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融けた泉の扉  13
月一のSNSを書きあげ、やっと安堵。勝手にノルマにしている自分ですが、どうにか続けられてます。腐った話ですが、宜しければご覧下さい。underものんびり更新中。あちらはユーリ編です。


では、どうぞ













夕餉の後に飲んだ薬湯のせいか、眠気に襲われた夕鈴はぐっすりと眠ることが出来た。
翌朝は目覚めすっきりで、頭痛も頭重感も身体の痛みもない。 残念ながら記憶もないままで、少しだけ慣れて来た妃演技で侍女さんに髪を梳いて貰い、衣装を着替える。 大丈夫だと伝えたが、念のためだと薬湯を飲まされ苦悶の表情を必死に押さえながら口直しに目を瞠った。 贅沢だと思うけど、役得だと思う自分もいておかしくなる。 
しばらくすると医官姿の桐が来て 「陛下より、侍医の許でお休みされるよう伝言が御座います」 と後宮立ち入り禁止区域へ連れ出した。 
老師が頭を診て瘤が無くなったことを確認し、痛みが無いことを伝えると薬草の調合を少し変えると部屋を出て行く。 診察が終わり寝台に残された夕鈴は、そろりと強面の桐を見上げた。

「あの、もうどこも痛くないのですが、掃除をしても・・・・いいかな?」
「許可を出すのは老師か陛下だろう。 尋ねるならどちらかに訊け」
「う・・・・。 駄目って言われるかなぁ」

身体の痛みも頭痛もない夕鈴は、何もせずに大人しく過ごすことが出来ないと項垂れる。 
本来のバイトである妃演技すら上手く出来ているか判らない上、陛下に翻弄され続け記憶も戻らない。 役に立てているのか不安が増し、だけど側にいるのは素っ気無い護衛一人だ。 浩大と違う雰囲気を醸し出す人物に、何を言っていいのか判らない。
老師が戻って来たところで、掃除をして過ごしていいかを恐る恐る尋ねてみた。

「まあ、短時間なら大丈夫じゃろ。 しかしどこか違和感を感じたら、直ぐに休むのじゃぞ」
「あ、ありがとう御座います! では着替えて来ます」
「・・・根っからの貧乏性だな。 水汲みをしてくる間に着替えろ」

水桶を持って桐が出て行くのを見送り、夕鈴は早速着替えることにした。 
何もせずに寝台の上で呆然としたまま過ごすより、ずっと建設的だと掃除道具を運び始めると水桶を持った桐が戻り、「この部屋から出ないこと」 と約束させられる。 

「昼前に顔を出すから、それまでは大人しく掃除だけしていろ」
「もちろんです。 しっかり励ませて頂きます!」
「ちょろちょろと部屋から出るようなことがあれば・・・・・覚悟しろ」

警護してくれる人からの辛辣な言に、引き攣った顔で頷くと疑わしい視線が返って来た。 そんな視線を受けるなど、普段の私は一体何をしていたのだろうと怖くなる。 
そんなに落ち着きがないのか? いや、そんな訳ない。 やるべき仕事をするだけだし、今やるべきことは掃除だけだ。 もう一度頷くと、ようやく桐は出て行った。
気を取り直して掃除を始めると、思った以上に埃が積もっていると気付かされる。

曇り空だが風もなく掃除するには丁度いい気候。 
埃を払い落しながら、窓から見える後宮の内庭を眺める。 
想像すら出来ないが、ここは煌びやかな装いの貴族息女が大勢歩いていた回廊。 陛下の寵愛を求め、部屋で化粧をしている姿や、着飾る様子など、未婚で庶民の夕鈴には幾ら頭を捻っても想像が出来ないし羨む気にもならない。 日々バイトと家事に明け暮れていたから、そんな暇は無かった。 それが今、バイト妃として後宮に住まい、掃除婦として未来の妃が住まう部屋の掃除をしている。
記憶が抜け落ちているが、半年以上勤めていると聞けば、溜め息が零れた。
借金残りは如何ほどなのだろうか。 バイト妃をしながら、何故掃除もしているのだろうか。
いつになったらバイトは終わるのか。 どんな風に終わるのか。

手を動かしながらグルグル回る頭の中を整理しようとするが、出来る訳もない。
周囲に記憶が戻ったかと問われるたびに、以前の自分は何を考えていたのだろうと遠くを眺めてしまう。 今、こうして考えている自分は、皆の知る『汀夕鈴』ではないと言われているようで、胃が重く感じた。 どんな風にここで過ごして来たのか判らないが、皆が望む『私』は、そんなに今の自分と違うのだろうか。 
イヤガラセのような陛下の態度も、以前の私にはしなかったのだろうか。
・・・・・いや、それは同じなのかも知れない。 
夕食の時の態度や四阿での態度を見ても、侍女さんに驚いた様子は無かった。
記憶が戻った方がいいのは解かるが、早く以前の私に会いたいと言われているようで、今の自分は要らないと言われているようで、悲しいような気持ちになる。

「桶の中の水はそこの庭に捨てていいのかな。 ・・・・この間まで雪が降っていたなんて思えないような庭だわね。 花芽も膨らんで、今にも咲きそうだわ。 きっと・・・・綺麗なんだろうな」

それを見るのは今の自分なのか、記憶を取り戻した以前の自分なのか。
部屋から出るなと言われたが、まさか回廊の手摺越しから桶の水を撒き散らす訳にはいかない。
階段を降り、植木の近くに水を流して背を正すと近くの大きな石に目を奪われる。

灯篭の横にある大きな石。 何故か見覚えのある様子に眉が寄り、もしかして此処で自分は頭をぶつけたのではないだろうかと漠然と考える。 知らず近付き、その石の横にしゃがみ込み目を閉じた。 頭の奥に何かがチラチラと浮かんでは消えて行くのを追い駆け、同時に鈍い痛みが浮かんでくる。

「覚悟しろと言っておいたのに、どんな仕置きが望みだ?」

背後から聞こえて来た声に、夕鈴は慌てて立ち上がった。 振り向かずとも誰の声か解かり、蒼褪めてしまう。 言い訳が通用するか判らないが、手にした水桶を持ち上げ震えて声で弁明してみた。

「よ・・・・汚れた水を・・・・庭に捨てただけです」
「俺は部屋から出るなと言った。 反故にした理由など訊いてない」

ばっさりと言い捨てられ、カタカタと震える夕鈴が背後から伸びてきた手に抱き上げられた。 
驚いて抱き上げた人物に視線を向けると、そこには陛下がいて叫びそうになる。

「なぁ、陛下!? 衣装が汚れます! お、降ろして下さい!」
「夕鈴、頭痛は無いか? 掃除なんかしなくていいのに本当に真面目だな、君は」

落ちた水桶を拾った桐に胡乱な視線を投げ掛けられた上、掃除衣裳のまま突然現れた陛下に抱き上げられている自分に夕鈴は蒼褪める。 埃まみれの掃除婦を抱き上げるなど、有ってはいけないと思うのだが、陛下は気にすることなく階段を上がり、部屋に置かれた卓上に私を降ろすと柔らかい笑みを近付けて来た。

「身体を動かしても痛みは無いか? 問題ないなら衣装を着替えて四阿に行こうか」
「・・・・それはバイト妃の仕事ですか? でも侍医の許で私は休んでいることになっているはずです。 それに陛下は御政務が御座いますでしょう。 李順さんに叱られませんか?」
「問題ないよ。 仲良し夫婦でいるところを周囲に見せ付けるために夕鈴はいるのだから、掃除よりも早く着替えていちゃいちゃしに行こう。 ・・・・着替えるの、手伝おうか?」

真っ赤になって慌てて陛下の腕から逃げ、夕鈴は脱兎の如く部屋から走り去る。 
着替えながら夕鈴はふと何か忘れているような気になり、妃衣装に着替え終えると回廊に出て庭の灯篭を見下ろした。 何が気になるのか、眉を寄せて見つめていると陛下に声を掛けられ、振り向くと同時に抱き上げられる。

「ま、毎回抱き上げてますが、これもバイトの仕事内容に入るのですか?」
「そうだよ。 いちゃいちゃ夫婦なんだから、これくらいは普通でしょう」

そんな普通があるのだろうかと眉を寄せるが、陛下は楽しげに抱き上げたまま歩き出すから何も言えなくなった。 重くないですかと訊きたいが、あっという間に立ち入り禁止区域を離れて王宮庭園と到着する。 四阿に降ろされ、新緑が眩い庭園を眺めていると耳元に低い艶めいた声が落とされた。

「寒くはないだろうか」
「・・・っ! は、はい、寒くはありません!」

驚いて振り向くと近い場所い陛下の顔があり、目を瞠って退く。 心臓が止まるのではないかと言うほど驚き、狼陛下の声に衝撃を受けた。 二人きりなのに演技が始まっていることと、立ち入り禁止区域での小犬のような態度は何処に行ったのだと蒼褪める。 腰を掴まれたと思ったら引き寄せられ、思わず胸を押し出そうとすると手を掴まれた。 持ち上がる手の先には陛下の唇があり、悲鳴を上げそうになった夕鈴に妖艶な顔が近付く。

「官吏が通る回廊が近くにある。 見せ付ける意味合いもあるから叫ばないように。 仲良し夫婦を演じるから僕に任せて、夕鈴はニコニコ微笑んでいたらいいから」

そう言われて周りを見るが、誰もいるようには見えない。 しかし官吏が通る場所に近いと言われたら、間違っても叫ぶ訳にはいかないだろう。 ぐっと唇を噛み締めると、指先に柔らかい感触がした。 目の前の光景が信じられないと眩暈に襲われ、だけど気を失う訳にもいかない。 
そこまでの演技は必要なのでしょうかと、涙目で強張った笑みを浮かべながら陛下を見上げた時、四阿に近付いて来る足音が聞こえて来た。

陛下側近の李順さんが来たのだと思った夕鈴は、政務の邪魔をしている訳ではありませんと言おうとして、見慣れない官吏に戸惑う。 腰を掴まれ、引き寄せられた夕鈴が陛下に縋るように凭れ掛かるのを、睨むように見つめて来る官吏はとてもただの文官には見えない。 それに官吏がどうして陛下唯一の妃を睨み付けているのだろう。 
記憶がない夕鈴はどうしていいのか判らないが、今は妃のバイト中。
それも仲良し夫婦を見せ付けるためにいる存在だ。 
官吏に笑みを浮かべて会釈をし、仲良し夫婦のアピールをしなくてはと陛下に凭れ掛かる。 掴まれたままの手が熱を持ち始め、汗が滲んでいないだろうかと鼓動を跳ねさせながら頭の中で必死に次の演技を模索していると、陛下が立ち上がった。

「急ぎの仕事が入った。 悪いが、妃は部屋に戻ってくれまいか」
「は、はい、判りました。 陛下、お仕事頑張って下さいませ」

拱手して僅かに御辞儀をすると陛下は耳横の髪を持ち上げ、唇をそっと押し当てる。 
官吏の前での突然の夫婦演技に夕鈴が目を瞠ると、艶めかしい笑みを零しながら小さな音を立てた。 春の日差しの中、身の裡に炭でも熾されたかのように熱くなった夕鈴は幾重にも重ねられた妃衣装を脱いで走り出したくなる。 目が潤み、真っ赤に染まっているだろう顔を俯けると、髪から離れた陛下の指先が頬をなぞり 「では、夜に」 と囁きを落とす。

返事も出来ずに頷くと砂利を踏む音がして、そろりと顔を上げると陛下の背が見えた。
茹り切った顔に手で風を送っていると、陛下の後を追うはずの官吏がまだ残っていることに気付く。
妃演技を思い出して微笑むと、何故か官吏から険しい表情で見下ろされた。 陛下唯一の妃は官吏に声を掛けていいのだろうかと躊躇していると、目の前の男性は顎を上げて睨ね付けて来る。

「政務の邪魔となっていることを自覚し、早々に後宮に下がるがいい。 何度も言っているが、貴女は自覚すべきだ。 陛下の御心に添いますなどと言いながら、政務の邪魔になっていると」
「・・・・・・・」

きっぱりと物申す官吏に、思わずポカンと口を開けて見入っていると、鼻息も荒く踵を返して去られてしまう。 何度も言っていると言われても覚えがない夕鈴は、目を瞬いて去って行く人物を見送るしかない。 仲良し夫婦を見せ付けるために連れて来られたはずだが、官吏に一瞥され叱責されて置き去りにされている自分だ。 どうしたらいいのか判らないまま、夕鈴は立ち上がり四阿を出た。








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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 01:20:01 | トラックバック(0) | コメント(4)
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2014-03-30 日 02:18:46 | | [編集]
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2014-03-30 日 06:22:31 | | [編集]
Re: タイトルなし
ますたぬ様、コメントをありがとう御座います。どんな夕鈴でもスタンスが変わらない桐が私も好きです。やりたい放題のunderもお読み頂き、ありがとう御座います。こっちもノロノロ更新させて頂きます。
2014-04-02 水 00:10:15 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
彩華様、コメントをありがとう御座います。そろそろ終盤です。最近、疲れてPC開くだけで夜中になってしまう。もう歳だから~と自分を慰め(笑)、ぼんやりテレビを見ながら寝落ちしてます。underは更にのんびり更新ですが、余り遅くなるとユーリがローブの紐をブチ切ってしまうので、頑張ります。(爆) あ、自分は白ばかり飲みますね~。今はイタリアかチリが多いかな。あとは池田町のワイン(地元近くなんです)
2014-04-02 水 00:14:07 | URL | あお [編集]
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