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融けた泉の扉  7
風邪や花粉が流行中。天気予報に一喜一憂です。風邪かと思うほど辛い時、外に出て温かいのだと知り、天を睨んでしまう自分がいる。花粉症になる前は「まあ、良い御天気だわ。布団干し、干し」と鼻歌を歌っていただろうに。家を出るのが毎朝辛い時機到来です。
らっこ様、お元気でしょうか。最近コメントがなくて心配です。


では、どうぞ












翌日、医官姿の浩大が薬湯を運び、苦々しいそれを飲み干すと侍女が用意した菓子を口にする。 皿にあった菓子が目を瞬く内に、何故か浩大の懐に仕舞われるのを見つめ、顔を上げると爽やかな笑みが返って来た。 見なかったことにして、医官姿の浩大と王宮へと向かう。 
バイト上司に言われたとはいえ、記憶がない状態では何処に行けば判らない。 
医局に戻る医官と共に向かう夕鈴の背後には二人の侍女が付き従っている。 貴族息女だろう彼女らを従えて王宮を歩く自分に蒼褪めてしまうが、今は妃らしく見えるように背を正して御淑やかに歩くしかない。

指示された部屋に来ると医官が恭しく拱手して下がり、侍女も拱手一礼して下がって行く。
渇いた咽喉に無理やり唾を飲み込み、夕鈴は部屋へ足を踏み入れた。

「失礼、致します・・・・」
「夕鈴殿、早速ですが妃教育本に目を通しましたか? 体調不良と薬湯により長く寝ているのは存じておりますので、無理をさせる気はありませんが、まだ記憶が戻った様子は無いようですね」
「はい。 ・・・・申し訳御座いません」

眼鏡を持ち上げるバイト上司に身が竦む。 どうやったら記憶は戻るのだろうと視線を彷徨わせながら、記憶が戻らなかったらどうなるのだろうと不安が過ぎる。 今、こうして不安になる自分は何処に行ってしまうのだろう。 そう思うだけで怖くなる。

「陛下が貴女を見舞うことで他へ仲良し夫婦を周知させることは出来ておりますが、政務を妨げることは断じてあってはならないことです。 夕鈴殿には短時間で上手く陛下を政務に、または部屋に戻るよう誘導して下さい。 それもバイト妃の仕事と思い、よろしくお願いしますよ」
「・・・・・はい」

何だか途轍もなく難しい案件を任されたような気がするが、険しい顔のバイト上司を前に厭と口に出来ない雰囲気がある。 しかし、お忙しい陛下が仲良し夫婦演技のためとはいえ長い間バイトに係わっている暇は確かにないだろう。 

「何を言われても聞き流し、頷かずにいて下さい。 体調が悪いようでしたら陛下を遠ざける!」
「はい!」
「下手に頷いたり、いいですね~などと賛同しないことです!」
「はい!」
「早く記憶が戻るよう努めて下さい!」
「はい!」
「陛下が見舞いだと持って来た品には、間違っても手を付けないこと!」
「はい! ・・・・か、菓子はどうしましょうか?」
「菓子は問題ありませんが、衣装や宝飾などは全てバイト終了時に返還されるものと心して扱うように。 もしも陛下が持参されても、後程回収致しますから破損させないように!」
「はい!」

一気に叩き込まれるように言われ、返事をするだけでいっぱいいっぱいだが、バイトとして線を引けと言うのは伝わって来た。 相手は国王陛下だ。 そこは言われずとも解かる、自分はただの庶民だ。 取り敢えず記憶がない間は後宮の部屋で大人しく過ごすことと、体調が良ければ老師の許で掃除をすることを伝えられた。 そして記憶が戻ったら直ぐに知らせに来ることを強く伝えられ、話しが終了する。

短時間で終わったにも拘らず、ぐったりと疲労感を覚えながら部屋を出た。

李順に言われた言葉を頭の中で繰り返す。 庶民と国王陛下の線引きをしっかりして、陛下の優しさを勘違いしてはいけない。 記憶がないバイトに優しい陛下に、間違っても勘違いしては・・・・!

「ん? 勘違い・・・って?」

何だろう、胸がざわざわする。 
ホトホト歩きながら胸が重く感じる違和感に首を傾げ、そして顔を上げると見知らぬ場所だった。
いや、今の自分にとっては見知らぬ場所だらけなのだが、後宮じゃないことだけは解かる。 間違えて来てしまったと踵を返すが、目の前には何処まで続く長い廊下。 部屋から出る時、侍女さんの姿が無かった。 何処かで待っているのだろうか。 それとも後宮に戻ってしまったのだろうか。 記憶があれば問題なく戻れたのかも知れないが、今の自分は右に行ったらいいのか、左に行けばいいのかも解からない。 
どうしようと立ち止まり、浩大の顔が脳裏に浮かぶ。 何かあったら相談してねと言われたが、今は何処にいるのかもわからない。 これでは相談しようがないじゃないか。

誰かに訊いてみるのが一番早いだろう。
あら、・・・・・何て訊く? 

『すいませーん、後宮へはどうやって戻ればいいのでしょうかぁ』 

いや、そんなことを訊くのはおかしいか? うん、不味いだろう。
後宮に住まう妃が、政務室に足蹴く通っていた妃が自室に戻れないなど、絶対に怪しい。 
迷子になったなど、口が裂けても言えない。 
確か細かいところを突き、陥れようと画策する輩もいると陛下が言っていた。 
バイト妃がいること自体内密なのだ。 下手なことを尋ねてボロが出ては困る。 借金がある身で、それも王宮備品を破損した身で首になっては返済に困るのは目に見えている。 青慎は今どうしているだろうか。 あの子はしっかりした子だから大丈夫だとは思うが、心配なのは容易に金を借りる父さんだ。 早く借金を返済して私があの子を守ってあげなきゃ。 
取り敢えず李順さんと話をしていた部屋に戻って、そこで戻る道順を尋ねるのが一番だろう。
しかし考え事をしながら歩いていた夕鈴は、踵を返して愕然とした。
似たような光景が続く回廊と、広大な王宮側庭園。 
後宮側庭園と区別がつかず、そして似たような光景に足が動かない。 
これ以上迷子になると、余計な迷惑を掛けそうで、だけどここで茫然と立っている訳にもいかない。 そろりと足を動かし出すと、後ろから声が掛かった。

「お妃様、良いところで御会い出来ました。 御久し振りで御座います」
「・・・っ! お、御久し振りで御座います・・・」

声を掛けて来たのは壮年の男性で、李順さんのような衣装を身に纏い、そして鷹揚な態度で夕鈴を見下ろして来る。 狼陛下唯一の妃と言っても、身分的には下っ端妃と聞いている。 見下ろしているというより、見下しているのだろう視線に、夕鈴は強張りそうな顔を団扇で隠して優雅に微笑んだ。

「ここ数日は御風邪でも召されていたのか、政務室では御見かけ致しませんでしたな。 ああ、宜しければ少しお時間を頂けないでしょうか、お妃様」
「・・・・大変申し訳御座いませんが、行くべきところが御座いまして」

記憶がない今の自分が、誰ともわからない相手に下手なことを言ってしまう危険を回避しようと踵を返すと、失笑が追い駆けて来て、更には人物の背後に控えていた侍従が夕鈴の退路を断つ。

「陛下にお妃様を案内するよう指示されておりますので、迎えに参りました」
「それは・・・・嘘で御座いましょう。 陛下は側近殿と執務室に居りますから」

陛下の居場所など知らない夕鈴は団扇で口元を隠しながら、それでもはっきりと答えた。 
僅かに眉が持ち上がるのが見え、やはり嘘かと男の侍従を睨み付ける。 回廊に立ち塞がるように立つ男に、道を開けるよう袖を振り無言で示唆するも相手は動かない。 胸が痛くなるほどの動悸がするが、ここで下手に狼狽しては駄目だと夕鈴は唇を噛んだ。 今自分は狼陛下唯一の妃なのだから。

「私は行くべきところがあると言いました。 ですからお退き下さい」
「こちらも退けないので御座いますよ、お妃様」

前にも後ろにも下がれず、大きな声を出していいのかも解からない。 いつもは大人しく弱々しい妃を演じているのだろうか。 それとも素のままで・・・・いや、それは駄目だろう。 素のままでバイトが出来るなら、李順さんが妃教育本を持って来ることは無いはずだ。
しかし周囲から感じる不穏な空気を前に、このままでは良からぬことに巻き込まれるのは必至だろうと考える。 陰から警護しているという浩大を呼べばいいのだろうか。 彼の名を叫べば、すぐに来てくれるだろうか。 いや、陰からということは表立って警護出来ないという意味かも知れない。 記憶がない分下手に動けない自分に、苛立ちさえ感じる。 
元はただの庶民で、妃避けのために用意された臨時花嫁だ。 
取り敢えず何もわからない風で、誤魔化すしかない。 
実際何もわからないのだが。

「どのような話があると言うので御座いましょうか。 私に話すより、陛下にお話なさる方が早いのではないのですか。 陛下以外の御方が口を聞くことさえ、本来でしたら憚れましょう」
「どうしても御聞き頂きたい話なので御座います。 まずは別室へ御案内致しましょう」

従う気はないと身構えた私の口に何かが押し当てられた。 薬臭いと眉を顰めて背後から回った手を振り払おうとするが、まるで敵わない。 まさか、王宮で妃を攫うなど有り得ないだろうと目を瞠る私の前で、大臣らしき男が胡乱な視線を投げ掛けて来た。

「・・・・このような口の聞き方も碌に知らぬ下っ端妃などの、何処がいいのか」

走って逃げたら良かったと悔やむ私を悪意ある視線が睨ね付ける。 睨み返していたが長くは続かない。 身体中から力が抜けていくのを悔しいと思いながら、私は気持ち悪いほど回る視界から目を逸らし、そして闇に堕ちた。





***




寒さに身を震わせ、目を開ける。 身体が痛いのは床上で寝ていたからだろう。 おまけに背に回った手がしっかり縛られているようで、少しも動かせない。 更に足も縛られており、そして猿轡までされていた。 いくら目を細めても見えるのは暗闇だけで、ここが何処だか何時なのかも解からない。
身体から力を抜くと床から寒さが這い上がって来るが、どうしようもないだろう。
妃が攫われた。 今自分が判るのはこれだけで、でもどうすることも出来ない状態だ。 手首を動かすがきつく縛り上げられており、容易に解くことが出来ない。 下っ端妃だと蔑むような言葉が耳に残り、何を考えているのか想像出来て身体が大きく震えた。 妃推挙を企む大臣たちが、唯一の妃が邪魔だと行動を起こしたのだろうが、何も記憶がない時に攫わなくてもいいじゃないか。

私を質に妃推挙を推し進めるのだろうか。 それともバッサリと斬り捨てるつもりなのだろうか。
何だか後者のような気がして怖くなる。 だけど同時に大丈夫だと漠然と考える自分に驚いてしまう。 自分がどうなるか解からない怖さはあるのだけど、心臓がバクバクしているのだけど、似たようなことがあったような気がして大丈夫だと確信もないまま思っていた。 
どうして、そう思うのだろう。 抜けた記憶の中に同じようなことがあったのだろうか。 固く閉じた引き出しを引っ張り出そうとして、だけど余りの固さに眉間に皺が寄る。 溜め息を吐くと次第に跳ねていた鼓動が落ち着いて来た。 思い出せないのに大丈夫だと落ち着くのはどうしてだろう。

床上で転がりながら首を傾げた時、ギシリと床が鳴った。

「目が覚めましたか、お妃様」

顔を上げると回廊であった大臣らしき男が、手に持つ燭台にいやらしい笑みを浮かばせているのが見えた。 背後にも燭台を持つ男がいて、似たような衣装を着ているのが判る。 ここは王宮なのだろうか。 それとも場所を移動したのか。 背に回された手を握り締めると手首に麻縄が食い込んだ。 乱暴に猿轡を外されると息苦しさが緩和されると同時に激しく噎せ込み、溜まった唾液が口角を濡らす。

「お寒い場所で申し訳御座いません。 春の訪れが待ち遠しい今日この頃、我らが王に相応しい春をお届けしたいと幾度もお伺いを立てているのですが、妃は一人で良いと切り捨てられ続けております」
「・・・・・」

床に上に置かれた燭台が大きく揺れ、男たちの表情を闇に溶かした。
後宮は国王陛下の癒しの場であり、妃はいつか国王の子を生す。 寵愛を受けるべきは下っ端妃ではなく、正しき家柄の見目麗しい強固な後ろ盾を持つ女性であるべきで、旨みも動かしようもない妃ではない。 こんな妃に心奪われ、妃推挙を退け続ける陛下の間違いを正すためには消えて貰うしかない。
下っ端妃一人消えたところで、一時的な憂いは直ぐに消え去るだろう。
それよりも多くの貴族息女を後宮に。 陛下の御心を奪い、我らが推挙する娘が上手く子を生せば、次代は我らの御世となる。 その為にも下っ端妃などは消えるべきだ。

目隠しをされていたとしても彼らの思惑は肌に突き刺さり、厭でも知れることになっただろう。 目隠しされていない分、それはあからさまに伝わって来て、こんな考えの臣下ばかりでは臨時花嫁を雇ってでも妃推挙を避けたい陛下の気持ちが解かるような気がした。 
まずは内政を整えたいと怖い狼陛下を演じながら頑張っている陛下本人を無視して、己の欲を押し付けようとする貴族や大臣に、嫌気がさすのも理解出来る。 その為のバイト妃だと判ったが、この現状はどうしたらいいのだろう。 このまま殺されるのは厭だし、彼らの思惑通りに話が進むのも厭だ。 かといって自力で逃げ出せる状態じゃない。

「それで・・・・貴方達は私を葬り去ろうと?」
「単純なことです。 唯一を作ることが、どういう結果を生むのかを御考え頂けたら幸いだと」
「唯一ではいけないのでしょうか」

下町育ちの夕鈴は一夫一婦制が当たり前だと育っている。 後宮の仕組みは理解しているつもりだが、貴族の思惑や欲が紛れ込み、本人を無視して妃推挙されるというのが理解出来ない。 
王家の血を残すこと、多くの権力を持つこと、貴族との繋がり、権威を誇示するために後宮があるとしても、それよりも内乱後の乱れた内政を整えようと頑張っている陛下を助けるために、大臣らは政務にこそ真摯に従事すべきではないのだろうか。 

「後宮に於いて唯一は存在してはなりません。 一点だけに集中する存在は他の歪みを生じます。 多くの妃を侍ることで様々な繋がりを成し、それは国王陛下の後ろ盾となり国を強固に築くのです。 貴女が陛下へ捧げられるのは、国のためには役に立たない癒しだけで御座いましょう」

はいとも、いいえとも言い難い。 バイト妃として、どう返事をしたらいいのか判らない。 ただ思うのは自分はバイトだが、国のためではなく一生懸命演技している陛下の役に立ちたい。 借金があるとはいえ、必要とされている内は応えたいと思う。 バイト期間中くらいは全力で陛下が望む妃を演じてやる。

「確かに私は心だけしか差し上げられませんが、裏表なく陛下を支えて差し上げたいと思う気持ちを望まれて私は側におります。 それが陛下の御望みである限り、私は全力で支え続けたいと願います。 貴方方の思惑は陛下にとっての支えにはなりません」
「詭弁ですな。 心だけでは実質の支えには成り得ません」

話しは一方通行で、交わることは無い。 住む世界も考えも違うのだから困ったものだと夕鈴は溜め息を零した。 このままでは間違いなく悪い想像が現実化しそうだ。











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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 16:20:07 | トラックバック(0) | コメント(6)
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2014-03-03 月 20:44:14 | | [編集]
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2014-03-03 月 20:50:02 | | [編集]
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2014-03-04 火 12:05:04 | | [編集]
Re: お疲れ様です
ぶんた様、コメントをありがとう御座います。ジャンプ系コミック、それもコメントに書かれていたのは全て購入ブツです(笑)+ラノベを買って、休みの日にまとめ読みです。何しろ娘が期末テスト中なので封印してます。地理が今回いい点狙えるか、嫌いな教科がどうなるか、イライラの一週間なので怖い、怖い。娘が寝てからそっとパソコン打ってます。とほほ・・・。
2014-03-04 火 23:54:12 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
名無しの読み手様、コメントをありがとう御座います。王道のヒロイン記憶がなーい!おまけに攫われー! そこへ白馬のヒーローがー! ですので、もちろん陛下の怒りもどーん!の予定です・・・・が、マジに先週から忙しくて更新が滞ってます。そして花粉。マスクと花粉用ゴーグルはこの時期必需品。帰宅後は直ぐに服を払ってファ〇リーズです。厭だけど天気の悪い日が嬉しい今日この頃です。
2014-03-04 火 23:57:43 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
rakko様、コメントをありがとう御座います。返信不要とのことでしたので、コメントへのお礼のみさせて頂きます。
2014-03-04 火 23:58:39 | URL | あお [編集]
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