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融けた泉の扉  20
朝起きた時は普通だった愛犬が、昼頃よりぐったりし始め、休みの私を振り回す。おやつを出すと食べるけど、散歩やおもちゃには反応しない。専用ベッドでぐったりとしたまま眠るから、気が気じゃなくてオロオロ。掛かり付けの医者は運悪く丁度お休みの日で、24時間救急病院を調べて道順を探って・・・・。眠ったまま万が一・・・・が怖いから何度も声を掛ける。頭を撫でて撫でて撫でて撫で続けて寝不足になりながら朝を迎えると、愛しい犬はすっかり元気を取り戻し、「おい、餌をよこせ」と器を前足で押し出しやがる。・・・・・でも、良かった! 


では、どうぞ












「非常に遅いです、夕鈴殿」

妃衣装で走る訳にはいかず、後宮立ち入り禁止区域からは妃スマイルを浮かべながら必死に早足で駆けて来たのだが、それが厳しいバイト上司に通用する訳がない。 胡乱な視線を投げ掛けられ、夕鈴は乱れた息を整える暇も与えられずに背を正すことになる。 
李順の大仰な嘆息が背を震わせ、卓上に書類を投げ置く仕草が目を潤ませた。

「も、申し訳ありませんっ! 伝言を聞いたのがつい先ほどで」
「話しは貴女の記憶のことです」

言い訳を始めると直ぐに李順の台詞が被さり、夕鈴は言われた台詞に目を瞬いた。 そして記憶が戻ったことをバイト上司に報告していなかったと思い至り、慌てて謝罪する。

「き、記憶は戻りました。 でも記憶を失っていた間のことは覚えていないので、何と言いますか、まるで仙術で眠らされていた気分でして、み、皆様に御心配頂きましたことは誠に申し訳ないと」
「謝罪は結構です。 しかし記憶を失うことになった原因は覚えておりますか」
「お・・・覚えています。 手摺から・・・・落ちて庭石に頭をぶつけて・・・・・」

追い詰めるような李順の声色に、バイト代の減額を申し渡されるのかと夕鈴は蒼褪めた。 
長い間、心配を掛け(李順以外に)バイトとしては通常より少ない仕事しかこなせなかっただろう。 おまけに風邪をひき、高価な薬湯を何度も飲んでいた自分だ。 
バイト代の減額を申し渡されても致し方ないのかと、項垂れてしまう。
 
でも陛下は記憶がなくても真面目にバイトをしていたと言っていた。
政務室には顔を出していなかったと侍女さんたちが言っていたけど、後宮で慈しまれる妃を見事演じていた・・・・かもしれない。 それとも陛下の優しい気遣いから生じた台詞なのだろうか。
元々、妙なところでバイトを甘やかす趣味がある陛下のこと。 
「ちゃんと真面目に仕事をしていた」 と陛下が気遣ってくれただけなら、バイト上司に何を言われても耐えるしかないと覚悟を決めた時、想定外の言葉が耳に聞こえて来た。

「夕鈴殿は記憶を失われている間に某大臣に襲われましたので、危険手当が支給されます」
「・・・・・・ほえっ!?」

驚いて顔を上げると舌打ちと共に眇めた視線に襲われ、慌てて床に視線を落とす。 
危険手当という素晴らしい御言葉が脳内を駆け巡り、だけど襲われた記憶がないから素直に喜べない。 同時に某大臣に襲われたと言うが、身体に傷は無いから直ぐに助け出されたのだろうと考える。 陛下の敵がまだいるという事実と、危険手当という報酬。 どちらに重きを置けばいいのか混乱しながら李順を見上げると、面白くなさそうに大きく息を吐かれた。

「その前に一言。 妃は季節外れの感冒で具合が悪いとしておきましたが、陛下はバイト妃が心配だと何度も執務室から姿を消し、探し出して連れ戻すたびに政務室で怒号を吐かれる。 ・・・・結果、貴女が記憶を失っている間、多大なる迷惑をこうむったと先に報告させて貰います」

それは私の責任になるのだろうかと首を傾げそうになるのを意志の力で必死に留める。 
眼鏡を輝かせた上司の前で首など傾げようものなら、一生傾げたままで暮らすことになりそうだ。 記憶がなくなった原因は自分の粗忽さにあり、頭をぶつけて皆に迷惑を掛けたのは事実。

「それは・・・・本当に申し訳御座いませんでした・・・・」
「謝罪は結構と先ほど申し上げております」

じゃあ、一言なんて伝えなくていいじゃないかと文句を飲み込み、反省してますと肩を落とす。 頭上を通り抜ける冷気と嘆息に息を詰めていると、「さて」 と続きが聞こえて来た。

「体調が戻られたのでしたら、妃演技の再開をお願いします」
「はい、体調は問題ありません。 ですが・・・・あの、記憶がない間に襲われたとは」
「・・・・・陛下から伺っておりませんか?」

夕鈴が頷くと、眉間に皺を寄せて額を押さえるバイト上司がいて、地を這うような深い溜め息を吐くと憎々しげに睨んでくる。 意味が解らないまま肩を竦めると咳払いが聞こえ、そろりと顔を上げた夕鈴の前に指が突き出された。

「記憶がない時、妃排除を目論む某大臣に襲われました。 浩大らが救出し大きな問題はありませんでしたが、その後数回にわたり頭痛があったようです。 薬湯を何度か飲んだのですが、それらの覚えもありませんか?」
「・・・・全く御座いません。 あの、もしや薬湯の代金を借金へ加算するなど」
「そこまで鬼ではありませんよ。 貴女は人を何だと思っているのですか」

鬼だと思っていますとはいえず、夕鈴は口を結んで低頭する。 

「兎も角、記憶がなくとも危険手当は支払われます」
「あ、ありがとう御座います! バイト妃も頑張ります!」
「やる気は認めます。 頑張って下さい」

話しは終わりだと部屋から出された夕鈴は、覚えがない襲撃と思い掛けない賞与に首を傾げながらも浮足立って歩き出した。 足取り軽く、いつものように書庫へ向かう途中、擦れ違う官吏が慌てて拱手してくるのを見る。 夕鈴からするとたった数日足を運んでいないだけなのだが、書庫に顔を出すと官吏らが驚いた顔で出迎え、丁寧な御辞儀をしてくる。

「御久し振りで御座います、お妃様!」
「御具合が悪かったそうですが、もう体調は宜しいのですか?」
「はい、お陰様ですっかり元気になりました。 御心配して頂き、ありがとう御座います」
「この後、お妃様は政務室に向かわれるのですか?」
「陛下の御顔を拝見したいと思うのですが、いらっしゃるでしょうか」

「はい」と頷かれ、書架の片付けが終わったら顔を出そうと笑みを浮かべた妃を、官吏はにこやかに見つめる。 見知った顔ばかりの書庫で最近の陛下情報を聞きながら穏やかに過ごしていると、硬苦しい咳払いが夕鈴の後頭部を殴打した。
厭な気配に振り向くと、そこにはやはり柳方淵がいて、眉間に深い皺を刻み腕を組んでいる。

「・・・・まあ。 方淵殿、御久し振りで御座います」
「暫くの間貴女の姿を見ることが無かったから、ようやく御自身の立場を理解したかと思っていたのだが、残念なことに全く理解していないということか。 嘆かわしいことだ!」
「・・・・貴方も御変わりないようで、何よりですわね。 自身の立場は重々承知です。 方淵殿に御懸念戴かなくとも、陛下のために動くは臣下として当たり前のことでしょう」
「まったく、口が減らないことだ!」
「まあ、減ったら困りますわね!」

互いに一歩も引かず手を動かし続けていると苦笑が聞こえ、入口に水月が立っていた。







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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 16:36:50 | トラックバック(0) | コメント(14)
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2014-05-13 火 18:59:37 | | [編集]
Re: タイトルなし
いつき様、コメントをありがとう御座います。わんこはすっかり元気になりました。義理母と、庭から落ちた梅の実を齧ったのではないかと話してます。ボールが大好きなので、転がっているのを口で銜えた時に梅の毒素が体内に?と想像。干す前の梅は人間に毒ですから、犬も同じかと。たぶん、ですけどね。
2014-05-13 火 19:59:28 | URL | あお [編集]
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2014-05-13 火 20:36:14 | | [編集]
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2014-05-13 火 22:23:54 | | [編集]
Re: タイトルなし
名無しの読み手様、コメントをありがとう御座います。更新早目に出来るよう・・・・頑張ります。今日、「良く効くよ」と勧められた目薬を買って来たので、どうにかなるか? いや、その前に眼鏡屋に行かなきゃ! ついでに買い物すると、一日が潰れることになるのは想像出来る。(爆) あ、陛下は次に出て来る予定です。
2014-05-14 水 00:50:23 | URL | あお [編集]
Re: 方淵なのに李順になってます。
聖璃桜様コメントをありがとう御座います。そしてありがとうです!!!直ぐに修正しました。本当にありがとうです!!
2014-05-14 水 00:51:18 | URL | あお [編集]
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2014-05-14 水 18:20:27 | | [編集]
Re: タイトルなし
ぶんた様、コメントをありがとう御座います。犬は全快ですが、風に飛ばされて落ちる梅の実を見つけては、犬よりも早く拾って捨てる作業を繰り返している今日この頃です。毎回必死になって、犬よりも早く路上に落ちた梅を拾う私って・・・・。(爆)今回の話は変に長くなって方向性を見失いそうですが、どうにかこうにか残し僅かになりました。お付き合い頂けたら嬉しいです。
2014-05-14 水 21:43:56 | URL | あお [編集]
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2014-05-15 木 23:08:13 | | [編集]
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2014-05-16 金 11:00:14 | | [編集]
Re: タイトルなし
ビスカス様、コメントをありがとう御座います。お礼が遅くなり、申し訳御座いません。いや~、二日ほど完全寝たきり病人でした。思い切り季節外れの風邪でダウン。わんこは元気なのに、こっちがアウト!(笑)私事でもチョロリとあり、胃が休まりません。だけど哀しいかな、ちっともやせないのは何故なのだろう?(真剣)
2014-05-17 土 23:39:04 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
いつき様、コメントをありがとう御座います。まずは返信が遅くなりすいません。季節外れの風邪でダウンでした。久しぶりに二日間ひえピタしてベッドの上でしたが、ご飯が美味しくて痩せません!!(泣)underもお読み頂き、感謝です。まだ途中のものがあり、申し訳ありません。漢字は使えるものは使ってしまえで、打ち込んでますが時々自分でも検索する時があります。お馬鹿と貶して下さい。くすん。
2014-05-17 土 23:47:14 | URL | あお [編集]
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2014-05-18 日 22:07:41 | | [編集]
Re: タイトルなし
いつき様、コメントをありがとう御座います。丸二日間寝込みましたが、元気に復活。鼻水が残ってますが、熱は下がり元気に復活です。その少し前に知人から転職しないかの話があり、風邪が治った今、ちょいと胃を病みそうです。すごく悩んでますが、やはり痩せないのねと自嘲している今日この頃。(笑) この話も早く終盤を迎えたいのに、私生活も悩み中です。
2014-05-19 月 22:25:39 | URL | あお [編集]
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