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融けた泉の扉  12
朝晩寒くて、昼間は温かいけど花粉が元気に飛び交っていて、洗濯物は乾くけど外には出せない日々。早く花粉の時期が過ぎないかしらと鼻をかみながら願う今日この頃。・・・・増税前にたくさんティッシュを買い込み、ふと母から聞いたオイルショックを思い出しました(笑)

では、どうぞ












深い闇の中、目を凝らす。
徐々に目が慣れて来た頃、困った顔で微笑む自分が立っていることに気付く。 
私は驚きもせず近付き自分の手を握って引き寄せる。 温かいのか冷たいのかも判らず、その手を頬に寄せた。 しばらくして、ただ黙っていた私が 『仕方がないわよね』 と唐突に言う。
何が仕方がないのだろうと眉を寄せると、『だってあの人は国王陛下だから』 と答えた。
だって、が何に繋がっているのか判らず眉を寄せたまま見つめていると伏せた瞳から欠片が零れる。 
それは硝子の欠片のようで、白い花弁のようで、だけど目にした私は胸が苦しくなった。 抑えている、隠している。 何故かその感情が伝わって来て、だけど何を抑えているのか隠しているのかが解からない。

『・・・・私はバイトだから』

それの何が悲しいのか。 バイトでいることが哀しいのか。 どうして悲しいに繋がるのか。
今の私にはわからないけれど、半年以上後宮でバイトを続けていた『私』にはそう思えるのだろうか。
ここで長くバイトを続けると悲しくなるのだろうか。
今の私にはわからないけど、足元に広がる闇が怖いと足を竦ませる。 その闇は目の前の私を飲み込み始め、こうなるともう逃げだせないのだと教えてくれた。 
もう、囚われているのだと。 囚われているけど、突き放される運命なのだと私は笑う。
意味が解らない。 解かりたくもない。
今の自分も、記憶を取り戻した自分も、それでは悲しいだけじゃないかと眉を寄せたまま目の前の自分を強く見詰めたが、困った顔を浮かべる私は静かに闇に飲み込まれていった。

広がる闇の中、小さな明かりが見える。
あの明かりの先の自分は『どっち』だ? 
知りたいけど、知りたくないと思う自分がいる。 
今の自分が消えそうで、だけど前の自分を取り戻したい。
あんな表情を浮かべる自分なんか知らない。 だけど知ることで、本当の自分に戻れると知っている。
知ってどうすると思う自分もいて、どうしていいか判らないまま足が明かりを目指して歩き出す。
頭の中がぐちゃぐちゃで、きっと泣きそうな顔をしているだと思いながら足を動かす。




・・・・意識が浮上したと自覚出来たが、まだ目を開けたくないと温かい何かに顔を摺り寄せる。
このまま、もう少しだけ温もりの中で微睡んでいたいと身を寄せようとして、身動き出来ない身体に違和感を覚えた。 温かいけど、少し苦しいような圧迫感に恐る恐る瞼を開ける。
肌触りの良い布地が頬を撫で、やっぱりそうかと何故か納得する自分がいた。
手を動かそうとして何かを握り締めたままだと気付き、手を離すと強く抱き締められる。

「起きた? 夕鈴」

聞こえた来たのは陛下の声。 
御約束のような展開に、寝惚けたまま口を開けて何か言おうとして咽喉の渇きに噎せ込み、大きな手に背を起こされた。 激しい噎せ込みに涙が滲み、差し出された茶杯を受け取り飲み込むと、やっと目が覚めて来る。 声で既に解かっていたことだが、側に居たのは陛下で、私は陛下の袖か何かを握り締め続けていたようだ。 申し訳ないと、握り続けて痺れる手を眺めていると気遣う声が耳元近くで注がれる。 

「頭痛はまだあるのか、痛むのか」
「頭痛・・・・いえ。 少し重いくらい、です」
「そうか、良かった。 お見舞いに桃を持って来たから食べてね」
「・・・・あ、ありがとう御座います」

目を丸くしながら夕鈴が桃を受け取り、戸惑いながら礼を言う。 
どうやら記憶が戻った様子は見られない。
痛みは消えたようだが、突然襲う頭痛に苦しむ様は見ているだけでも辛い。 痛みに苦しむ夕鈴に出来るのは、呻き苦しむ身体を抱きかかえ、痛み止めの薬湯を飲ませることだけだ。 今回はそれすらも間に合わずに夕鈴は痛みに苦しみながら意識を失った。 いつまで続くのか、先が見えないことが辛い。 
今は記憶を取り戻すより、夕鈴を苦しめる頭痛を取り除く方が先決だろう。

「夕鈴、薬湯を飲んで欲しい。 一刻前に酷い頭痛で昏倒したのを覚えているか?」
「・・・・床に頭を打ち付けて、その後・・・・。 はい、覚えています。 昨夜のは思い出せないけど、今のはしっかりと覚えています。 すごく痛かった、です」
「だが記憶は戻っていないようだな」

眉を寄せて桃を見つめる夕鈴の頭を撫でると、頷きが返って来た。 知らず小さな溜め息が零れていたようで、顔を上げた夕鈴が大きな瞳を更に大きく見開き見上げてくる。 

「どうした・・・・のかな、痛みが出て来た?」
「記憶がないと、陛下は困りますか。 今の私ではバイト妃の演技が上手く出来ていないことは判っていますが、何か問題があるようでしたら言って下さい。 精一杯努めさせて貰いますから!」

真剣な顔で強く言う夕鈴に驚き、そして苦笑した。 記憶がないままでも夕鈴は夕鈴だ。 
こんな時にも真面目で、頭痛の痛みや記憶がない不安を余所に一生懸命頑張ろうとする。 余りにも必死な問い掛けに苦笑が止まらず、だんだん顔色が変わっていく夕鈴の顔に慌てて口を押えるが、肩の震えが止まらない。 口が尖り始め、鋭い視線が僕を睨ね付けて来るのを楽しく受け止めていると、ふと夕鈴の視線が窓に向けられる。
何かの物音でも聞こえたのだろうかと、夕鈴が視線を向ける窓を見ると春近い日差しと木の枝が見えた。 浩大らが来た気配はなく、夕鈴は口を結んでじっと外を眺め続ける。

「夕鈴、どうかした?」
「へ? ・・・あ、いえ。 何でもありません。 ・・・・今のままの演技で問題が無いようでしたら、いいです。 しっかりと頑張りますので、これからも演技指導をお願い致します」
「暫らくの間は昼間はここで過ごすようにしようか。 また酷い痛みに襲われたら大変だろうし、部屋にいてもすることがないだろう? ここで記憶が戻るまで、老師とお茶でも飲んでいてね」
「それでは仕事になりません。 掃除をする許可を下さい!」

何処までも真面目な夕鈴は真っ直ぐに僕を見据えて、しっかりと言い切った。 
困ったと思いながら、それこそが君らしいと肩を竦めてしまう。 どんな状況下に居ても真面目な夕鈴はのんびり過ごすことが難しいらしい。 ただ僕の心配も解かって欲しいと手を伸ばした。
顎を持ち上げ、目を瞠る夕鈴に顔を寄せる。

「ぬぅわ! なぁ、な、何!?」
「記憶がない上に、昨夜攫われて私に心配させたことも忘れている。 更に酷い頭痛で苦しむ姿を見せられたばかりだ。 昨夜と先ほど、二度もだぞ? 私の妃が再び苦しむかも知れぬと心配する気持ちを蔑ろにされては困る。 掃除は許可出来ないな。 それとも私の言は聞けぬと?」
「そっ、そんなつもりでは・・・・っ!」
「ではどんなつもりと? 愛しき妃の心配をする夫の気持ちを慮ってはくれまいか?」

額近くに口付けると、息を吸い込む音が聞こえる。 真っ赤な顔に涙目の夕鈴が震える手で僕を押し出そうとしてるが、目の前でその手を掴み唇を押し当てると悲鳴が上がった。 

「我が妃の身を案じる夫の心を推みてくれると約束してくれ」
「いっ、今は演技・・・・必要な・・・・ない、ですよねぇ?」
「演技指導をして欲しいと願ったのは君だ。 夫の心配を無下にして掃除をしたいと言う妻を懸念しての行動だ。 愛しい妻の我が儘をどうやったら制することが出来るのだろうか。 こんな演技では通じないようだ。 もっと愛情が伝わるような演技が必要だろう。 じっくりと、その身に指導させて貰おうか」

真っ赤な顔で目を大きく見開いた夕鈴が、見事に固まった。  
真っ赤な顔で僕を見上げている夕鈴は何を考えているのだろう。 膝裏を攫い、寝台に寝かせると慌てたように腕にしがみ付き、束縛の檻から逃げ出そうとする。 覆い被さるように腕で行く手を遮ると、じわりと涙を浮かべた目で睨み付けて来るのが可愛い。 ハクハクと開閉する唇を見下ろしていると、きゅっと閉じられた後、渇いた咽喉に無理やり唾を飲み込むのがわかる。

「そ、掃除は駄目なんですね。 わ、判りました、から、陛下は仕事に戻って下さい!」
「愛しい妃が眠りに就いたらな」
「寝ます! ちゃんと寝ます! ですから狼陛下の演技指導は後程改めてにして下さい!」
「望んだのは君だ。 記憶がない分、しっかりと演技出来るよう眠りに就くまで実地指導してやろう」
「・・・・・実地指導?」

眉を寄せた訝しげな視線が僕を見上げる。 足元の掛布を夕鈴に掛けて首下に腕を回し、横になろうとして止められた。 グイグイと押す夕鈴の腕を見つめながら苦笑すると、今度は蒼褪めて抵抗を開始する。

「そっ、そんな指導は遠慮しますから! 李順さんに叱られます! バイトが首になっちゃう!」
「これくらいで首になどしないよ。 記憶がないから普段している演技を教えているだけだ」
「絶対に嘘っ! 幾らなんでも、そこまでは無理ぃ!」

膝を持ち上げて僕の身体を全身で押し出そうとするから、楽しくなる。 記憶がなくてもやっぱり夕鈴は夕鈴で、だからこそ僕も力を入れてしまう。 ぐっと顔を近付け、耳近くに狼の声色で名前を紡ぐ。 それだけで真っ青だった夕鈴は真っ赤になって震え始めた。 腕がプルプル震えるから、僕まで震えてしまう。 さて、もう少し悪戯したら諦めて大人しく起き上がらずに寝ていてくれるだろうか。 

「ゆ・・・」
「陛下、側近殿が怒り狂って宰相部屋への連行を決定したそうですよ」
「・・・・っ!」

背後からの声に驚いた夕鈴が僕の胸を力いっぱい引き寄せた。 押していた僕はそのまま倒れ込み、互いの頭が鈍い音を立ててぶつかり、声無き悲鳴を上げて夕鈴が寝台上で身悶える。 思った以上の衝撃に、僕も額を押さえながら振り返ると腰に手を宛がった桐が飄々とした顔で立っていた。

「転倒打撲による記憶喪失に対し、同じように打撃を与える方法を御選びになられたのですか?」

しれっとして声を掛けて来る桐を無視して、痛みに身悶える夕鈴を抱き起した。 
聞こえた言葉に、一瞬『もしかして』とも考えたが、涙目で頭を擦る夕鈴には変わった様子が無い。

「夕鈴、ごめんね。 痛い?」
「だ、大丈夫です。 それよりも早くお仕事に戻って下さい!」
「うん・・・・。 もし頭痛がするようなら直ぐに薬湯を飲めるよう茶器に用意させておくから、必ず飲むんだよ。 口直しの菓子も用意させるからね。 それと夕方になって寒くなって来たから」
「・・・・陛下、仕事に行って下さい・・・・」

黙って立っている桐の冷めた視線と、いつまでもバイトの心配をする陛下に夕鈴は低い声を出す。 
驚いた顔を浮かべた陛下が、そろりと夕鈴の身体に巻き付けていた腕を解き、じっと見つめて来る。
痛みと桐の冷めた視線ですっかり落ち着きを取り戻した夕鈴は、狼陛下の演技が中断されたことを心中では激しく感謝しながら、眇めた視線を投げ掛けた。

「バイトへの演技指導よりも、為すべきことをなさって下さいませ。 もし痛みが出ましたら、その時は直ぐに薬湯を飲み、大人しく寝台で転がっています。 それよりも陛下側近である李順さんが怒り狂っているなど、そんな・・・・何か背筋がゾワッてします・・・っ!」
「・・・・ああ、それは解かる気がする」

眉尻を下げた陛下がブツブツ言いながら立ち上がり、そっと頭を撫でて出て行った。 
その背を見送った夕鈴は大きく息を吐く。 庶民である自分が陛下に物言うなど背筋が凍る思いだが、このままでは李順さんから叱責を受けてしまうだろう。 それも叱責を受けるのは間違いなく自分だ。 どうにか仕事に戻ってくれたと安堵の息を吐き、跳ねる鼓動を押さえ込む。
 
今日一日は寝てばかりいたと項垂れ、覚えがない昨夜の騒動を思い出そうとした。
だけど簡単に思い出せる訳もなく、ましてや記憶だって戻らない。

記憶が戻ったら、今こうして考えている自分はどうなるのだろうと眉を寄せていると髪を引っ張られた。 
突然の襲撃に瞬きしながら顔を上げると、桐が人の髪を引っ張りながら溜め息を吐く。

「寝乱れているのか、いちゃいちゃで乱されたのか判らないが、櫛が必要だな」
「え? あ・・・・・」

頭に手をやると確かに酷い状態で、陛下の腕の中で寝ていただろう自分と妖艶な狼の顔を思い出す。 足先から頭の天辺まで茹るような熱さに見舞われ、身を竦ませていると 「待っていろ」 と桐が部屋から出て行った。 直ぐに手鏡と櫛を持って来たが、何処から持って来たのだろうと首を傾げて桐を見上げると睨まれる。 
怖い人だらけの中で、良く頑張っているなと自分を褒めながら涙目で急いで髪を梳いた。

部屋に戻ると侍女さんたちが心配げな顔で出迎えてくれ、早速寝所に連れて行かれる。 
上げ膳据え膳状態で着替えをして寝台に横になり、眠気もないのに寝たふりをする。 窓から差し込む夕日に目を細め、これは何時まで続くのだろうと夕鈴は深く深く息を吐いた。









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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 02:13:31 | トラックバック(0) | コメント(8)
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2014-03-25 火 09:38:53 | | [編集]
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2014-03-25 火 10:46:22 | | [編集]
Re: タイトルなし
彩華様、コメントをありがとう御座います。もう、本当に同意見です。もう襲ってしまえよと突っ込みの嵐ですよ。もう、来月が楽しみで心配で見たくて見たくなくてジレンマの嵐です。佳境に入って来たけど、まだまだ続いて欲しいとも思うし。でもガラスの〇面並みに続かれても困るし・・・・ファン心理は苦しいです。
2014-03-25 火 22:23:12 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
ますたぬ様、コメントをありがとう御座います。もう少しティッシュを買っておこうと思っている最中の私です。あとマスク。眼鏡を曇らせながら自転車を漕ぐのは夜怖いのですが、鼻水くしゃみよりも怖い。特に曲がり角。これからは春休みになるので学生とぶつかることはないですが、まだ気が抜けません。今年は目よりも鼻です。ううううう。
2014-03-25 火 22:25:54 | URL | あお [編集]
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2014-03-26 水 23:44:19 | | [編集]
Re: タイトルなし
彩華様、コメントをありがとう御座います。おお、忘れていた。来月のコミックには彼も出るのでしょうかね。出てきたら皆様のサイトでも登場されることがあるでしょう。登場人物が増えると、妄想も膨らみますからね。小説も楽しみです。
2014-03-27 木 00:14:21 | URL | あお [編集]
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2014-03-27 木 18:37:52 | | [編集]
Re: 覚悟はしてたけど
ぶんた様、コメントをありがとう御座います。あんど、お疲れ様です。同じく事務方は忙しいようで、書類が飛び交っています。そっちの仕事じゃなくて良かったと思うけど、了承の返答を頂くのも大変。そして今年の秋以降の国会も気になると、早くも10%引き上げをどうするか話合いを始めてます。もう、庶民の生活はどうなるの? 本誌の二人も気になるし、帰りに本屋に寄ったら本が買ってくれと誘いを掛けて来るし、読み終えたらそれだけで疲労困憊です(笑)
2014-03-29 土 00:44:40 | URL | あお [編集]
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