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融けた泉の扉  18
愛犬様の散歩中、擦れ違う人から褒められると嬉しい半面、うちの子は犬見知りするので申し訳ないです。自分より小さいと近寄るが、吠えられると怯えて逃げるヘタレ犬です。近所の犬にだけ大きな顔をしているけど、散歩中は「大人しい犬ですね」と言われるくらい弱々しいワンコ。


では、どうぞ












翌日、着替えを済ませた夕鈴は急ぎ後宮立ち入り禁止区域の老師の許へ急いだ。
飛び込むように部屋に入ると老師は立ち上がり、慌てた様子の夕鈴に驚いた顔を見せる。

「何じゃ何じゃ! 妙な顔して飛び込んで来て、また頭痛でもするのか?」
「頭痛はしませんが老師に尋ねたいことがあって来ました! 後宮に入った妃って、部屋が決まると余程のことがない限りはずっとその部屋に住むんですよね? 部屋を調べたら妃の名前が解かりますか? 老師は後宮管理人なんですよね、調べて頂けませんか?」

夕鈴の問い掛けに眉を寄せた老師は口を尖らせる。 意味が解らないとばかりに足を組み胡乱な視線を投げ掛けてくるから、夕鈴は大きく息を吐いて手に持っていた簪を卓へ置いた。 この場所から近い部屋の床下で見つけたこと、拾ってから見えてしまう過ぎし日の光景や狂気を孕んだ女性の表情を伝え、思い出した彼女の表情に顔を曇らせる。

「で、お前さんはこの簪の持ち主を捜したいのか?」
「探して・・・・え、と・・・どうしよう。 その先は・・・・考えていなかったです」
「なんじゃそりゃ」

呆れた口調に夕鈴も流石に項垂れ、卓に置いた簪を横目に困り果てた。 後宮のどの部屋からも荷物は引き払われ、残るのは寂寥たる埃とバイト妃一人だけ。 もし簪の持ち主が見つかったとして、自分はどうするつもりだったのだろうかと夕鈴は眉を寄せて銀色の簪を見つめた。

「・・・・ただ、そのままにしてはいけない気がして。 持ち主が今も存命なのかも知りませんが、贈られた品だとしても、お妃様御自身の品だとしても、お返し出来たらいいなと思って・・・・・」
「調べることは出来るが本人に返すなぞ可笑しな話じゃぞ。 立ち去った後宮での忘れ物だと返すつもりか? そこまで手間を掛けてわざわざ当時の妃を探し出して返却するなど、現陛下唯一の妃は何を考えているのだと不振がられるに決まっておる。 眼鏡小僧にでも渡せばいいだろう。 後宮にある品は王宮備品として管理されるのが一番いい」
「・・・・・・・」

老師の言うことが棘のように胸に突き刺さり、だけどそれが当たり前なのだろうと眉を寄せるしかない。 陛下の妃として後宮に住まう自分が、簪の持ち主にそれを渡したとして、相手がどう思うかなど想像に易い。 ただ一人の妃として今の後宮に存在するがゆえの傲慢な態度だと思われても仕方ないかも知れないし、過去に投げ捨てた品を今更返されても困るだろう。 
もしかしたら自分が見た光景はずっと昔のことで、もうその人はこの世にいない可能性もある。 老師に言われた通り、後宮で見つけた品は李順さんに渡すのが一番なのか。

「でも・・・・老師、部屋に誰がお住まいになって居られたかだけでも調べて下さい」
「探すだけならな。 それよりも記憶が戻ったと訊いたが、早く陛下といちゃいちゃを再開せんか! 記憶がない間、じれったくて歯痒かったぞ! 仲良し夫婦として『らぶらぶ~』をアピールじゃ!」
「・・・・仕事はしていたと聞きましたが」
「あんなのは仕事とも言えん! ただくっ付いていただけじゃ」

それで充分だろうと眇めた視線で老師を見るが、真っ赤な顔で憤る老人は 「ぎゅうっと抱き着いて頬を寄せたり、人目をは憚らずに口付けしたりするのが妃として・・・・」 と大声で呟き出す。 そんなことをしたら李順さんに殺されますとはいえず、調べをもう一度頼んで掃除を始めることにした。

掃除婦の衣装を着るのが久し振りのような気がして、自然と苦笑が漏れた。 更に水桶の水の冷たさが違うと気付き、やはり十日以上記憶が抜けていたのは間違いないのかと雑巾を絞っていると、浩大がいつものように窓枠から飄々とした姿を見せる。 記憶が戻ったことを聞き知っているのか顔を覗き込むと大きく頷き、夕鈴が口を尖らせると笑い出した。

「記憶が戻って良かったね~。 そして翌日には掃除か、まったく働き者だこと」
「頭痛がして何度も寝込んでいたそうで、その分はしっかりと働いて返さなきゃね」
「・・・・記憶がないところは覚えてないの? 何があったとか、全く?」
「全く・・・・。 その内思い出すのかも知れないけど、今は朧気にも思い出せなくて」
「へぇ~。 それはそれは」

襲われたことも覚えていないと判り浩大は目を丸くしたが、直ぐに笑って誤魔化すことにした。 
陛下が教えていないだろうことを先に教えて、狼から叱責を受けるのは困る。 何度も酷い頭痛に襲われたことや大臣に攫われたなど、それらは全て楽しい記憶では無いから無理に思い出さなくても問題はないだろう。 記憶を失っている間に変わったことといえば、妃の政務室通いが無くなり官吏や大臣らが不穏な動きを始めたということだけ。 しかし、それも妃が政務室通いを再開して陛下と仲良し夫婦を見せ付ければ、一両日中に治まるだろう。

「体調が戻って仕事再開出来て、いまのところ他に問題点はない?」
「うん、身体は問題ない・・・・。 ただ、老師に私が見つけた簪の持ち主を探して貰うように頼んで来たところ。 変な話だけど、以前後宮に居た妃が簪を投げ捨てる場面が脳裏に浮かんで見えて、その妃が住んでいた部屋が判るから、それを老師に調べてくれるようにお願いして来たの。 ・・・・・それからどうするかは決めてないけど、気になる問題点といえばそれかな。 簪を元の持ち主に返すことが出来るならいいけど、そういうのって烏滸がましいかな?」

棚を拭きながら呟いた夕鈴は目を伏せた。 
考えてみれば不思議な映像が脳裏に浮かび、突き動かされるように簪の持ち主を探している。 だけど持ち主は涙を零しながら簪を投げ捨てたのだ。 それを今更返されたとして気持ちのいい話ではないし、今の後宮に唯一人とされる妃から戻されれば気分を害すかも知れない。 李順さんに渡すのが一番いいのかと逡巡していると、浩大が明るい声を掛けて来た。

「探すだけならいいんじゃね? 陛下が止めないなら問題ないだろ」
「・・・・そうね。 探すくらいなら・・・・・いいかな」

少しだけ心の靄が晴れた気分で顔を上げると、窓枠に腰掛けた浩大の背後に桐が立っていて、夕鈴は叫びそうになる。 気配を感じさせないのは隠密として正しい在り方かも知れないが、必要ない場所で気配を消さないで欲しいとバクバクする胸を押さえて睨み付けると、桐は顎をしゃっくって目を細めた。

「過去の亡霊に簪を返すなど、酔狂なことだな」
「おっ、驚かさないで欲しい! それに亡霊と決まった訳じゃないし! もしもそうなら李順さんに簪を渡すだけよ。 持ち主がいるなら返した方がいいなって思っただけで・・・・・探すだけなら」
「退宮した妃に、栄華を極めた過去を思い出させてどうする。 過去の人物を調べて華やかな思い出の品を渡し、満足するのはお前だけだろう。 相手を思うなら黙って李順殿に簪を渡した方がいい」
「・・・・・辛辣な御意見をありがとう御座います」
「礼には及ばん」

乾いた笑を零した夕鈴の胸に、桐から言われた言葉が突き刺さる。 やはり、そうすべきかと唇を噛んでいると頭を撫でられ、桐から慰められるなど珍しいことだと顔を上げると陛下がいた。
目を瞠ったまま凝視していると、小首を傾げた陛下が不思議そうな顔で問い掛ける。

「亡霊がどうした? 夕鈴、早速動いているけど、頭痛はしないのか?」
「し、しません! 亡霊の話は桐が勝手に言っているだけで・・・・・って、桐がいない!」
「体調に問題が無いようなら、午後は政務室に顔を出してくれないか」
「はいっ、わかりました!」

言うだけ言って、あっという間に姿を消した桐に地団太を踏んでももう遅い。
持っていた雑巾を陛下が奪い去り、窓枠の浩大に投げ渡す。 伸びて来た陛下の腕に抱え上げられた夕鈴の目に雑巾を受け取った浩大が笑いながら手を振るのが見え、まさか掃除婦衣装のまま政務室に連れて行かれるのかと進む先を鼓動を跳ねさせながら見つめた。 幸いにも連れて行かれた先は衣装を着替える部屋で、胸を撫で下ろすが抱き上げた腕は夕鈴を解放しない。

「・・・・・あの、着替えます。 部屋に戻って昼餉を取ってから、侍女さんに髪を整えて貰い、それから政務室に行きますね。 そうだ、陛下は昼餉を何処で召し上がるのですか? 宜しければ」
「夕鈴、体調は本当にいいの?」

絡み付くような腕に力が入り、少し痛いと感じた。
記憶がない間、どんな酷い頭痛を起こして皆に心配をかけたのだろう。 覚えがないだけに何と答えていいのか困るが、今は瘤もなければ痛みもない。 大丈夫だと伝えるが抱き締める腕の強さは変わらず、それが妙に恥ずかしいと顔を赤らみながら同時に少しだけ悲しく感じた。 
こうして心配してくれるのも唯一の妃を演じているバイトだからだ。
当たり前のことが悲しく思うなんて、長いバイト期間で自分はこんなにも陛下のことが好きになったんだと実感し、いつか来る別れの時に自分はどんな風に王宮を離れるのだろうと目を閉じた。


閉じた瞼の裏に真っ白な光が広がり、驚きに目を開く。
そこは頭をぶつけた灯篭と大きな庭石がある庭園があり、急いで目を擦って頬を叩くが光景は変わらない。 また過去の後宮の光景が展開されるのかと眉を寄せると、回廊を慌て走る侍女の姿が見えた。 侍女の前には白い衣装の医官らしき姿があり、ある部屋に飛び込むように入って行く。
庭園と階、そして覚えのある部屋入口から、簪の持ち主である女性の部屋だと判る。
部屋に飛び込んだはずの侍女や医官が飛び出し、戸惑いの表情を浮かべて何か喋っているが声が届かない。 声が聞こえないほど距離がある訳ではなく、気付けば全ての音が遮断されたように無音だと理解した。 部屋入り口や回廊側の窓から投げ捨てられた茶器や花瓶が手摺や床で割れる中、侍女が部屋中へ向かって何か必死に叫んでいる。 
他の部屋から女性たちが窺うように顔を出し、宦官が押し留める姿が見えた。

夕鈴が恐る恐る階を上がり、小皿や活けていた花が投げ捨てられる窓からそっと覗いて見る。
そこには思った通り簪を投げ捨てた女性がいて、何かを喚きながら様々な品を部屋中に投げ捨てていた。 豊かな黒髪は乱れ、貴族息女とは思えぬ形相で暴れるように手に触れるもの全てを放り投げる。 何故、泣きながら簪を投げ捨てた女性だと何故判ったのだろうかと自分でも驚くほどの変わりように、周囲を見回すが答えがある訳もない。
ただ理解した。 
嘆き苦しみながら喚いている女性は間違いなく簪の持ち主だと。
昨日突如として垣間見た白昼夢の中では、咲き始めた花のような瑞々しい微笑みを浮かべて後宮に入り、自らを彩る華やかな衣装に手を通していた女性だ。 

何があったのだろう。
咽喉を掻き毟り、袖を引き千切りながら昏い悲しみに慟哭する様は、夕鈴の身体を床へ縫い付け動きを封じた。 震える手を口に当て困惑しながら目を離せずに立ち竦んでいると、女性は突然糸の切れた操り人形のように動きを止める。 俯いた女性はやがて肩を震わせ始め、床に投げ捨てた品々にゆらりと近付いて行った。








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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 00:51:35 | トラックバック(0) | コメント(8)
コメント
更新されたーヾ(〃^∇^)ノわぁい♪→続きがきになる~~( ̄□ ̄;)
の繰り返しに私が翻弄されています(笑)

簪の持ち主が気になりつつ、記憶なくしている間の夕鈴はどこに行っちゃったんだろう?って、こちらも気になっています・・・

忙しいとは思いますが、更新待ってます!
(更新したばっかでしょーって声が聞こえます・・・)
2014-04-27 日 10:02:10 | URL | いつき [編集]
Re: タイトルなし
いつき様、コメントをありがとう御座います。更新が滞りがちですいません。持ち帰りの処理をしていると、PCによる眼精疲労で寝落ちしてしまう日々です。パソコン画面から携帯、テレビに視線を移すとピントが合わないことがあり、眼鏡を新調しなきゃならないかもと思案中。近々娘と一緒に行かなきゃな~。
2014-04-27 日 22:36:53 | URL | あお [編集]
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2014-04-28 月 10:36:36 | | [編集]
Re: タイトルなし
ますたぬ様、コメントと嬉しい言葉をありがとう御座います。寝落ちの日々が続き、有給を使おうかと悩む日々が続きます。しかし娘の急病にこの間連続で使ってしまい、暫くは我慢。仕方ないですけど、子供第一なので諦めです。休み前の夜が一番落ち着くけど、つい本を読み耽ったり、細かい掃除を始めたり、本の整理を始めたつもりが読んでいたりします(笑) のんびり更新していきます。
2014-04-28 月 16:52:55 | URL | あお [編集]
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2014-04-28 月 18:38:03 | | [編集]
Re: 連休
ぶんた様、コメントをありがとう御座います。本誌は何やらフラグが立っておりますね。読んでいて、怯える浩大に「お前が突っ込まないと、誰が突っ込むんじゃ」と突っ込みを入れております。やはり兄貴が登場し、いっそのこと襲ってしまえと呪いをかけたくなります。(笑) 連休は旦那の仕事の都合もあり、子供も大きいのでのんびり主婦をする予定です。犬の美容室にも行きたいし、押入れや棚の中身を整理しようかとも思ってます。いつかやろうと思ったまま数年経っているので・・・・(爆)
2014-04-29 火 01:37:01 | URL | あお [編集]
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2014-04-30 水 13:51:26 | | [編集]
Re: タイトルなし
ビスカス様、コメントをありがとう御座います。そして大変ですね、ビスカス様の体調が気になります。休める時にしっかりと休んで、周りの人間をばっちり使って下さい。私の方も年度が替わって、消費税変更で書類作成、承認書類確認、上への報告、飲み会と忙しく(笑)連休終わるまで、あと少しじゃ!とみんなと気合を入れてます。持ち帰りの仕事で目が疲れ果て、落ちることが多い今日この頃。前の職場の人と偶然、スーパーで会って喋っている内に閉店間際(爆!)申し訳ないと電話して詫びると、そこから長電話(どーん) こっちは本当にのんびり更新ですが、時間がある時に鼻で笑いながらお読み頂けたら嬉しいです。
2014-05-01 木 23:25:46 | URL | あお [編集]
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