スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


スポンサー広告 | --:--:--
融けた泉の扉  22
のんびりunder更新してます。犬はすっかり元気になり、フィラリアの薬をおやつと勘違いして、宙に放るとパクンッと口中へ。10歳になってもめちゃ元気です。だけどフヨフヨ飛んでる虫を食べようとするのだけは勘弁して下さい。

では、どうぞ












「夕鈴、記憶が戻ってから数日、何に悩んでいる?」
「・・・・えっと・・・」

持ち上げた握り拳を掴まれ、困ったような顔で見つめられた夕鈴の方こそ困ってしまう。
言ってどうなる問題でもないが、水月さんに尋ねた大臣のことを陛下が知れば大事になりそうで、だけど尋ねてしまった言葉を今更取り消すことも出来ない。 もう一度水月さんに会うのも難しい今、目の前の陛下の問いに何と答えていいのか、夕鈴は眉を寄せた。

「き、記憶がない時、どうやってなのかは判りませんが立ち入り禁止区域で簪を拾って、その後記憶が戻った私は簪が気になって仕方がありません。 気になったままでは仕事に支障をきたすかも知れないと、話しを訊くために老師を訪ねて、・・・・・そして拾った簪の持ち主が既に亡くなっていると知りました」

重なる手の温かさに視線を向けながら、夕鈴は頭の中で整理する。 陛下に判るように、自分が理解出来るように順序立てて話をしようとゆっくり息を吐く。 

「これから陛下に話すのは・・・・・」

だけど、どう説明したらいいのだろう。 
脳裏に浮かぶ華やかな笑みを浮かべる妃の彼女と、虚ろな表情で花器の破片を掴む彼女、憎しみに顔を歪ませて大臣を指差す彼女。 後宮は女同士の血で血を洗う場所だと言っていた老師の言葉が思い出され、内政が整えば妃を娶り後宮を賑わせるだろう陛下に自分は何を言うつもりだと口が重くなる。 
これは境界線の向こう側の話で、過去の話だ。 
それも自分が勝手に見た白昼夢のようなもので、もう手を出すことが出来ない過去の幻影。 
それを陛下に話して、いったい自分は何をしたいのだろう。

見つめたままの手が歪んで見えて、鼻の奥がつんっと熱くなった。
どうすることも出来ない自分に何故あんな映像を見せたのか、何を訴えたいのか判らず、判ったとしても何も出来ないではないかと哀しくなる。 
ぐっと唇を噛み締め、込み上げてくる感情を耐える私の手が引き寄せられた。

「夕鈴、簪の持ち主が亡くなっているのが判って・・・・悲しくなった?」
「うぅ・・・・・・」

ギリギリで耐えていた感情が、身体を包み込む温かな腕に決壊する。 
陛下の衣装と妃の衣装、どちらが高価か瞬時に計算し、自分の袖で涙を拭おうとして手を下ろされた。 人の顔を覗き込む陛下が自分の袖で涙を拭おうとするから、それは駄目だと顔を背けようとして抱き締められてしまう。 
簪の持ち主が亡くなっていることだけが哀しい理由ではないが、陛下がそう思っているなら、これ以上は言う必要はないと夕鈴は口を噤むことにした。 第一、陛下の御世となり後宮は閉鎖状態だ。 いるのはバイトの臨時花嫁だけで、簪は昔の妃の忘れ物。 退宮したか、既に亡くなったかしかないだろう。 

それに、言ってどうなる訳もない過去のこと。 
これからの後宮は陛下が新たに築き上げるだろうし、あんな風に泣く人は二度と現れないはず。 これ以上過去を掘り下げてどうなると、夕鈴は思い切り鼻を啜って自分の袖を持ち上げた。

「へーかの衣装が汚れちゃうから、離れてぇ・・・・」
「そんなの気にしないで。 優しい夕鈴が泣き止むまで、手巾代わりにして」
「こ、こんな高価な手巾・・・・ありませぇん」

命を絶った彼女が何を見せて来ても、自分はもう係わるべきではない。 過去を見せられても、犯人を知らされても自分にはどうすることも出来ないし、してはならない。

「ほ、本当に大丈夫。 頭痛もしませんし、記憶がない間のことは仕方がないと割り切ります。 簪は李順さんに渡して、通常バイト業務に戻りますから。 ・・・・・仕事の邪魔をしてごめんなさい」
「自分の奥さんの心配をしているだけだ。 邪魔だなんて思ってないよ」
「李順さんは思ってますよぉ。 また怒られます・・・・」

しかし、大きく息を吸い込み気持ちを切り替えようとした夕鈴の脳裏に彼女が現れた。
表情を落とした彼女の虚ろな瞳に身体が固まり、鼓動が大きく跳ねる。 
虚ろな瞳を向け、腹を擦る彼女が深淵のような口を開き、何か伝えようと近付いて来る。 何故、彼女は何度も現れるのだろう。 何をして欲しいのだろう。 だけど自分はバイトなのだと、貴女のために何も出来ないのだと、目を離せないまま首を横に振った。 
だけど彼女は消えてくれない。
子を生した彼女が、それを奪われた悲しみを訴えてくる。 
唯一の妃として後宮に住まう私に、呪いのように訴え続ける。 
毒を運んだ大臣がいるぞと、己の欲を満たすために陛下の御子を弑した輩がいるぞと、虚ろな瞳で繰り返す。 後宮に足を踏み入れた時から死に至るまでの映像を押し付けるように見せ、哀しいと、苦しいと、辛いと訴え続ける。 だけど過去を見せられても、私にはどうすることも出来ない。 
彼女の望みは毒を盛った大臣の失脚だろうか。 それとも事実を明るみにすることだろうか。
どちらにしても私には手出し出来ないことだ。

「夕鈴、寒気がするのか?」
「だ・・・・、私、は・・・・何も出来な・・・・。 出来ないから・・・・」

何度も何度も恐ろしくも哀しい過去を見せないで欲しい。 そんなの見たくない、知りたくもない。 
私はバイトで、期間限定の妃で、借金返済が終わったら陛下の側から離れる人間なんです。 大臣が犯人だとしても、それを捕らえることも罰することも出来ない庶民で、本物じゃないんです。 
過去の事実だとわかったとしても、私には何も出来ない。

「だから、お願い・・・・っ! もう現れないでぇ」
「夕鈴っ!?」
「そーいうのはバイトの仕事じゃないっ! 無理だからっ!」

頭の中いっぱいに血塗られた彼女の手が浮かび、振り払おうと手で払いのける。 何かに当たったような気がして顔を顰めながら目を開けると、痛みを伴いながら手を掴まれる。 その痛みから逃れようと手を引くが、逆に引き寄せられて大きなものに包み込まれた。

「夕鈴っ! 落ち着け、大丈夫だから!」
「何もっ、何も出来ないから・・・っ! 私には無理だからっ!」
「大丈夫、大丈夫。 夕鈴、ゆっくり呼吸して、ね?」
「ぁ・・・・。 ふぅ・・・・、う、・・・・うぅー・・・・・」

頭から覆うように抱きかかえられ、背を幾度も擦られた。 
優しい言葉が耳に届き、言われた通りにゆっくりと息をする。 
それだけで頭の中いっぱいに広がっていた彼女の姿は消え、残ったのは胸苦しさだけだ。 それも背を擦るゆったりした手の動きに次第に落ち着きを取り戻し、妙な熱だけが胸内に籠り残る。 全速力した後のような脱力感に、陛下だと判っているが今は仕方がないと凭れ掛かった。
身体の震えが止まらず、深呼吸を繰り返しながら目を擦ると、陛下が手を掴み握り締める。

「寒い? もう少し落ち着いたらお茶を淹れるからね」
「・・・・・ごめ・・・・なさい」
「大丈夫、大丈夫。 震えが止まるまで居るから、大丈夫だよ。 だけど話してくれる? 夕鈴が悩んでいるのを知りながら、このまま離れるなんて僕には出来ないから。 落ち着いてからでいいから」
「でも・・・・。 でも、話すのは・・・・・」
「こんなにも震えている夕鈴を、そのままにはしておけないよ。 だから、ね?」

鼻の奥から熱が込み上げ、優しい言葉と手の動きに縋りたくなる。 震える手が目の前の衣装を掴み、顔を埋めながら嗚咽を漏らした夕鈴は、こんなことが続くなら、いっそのこと全て話してしまおうかと考えた。 しかし顔を上げた途端に李順さんが脳裏に浮かび、今は駄目だと鼻を啜りあげる。

「陛下に・・・・、忙しい陛下に、今は話すことが出来ません。 少し調べて、そして頭の中の整理が出来たら、ちゃんと陛下にお話ししますから、まずは政務に戻って下さい。 り・・・・李順さんに怒られますから」
「ちゃんと話してくれる? 調べるって何を? 本当に具合は悪くないの?」

大きく息を吐いた夕鈴は背を伸ばして陛下を見上げた。 心配げに首を傾げて見つめて来る双眸を前に、このまま心配をさせ続けるのも申し訳ないと眉を寄せる。 だけど上手く説明できるだろうか。 話して陛下の気持ちを傷付けることはないだろうか。 過去の話だ。 それも陛下には関わり合いのない、昔の後宮で亡くなった人の話。 それに簪の持ち主が何を目的として私の前に姿を現しているのか、未だに不思議で仕方がない。 
・・・・・・こんなことを考えている暇はない。 
いつまでも陛下がここにいると、間違いなく李順さんがブチ切れるだろう。

「後程、しっかりと説明をさせては頂きますが、ざっくり言いますと過去の亡霊です」
「・・・・・・ゆーりんって、そういうの嫌いじゃなかった?」
「嫌いですよ! 借金と同じくらい苦手です! ・・・・あとは後程、説明します」
「ええー!? 過去の亡霊って何? 逆に不安要素が増えて、離れがたくなるよ」

それは本末転倒だと、困った事態になったと、夕鈴が眉を顰めて唸り声を上げると頭を撫でられた。 顔を上げると柔らかに笑う陛下がいて、釣られて口元を緩めると抱き締められる。

「なぁあああ!?」
「話しはあとで訊くけど、まずは侍医にしっかり診て貰うように。 今日は調べるのを止めて、ちゃんと寝ることだ。 顔色がまだ良くないからね」
「・・・・・・はい」

泣いた目尻が陛下の衣装に擦れて少し痛かったけど、優しい声に素直に頷いた。 頭の片隅に顔を覆う彼女の姿が浮かんだが、白い靄となって消えていく。 それが哀しいと、夕鈴は目を閉じた。






→ 次へ

スポンサーサイト

テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 01:55:19 | トラックバック(0) | コメント(6)
コメント
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2014-05-27 火 02:47:25 | | [編集]
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2014-05-27 火 07:54:54 | | [編集]
Re: タイトルなし
らぁ様、コメントをありがとう御座います。ワンコ様、同じで超うれしい。うちもお手や、おかわりをしながら必死な表情で欲しがります。馬鹿だなと笑いながら、そこが可愛いと親ばかしてます。うちの娘にも「可愛いよね」と10年言い続け、「娘の私も可愛いか?」と訊かれるくらいです。(笑)
2014-05-28 水 20:10:44 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
いつき様、コメントをありがとう御座います。めちゃ時間が掛かってしまい、申し訳ないです。そうなんです、夕鈴一人じゃ解決できません。甘えるのが無理なら、巻き込んじゃえ。・・・って言うか、陛下が放置する訳ないし。(笑) 甘々~が早く書きたいっす。そして本誌、新たな動きが見えてニヨニヨです。そして思わず「今の内にガンバレ、几鍔!」と応援をしてしまう。跳ね返されるだろうけど、諦めずにがんばれーと力を込めて応援してます! 駄目なのはわかってるけどね(爆)
2014-05-28 水 20:15:18 | URL | あお [編集]
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2014-05-29 木 17:44:50 | | [編集]
Re: タイトルなし
ぶんた様、コメントをありがとう御座います。思わず「動物のお医者さん」を読み返しました(爆)大好きです、あの作品。何と言っても舞台が北海道ですからね。もちろん「銀の匙」も大好き。実家に近い帯広が舞台で、知っている風景がばっちりですから! どちらの作者も北海道で、今も作品をチェックしてます。そして
間が空いて遅れての返事、すいませんでした。のんびり更新頑張ります。ペプシも好き。
2014-06-02 月 00:03:04 | URL | あお [編集]
コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。