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融けた泉の扉  8
私事ですが、大変お世話になった知人の告別式に夫婦で行って来ました。体重が増えた旦那が黙ってスーツを新調していた事実を知り、がっかりです。別の意味で涙が出そうになりました。


では、どうぞ













床上に置かれた燭台近くに、明りを反射する輝きが見えた。 咽喉が押さえ込まれたようで息が詰まる。 だけど諦めるという選択は考えられない。 借金を残したまま死ぬということは、青慎に迷惑が掛かるということになる。 父さんだけでも面倒なのに、このまま私がもしも死んだら、一生懸命勉強している大事な弟に大迷惑が掛かることになってしまう。
思いきり息を吸い、燭台目掛けて吹き掛けるが消せる距離ではない。 頭上から嗤いが聞こえるが、目的は吹き消すことじゃない。 消せたらいいなとも思ったが、難しいのは承知だ。 息を吐いた夕鈴は、その反動で括られたままの足を大きく滑らせて燭台にぶつけた。
驚いた男が一瞬の闇に短い声を上げたが、背後にいる男が燭台を手にしたまま床に転がっている夕鈴に近付き呆れたように見下ろす。 一つ燭台を消したくらいで何が出来るとでも言いたげに。 
大臣らしい男が床を踏み鳴らして近寄り、憎々しげに足を持ち上げ思い切り身体を踏み付けた。

「・・・あぐっ!」
「灯りを消したくらいで逃げられるとで思っているのか? 流石、狼陛下の妃ともなれば牙も有ろうが、縄打たれたままでは何も出来まい。 さあ、話をさせて貰おうか」
「・・・・話しは陛下に直接なさるがいいでしょう。 ぐぅ・・・」

大臣らしき男が体重を掛ける痛みに涙が滲むが、絶対に望むような返事はしないぞと夕鈴は奥歯を噛み締める。 頬に触れる冷たさは刀だと理解したが、怖さより腹に圧し掛かる痛みの方が辛いと思った。 離れた足に息を吐いた次の瞬間、蹴りを入れられ大きく床を転がる。 後ろ手に括られたまま肩が何かにぶつかり床に頭を打ち付け、夕鈴から呻き声が漏れた。

「・・・っ! ・・・か、はぁ・・・・」
「お妃様、話しとは貴女の御命にも係わること。 もし私の話を聞いて頂けるようでしたら命までは取ろうと思いませんでしょう。 悪い話ではないと思いますが、如何で御座いましょうか」

柔らかな声色を出す大臣に答える気はないし、答えることが出来ない。 身体を折り曲げ痛みに耐えているのが精いっぱいで、だが近付く足は早く答えろと苛立ちを滲ませていた。

「下っ端妃を葬ったところで狼陛下が我らの思うように動かないだろうことは承知。 ですから何か陛下の弱みでも御教え願えましたら、お妃様の命までは・・・・・と考えております」
「・・・・嘘、ね。 そんな訳・・・ないでしょう?」

蹴られた腹がひどく痛い。 擦りたいけど手は動かせず、身体を丸めたまま必死に耐えるしか出来ない。 吐き気がするほど気持ちの悪い柔らかな声が耳を穢し、肌に悪寒を走らせる。 床を滑る刀の切っ先が顔に近付き、それでも夕鈴は痛みを耐えて気丈に顔を上げた。

「こんな・・・ことをして、陛下が喜ぶとでも思っているのかしら?」
「その内に陛下も御理解下さるでしょう。 まずは陛下に相応しい春を快く受け取って頂けるよう、今現在唯一の妃として存在する貴女の口添えが欲しいのです。 陛下の弱みでも、または女性の好みでもいい。 貴女も命が惜しいでしょう? さあ、素直に御教え下さいませ」
「・・・・陛下のために従事すべき臣下なのに・・・・」
「これからも心よりお仕えするために、必要なことなので御座います」

床上をなぞる切っ先が頬に触れ、ちりっと痛みを齎す。 燭台の明かりが揺れ、近付いた男の笑みが気味悪く見えた。 その男を睨み付けたいのに急に目の前が暗く感じ始め、眉を寄せて床に頭を落とすしかない。 吐き気がするほど気持ち悪い声を聞き続けたからかと思ったが、目を閉じると酷い眩暈を感じ、深い眠りが近付く気配に夕鈴は蒼褪めた。 
今、こんな状況で眠気を感じるなど自分は一体どうしたのだろう。 
眠気を飛ばすために唇を噛み、手首の荒縄を必死に解こうと身を捩る。

「おや、今頃になって怖くなりましたか? さて、御話下さらぬのならば用は御座いません」
「話す気なんて・・・・最初からないわよ!」
「・・・強情なことで」

痛みで意識が戻るが、危ない状況に変わりはない。 
もし死んだら借金は帳消しになるわよねと、刀の動きを睨み付ける。 男が持つ刀が床上をなぞり動くのを見つめる夕鈴の脳裏に、小犬のような笑みを見せる陛下と、妖艶な狼陛下の笑みが浮かんだ。 
そして色とりどりの花が咲く庭園を歩く姿と、一緒に星空を見上げる陛下の笑顔、下町で食事をする姿がぐるりと頭を駆け巡り、見たこともない光景に目を瞬くと陛下の顔が有り得ないほど頭の中いっぱいに増殖してきた。 
今の状況を無視した楽しげな陛下の笑みや、一緒にした街を歩く陛下の姿に、どうしてなのと狼狽しながら夕鈴は思い切り目を瞑る。 ただの庶民が国王陛下と一緒に星を見るとか、ましてや下町で手を繋いで歩くだなんて有り得ないと頭の中の陛下を追い出そうとするが、頬をなぞる妖艶な狼陛下の指の動きに悲鳴を上げてしまった。 
何故感触がするのだと目を開けると刀の切っ先が頬をなぞっていて、夕鈴は今の現状を思い出し、自分の想像に笑いそうになる。

「余りの恐怖で壊れましたかな? それとも話す気にでもなりましたか」
「話すことなど・・・何もないのに? 貴方達の方が陛下をよく御存じでしょう。 どれだけ日々政務に邁進されているか、内政を整えるために頑張っているかを、間近にいる貴方達の方が見て知っているのではないですか? 陛下のために妃を勧めるのは己の欲を満たしたいがためでしょう?」
「・・・・それの何が悪いと仰るのか」

頬から離れた刀がゆっくりと持ち上がり、燭台の明かりが届かない宙へ消えた。 
覚悟なんか出来る訳がない。 絶対に逃げてやると思うのに、動かない身体に憤る。 床上でジタバタすると足で踏み付けられた。 駄目だなんて思いたくないのに、もう逃げることが出来ない。 頭の中には狼陛下がいて、どうして弟や父さんが浮かばないのかと考える自分に戸惑う。




「・・・・我が妃を足蹴にするとは、余程命が要らぬらしい」
「・・・っ!」

突然大きく開けられた扉から冷たい夜気が入り込み、そして夜気よりも冷たい低い声が響き渡る。 
届けられた声は、見なくても狼陛下だと判った。 同時に頭の奥に鈍い痛みが奔り、それはどんどん酷くなる。 蹴られた腹の痛みを忘れてしまうほど、ズキズキと響く頭痛に耳鳴りまでして来て夕鈴は声も出せない。 顔を上げることも出来ず、顔を顰めて痛みに耐えるしか出来ずにいた。 身体に毛布のようなものが掛けられ、薄く目を開けると見慣れた顔が見える。

「おーい、お妃ちゃん。 遅くなって悪かったね、大丈夫・・・って駄目そう?」
「こ・・・・だい?」

どうにか顔を上げると心配げな顔が歪んで見えた。 床に響く多数の足音と李順さんの声も聞こえて来る。 捕り物が始まったようで、浩大に腕と足の縄を解かれた夕鈴は痺れた手を上げて頭を押さえた。 押さえても頭の奥から響く痛みは押さえようがないが、抱え込んでいないと痛みで息も出来ない。 
その様子に驚き、浩大は陛下に声を張り上げた。

「陛下! オレ、急いでお妃ちゃんの痛み止めを貰って来る!」
「夕鈴っ! 何をされた?」
「あ、たま・・・・痛い」

激しくなってきた痛みと吐き気。 大きな腕に支えられ起こされるが、頭を抱え込んだまま夕鈴は痛みに動けない。 歯軋りしながら痛みに耐えていたが、今はそれさえも辛いと浅い息を繰り返す。 額から滲む脂汗と全身を襲う痙攣、何より吐き気を伴う痛みに助けて欲しいと頭を抱え込む。

「夕鈴、頭を打ったのか? 他に何をされた? ああ、無理なら言わなくていい」

背を丸める私の身体を膝上に乗せているのは陛下だろう。 その気遣うような声にどうにか目を開けると、怜悧な表情が曇って見えた。 陛下がいるということは、もしかしてここは王宮なのだろうかと思った瞬間、再び酷い痛みに襲われる。 
このまま死んでしまうのではないかと思うほどの痛みに息が詰まり、声も出ない。 空気を吸おうと口を開けたまま、襲い来る痛みに全身を強張らせて耐えるしか出来ず、背を擦る心配げな陛下の手の動きに申し訳ないと伝えたくても息をするのが精一杯。 

「薬湯、お待たせ! 夕食後用のだから冷めちゃってるけど、問題はないって!」
「夕鈴! 頑張って口にしてくれ」

無理だと叫びたいが、頭を押さえるだけで他は何も出来ない。 この痛みを消すための薬湯だと言われても、この痛みに耐えるため頭を抱え込んでいないと、どうにかなりそうだ。 少しだけ待って欲しいと頭を横に振ると急に顎を持ち上げられ、奔る痛みに抗おうとして怒鳴られた。

「口を開けて飲め、夕鈴!」
「・・・っ!?」

影が覆い被さり、頭を抱え込んだ手が強制的に外されて頬に痛みが奔る。 無理やり口を抉じ開け、薬湯が流し込まれた。 痛みにも勝る苦さに顔を逸らそうにも顎を掴まれ、少しずつ流される薬湯を吐き出すことも出来ない。 咥内に広がる苦さが厭だと顎を押さえる手を振り払いたくても無駄で、そして反らされた咽喉の辛さに耐えかねて飲み込むしかなかった。 
途中から茶杯を掴み、自ら薬湯を飲む意思を見せるとようやく顎から手が離れる。 
飲み終え、そのまま激しく噎せ込むと涙が滲み、頭の痛みと咥内の苦さに何が起きているのか判らないまま、夕鈴は抱き上げられた。 

「就寝前の薬湯だから少しだけ睡眠作用も入っているって。 にしても酷い頭痛だな、大丈夫か」
「頭痛だけならいいが、どうやら腹を蹴られているようだ。 ・・・・背や肩も汚れている」

陛下と浩大の声に、大丈夫だと伝えたいが薬湯の苦さで噎せ込むしか出来ない。 強く包み込みような腕の力に安堵出来る自分が不思議で、頭痛が和らぐ気がして顔を上げようとして何かが被さる。 陛下の外套だと解かり、その温かさに力が抜けていくのを感じた夕鈴は考えることを放棄して目を閉じた。

腕の中で脱力した夕鈴に視線を落とした陛下は、荒く浅い呼吸を繰り返す顰められた顔を見下ろして奥歯を噛んだ。 夜半過ぎた冷たい夜気から守るように強く抱きかかえて後宮へと急ぎ、いつまでも戻らない妃を心配していた侍女に妃は風邪により医局にいたと伝え下がらせる。 寝台に寝かせて掛布を掛けると、まだ頭痛がするのか呻き声が聞こえた。 燭台に灯りを灯し、濡れた手巾を額に乗せると驚いたように身を丸めようとするから肩を押さえた。

「もう大丈夫だから。 夕鈴、もう大丈夫」
「・・・・ん」

夕鈴から返事のような呟きが聞こえ、そしてゆっくりと身体が弛緩する。 その様子に安堵し、陛下は寝台へ腰掛けて夕鈴の額を撫でる。 眉間の皺を指で伸ばすと、むずかるように顔を顰めて額の手巾を取り払った。 まだ頭痛がするのか顰められた顔には苦痛が浮かび、薬湯で濡れた口元を指で拭うと薄く開いた唇から荒い息が零れる。

記憶がない夕鈴が図らずも企みを持った大臣と接触したと浩大から李順へ報告が来たのは、昼少し前。 
妃推挙が落ち着いて来たのは表面だけで、水面下では未だ続いている大臣や大貴族からの密やかな申し込みに待ったを掛けているのは唯一の妃の存在だ。 
李順が網に掛かった輩の動きを把握したいと、場所と人数の確認をするよう浩大に指示し衛兵に密やかに指示を出す。 李順も流石に記憶の無い夕鈴を、ここまで巻き込むつもりは無かったようだが、浩大が報告に足を運ぶ間に部屋を移動され発見が遅くなってしまうなど予想外。 居るはずの部屋に夕鈴らがいないと知り、李順らを睨み付けても詮無きことと急ぎ他の隠密に動きを調べさせた。
捜し出した部屋で何があったかなど、一目瞭然。 
夕鈴の衣装に付いた汚れと、縛られた身体、酷い頭痛。 狼狽する大臣の様子から何があったかは知れる。 李順が詳細を調べ上げるだろうが、それよりも夕鈴の体調が気になる。 やっと瘤が小さくなって来たというのに、同じ場所をぶつけたのではないだろうか。 

そっと手を伸ばして瘤を探ると、夕鈴が目を開けた。

「あ、起こしちゃった? 夜だから寝ていていいよ」
「・・・・いか。 ど、して・・・・いるの?」
「心配だから。 もう少しだけ居させて」
「な・・・・ん」

眠気が強いのかゆっくり瞬きをする夕鈴の目に手を乗せた。 
払われた濡れた手巾を片付けながら、静かに声を掛ける。

「寝ていいから。 何も考えなくていいか眠って」
「ん・・・・。 陛下、寒く・・・ない?」

とろりとした掠れ声に誘われた気分になる。 痛みで苦しむ夕鈴に薬湯を飲ませた時、浩大らが居なかったら口移しで飲ませていたかも知れないと、思わず唇を注視してしまう。 返答出来ずにいたら夕鈴は眠ってしまったようで、規則正しい寝息が聞こえて来た。 薬湯が効いて来たのか、手を外すが眉間に皺は寄っていない。 そっと寝台から離れ、燭台の明かりを消すと呂律の廻らない声が聞こえて来た。

「・・・おやす・・・なしゃい」
「うん、お休み。 夕鈴」

暗闇へ声を掛け、そして表情を落とす。 
さあ、奴らは狼陛下に何を物申すことがあるのか。 どんな言い訳を並べるのか、楽しみなことだ。






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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 23:08:08 | トラックバック(0) | コメント(6)
コメント
もしかして黒い陛下の出番ですか!?
楽しみです(σ≧▽≦)σキャ~
2014-03-07 金 23:39:19 | URL | 彩華 [編集]
Re: タイトルなし
彩華様、コメントをありがとう御座います。ちょいと忙しくて間が空いてしまいましたが、やっと黒い陛下が出せます。ん?でるのか?今回、狼陛下のエロ度が高いようで、突っ込みが多いですが(笑)黒になってくれるのかな。
2014-03-08 土 00:23:08 | URL | あお [編集]
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2014-03-08 土 07:37:45 | | [編集]
管理人のみ閲覧できます
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2014-03-08 土 22:41:19 | | [編集]
Re: タイトルなし
ぽんちゃん様、コメントをありがとう御座います。遅くなってゴメンナサイです。ご飯作って風呂入ったら疲れてしまい・・・。齢なのね~、くすん。夕鈴は陛下好きですよね~。だからこそ庶民は身分に悩むんでしょうね。そこが「萌え」なんですけどね~。じれじれしちゃいますぅ!
2014-03-10 月 20:50:23 | URL | あお [編集]
Re: ご苦労さまです
ぶんた様、コメントをありがとう御座います。コメント返信が遅くなりすいません。数日、花粉と仕事でやられてました。へたばってバタンキューです。土曜日に飲み会があったっていうのもありますが(笑) そして嬉しいコメントをありがとうです! 最初の頃の夕鈴を思い出して貰えるのが、嬉しい! 次回の陛下はイタイけど、引き続きお付き合い頂けたら嬉しいです。
2014-03-10 月 21:23:25 | URL | あお [編集]
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