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融けた泉の扉  10
黒い陛下へのコメントありがとう御座います。怒る陛下を書くのが楽しいのと、オリジナルキャラの刑房管理官を書くのが楽しいです。


では、どうぞ












後宮立ち入り禁止区域の回廊を歩きながら、腕の中で唇を固く結んだままの夕鈴に視線を向けると首を傾げられた。 昨夜の酷い頭痛を朧気にしか覚えていないという彼女の顔色の悪さに眉を顰めると、戸惑ったような表情が返って来る。

「今は頭痛は無いようだけど、少しでも痛みがあるようなら老師に伝えてね。 本当、昨夜は酷い頭痛で顔色も悪くて、急いで薬湯を飲ませても、しばらくの間は苦しんでいて」
「今は痛くないです。 あの、それよりも目が覚めたら侍女さんがすごく心配していたから驚いて」
「ああ、夜半過ぎに部屋に戻ることになった上、夕鈴は痛み止めの薬湯で朦朧としていたからね。 風邪で倒れたということにしておいたから問題はないはずだけど、他に何か心配が?」

薄く開いた唇が戸惑うように震え、眉を寄せたまま何度も瞬きをする。 頭痛を覚えていないなら、薬湯を飲んだことも判らないのだろう。 老師の部屋に到着し、侍医の治療は済んだことを伝え、夕鈴には頭痛がするようなら直ぐに侍医に診て貰うように告げた。 窓際の長椅子に夕鈴を降ろし、座蒲団に頭を乗せて休むように伝えると、強く袖を引かれる。

「・・・・どうしたの、夕鈴」
「あの、陛下。 私・・・・・」

戸惑いに揺れる瞳が真っ直ぐに見上げて来るのを見て、焦ってしまう。 蒼褪めた顔色を前に額に手を宛がうと少し熱いように思えた。 
熱が出たのかと眉を寄せると、同じように眉を寄せた夕鈴がきゅっと唇を結んだ。 
何か言いたいことを逡巡しているように見え、人払いをした方がいいだろうかと老師に退室するよう伝えると、目を輝かせて部屋を出て行く老人の嬉しそうな顔に嘆息を零してから、夕鈴に向き直る。

「どうしたのかな、何か気になることがあるの?」
「・・・・朝、目が覚めると侍女さんが酷く心配そうな顔で大丈夫かと声を掛けて来ました。 昨夜、何かあったのでしょうか。 申し訳ないのですが、記憶が・・・・なくて、私」

困ったように額に手を宛がう夕鈴の手を掴み、顔を凝視する。 大きく目を見開きジワジワと染まり出した頬に、慌てて夕鈴の手を離すと膝上でしっかりと握り置かれた。 その手を見つめた後、顔を覗くと隣りに腰掛ける僕に何か言いたげな顔を見せる。  

「夕鈴、昨日のことは何処まで覚えている?」
「あの、えっと・・・・バイト上司だという李順さんと話をして・・・・から判りません」
「李順に会った後、誰に会ったとか何があったとか、何も覚えていないのか?」
「覚えていません。 いつの間にか朝になっていて、寝台に居て、侍女さんが心配な顔をして、その後診察だと言われても何が何だか解からないのです。 でもお腹に鈍い痛みは確かにあるし、肩も手足も痛いし・・・・。 治療だと言われても何処で何があったのか解からないままでは・・・・不安です。 教えてくれませんか? 記憶がないのが怖い、です」

夕鈴は膝上で握り締めた手を見据えながら俯き、小さく首を横に振った。 
あの酷い頭痛の前後を忘れているだけではなく、攫われたことも覚えていないと言われて驚いたが、目が覚めて驚いたのは夕鈴の方だろう。 だけどバイト妃をしていることは覚えていたようで、叫ぶことは耐えきったようだ。 

「今、君は王宮で僕の臨時花嫁をしているよね。 それは覚えていたんだよね」
「はい・・・、記憶が抜け落ちてますが、それは覚えていました」

全部の記憶が戻った訳じゃないようだが、それまで忘れていたら説明が大変だ。 困ったことだと頭を掻くと、夕鈴は何か気付いたように顔を上げて僕を見上げる。

「陛下っ、政務がありますよね? 私への説明は後でいいですから仕事に行って下さい!」
「え? いや、夕鈴が心配だからもう少しだけ傍に居るよ」
「駄目です! 国王としての政務の方が大事です! 政務を妨げることはしてはならないとバイト上司にキツク言われております! 陛下がしっかりと仕事されるよう仕向けるのも、バイトとして重要な仕事だと言われておりますから、どうぞ王宮へ向かって下さい!」

キリリとした真面目な顔で夕鈴が強く言い放つから、僕は目を丸くして夕鈴を注視した。 
真っ赤な顔で一気に喋り、僕を追い出そうとする姿は以前の夕鈴のままだ。 
笑っていいのか拗ねていいのか判らず、夕鈴の頭を引き寄せて抱き締めると、盛大な叫びが胸から響いてくる。 基本は変わらない真面目で頑固な夕鈴に安堵する一方、抜けた記憶が気になる。 また新たに何処かぶつけたのだろうかと頭を撫で回していると、ぎゅうぎゅう胸を押し出すから笑ってしまった。

「なぁ、何を笑っているんですか! し、仕事に行かなきゃ駄目ですよね!」
「僕の奥さんは真面目で可愛いなって実感して、楽しくなっちゃったんだ。 瘤もないようだし、後で見舞いに簪でも贈ろうか。 気分を変えるのに新しい衣装でも作らせようかな」
「李順さんからそれらは禁止事項だと伝えられてます! 万が一、破損などしたら借金追加となりますから、絶対に持って来ないで下さい。 それより政務に」
「ええー。 じゃあ、水菓を持って来るね。 それとも甘い菓子がいい?」
「・・・っ! そ、それらは問題ないと・・・・言われていますが」

憤るように僕の胸を押し出しながら大きな声を出していた夕鈴が、水菓と菓子の言葉に腕から力を抜く。  
「でも、いいのですか?」 と戸惑いながら僕を見上げるから、笑みを浮かべて頷き 「もちろん」 と肩を引き寄せると、途端に顔を顰めた。 打撲した肩を掴んでしまったと慌てて手を離すと、大丈夫だと腕を上げてぐるぐると回す。

「湿布をして貰ったので、楽になりました。 動かすのも問題はないのですよ。 あ、掃除をして過ごしていていいでしょうか。 何もせずに座っているのも逆に辛いですし」
「それは駄目だ。 侍医より今日一日は安静にと言われている。 覚えていないだろうが、昨日は攫われて縛り上げられ、腹部を蹴られた上、あちこち打撲しているんだ。 薬湯を飲んでいるのに大人しく出来ないようなら、僕はずっと側で夕鈴を見張っているよ」
「攫われ・・・・たの? そして蹴られた?」

そろりと腹を擦る夕鈴が驚きに包まれた顔で、手首の包帯を見下ろす。 
僕の説明で怖いと思い、こんなバイトは厭だと言うだろうか。 
記憶が戻らない夕鈴からどんな言葉が返って来るだろうと、僕は固唾を飲んで見つめた。

「そ、れは妃推挙を考えているという臣下の方々に・・・・ですか? 陛下の、狼陛下唯一の妃を攫ったと言うのですか? 王宮で? 国王陛下のお妃様にそんなことをする人がいるって?」
「そうだ。 覚えてないだろうが、その際君は暴行を受けたようで、手足や腹の痛みはそのためだ」
「・・・・・・・」

手首の包帯をなぞり、宙を睨むように見つめている夕鈴が黙ってしまう。 
夕鈴は少し蒼褪めた顔で幾度も瞬きを繰り返した後、しっかりと僕に向き直った。

「そんなことをする人は・・・・、陛下の敵は捕まえたのですか?」
「ああ、捕まえた」
「では私は臨時花嫁として、陛下の御役に立てたのですね」

真っ直ぐに僕を見つめながら、僅かに夕鈴の口端が持ち上がった。 
その満足気な顔に、思わず夕鈴の身体を抱き寄せると腕の中から叫び声が上がる。 
記憶がなくても変わらない夕鈴の心根に、どれだけ癒されているか解からないだろうから、君はただ羞恥に叫び声を上げて僕から離れようと暴れ出す。

「夕鈴、少しだけでいい。 少しだけ・・・・このままでいて欲しい」
「だっ、だっ・・・・・だってぇ・・・!」
「ごめんね、少しだけ・・・・。 そして覚えていないだろうけど、怪我させてごめんね」
「あ・・・・大丈夫ですから。 本当に、大丈夫ですから・・・・・」
「ごめんね、夕鈴」
「いえ、あの・・・・大丈夫ですから・・・」

肩口に額を乗せ、大丈夫だと繰り返す夕鈴の背を包み込む。 僕に抱き締められて困惑しているのだろう、小さく震える身体と速い鼓動の音が聞こえ、そしてそっと僕の背に伸びた夕鈴の手が優しく撫でる動きに困り果てた。 
このまま、夕鈴が眠りに就くまで側にいてあげたい。 
意味も解らず記憶もないまま手当がされ、未だ痛みが残る身体で君はそれでも僕の敵が減ったことに笑みを浮かべるのだ。 それがどれだけ嬉しいか、そして悲しいかを君は知らない。 
このまま離れたら、掃除を始めるかも知れない真面目な夕鈴。 肩も手首も足首も痛むだろうに、健気に頑張ろうとするだろう。 それこそが夕鈴らしいと笑えばいいのか、僕の心配も解かって欲しいと休むように脅せばいいのか判らず、君の背を引き寄せたまま目を閉じた。


「へーかー。 側近様が眉を吊り上げて陛下探しをされていますよぉ」
「ー・・・っ!」

突然乱入して来た声に我に返って顔を上げれば、目の前には国王陛下の胸。
狼狽して慌ててその胸を突き飛ばすと、陛下が驚いた顔で私を見下ろして来た。 
何をした、何があった!?
今、私は国王陛下の背を撫でていなかったか? ただの庶民が国王陛下の背を撫でた?
演技が必要ない場所で、抱き合いながら陛下の背を撫で・・・・っ!?

夕鈴が頭の中を真っ白にして立ち上がると、急に目の前が暗くなる。 膝から力が抜け、頭から血の気が引くのが判った。 このまま床に崩れ落ちると思いながら目を閉じる。 だけど腰に回る力強い何かに囚われ、温かい何かに包まれたのを感じながら夕鈴は意識を放り投げた。
 

「驚かせるな、浩大。 まあ、薬湯で眠くなったのもあるだろうが貧血もありそうだな」
「いや、本当に悪っす。 イチャイチャしているだけかと思ったからさ~。 それと李順さんが怒り心頭でこっちに来るのは間違いないよ。 朝議を遅らせるのも、もう限界だって」

腕の中で眠りに就いた夕鈴を抱き上げ、奥の寝台へと寝かせる。 貧血なのか顔色が青白く、触れると冷たく感じた。 掛布を多めに用意させ、火鉢を用意させて部屋を暖めると少しずつ顔色に朱が浮かぶ。

「浩大、あとで老師に伝えておけ。 夕鈴は昨夜の記憶がないと」
「え? 昨夜のって、大臣に攫われたことを? ・・・・殴られたせいでか?」
「李順と話をして部屋を出た後から記憶がないらしい。 殴られたせいなのか、その前に打ち付けたせいなのかは判らないが、様子を見ておくように。 医局で休んでいることになっているから、目が覚めた夕鈴が掃除をしたり、間違っても他に足を向けないように見ておけ」
「了解っす! ま、次に目が覚めた時には、ぜ~んぶ思い出していると良いけどなぁ」
「大臣にされたことまでは思い出さずともいいがな」
「ああ、そっちは終了した? オレ、桐と交代で見に行って来てもいい?」

薄く笑みを浮かべる浩大の目だけが笑っていない。 まさか妃を攫った後、報告している間に部屋を移動しているなど、そんな機転を利かす輩だとは思っていなかったと眉を顰めていた。 顔だけでも拝んで来たいと言うから許可を出すと 「監理官に差し入れ持って行こう」 と楽しげな笑みを浮かべる。


執務室に入ると、蒼褪めた顔色で苛立ちも露わな双眸を向ける李順が拱手して待っていた。

「・・・・・その顔と卓上の山を見るとやる気が失せるな」
「戯言を言う暇がありましたら、急ぎ朝議の書類に目を通して殿へ向かって下さい。 その後、政務が捗る宰相部屋に行かれますか? 御望みでしたら書類を移動させますが」
「朝議で話し合う内容はこれか? ・・・・ああ、それと昨夜の騒動を夕鈴は覚えていない。 また記憶が飛んでいるようだが、今は薬湯で眠っている。 引き続き様子を見ることにする」
「・・・・今回の危険手当は払わなくてもいいということですか?」

書類から視線を上げると、李順が眼鏡を持ち上げて真面目な顔を呈している。 嘆息を零しながら殿へ向かうと告げると、「朝議の後は真っ直ぐに執務室にお戻り下さいね」 と辛辣な言葉が飛んできた。 返事もせずに執務室を出ると迎えに来た官吏が酷く怯えた顔で拱手している。 

既に妃誘拐の大臣の話は王宮中を駆け巡り、水面下では政敵が一人減ったとほくそ笑む輩が、それでも自分は何も知らないという仮面を用意して待っていることだろう。 あいつは下手をやったと呆れる顔を隠し、しかし上手く妃を殺害出来たなら良い機会だったのにと思う気持ちを隠し、王へと恭しく拱手する魍魎共。 そんな考えを持つ者共が多く犇めく王宮に於いて、真の心を持ち国と王に尽くそうと思う者は極僅かだ。 
どんな仮面を被っているのか、じっくりと王座から眺めるとしよう。
何時までも減らない妃推挙と、唯一の妃に対する態度を改めぬ忠実なる臣下たちの顔を。







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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 01:50:10 | トラックバック(0) | コメント(6)
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2014-03-17 月 14:29:49 | | [編集]
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2014-03-17 月 22:56:13 | | [編集]
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2014-03-18 火 18:36:15 | | [編集]
Re: タイトルなし
ますたぬ様、コメントをありがとう御座います。李順さんの台詞はポロッと出て来て、ちょいと酷すぎるかと自分でも引いてました。こんなに酷い人じゃないはず、いや、有りか? と自問自答。まあ、勢いで書いちゃいました(笑) そして桐・・・・・次に、ええ、次に出ます。はははは。
2014-03-18 火 20:47:13 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
彩華様、コメントをありがとう御座います。そして琉鴇皇子ですね。お妃様大好きストーカー皇子。この方も動かしやすくて自分も好きです。ありがとう御座います。その内、ポロッとどこかで出て欲しいです。陛下と絡ませるのが楽しいので。
2014-03-18 火 20:49:49 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
ぶんた様、コメントをありがとう御座います。そして今回のコメントに爆笑です。ニヤニヤが止まらない。知ってます、イギリスの嫁担ぎレース。同級生がイギリスに嫁いでいるので随分前に参加したことがあるそうです。(結果は教えて貰ってないけど)瑠霞姫の旦那さんと争う陛下が脳裏を巡ってます。マジ、夢に見そう! そして李順の保険会社査定員。超怖い。そういう時期なので、マジ怖い!(爆)
2014-03-18 火 20:53:04 | URL | あお [編集]
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