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融けた泉の扉  5
バイト夕鈴、翻弄されていますの巻。さて、桐をどうしようか思案中。出す場面が出て来ない。おろろ。

では、どうぞ












明日、目が覚めたら自分はどうなっているだろう。 
目が覚めたら記憶が戻っていて、何も知らずにバイトを続けるだろうか。 
今、こうして考えていることを忘れ臨時花嫁として再び、狼の演技をしながら小犬のような笑みを浮かべる陛下の側で、借金返済のために日々働くのだろうか。 いや、働かざるを得ないだろう。 
借金があるというなら、真面目に働いて返すしかない。 
記憶が戻れば、皆にこれ以上の心配も迷惑もかけることはない。 
記憶さえ戻れば・・・・。 

「・・・・考えても仕方がないけどね」

頭に触れると少しだけ痛みが奔る。 だけど今朝よりもずいぶん良い気がした。 
掃除婦として働いているとも言っていたのを思い出し、明日は部屋で寝ているより身体を動かそうと決心する。 寝てばかりの妃で給料を貰うより、しっかりと身体を動かして得た賃金の方がいい。 
その方がよっぽど自分らしい。

「・・・・・・」

そう考えた時、そう思う自分に胸が痛くなった。 胸の奥に石でも詰められたかのように重くなり、鈍い痛みが指先を痺れさせる。 泣きたいのは違う。 ただ、どうして悲しく思うのだろうと切なくなった。





翌朝、数冊もの妃教育本と苦々しい湯気を立たせる薬湯を届けに来た医官に 「老師に御会いしたいのですが」 と尋ねると若そうな医官があどけない顔に笑みを浮かべ 「頭の痛みは?」 と尋ねられる。

「随分良くなりましたので、その報告と傷の具合を診て頂きたいのです。 それと相談がありまして」
「では、着替えを済ませましたら御案内致しましょう」

廊下で待っているというので、侍女さんにお願いして急いで着付けをして貰う。 髪は頭が痛いと伝え解いたままにして貰った。 瘤が出来ているなど、粗忽な妃を侍女さんに露呈してはいけない。 老師の許に行って来ますと伝えると、いつものことなのか部屋の入り口で拱手して見送られ、医官の案内で後宮の奥へと足を進めることになった。

「・・・・記憶、戻った?」
「あ、いえ。 まだ、戻りませんが・・・・え? 詳細を御存じなのですか?」

先を歩く医官がにぱっと笑みを浮かべた顔を向けて来る。 陛下とバイト上司、老師以外は私の記憶が無くなっていることを知らないと思っていただけに心底驚かされる。 角を曲がり、急に寂れたような様相が広がったのにも驚き、キョロキョロ見回していると医官が 「足元に気を付けて~」 と声を掛けてきた。
砕けたような物言いに、何故か安堵する。
老師のいる部屋に通されると、直ぐに頭を診て貰うことになった。

「うん、随分、腫れは引いたのぅ。 吐き気などは無いのか?」
「吐き気はありません。 今日は頭を振っても痛みが無く、掃除をしようと思って来ました」
「・・・・陛下の許可は貰ったのか? 薬湯で昨日は随分長く寝ていたと聞くが」
「はい、痛みが無くなったら再開してもいいと仰ってくれました」
「ほぉ~、陛下はお前さんには優しいのぅ。 それで上手く誘うことは出来たか? 心配で何度も部屋に行ったのだろう? その際に熱い抱擁はあったか。 不安だと言って一緒に寝るくらいはした方がいいぞ」
「では、掃除に行って来ます」


高齢者の戯言を右から左へ流し、ケラケラと笑う医官に案内されて別部屋へと向かう。
いつまでも部屋で休んでいたら身体が鈍りそうなので動きたい。 
それと、何も考えずに掃除をしていた方が楽な気がする。 
記憶が無いというのは本当だろうかと疑問が残るが、季節は明らかに違うし侍女さんたちは美人で御淑やか。 衝立や衣装や茶器や食事は見たことの無いものばかりで高価な品々だとわかり、庶民には近寄るのさえ憚れるほどだ。

教えられた場所で掃除婦らしい衣装に着替え、妃と分からないように伊達眼鏡の着用を義務付けられる。 水桶は着替えている間に運んでおいたと言われた。 指示された掃除予定部屋に入ると、案内をしてくれた医官が何時の間にか衣装を変えて卓に腰掛けている。
 
「えっと、医官の方は・・・・お仕事に戻らなくても宜しいのでしょうか」
「お妃ちゃんが飲んでいるのは風邪薬じゃなくて痛み止めだろう? 老師が作ったのを運んでいたのはオレでね、お妃ちゃんがバイトだって知っているんだ。 オレのことは浩大って呼んでね」
「・・・・そう、なんだ。 だから記憶が無いのも知っている、のね」

夕鈴が訪ねると困った顔をされて、眉を顰めると浩大の唇が何か呟いた。 
声に出されない言葉が謝っているように見え、夕鈴は黙って首を横に振る。 
箒やハタキを用意され、早速掃除を始めると肩の痛みも軽減しているのが判った。 あとは記憶かと口の中で呟き、雑巾を絞る。 

「ここは・・・・何処なのかな。 何で私はここを掃除しているのかな」
「ああ、ここは後宮立ち入り禁止区域でね、誰も使用していないんだ。 本来ならたくさんのお妃さんが陛下のために犇めく場所だけど、陛下は今はそれどころじゃないからね」
「内政が整うまでは、今しばらく妃推挙を退けたいための臨時花嫁が私。 内政が整ったら、この場所にはたくさんのお妃様がいらっしゃるのね。 そのための掃除婦・・・・・か」
「使わないままになるかも知れないけどね。 ま、今は唯一の妃があんたで、オレは陰から警護を任されている。 記憶がない内は不安だろうけど、何かあったら相談してね」 

回廊に出るとどこまで続く部屋が見え、解けた雪が庭を濡らして陽光を跳ね返す。 

「大臣や侍女さんたちの前では怖い王様を演じていると言っていた。 だけど二人の時は困った顔を見せる、優しい感じがするのだけど。 ・・・・それも内緒・・・・なのね」
「そうそう。 誰にも言っちゃ駄目だよん」

本当は優しい人なのに、演技で怖い王様を演じて国を守ろうとしている。 だから私は頑張っていたのかな。 勿論借金返済が前提だけど、触れることに嫌悪はない。 抱き上げられることや額や手が触れることに驚きはするけど、厭ではない。 頑張っている人を前にすると応援したくなる。 自分に出来ることがあるなら、精一杯お手伝いしよう。 記憶が無くても出来ることはたくさんあるはずだ。

「仲良し夫婦を周囲に見せ付けるって言っていたわね。 それって、どうしたらいいのかな」
「べたべたイチャイチャしながら散歩したり、四阿でお茶をしたり、政務室で抱き上げられたり」
「・・・べたべた、イチャイチャ・・・。 それを・・・せ、政務室で? せ、政務室って国のために働く官吏の方々や大臣がいらっしゃる場所でしょ? そこにバイトが、女が顔を出していいの!?」
「いいの。 お妃ちゃんは政務室に行って、唯一の妃は私よって寵愛を誇示して、陛下が来たら抱き上げられて大臣や官吏に見せ付けるのが仕事。 首に手を回してさ、いちゃいちゃ~って。 基本は狼陛下に任せてラブラブ~って感じで寄り添っていたらいいだけじゃん、簡単だろう?」

昨夜の侍女の前で妖艶な陛下を思い出し、夕鈴は激しく狼狽した。
人前で抱き上げられ首に手を回す。 いや、まずイチャイチャが良く理解出来ない。 

「まあ、あとは慣れじゃない? 陛下のすることに嬉しそうな顔でしな垂れかかって居たらいいだけだから、楽じゃんか。 陛下もすげぇ喜ぶと思うしさ。 頑張ってラブラブ~してね」

じゃあ仕事があるからと窓枠から姿を消す浩大に何も言うことが出来ず、老師の言葉を思い出す。
沢山の大臣や貴族が陛下に妃を勧めているという。 傀儡の王にするために、自分の娘を正妃にするために、いろいろな思惑を持ち陛下に妃を勧める。 忙しいという陛下は臨時花嫁で場を凌ぎ、その臨時花嫁は王宮備品を壊して借金をした。 長くなったバイトを、私はどう思いながら過ごして来たのだろうか。 
狼陛下と揶揄される陛下の側で、寵愛を受けている唯一の妃としてイチャイチャしながら過ごす。 
ただの庶民が豪華な食事をし、貴族息女だろう侍女さんに傅かれ、国王に抱き上げられ、膝上抱っこされ、菓子を口に運ばれるなど正気の沙汰じゃない。

「こんな生活、普通じゃない! 出来るだけ早く借金返済をしなきゃ駄目人間になる!」

ハタキを振り回して埃を取る。 舞い踊る埃の中、窓から入り込む冷たい空気を肌に感じながら、未来の妃のための部屋を掃除した。 ジクジク痛むような違和感を覚えながら、夕鈴は手を動かし続ける。



昼過ぎに浩大が姿を見せ、「お妃ちゃん、仕事の時間だよん」 と声を掛けて来た。
午後は陛下が後宮に顔を出すから、妃衣装に着替えて一緒に過ごすように言われる。 急ぎ手や顔を洗い、衣装に着替えて部屋に戻ると、丁度陛下も顔を出したところだった。

「今日は晴れ間も見え、君の調子も良いようだ。 少し庭園に行かないか」
「陛下の行かれるところでしたら、何処へでも喜んで」

拱手した手で跳ねる鼓動を押さえ付ける。 そう言えば朝飯は一緒じゃなかったなと思い出し、顔を上げると薄く笑みを浮かべた狼陛下が手を差し出して来た。 そろりと手を重ねると強く握られ、目を瞠ると上へと持ち上げられて行く私の手。

「手が冷たいな。 良くなったと安心していると再び風邪を召すぞ」
「いえ、それは掃・・・・・きゃ!」

手が引かれたと思った瞬間、身体は片腕に掬い上げられていて、慌てて腕を回したのが陛下の首と分かり夕鈴は固まってしまう。 確かに首に腕を回さなきゃバランスが取れなくて落ちそうになるけど、庶民が陛下の首に手を回すなどいいのかと開けた口が塞がらない。 その上、首に回した手が掴まれ、目の前で指先に陛下の唇が押し当てられる。 

「私の襟元に手を入れて暖を取るがいい」
「・・・・お、側にいられるだけで・・・・温かくなりますわぁ」
「愛いことを言う。 ゆるりと散策をしてから茶を飲む。 池近くの亭に用意を」

赤くなっていいのか、蒼褪めていいのか判らずに陛下の肩に頭を乗せる。 老師が言ったように頬を指でなぞったり、頬を摺り寄せたりは出来ないから限界ギリギリのところを模索してみた。 でも、これも息が止まるほど辛い。 国王陛下の肩に頭を乗せるなど、不敬ではないかと心臓がバクバクしている。 
乙女として聞きたくはないが、聞かなければならぬことだと陛下の耳に小声を落とす。

「お・・・重く、ないですか? 痛みも随分良くなりましたので、もちろん歩けますよ」

笑いを堪えているのが判る振動にむっとすると、問題ないと小声で返された。 そうか、問題ないのかと肩口に頭を乗せたまま庭園を眺める。 見たことの無い、広く綺麗に整えられた庭園にはまだところどころに雪が残り、濃い緑を残した茂みと寂しげな枝で寛ぐ鳥が見えた。 見たことのない景色のはずなのに、見覚えがある。 その不思議な感覚に頭の奥が何かを押し出そうとした。 
肌触りの良い衣装に身を包んだ私が国王に抱き上げられて後宮の庭園を眺めている。
臨時花嫁の言葉が頭を過り、夕鈴は口を開いた。

「・・・・やっぱり降ろして下さい」
「足元に気を付けてね。 砂利道だけど雪で滑ることの無いように」

滑って転んだら記憶が戻るかしらと考えたが、足元を見ると砂利道以外は雪混じりの土だ。 これでは妃衣装が泥だらけになり、借金追加を余儀なくされるだろう。 知らず唾を飲み込み、陛下を見上げて袖に手を伸ばした。 自分はしっかり者だと自負していたが、王宮で備品破壊などした上に滑って頭を打ったと聞けば何かに縋りたくもなる。 

「すいません、捕まっても宜しいですか?」
「しっかり掴まっていいよ。 あ、袖より手を握った方が僕も温かいから嬉しいな」

どうしてだろう。 頬を仄かに染めた陛下と歩くことが嬉しく感じる。 
これも仲良し夫婦演技の一環で、ただの仕事だというのに楽しいと感じていいのかな。 
そう言えば、今は侍女さんは四阿で茶の用意をしていて、他に誰もいないから陛下は小犬のような顔を見せているのだろう。 四阿に行ったらまた狼陛下との演技が始まるのか。

「私、痛みも随分消えましたので、記憶がないからといって掃除ばかりじゃ駄目だと思うのです。 しっかり妃演技をしますので、四阿で御指導下さい! 明日からは政務室にも行かせて貰います」
「政務室は無理だろう。 見知った官吏もいる。 侍女のように風邪や薬で朦朧としていたと誤魔化すことは難しい。 細かいところを突き、陥れようと画策する輩もいるからな。 大丈夫、君は後宮で僕と仲良し夫婦として過ごしていたらいいよ、ね?」

そう言われると失敗が許されない内密の仕事を任された人間として、陛下の足を引っ張る訳にはいかない。 柔らかな笑みを浮かべる陛下を見上げ、夕鈴は拳を掲げた。

「・・・・判りました。 李順さんから届けられた妃教育本を読み、まずはきちんとバイト妃が出来るように勉強を優先させます。 でも、私に出来ることがあったら何でも言って下さい。 余り・・・出来ることは無いかも知れませんが、精一杯頑張りますから!」

力強く言い放った私に陛下が嬉しそうな顔を見せる。 ぎょっとするくらい嬉しそうで、思わず視線を逸らしてしまった。 なんだか恥ずかしくて、まともに直視出来ない。 夕鈴は自分の動揺に困惑しながら、握った手から伝わる熱に大きく跳ねる鼓動を必死に抑え込む。

池近くの亭に近付くと陛下が再び私を抱き上げた。 侍女がいる前では演技が始まる。
精一杯頑張ると決めたばかりだが、妖艶な狼陛下の演技に私の決意は脆くも崩れそうだ。

仲良し夫婦って膝上抱っこが必要なのかしら。 髪に口付けるのは当たり前なのかしら。 
頬を撫でる指先の動きは何処で習得されたのでしょうかと問いたいほど淫靡で、そして近くで見守る侍女さんからの微笑ましいものを見るようなニコニコ顔に私の顔は強張り続ける。 
過去に自分が経験して来たバイト内容とはまるで違うが、私はこれを半年以上も続けていたというのか。 そんな自分を褒めてやりたいと思う一方、記憶がない分ちゃんと出来ているのか不安になる。 
浩大から陛下に寄り添って任せていたらいいと言われたが、翻弄されるばかりで妃らしく出来ているのか判らない。 不安が胸を重くさせ、陛下から掛けられる言葉に自分がちゃんと返答出来ているのか判らなくなる。

嬉しそうな顔を作っていたつもりだが、急に顔に陛下の袖が押し当てられた。 
頭から覆うように包み込まれ、頭上から小さな声が落ちて来る。

「・・・・まだ頭が痛むか? 君の憂い顔を誰にも見せる気はない。 散策後に妃を部屋に戻すから、お前たちは直ぐに茶器を片付け、部屋を暖めておくように」

茶器を片付ける音がして、そして砂利を踏む足音が遠のき、顔に覆われていた袖が払われた。

「痛いのを我慢していた? 大丈夫?」
「いえ・・・いえ、大丈夫です。 痛くはありません」

気遣う声に自分は何か失敗してしまったのだろうかと蒼褪める。 仲良し夫婦演技を見せ付けるはずが急に人払いするなど、自分はどんな失敗をしてしまったのだと急ぎ膝上から降りて謝罪しようとした。 だけどお腹に回った陛下の手は外れず、逆に包み込むように抱き締められてしまう。









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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 15:35:05 | トラックバック(0) | コメント(6)
コメント
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2014-02-23 日 17:32:36 | | [編集]
Re: タイトルなし
彩華様、コメントをありがとう御座います。以前書いた話で記憶が無くなった夕鈴に悪戯する陛下を書きまして、今回は押さえようと思ったのですが、言うことを聞いてくれません(笑) 少し暴走気味かも知れません。困った。
2014-02-23 日 20:42:21 | URL | あお [編集]
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2014-02-23 日 22:39:49 | | [編集]
Re: タイトルなし
ますたぬ様、コメントをありがとう御座います。陛下頑張っております。今のうちに出来るだけ接触をと。あ、桐はこの後にちょい出て来る予定です。やっと出番が出ると私が安堵しています。(笑)
2014-02-24 月 00:10:06 | URL | あお [編集]
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2014-02-24 月 15:27:26 | | [編集]
Re: 封印中
ぶんた様、コメントをありがとう御座います。ここの夕鈴は地道に頑張ってますが、本誌見て目の玉が転がり落ちそうでした。今までの展開と違い、あれは動揺します。びっくりです、仰天です、おいおいっと突っ込みたくなります。来月号が今からイライラしながら待ち遠しいというか、何というか。基本、そこしか読まないのですが、他の者を呼んで動揺を鎮めなきゃ治まりません!おろろ・・・です。
2014-02-24 月 19:09:07 | URL | あお [編集]
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