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融けた泉の扉  21
間が空いてすいません。忙しさもピークを越え、休み明けで通常運転となったはずが会議会議で再びの忙しさ! 毎度、みんなで「辞めてやる! ・・・・宝くじが当たったら!」と泣いてます(笑) 本当、当たらないなー。当たっている人がいるんだよね、実際に。


では、どうぞ












「御健勝のようで何よりで御座います、お妃様」
「水月さん! 御久し振り・・・・で、御座います。 書簡でしたら私が片付けますよ」
「では、お願いしても宜しいでしょうか」

穏やかな笑みを浮かべた水月に夕鈴の気持ちも穏やかになり、背後から漂う苛立ちの気配を一蹴する。 その時、水月の背後を一人の大臣が官吏を伴い通り過ぎた。 

大臣は書庫にいる妃を一瞥し、憮然としたまま歩き去ろうとしていた。 
大抵の大臣は狼陛下唯一の妃に対し、下賤な妃とあからさまに見下した視線を向ける。 大臣や高官から向けられる侮蔑の籠った視線など慣れたものだ。 気にすることも気に病むこともないし、逆に見られるために政務室や書庫に通っているバイト妃の立場。

「・・・・水月さん、あの大臣は?」

どうしてそんなことを尋ねたのか自分でもわからない。 だけど目が離せずに回廊を曲がろうとする大臣を追い続け、足元から寒気のような怖気が這い上がる。 水月が直ぐに視線を向け、大臣を確認して口を開こうとして驚きの声を上げた。

「お妃様? 御顔の色がひどく蒼褪めております!」
「だ、大丈夫です。 それより、水月さん。 あの大じ・・・・」
「お妃っ!」


足元から崩れるのを感じながら困惑する。 
どうして突然、頭の中に彼女が浮かび上がるのか。
咲き誇る芍薬のような笑みを浮かべた彼女は、後宮の主を待ちわびているのが判る。 
部屋にはたくさんの花器が置かれ、まるで花園のように色鮮やかな花が飾られている。 侍女がいそいそと茶器の用意を始め、やがて訪れた陛下はとても優しげな顔で彼女の頬を愛おしげに撫でる。 
そして頬から離れた手が彼女の腹へ伸び、一緒に手を重ねた。

その光景に夕鈴は愕然とした。
後宮で得られなかった果実に落胆して命を散らしたのでは無かったのか。 
彼女に果実は実ったのだ。
妃として後宮に住まう女性が望む果実を、彼女は手に入れていた。
 
では、何があった? 
柔らかな笑みを浮かべながら陛下に抱かれる彼女に一体何があって、あんなことになったのか夕鈴には理解出来ない。 困惑と寒気に腕を擦ろうとして袖を引かれる。 
声も出ないほど驚きながら振り向くと、そこには別人のような彼女が立っていた。

・・・・・あれだ

あれ、とは何のことだと訊きたいが、彼女の表情は一変して鬼女の如く一点を睨み付けている。
その視線の先には回廊があり、夕鈴が気になった大臣が歩いていた場所と判った。 伝わって来るのは肌を刺すような憎しみで、唇を噛み締める彼女は赤黒い染みだらけの衣装を身に纏い、ゆっくりと回廊を指差す。

あれが私に薬湯を届けた
健やかに子が育つようにと届けられた薬湯
私は悦び、素直に口にして・・・・・・ 子は流れた
嘆き、悲しみ、私は全てを呪った

あれが他の妃の後見人だと知ったのは・・・・ 私が冥府に下ってから



目を瞠る夕鈴の前から、彼女は忽然と姿を消した。  
彼女の姿が消えても恐怖は残り、息が上手く出来ない。 
何故、過去の光景を私に何度も見せるのか。 私はただのバイトで、臨時花嫁で、庶民なのだ。 貴族の思惑や妃同士の諍いも、子を生す喜びの裏にある権力抗争など知りたくもない。 知ってどうする、それは本物の妃が知ることであり、境界線の向こう側の話しだ。 
だけど胸が苦しくて泣きたくなる。 ただ、ただ彼女が可哀想だと泣きたくなる。
胸が痛くて、苦しくて、叫びそうで口を押えた。 下手なことを口走ってしまわぬよう、自分はただのバイトだから係われないと強く目を瞑る。 自分は何も出来ないし、何もしてはいけない人間なのですと口を覆い、再び現れそうな彼女の姿を頭から追い出す。
 

「吐き気がするのか、お妃っ!」
「お妃様、まずは椅子に座りましょう」
「侍医を呼んで参ります!」

書庫にいる人たちの声が遠くに聞こえ、促されるまま椅子に腰掛ける。 自分でも解かるほど全身が震え、貧血でも起こしたように視界が暗くなり、倒れそうな予感がした。 迷惑を掛けてはいけないと思うのだが、どうしていいか判らない。 

「何があった!」

聞き慣れた声に夕鈴が顔を上げた瞬間、自分が水月に何を尋ねたかを思い出した。 
心配げな表情の官吏たちが一斉に拱手一礼し低頭する中、大股で近付いて来る陛下。 
頭の中がぐらぐらして考えがまとまらない。 全てを放り出して気を失ってしまおうか。
だけど・・・・・、だけど自分はバイト妃だ。 陛下から寵愛を受ける唯一の妃として、皆に観られる立場。 ここでただ倒れるだけなんてバイト上司が許さないだろう。

「・・・・・申し訳御座いません。 少し眩暈がして、官吏の皆様に御心配を掛けてしまいました。 皆様、もう大丈夫ですから。 お気遣い、ありがとう御座います」
「まだ顔色が悪いな。 頭痛はしないか?」
「はい、しません。 それよりも皆様のお仕事の邪魔をしてしまって申し訳ないです」
「お妃様がそのように仰ることは御座いません。 侍医が来るまでは無理に動かない方が宜しいでしょう。 今すぐに冷たい水を御持ち致します」

気遣う声は水月さんだ。 さっき尋ねたことは忘れて欲しいと祈るように視線を向けるが、水月さんは私の視線に気付くことなく静かに場を離れて行ってしまう。 狼陛下の出現に逃げ出したのか、本当に水を取りに行ったのか判らないが、自分の問いに水月さんは大臣を確かに見ていた。 何があって尋ねたのかは判らないだろうが、蒼褪めた妃と大臣との係わりを訝しむことだろう。

再び現れた彼女の言うことが本当ならば、彼女に薬湯を届けた人物が今も王宮に従事しているということ。 それが本当にあの大臣なのかは確定出来ないが、私が思うより昔のことではないのかも知れない。 部屋の住人である彼女のことを、老師は引き続き調べているだろうか。 いや、調べてどうする。 彼女は誰かに知って貰いたいだけだろう。 たまたま私が簪を拾って、記憶がない時に・・・・・。

「え? それって・・・・彼女が私に憑いたって・・・・こと?」
「大丈夫か? 侍医を待つよりも医局に連れて行こうか?」

一層蒼褪めた夕鈴の隣に腰掛けた陛下が人払いをした。 
顔を上げた夕鈴が見たのは眉間に皺を刻んだまま睨み付けるように書庫を離れる方淵の顔で、申し訳ないと思うが早く離れて欲しいとも願う。 混乱が続き、整理がつかない状態で、心配されるのも辛い。
問題は水月さんに問い掛けてしまった大臣のこと。
書庫に居た官吏のうち、何人が耳にしただろう。 妃が大臣を気にしていると知り、その直後具合が悪くなったことを訝しんではいないだろうか。 どうやったら誤魔化せるのか。

「夕鈴、今呟いたのは何? 彼女って誰のこと?」
「・・・・・陛下」

どうしていいか判らない。 陛下を目の前にして判るのは、李順さんに言われた通常バイト業務が滞ったことだけで、書庫で騒ぎを起こしたと知ったら叱責を受けるだろうこと。 頭の痛いことだと額を押さえると、浮遊感に襲われて叫びそうになった。
直ぐに陛下に抱き上げられたと解かったが、どうして抱き上げられたのかが判らない。

「なぁあ!? ちょ、どうして、陛下っ!」
「頭痛がするのだろう。 また倒れては大変だ。 侍医は部屋に来るよう伝えておけ」
「はいよ、陛下。 お妃ちゃん、お大事にー」

窓の外から浩大の声が聞こえ、振り向こうとして陛下が歩き出した。

「あの・・・・陛下、後宮側に入ったら降ろして下さい。 もうすっかり大丈夫です」

何度も何度も訴えるが陛下の表情は狼のままで返答もしてくれず歩き続け、部屋に入ると侍女たちを人払いしてしまう。 後宮立ち入り禁止区域から突然李順さんに呼ばれて執務室に向かい、そのまま書庫に向かった私だ。 突然陛下に抱き上げられた状態で戻って来た妃に侍女は驚き、訳も判らないまま部屋を退室させられる。 厳しい表情の陛下と決して顔色の良くない妃の組み合わせを、侍女たちはどう見たことだろう。 あとで改めてイチャイチャしているところを見せなければと握り拳を持ち上げた夕鈴は、長椅子に降ろされた。





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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 22:21:07 | トラックバック(0) | コメント(8)
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2014-05-19 月 22:43:10 | | [編集]
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2014-05-19 月 23:25:25 | | [編集]
Re: タイトルなし
いつき様、コメントをありがとう御座います。取り憑かせる予定じゃなかったのに、どんどん話の流れが変わっていく。ノロノロ運転していたから、最初に描いていた構想が消えちゃった(爆)どう転ぶか、私も判りません(自爆:ちーん) 今、試験勉強中の娘と一緒に鼻をかみながら続きを考えています。
2014-05-19 月 23:42:59 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
ぶんた様、コメントをありがとう御座います。忙しい最中、風邪で二日もさぼった割に痩せもせずに元気に出社しましたー。まあ、仕方がないっすね。わんこの病院で、やはり梅の実はアカンッと言われ、ちょうど育っていたので梅の実は搾取しました。噛んだだけで食べていないから良かったのか、その後は元気です。でも体重は少し減り、飼い主の私に嫉妬という感情を植え付けました。(笑)本誌発売がドキドキです。どう転ぶのか、超楽しみだけど、出来ればもっともっと続いて欲しいっす。
2014-05-19 月 23:47:14 | URL | あお [編集]
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2014-05-20 火 09:25:54 | | [編集]
Re: タイトルなし
ますたぬ様、コメントをありがとう御座います。under更新しました! すいません、超放置してましたー。あちらの黎翔に睨まれてしまうわ~(笑) そして懲りもせずにロトを買う私。いつかは当たると信じて買いますが、結果を見る時は悟りを開いてます。開き過ぎて当たらないのかと、意気込んでみても結果は同じ。何故だろう。
2014-05-20 火 23:47:37 | URL | あお [編集]
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2014-05-22 木 23:59:04 | | [編集]
Re: タイトルなし
ビスカス様、コメントをありがとう御座います。なかなか進まない話にお付き合い、毎度ありがとうです! 最近、めちゃゾワッとする話を聞き、良くある話だよね~と笑いながらも怖くてトイレの戸を開けたまま用を足す私です。昼間、いい年したおっさんが蒼褪めて話す内容に、皆黙り込み、慌てて笑って誤魔化す、あの場の雰囲気。怖くて、帰宅後娘に報告して手を握り合いました! 体験したこと無いし、体験したくないけど、そういう世界って絶対にないとは言えないから怖い。
2014-05-25 日 13:45:54 | URL | あお [編集]
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