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融けた泉の扉  14
もう4月ですね。消費税もアップし、学年もアップし、仕事量もアップして・・・・あああ、温泉に行きたい。上げ膳据え膳でのんびり、本読みながらゴロゴロゴロゴロゴロゴロしたい。


では、どうぞ












連れて来られて演技らしい演技も出来ずに戻ることになったが、日はまだ高い。 
夕鈴はバイト妃として仕事が終わった今、掃除をしに戻るのが妥当だろうと来た道を戻ることにした。 頭上から声が掛かり、仰ぎ見ると屋根上から降りて来た浩大が 「部屋に戻る?」 と訊いて来る。

「部屋に戻るよう言われたけど、侍医の許で休んでいるはずの私が一人で戻ってもいいのかしら」
「ああ、部屋って老師のところだよん。 官吏がいたから陛下も部屋って言ったんだろうけど、俺が警護に就いているのは知ってるしね。 この間のことがあったばかりだし、一人にはしないよ」
「・・・・覚えがないけど、連れ去られたって」
「うん、ごめんな。 用心深い奴でさ、陛下に報告している間に部屋移動されて、マジ焦ったよ」

浩大の話を聞きながら、夕鈴は国王陛下唯一の妃が疎んじられている現状に眉を寄せた。 
自分はただのバイトで庶民だが、その内に出自確かな貴族息女が来ても同じような状況になるのだろうか。 王宮の思惑に、陛下を癒すためである後宮に住まう妃に危害が加えられるなど在ってはいけないだろう。 それもあって妃推挙を退けているのだろうか。 
前の国王陛下の時とは違い、下町での生活は安定した。 
下町のみんなが口々に話していたのを思い出す。 
狼陛下と恐れられてはいるが内乱を制し内政を粛清し、確かに日々住み良くなっている。 そんな陛下の許に嫁がれる貴族息女に危険があってはならないと、臨時花嫁を雇っているという可能性も浮かぶ。 あの優しげな陛下がそんなことを考えるとは思えないが、妃推挙を退けるためだけに庶民を雇うだろうか。 一応役人の娘とはいえ、父は下級役人だ。 
ああ、そうか。 短期の予定だったと言っていた。 それなのに備品を壊して借金を背負ったのは自分自身だ。 例え記憶が無くても、借金は消えて無くなることはない。

何だか頭が重い気がした。 
記憶をなくす前の私はどんな気持ちでバイト妃をしていたのだろう。
官吏と真面目な面持ちで話をしていた陛下と、妖艶な笑みを浮かべて人の指先に口付ける狼陛下。 そして長椅子に寛ぎ、温和な顔で茶を飲む小犬陛下が脳裏を駆け回り、眉が寄ってしまう。 
どんな気持ちも無い、バイトはバイトだ。 
仕事は真面目にしっかりと行うべきだと思う気持ちは変わらないだろう。 だけど、それだけではないような気がするのはどうしてだろうか。 
掃除婦衣装に着替え終え、とにかく今やれることは掃除くらいだとハタキを持ち上げた。 
ふと窓から見える景色に気を取られ、何かが頭の隅を突く。
回廊に出ると立ち入り禁止区域の中庭の灯篭と大きな庭石が目に入り、足が向いた。

「お妃ちゃん?」
「浩大・・・・・ここで私は頭をぶつけたのかな?」
「思い出したのか、お妃ちゃん? そうだよ、めちゃくちゃスゴイ音がしてさ、驚いちゃった」

浩大の言葉を途中で聞き捨て、夕鈴は階段を下りて床下を覗く。 薄暗い床下には何もないはずだ。
それなのに何が気になるというのか。 
丁度今は掃除婦の衣装だと、夕鈴は床下に潜り込むことにした。 
気になるだけではなく、何かに引き寄せられるように手と足が進んで行く。 日の光が差し込む場所ではないと、どんどん身体が奥へ向かう。 背後から浩大の焦った声が聞こえるが意味を為しては聞こえず、聴こうともせずに夕鈴は奥へ向かった。

「・・・・・これ、かな?」

ゴロゴロと石が転がる床下で、鈍い銀色の簪を手にした夕鈴は、腰を落として汚れを払う。 雨に濡れていないせいか大きな錆は見られない簪を手にして、首を傾げる。 どうしてそう思うのか判らないが、これに呼ばれたような気がしてならない。 此処にこうしてあるということは、昔後宮にいた妃の持ち物だろうと思うが、何故こんな場所にあるのかまでは解からない。 冷たい感触に視線を落としながら、汚れを拭っていると頭の奥から鈍い痛みが滲むように浮かび来る。
背後にやって来た浩大に振り向き、「浩大、頭・・・・痛くなりそう」 と呟いた瞬間、痛みが奔った。
 
「ちょっと、お妃ちゃん! 急にかよ、床下から出るまでは頑張れよーっ!」

襟首を掴まれ、這い蹲りながら必死に床下を出る。 手には簪を握り、動くたびに響くような痛みに顔を顰めて夕鈴は床下から抜け出た。 土埃から抜け出て、大きく息を吸い込む。

「急に床下に潜り込んで、頭痛いとかどうしたんだよ? 手に持っているのは簪か?」
「そ、そう・・・・・」

浩大に頭に付いた蜘蛛の巣を払われながら自分でも衣装の汚れを叩き、顔を上げた瞬間痛みが重くなる。 身体が傾ぎ膝をつきたくなるほどの痛みに呻くと、浩大が階へと誘導してくれた。 
腰掛けて息を整えようとして、目の前に展開する景色に息が止まる。



白や桃色の花びらが舞い、季節は一足先に初夏に飛んだように見える。 
振り返ると回廊を歩くのは雅な衣装を身に纏い、華やかな団扇で口元を隠す女性たち。 背後から恭しく付き従う侍女が笑みを浮かべて荷物を持つ。 部屋の窓から軽やかな女性の笑い声が聞こえ、甘い香の匂いがするようで夕鈴は目を瞠る。 
音曲が奏でられ、白粉の香りがする中、一人の女性が部屋から出て来た。 
先ほど荷物を持っていた侍女が誇らしげに部屋前の鴨居に大きな雪洞をぶら下げる。 他の部屋から出て来た侍女たちが悔しげにそれを見上げたあと部屋に戻って行くのを、侍女は胸を反らして笑みを零す。 

何の意味があるのだろうと首を傾げると、場面が変わる。
舞い落ちるのは花びらではなく、枯れ色の葉だ。 
晩秋の移ろいに驚く夕鈴の背後に立つのは美しい女性。 
しかし女性は舞い落ちる葉を黙したまま眺め、ハラハラと涙を流す。 息を飲んで見つめる中、女性は頭から簪を取り、ゆっくりと階を降りようとする。 身を竦める間もなく夕鈴の身体をすり抜けられ、やはり目の前の光景は幻かと鼓動を跳ねさせていると、女性は灯篭をそっと撫でた。 女性の涙は枯れることなく流れ、灯篭に何があるのだろうと夕鈴がそろりと立ち上がると突然振り向かれる。

「このようなものっ!」

荒げた声と女性の表情に胸が痛んだ。 
振り向いた女性は手にした簪を思い切り上へと持ち上げ、だけど振り下ろすことなく唇を噛む。 
怒りに満ちた表情が、食い縛った唇が徐々に儚げなものへと変わり、地に膝をつくと大きな溜め息と共に小さく震えながら項垂れた。 膝横に付いた手が持つ簪が秋の陽光に虚ろに輝き、零れ落ちる涙の方が綺麗に見える。 
立ち竦む夕鈴の前で、しばらくの間泣き続けた女性は手にした簪をおもむろに振り払った。
乾いた音を立てて床下へと投げ込まれた簪に気を取られている夕鈴に声が掛かる。

「・・・鈴! 夕鈴、大丈夫か」
「あ、へ、いか・・・・」

額に手を宛がわれ、顔を上げると陛下が眉を寄せているのが判った。 
頬に手を伸ばすと泣いてはいないとわかり、だけど胸が酷く痛み苦しいと思った夕鈴は手にした簪が誰のもので、どうして捨てられたのか判るような気がしてならない。

「そうか、ここは・・・・・後宮なんだよね」
「お妃ちゃん、頭痛いのは大丈夫か? オレ、老師呼んで来るね」
「夕鈴、吐き気はしないか? 兎も角、部屋に戻り、手の汚れを拭った方がいい」

抱き上げられ、近くなった陛下の顔を見上げる。 
泣きたい気持ちになるのは簪の持ち主の気持ちが伝わって来るからだ。 
それは自分の感情ではないが、胸の奥にいる『自分』がその泣きたい気持ちに同調しているのか、鼻の奥がつんと熱くなってくるのを感じた。 どうして気持ちが解かるのか今の私には解らないし、解かったらいけない気がする。 これ以上、立ち入っては駄目だと思う『線』があるようで、だけどどうしてそう思うのか解らない。 解らないことだらけで胸が苦しいと顔を上げると、陛下がそっと頭を撫でてくれた。 
苦しいと訴える胸が更に苦しくなり、夕鈴は何度も瞬きをして涙を散らす。
老師が慌てて姿を見せ、手にした簪を目につぶらな瞳を大きく瞠った。

「何じゃ、それは?」
「ゆ、床下にあったのが見えて、手にしたら・・・・たくさんの人たちが行き交う賑やかな光景が見えました。 綺麗な衣装を来た人たちや侍女さんが歩いていて、白粉の匂いや香の香りがして。 そして・・・・女の人が泣きながら簪を捨てたんです。 だから、わたし・・・・っ」

強く握った簪を胸に老師に訴えていると、鈍い痛みが頭に奔った。 頭を押さえると、陛下が薬湯を用意するよう伝える声が聞こえ、大丈夫だと言おうとして声が詰まる。 
窓から見える庭の茂みに小さな子供が見え、その黒髪を追うように手が伸びるのが見えた。

「・・・・っ!」


大きく目を見開き立ち上がった夕鈴が見たのは、真っ直ぐに子を見つめる女性の姿。 
簪を投げ捨てた女性が悪鬼の形相で子へと手を伸ばし、今にも何かをしそうに見えた。 
腰掛けた椅子を跳ね上げて窓へ駆け寄り、駄目だと声を出そうとして驚きに息が止まる。 
茂みを潜り抜けて何処かへ走り去る子供の姿を、たくさんの女性たちが遠巻きに眺めているのだ。 手を伸ばしていた女性は茂みの葉を毟り取り、そのまま震えながら立ち竦む。 
それが恐ろしいほどに哀しいと、夕鈴は顔を歪めた。 
微笑めば美しい笑みを浮かべるだろう女性は、周囲の視線を浴びながら黙したまま葉を揺らし続ける。 表情からは色が抜け、何処を見つめているのか虚ろな瞳が揺れ続ける茂みを見つめる様が胸を突く。 憤りに震えているのか、悲しみに立ち竦んでいるのか、どちらにせよ哀しいと夕鈴は苦しくなる。

後宮はたった一人の貴き人のための場所。 
その人だけの極楽で、住まう住人は寵愛を求めて美しく華の如く装う。
華を選ぶ蝶の気を惹くために身を飾り立てようとも、何処に停まるかは蝶次第だ。 気に入った華へ翅を向け蜜を吸う様を、同じ花園で見つめければならない華たち。 
寵愛という栄養は気紛れな蝶の気分次第で賜ることが出来、そして実をつけることが出来る。 
あの子供は後宮で実った果実なのだろう。 
それを捥ぎ取ろうと手を伸ばすのは、その果実を羨む余りの行動か。 
・・・・あの女性は・・・手を伸ばし掴んでどうするつもりだったのだろう。 
考えると背筋を冷たいものが駆け上がる。 
手を伸ばした女性も、それを胡乱な視線で眺めていた女性たちも幻だ。 今、自分がいる場所で繰り返された過去の幻だと思う。 夕鈴はその幻を見るしか出来ない、手は出せない。 

逃げた子供は無事に大きく実るだろうか。 他にも同じような子供はいるのだろうか。
ただ哀しくて、胸が痛くて、そして夕鈴は目を閉じた。 

ぐらりと揺れるような気持ちの悪い闇が広がり、厭だと思いながらもその闇に飲み込まれ落ちていく。 腐臭をまき散らす泥のような闇が身体中に纏わり付くように貼り付き、拭いたいのに拭えない気持ち悪さ。 それが後宮なのだと後から追い掛けて来る誰かの声に、眉が寄ったような気がした。 
そんな場所を望んでいるようには見えないのに、それでも此処はそうなるのだろうか。
頭の片隅で、余計なことよねと笑う自分がいるのを横目に、気持ちの悪い闇に沈んでいく。







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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 02:30:26 | トラックバック(0) | コメント(6)
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2014-04-02 水 13:45:21 | | [編集]
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2014-04-02 水 18:31:43 | | [編集]
Re: タイトルなし
ますたぬ様、コメントをありがとう御座います。やっとここまで来ました。ノロノロ作業ですが、お付き合い嬉しいです。花粉症の薬のせいか、帰宅後ご飯を食べて薬を飲むと、もうめちゃ眠くて・・・・。早くこの時期が過ぎるのが待ち遠しいです。
2014-04-02 水 22:04:45 | URL | あお [編集]
Re: ツバメ
ぶんた様、コメントをありがとう御座います。ツバメはまだ見ないですが、近所に毎年来る家があります。幸福を呼び込むと聞くので羨ましいと毎年見に行ってます。もう少しでコミック発売。超楽しみです。本屋に行くと何か一冊でも買わずにはいられない人間なので、逝くのを我慢してまとめ買いすることがあります。買った瞬間満足して、家でページを開く瞬間幸福感に包まれる。次の日が休みだと尚いいです(笑) どうぞ、無理なさらないようにお仕事頑張って下さいませ。
2014-04-02 水 22:10:53 | URL | あお [編集]
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2014-04-06 日 01:00:14 | | [編集]
Re: タイトルなし
ビスカス様、コメントをありがとう御座います。今日から新学期の娘です。やっと春だと感じる親で御座います。(笑)そしてコメント欄って時間が経つと入力出来なくなるのは知らなかったです。そうなんだ。初知りです。他サイト巡り行く暇もない日々で、花粉症の薬のせいか寝てしまうので更新もままならずです。眠気に勝とうと思わない私も悪いのか・・・・。のんびりお付き合い頂けたら嬉しいです。
2014-04-07 月 21:57:26 | URL | あお [編集]
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