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融けた泉の扉  11
バイト夕鈴頑張ってます。やっと桐が登場。オリジナルキャラですが、出さないとオロオロする自分がいて、笑ってしまいます。


では、どうぞ













目を覚ますとそこは見知らぬ場所で、見下ろすと温かな毛布が掛けられていた。 
ぼんやりしながら寝台を降り、呆けたまま部屋を出る。 暖かい日差しに、今は昼間なのだと判った。
何故、こんな時間に見知らぬ場所で目が覚めたのか不思議に思いながら夕鈴は回廊に出ると、どこからか声が掛けられる。

「お妃様、目が覚めたか」
「・・・・・目が、覚めました」
「今日は部屋から出ずに横になって過ごすよう言われているはずだ。 頭痛はしないか?」
「そう、なの? 頭痛・・・・は、しない・・・・・と思う」

額に手を当て項垂れると眩暈のような眠気が身体を傾かせる。 長い廊下が見え、傾きかけた身体を回廊手摺に凭れて息を吐いた。 頭も身体も重く、腰や足、肩に鈍い痛みがある。 

「ほら、部屋に戻るぞ。 ふらふらしていたらまた何処かにぶつけて、痛い思いをすることになる。 おまけに警護中の怪我は俺らの責任にもなるから、大人しく寝ていろ」

浩大と交代で妃警護に就いていた桐は寝惚けたような態の夕鈴の腕を掴み、寝台のある部屋へと連れて行った。 寝台に腰掛けたまま、呆けた表情の夕鈴を見下ろした桐は眉を顰めて声を掛ける。

「お妃、頭痛はしないと言ったが、記憶はどうだ? 何か思い出したのか」
「記憶? ・・・・あ、浩大じゃない。 あの・・・、どちら様でしょうか」
「戻った訳じゃないんだな。 俺は浩大と同じ仕事をしている桐という。 覚えておけよ」
「桐、さん。 ・・・・では貴方も私がバイトだと御存じなのでしょうか。 陰から・・・・警護をしている人ですか? 私の記憶がないことも知っていて・・・・って、ここは何処?」

重い頭を押さえながら尋ねると頭上から呆れたような嘆息が降り注がれる。 顔を上げた途端に頭をぐりぐりと撫でられ・・・・いや、掴まれ揺さぶられたと言った方が早い。 ぐらりと頭の芯が揺れ、寝台に倒れ込むと苦笑が聞こえて来た。 いや、そこは心配するところだろうと突っ込みを入れたいところだが、そんな元気もない。 上から見下ろすような視線をヒシヒシと感じながら夕鈴は溜め息を吐いた。 

「朝、陛下に抱き上げられて連れて来られたのも覚えていないのか?」
「ああ・・・。 そうでした、覚えています、大丈夫です」
「昼餉の用意が出来ている。 腹が減って起きたのではないのか? その後はお楽しみの薬湯だ」
「・・・・楽しみの薬湯」

何だろう、聞き慣れた言葉のような気がして目の前の桐をじっと見る。 すると苛立ちを含んだ舌打ちが聞こえ、夕鈴は慌てて起き上がり昼食を取ることにした。 途中から狙ったように浩大が顔を出し、当たり前のようにおかずに手を伸ばして食べながら、午後の妃警護は桐と交代だと言う。 
苦い薬湯を飲みながら二人を眺めていると何だか肩から力が抜け、記憶がないけれど確かに二人なら気負うことがないと思えた。 まだ狼陛下の演技には躊躇するし、抱き上げられることにも慣れない。 あんな妖艶な笑みを浮かべる陛下と演技をしてきた自分が、何度説明されても信じられないでいる。 
口直しの棗の蜂蜜漬けを口に押し込みながら、夕鈴は訊いてみた。

「あの、少し頭がすっきりして来たから、この間みたいに掃除をして過ごしてもいいかな」
「今日は駄目だよん。 水桶なんかも持てないだろうし、今日一日はちゃんと寝ているように言われているからね。 それに覚えていないようだけど、昨夜はすごい頭痛でのた打ち回っていたんだよ」
「バイトとして大人しくしているよう言われたのなら、それを遵守しろ。 出来ないなら無理やりにでも寝かせるぞ。 薬湯がいいか? それとも手刀で昏倒するか?」
「・・・・・・・大人しく寝ています」

桐さんから辛辣な言葉が吐かれ、夕鈴は寝台に横になることを選んだ。 
横になると視界が回り、気持ち悪いくらいに頭が揺れる。 起きていた方が楽かも知れないとチラと考えたが、浩大が懐から取り出した菓子を食べ始めた二人が部屋にいるで、起き上がることも出来ない。 
そのうち薬湯のせいか眠気が瞼を閉じ、未婚女性がよく知らない男性の前で無防備にも寝ていいのだろうかと悩みながら、深く沈んでいった。

「お、やっと寝たみたいじゃん。 じゃあ俺は王宮側の偵察に行って来るね」
「では後宮側と妃警護は俺か。 老師にこちらの部屋で仕事をして貰うことにしよう。 ところで刑房は落ち着いたか? 夜中過ぎに陛下が訪れたとは聞いたが、もう始末は着いたのか」
「ああ、さっきね~。 監理官がオレの到着で執行したんだよん。 もう周囲の様子も判っていない錯乱状態でさ、惜しかったなぁ。 意識を残したままバッサリ執行したら良かったのに!」

浩大は楽しげに笑いながら、老師を呼びに向かった。 桐は卓上に水差しを用意して寝台に近付ける。 再び落ちて、これ以上記憶を失わないよう寝台の下に長座蒲団を敷き詰めていると老師が姿を見せた。
寝ている夕鈴を眺めた老師が桐に振り向き尋ねる。

「何やらブツブツ言っているようだが、さっきからか?」
「・・・・いや、大人しく寝ていたはずだが、寝言か?」

薬湯で眠っているはずの夕鈴から、確かに何か呟きが聞こえて来た。 意味までは解らないが何か呟いており、しかし瞼は閉じて寝ている様子だ。 昨夜の騒動も頭痛も覚えていないようだが疲労は残っていて、それで眠りが浅いのだろうか。

「後宮側の偵察を行うが、何かあるようなら直ぐに戻る」
「このまま寝ていると思うが、まあ、何かあれば煙玉でも焚くとするか。 問題は陛下じゃの。 言えば直ぐに足を運ばれようが、そうなると政務が滞る。 イチャイチャするにも記憶がないようでは手を出しかねているようじゃが、寝ている間に既成事実でも作ってしまえばいいのじゃ! それが一番良いはずじゃ!」

短絡思考の高齢者が興奮して持論を唱える横で、桐はそれはまず有り得ないだろうなと口端を持ち上げるに留めた。 だが、呟きを漏らす妃がいつ起きるか解からないなら遠くへは行かない方がいいだろうと考えながら、桐は離れる。 急ぎ浩大にも現状を知らせ、もし記憶が戻るようなら陛下に報告をしなければならない。 その前に側近に報告した方がいいだろうか。 

「いつも面倒を運んでくる妃だ」

桐の呟きは春めいた陽射しに融け、苦笑と共に静かに霧散した。


**


凝りもせずに忍び込む偵察を排除した浩大は、一旦執務室に向かった。 山と積まれた書類を前に難しい顔をして署名捺印を行う陛下に思わず笑いそうになり、慌てて口を押えながら飛んで来た小刀を避ける。 李順が眼鏡を持ち上げ、苛立ちも露わに次の書簡を突き出した。

「浩大、報告は急ぎのものだけにして下さい。 見てわかる通り、陛下は大変忙しい状態です」
「了解っす。 王宮西側に偵察に来たらしい間諜がいらしたので、お帰り願いました。 それとお妃ちゃんは昼を食べて薬湯を飲んで、ぐっすりお休み中。 老師が側で仕事をしながら様子を見ているから問題なし。 桐が後宮側を警護中っす」
「夕鈴は寝ているのか。 起きたら記憶が・・・・ってことは無いだろうか」

筆を置き、立ち上がりそうな雰囲気を醸し出す陛下に李順が即座に書簡を渡す。 
席を立つなと睨み付けながら更に次の書簡を手渡し、乾いた笑を零した。

「寝ているバイトの許へ行こうなど、そんな暇があるなら少しでもこの山を崩してからにして下さいね。 さもないと宰相部屋に連行致しますよ。 何か異変があれば老師から報告が来ますでしょう」
「我が妃のことだ。 懸念するのは当たり前だろう。 兎も角、後で一度様子だけは見に行く」
「先ずはこの山を崩してからですよ、陛下」

二人の話し合いは李順に軍配が挙がったようで、筆を走らせる陛下が眉間に皺を寄せながら静かに息を吐いた。 浩大が刑房で大臣の刑執行が終わったことを告げると、引き続き大臣らの動きを見張るよう指示が出される。 耳敏い輩はひとつ空いた大臣の席を狙い、密やかに蠢き始めるだろう。 
同時に狼陛下の執政に蒼褪めながら従順な態度で表向きは賛同し、今まで以上に厚い仮面で裏の表情を覆い隠す。 化かし合いに長けた者共の饗宴が繰り返される王宮だ。 
いち早く動きを探らないと、後々面倒事を引き込むことになる。

「もう大臣の目論見が破綻したことと、失脚は知れ渡っているでしょう。 水面下でどのように蠢くのか、それらを全て網羅するのも隠密の仕事です。 夕鈴殿は老師に任せ、すべきことを行って下さい」
「そうだ。 妻のことは夫に任せるがいい。 李順、この事業展開に関する書類は全て見直しが必要だ。 急ぎ差し戻して見直しをさせろ。 この来期予算案も見直しが必要だな。 詳細をもっと細かに載せるよう、指示を出せ。 あとこれらは署名が済んだ」
「夕鈴殿はバイトですからね。 ・・・・全く、同じことを何度も言わせないで下さい」

書類を長函に入れた李順が愚痴りながら執務室から出ると、浩大が目を細めた。 思った通り執務室から出て行く陛下を見送った後、指示された仕事を始めるために浩大も屋根へと駆け上がる。 

「李順さんが戻る前に帰って来る・・・・ってことは無いだろうな。 ま、いっか」

後宮立ち入り禁止区域へと足を急がせる陛下を屋根上から見下ろし、いつになったら彼女の記憶が戻るのだろうかと口を尖らせた。 二人の演技も態度も大きく変わりはないが、せっかく前進したものが後退したままなのは面白味がない。 あとは陛下次第だというのに、頑なにその一歩を拒んでいる。 あれでは翻弄されるだけのバイトも可哀想だろう。 

「いや、どっちもどっちか? 似た者同士だもんなぁ・・・・全くウブなことで」

それも面白いと、長く側に仕える隠密は屋根を移動し始める。






夕鈴から聞こえていた小さな呟きはやがて消え、規則正しい寝息へと変わる。 少し頬が赤いように見えるが、寝ているせいだろう。 老師は薬草を少し変えてみるかと隣室へと向かった。 
少しして、ゆっくりと寝返りを打った夕鈴は目を覚ます。 
起き上がると先ほどよりも頭が重く感じ、額に手を宛がうと小さな痛みを感じた。 見慣れない部屋に眉を寄せていると、老師が顔を出して目を丸くして近付いて来る。

「起きたのか。 痛みはどうじゃ?」
「・・・・少し重いですが、痛みはそんなに感じない・・・・ような」
「薬草を変えてみるから、起きて卓上の菓子でも摘まんでおけ」

寝台から起き上がり言われた通りに菓子を口にすると、頭重感が酷くなった。 目を閉じると闇に吸い込まれるような感じに襲われ、寝台に横になろうとして床に倒れ込む。 しかも運悪く、桐が敷き詰めた長座布団からはみ出して、床へと額を打ち付けた。

「小娘っ! 何じゃ、どうしたんじゃ? 痛いのか、眠いのか?」
「・・・ぅう! い゛、痛いっ!」

思いきり頭をぶつけたと床の上で痛みにのた打ち回っていると、抱き上げられた。 
まさか老師に抱き上げられたのかと目を瞠ると、そこには政務に向かったはずの陛下がいて、寝台に腰掛けて私を膝上に抱きかかえる。 額の髪を払い、ぶつけたばかりの頭にそっと手を伸ばすと顔を近付けて来た。

「なぁ! ちょっ、ちょっと何を?」
「ん? 赤くなっている場所を舐めてあげようかと思って」

きょとんとした顔でぺろっと舌を出す陛下を遠ざけようと必死に顎を押し出すが、言われた言葉に力が抜けていく。 小犬の顔でじりじり近付いて来る陛下を押し退け、老師に助けを求めようとして姿が消えていることに気付いた。 さっきまで居たはずなのにと首を傾げると耳元に狼陛下の低い声が落とされる。

「首も痛めたのか? 他に痛みは無いか、我が妃よ」
「い・・・・今はその演技必要ありませんから・・・・っ!」

第一転んだ私を助け起こしてくれたのはいいが、その後に何故膝上抱っこをするのだと問い質したい。 見せるべき観客がいない場所で狼陛下の演技を始めるのはどうしてだ。
そう思った時、頭重感がひどくなり鈍い痛みも感じた。 
背後から圧し掛かる陛下の重みから避けようと身を屈めると、腹に回って手が引き寄せる。

「夕鈴、そんなに離れようとしないで。 落ちてしまうよ」
「・・・・手を・・・・離して下さい。 頭が少し痛・・・」

そう言った途端、鋭い痛みが頭全体に広がり夕鈴は息が止まる。 顔を顰め、激しい痛みに震える手を頭に伸ばし、声にならない音を漏らして身体を竦めた。 頭の奥で重い金属が打ち鳴らされているようで、壁に頭を押し付けられているようで、底から杭が打ち込まれているような激痛に息をするのが精いっぱいとなる。 その息も吸い込んでいるのか判らず、苦しさに痛みは酷くなる一方だ。

「・・・・っ!」
「痛いのか、夕鈴っ!? 老師、痛み止めの薬湯を持って来い!」

陛下の怒鳴り声さえ遠く掠れて聞こえ、痛みに呻きながら夕鈴は足元から這い上がる恐怖に手を伸ばした。 触れたのは何だか解からない。 解からないけど必死に掴み、厭だと首を振った。 この痛みが怖いとしがみ付き、もっと怖いのが痛みが消えた後のことだと歯を食い縛る。
今の自分が消えてしまいそうで怖いと、震える手で掴んだものを引き寄せた。
目の前が暗くなる。 
今の自分が闇に飲み込まれていきそうな感覚に背を這い上がる恐怖。 今の私は何処に行くのだと、奥歯を噛み締めながら首を振った瞬間、声にならない叫びをあげて夕鈴は昏倒した。

 




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長編 | 01:12:11 | トラックバック(0) | コメント(6)
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2014-03-21 金 23:38:23 | | [編集]
久々の桐様にラブv-10でウキウキ読み始めたら、夕鈴が痛そうv-12私も丁度、頭痛がしているので、他人事じゃない!陛下、バイト休ませて〜!!あ、でも、陛下の構いたい気持ちはわかる気がするけどwもう、陛下、添い寝しちゃえ。←オィ
2014-03-21 金 23:46:04 | URL | Norah [編集]
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2014-03-24 月 00:47:35 | | [編集]
Re: 頭の痛み
ぶんた様、コメントをありがとう御座います。こっちも寒さ戻って来てますよ。日中温かいから、寒いのに花粉が飛んでる!ちくしょー!です。増税前に鼻炎薬と目薬を買って、洗剤とかを買って、ついでに本の大量購入をして読み耽っていたら、時間があっという間に流れていた!(当たり前)本を読むと動けなくなるけど、時間だけはどんどん先に進むから困る! そして桐は本当に寝なかったら手刀を振ると思います。ええ、ビシッとね。
2014-03-24 月 01:23:56 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
Norah様、コメントをありがとう御座います。久々の桐ですが、今回はそれほど活躍はありませんのでごめんねーと先に謝罪をさせて貰います。(笑) 頭痛や生理痛で休むって出来ないですよね~。痛み止めは必ず鞄にいれてありますよ、本当に困るもの。頭痛は・・・・時々整形に通ってます。頚部ヘルニア持ちなので。これは仕方がない。無理しないで運動を続けるしかないです・・・・・してないけど(自爆) 次は陛下がちょっと意地悪します。添い寝・・・・させたい!
2014-03-24 月 01:28:26 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
ビスカス様、コメントをありがとう御座います。忙しいのも落ち着くとは思いますが、来月は来月で違う忙しさが来そうです。もう、ふたを開けてみなきゃわからない。+花粉ですよね。これで少ないって、多いと鼻と目玉はどうなのか不安だけが募ります。くすん。 今回、桐を出すと嬉しいコメントが多く、嬉しいです。でもそんなに活躍する場面が無くてごめんなさい。あとでもう少し出ますけど、その前に陛下が暴走しそうでヤリスギ注意をしている最中です。(笑) あと、体調に重々お気を付けてお過ごし下さいませ。無理をなさらないよう、御自愛下さいませ。
2014-03-24 月 01:46:11 | URL | あお [編集]
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