは、確かに掃除が出来ないと項垂れるしかない。

「頭の中で血溜まりが出来るより、出血があった方が安心だって。 でもそれだけ大きな瘤じゃ、痛いのも解かるよ~。 あまり触らない方がいいよな」
「さ、触りたくもない。 黙っているだけでも酷く痛いのに・・・・」
 
浩大が持って来た湯で髪と手や項の汚れを拭い、妃衣装に着替える。 
そのまま暫く頭に布を宛がい押さえるが、侍女に何て説明をしたらいいのだろうと困り果ててしまう。 
バイト妃の流れとして入浴もあるし、湯から上がれば髪を拭い、寝る前には髪を梳かれる。 頭を動かすだけでも痛いのに、髪を梳かれたら絶対に泣き叫びそうだと夕鈴は既に泣きそうになった。

「泥汚れがあるから湯で綺麗に流したいところだが、頭を打ったばかりで出血もあるからのぅ。 今日は風邪気味だと言うことにして早々に寝て、明日にでも早めに湯に入るがいいじゃろう」
「・・・・衣装に血は着いてませんよね? 掃除婦衣装は明日洗うから、そのまま置いておいて下さい。 乾いてから土を払って、それから洗いますから。 ・・・・うう、痛い」

喋るだけでもズキズキと痛む。 手巾に雪を包んで浩大が頭に当ててくれるが、いったい何処にぶつけたんだと聞くと庭にある灯篭の横の大きな石にぶつけたと教えられる。 立ち上がり窓から確認し、こんな大きな石に頭を打ち付けたのかと凝視していると、浩大が肩を竦めて危なかったと話す。 

「灯篭の角に当たっていたら、もっと切れていたかもね。 そうなると侍医に縫われて、もっと痛かったかも知れないよ。 しっかり冷やして今日は早く寝ることだよ、お妃ちゃん」
「ほれ、痛み止めじゃ。 多少苦いが、良く眠れるはずじゃ」

煎じて貰ったばかりの薬湯を口にすると確かに噴き出したくなるほど苦かったが、これ以上痛くなるよりマシだと我慢して一気に飲み干す。 それに縫われるほどの傷を負ったら、侍女への説明が難しくなる。 老師の許で妃教育を受けている妃が、どうしてこんな怪我をしたのだと疑われるのは勘弁だ。 バイト上司からどんな叱責を受けるか、想像するだけで痛みが増す。 傷に塩を塗られるようなものだろう。

恐ろしいと震えていると浩大が口直しだと菓子をくれたので口に放り込み、どうにか苦さが緩和される。 寝る前にも薬湯を届けると言われ、浩大が医官姿で持って行くよと言ってくれた。

「そうか、侍医に言うと風邪薬を持って来られちゃうか」
「滑って転んで大石に頭をぶつけました。 それも泥だらけになってなんて言えないもんな。 それにしても妃衣装の時じゃなくて良かったじゃん。 借金が増えちゃうところだったな」
「・・・・そう考えると掃除中で良かった・・・って思うしかないわね」

今着ている衣装が泥だらけで、頭から血を流した状態で侍女の前に姿を現したら・・・・。
蜂の巣を突いた状態になるのは間違いない。 
そして李順さんから無言で睨まれる自分を想像し、思わず大きく身震いして痛みが奔る。
 
手巾をもう一度押し当て、血が止まっていることを確認して夕鈴は部屋に戻ることにした。 
浩大が心配げな顔を見せるけど、自分の粗忽さが原因だ。 痛いのも二、三日で消えるだろう。 寝台で横になりながら頭を冷やし、明日も痛むようなら薬湯を貰いに老師の許に足を運ぼう。 政務室に行く仕事もあるが、この状態で方淵と睨み合う気はない。 
それに陛下に抱き上げられて辛い顔を見られるのもプロ妃としては駄目だろう。

「明日のために早めに横になるね。 浩大、薬湯を届けた時に私が寝ていたら起こすように侍女さんに伝えておくから、よろしくお願いします。 ほんと・・・妃衣装が汚れなくて良かった」
「苦いから甘い菓子の用意をして貰って。 もちろん、オレの分もね」
「了解です。 うんと甘いのを用意して貰うね」

笑うと痛みが奔るけど、やってしまったことは仕方がないと切り替える。 途中まで見送ってくれた浩大と別れ、夕鈴は部屋に入ると侍女に頭痛がすると伝えて寝所で横になると話した。 医官が夜に薬湯を持って来るから口直しの菓子の用意と、陛下には風邪がうつってはいけないからお渡りをお止め頂くよう伝言をお願いする。

夜着に着替えていると肩に痛みが奔り、頭だけではなかったかと溜め息を零してしまう。
青痣が出来たら湯番に何と思われるだろうと考え、自分の粗忽さにもう一度深い溜め息を吐いた。
夕餉まで寝ますと伝えて寝所から下がって貰い、瘤に触れないように一人で髪を梳き、乾いた土を落としてから寝所に潜り込む。 手巾を枕元に幾枚も敷き、万が一血で枕を汚さないように整えてから目を閉じたが、やはり痛くて直ぐには眠れない。 明日には痛みが引いていますように、消えていますようにと繰り返し祈っていると、薬湯が効いて来たのか瞼が重くなり、そしていつの間にか夕鈴は深い眠りに就いた。

医官が来ましたと声が掛かり、夕餉を食べて薬湯を飲む。 黙っていると痛みはないが、少し振ると痛みが奔る。 いや、振らなきゃいいのよねと苦笑を浮かべて甘い菓子を食べていると、侍女が慌てた様子で 「陛下のお渡りで御座います」 と告げに来た。

「きょ、今日は風邪気味なのでお渡りにならないよう、伝言をしたはずですのに!」
「そのようにお伝えしたのですが、見舞いだと足を運ばれました」

侍女が急ぎ茶器の用意を始める中、陛下が笑顔で現れる。 立ち上がった瞬間に痛みが奔り、頭を押さえようとして陛下の手が重なった。

「風邪と訊いたが大事はないか? 薬湯を飲んだようだが、寒気はないか」
「だ、大丈夫で御座います。 ただ、うつっては困りますので陛下は余り近くには・・・・」

引き攣った笑みを浮かべるだけで痛みが奔る。 傷に触れそうな陛下の手を取り、出来るだけ距離を取ろうとするのだが、引き寄せるような動きにバイト妃は抗えない。 陛下が片手を上げると茶の用意を済ませた侍女が微笑みながら退室して、静かになった部屋を確かめるように小犬が声を潜める。

「頭・・・・ぶつけたんだって? 大丈夫、夕鈴?」
「・・・浩大が報告したんですね。 痛み止めの薬湯を飲んだので、この後は直ぐに寝ます。 大したことはないのですが痛くて演技をするのが難しいから風邪だと言ったのに。 でも大丈夫です、一晩寝たら治りますよ」
「瘤が出来て、少し切ったと聞いたよ。 見せて」
「さ、触らないで下さいね! 見るだけにして下さいよ?」

眉を顰める夕鈴の髪を持ち上げ、ぶつけたという場所を確認する。
赤黒い傷が見え、思ったよりも大きく腫れている様子に僕は口を尖らせた。

「ちゃんと消毒した? もう出血は止まっているようだけど気分不快はない?」
「触ったり頭を振ったりすると痛いですけど、黙っていると問題はありません。 問題があるとしたら髪を梳く時かな。 でも明日はちゃんと政務室に行ってバイト妃をしますから。 仕事には差し支えません」
「・・・・瘤、大きいよ? これじゃあ簪とか無理だと思うけど。 夕鈴、明日は寝所でゆっくり休んでいて欲しいな。 午後に一度顔を出すから、ここで風邪をひいた妃らしく過ごしていたらいい」
「明日、痛かったら・・・・そうします。 でも痛みが消えていたら、ちゃんと仕事します」

真面目な夕鈴がそう言いながら、痛みに顔を歪めるから困ってしまう。 
浩大からの報告では眩暈や吐き気などの異常は無かったが、素晴らしくイイ音がしたと言っていた。 意識を失うことなく痛いと訴えていたと言うが、場所が場所だけに安静が必要だと心配するのに、夕鈴は仕事優先で頑張ろうとする。 いつもなら抱き締めて慰めたいけど、喋っているだけで痛みを訴える顔を見ていると、どう手を出していいのか判らずに僕は夕鈴の手を握り締めた。

「無理は駄目。 具合の悪い妃を無理に政務室に来させるなんて、そんなの仲良し夫婦じゃないだろう? 痛みがある時に無理はしなくていい。 見舞いには氷室から果実を届けさせるから楽しみにしてね」
「・・・・何もしないで高価な果実などを食べる訳には」
「夕鈴。 明日は髪を解いたままで寝ていること」
「・・・・・ぐぅ。 す、すいません・・・・粗忽者で」

申し訳なさそうに項垂れるけど、僕の心配は伝わったのだろうか。 頭を撫でようとした手を止めて肩を撫でると、夕鈴は強く顔を顰める。 驚いて手を離すと、「肩も・・・ぶつけて」 と笑おうとするから、明日は絶対に寝所から出ないよう強く言い含めた。 僕の言葉に夕鈴が眉尻を下げた顔を見せるが、仕事をさせるつもりはない。 意志が伝わったのか、夕鈴が小さく頷くのを見て僕はようやく安堵出来た。

「明日、顔を出すから。 ちゃんと休んでいること!」
「大人しく・・・休ませて貰います。 陛下もお仕事頑張って下さいね」

明日は仕事をしないと確約させて手を握ると、夕鈴は僕に笑みを向ける。 
そのいつもの夕鈴の笑顔に安心する自分。 
痛い思いをしたのに、常に頑張ろうとする君の姿勢にいつも励まされる。 部屋に来ると君はいつも僕を癒そうと頑張ろうとして、そして何時の間にか素のままで対応してくれるのが嬉しい。 
今回のことは可哀想だが、大人しく休むしかないだろう。 
痛み止めの薬湯を飲み、瘤が消えるまでは大人しく安静にしていたらいい。 甲斐甲斐しく見舞う夫を演じながら、僕もゆっくり君の横で休ませて貰うとしよう。
でも真面目な夕鈴に追い出される可能性もあるな。 そう思うだけでも楽しいと僕は笑う。

「陛下? 人が痛い思いをしたのが、そんなに面白いですか?」
「違うよ。 ・・・・どんなふうに落ちたのかと思ってね。 ごめんね」
「・・・・目から火花が散りました。 きれいなお星さまも見えました」
 
頬を膨らませて怒った瞬間、痛いと顔を顰める夕鈴に、早く休むように伝えて僕は部屋を出た。






まさか翌日、君の笑顔が消えるとは思いもしないで。










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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 12:12:12 | トラックバック(0) | コメント(7)
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2014-02-17 月 12:56:04 | | [編集]
Re: タイトルなし
ますたぬ様、コメントをありがとう御座います。王道の二次といえば夕鈴痛い・・・って間違い?(笑)頭ぶつけて血が出るほどって、めちゃめちゃ痛いですよね(他人事)頑張れ、夕鈴。この先も大変だぞぉー!
2014-02-17 月 21:40:18 | URL | あお [編集]
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2014-02-18 火 00:16:13 | | [編集]
Re: タイトルなし
らぁ様、コメントをありがとう御座います。痛いの好きですか(笑)ありがとう御座います。黒い狼さんもその内、のんびり出て来る予定ですので宜しくお願いします(何を?)花粉はここ二、三日は気にならない程度です。まだ市販薬で大丈夫。でもその内・・・??怖い!
2014-02-18 火 08:52:13 | URL | あお [編集]
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2014-02-18 火 17:35:07 | | [編集]
Re: もっと痛くなる?
ぶんた様、コメントをありがとう御座います。雪の影響であちこち大変ですね。北海道の実家から電話が来るほどです。雪掻きは大変ですが、他に比べたら問題はないと伝えるとTVの情報がすごくて驚いてと。そうそう、体育授業がスケートの寒い場所で育ったので、掃除中雪に滑ってというのはよくある話。雪が着いたまま廊下を歩くと、その後つるつる。学校内でも廊下と体育館は下手すりゃ0℃ですもの。登校時は-10℃は当たり前でマンホールの上に積もった雪は曲者。手摺からつるりも「あるある」です。(笑) そして鳥の長生きは嬉しいですね。以前、実家で九官鳥がいました。16歳という長生きでした。
2014-02-18 火 20:53:03 | URL | あお [編集]
Re: もっと痛くなる?
ぶんた様、追記。 後宮では皆様楚々と歩かれるでしょうから、怪我するような粗忽者は夕鈴くらいだろうなと、読み返して一人で納得。慰めてくれるのは陛下くらいか? 李順さんが知ったら・・・怖いね! きゃあ! そしてネットで調べて鳥の長寿に目からウロコが。超すごいじゃないですか! 餌が高級? それとも飼い方なのかな。うちの犬も長生きして欲しい・・・・。
2014-02-18 火 22:49:01 | URL | あお [編集]
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