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融けた泉の扉  23
熱くなりましたね~。それでも娘とふたり、5月中にエアコン使うのは負けた気がすると、妙な気分で我慢してましたが、6月に入って我慢も限界。特に娘は西日の差す部屋なので、「・・・一時間だけでいいから」と寝る前に冷房のスイッチをon! これから先、しばらくは電気代が気になります。

では、どうぞ












その日は大人しく侍医の診察を受けて薬湯を飲まされた夕鈴はぐっすりと休み、翌日老師の許で勉強して来ますと、心配そうな侍女さんたちを振り切り立ち入り禁止区域へ急いだ。

「老師! 昨日の簪の件ですが、確かそんなに昔の話じゃないと言っていましたよね!」
「・・・・慌ただしく来たと思ったら、まだ引き摺っておるのか」

眇めた視線を向けて来た老師は、相変わらず菓子を零しながら食べている。 腹が立つが、今はそれどころじゃない。 夕鈴は身を乗り出して、御願いをした。

「簪の持ち主が、何度も何度も姿を見せるんです! 怖いよりも困惑して、こ・・・・困るんです。 昨日、書庫で片付けを始めた時、通り掛かった大臣に簪の持ち主さんが反応して、怒ってて」
「ほぉ、それはお主に敵討ちをしろと言っているのか? しかし、そんな話は後宮では珍しくもない。 以前お前さんに話しただろう? 女同士、血で血を洗う場所だと」
「簪の持ち主が亡くなったのは、陛下の・・・・・お父さんが国王だった時代ですか?」
「・・・・・・わかっておるんか」

老師が茶杯を持ち、視線を合わせないまま小さく息を吐く。 唇を噛み項垂れると、いつの間に来たのか浩大が卓に置かれた夕鈴の茶杯を飲みながら笑いを零す。

「お妃ちゃん、幽霊に頼られちゃった? ホント、面倒な方に好かれるよね~」
「好かれ・・・・た、訳ではないような・・・。 あ、あんなの見せられる方の身もなってよ! 本当に怖いんだからね。 そういうの苦手なのに、怖いのに、厭なのに・・・・・」
「でも、やるとなったらお化け相手でも武器持って立ち向かうじゃん。 星離宮でもさ」
「あ、あれは星離宮の女官さんたちが怖がっていたからで」
「オレ、ふつーに仕事してたのに後で超睨まれたんだぜ? 見てないっていくら言っても狼陛下で睨み付けて来るし、あん時はマジに参ったよ。 殺される一歩手前って覚悟したもんな」
「・・・・・そ、そうですか。 それは・・・・・・どうも」

浩大があっけらかんと軽く言うから、反論の声が弱まってしまう。 幽霊とはいえ、頼られていると言われると何かしなきゃならない気がしなでもないが、幽霊相手では手の出しようもない。 第一、それはバイトとして境界線の向こう側だと首を振る。 どうあっても係わるべきではないと。

「で? 簪の持ち主は陛下の父ちゃんの時代の人で、それがお妃ちゃんに何をして欲しいって?」
「それが・・・・。 あれ? いや、差し入れの薬湯を飲んだら子が流れたって・・・・」
「毒見しないで口にして、それで子が流れたから仕返ししろって、お妃ちゃんに言ってんのか?」
「仕返し・・・・とかは言って・・・・いない」
「何だ、そりゃ」
「・・・・・何だろう」

そう言えば、過去の光景を見せられるが特に何かを頼まれた覚えはない。 書庫近くを大臣が通った時も、子が流れた原因は大臣にあると、他の妃の後見人だったと教えてくれたけど、だから何をしてくれと言われた覚えはない。 
夕鈴が首を傾げると、腕を後ろに回した浩大が呆れた顔を見せる。

「昔、こんなことがありましたって、見せられているだけ? 希望も要求もなし?」
「・・・・・・。 そういうことになる」
「なーんだ。 じゃあ気にしなきゃいいじゃんか」

腑に落ちないが、すごっく不快だが、めちゃめちゃ腹が立つが、浩大の言う通り、今のところ明確な要求をされた覚えがないと気付く。 急に今まで泣いていた時間を返せと叫びたくなり、それで陛下に心配をさせたのかと申し訳なさに穴を掘って隠れたくなった。

「・・・・自分にがっかりだわ。 給与分、しっかりきっちり働くのが信条なのにっ」

あんなにも悩んだのは何だったのだと夕鈴は立ち上がり、早速着替えに向かった。 
こうなったらやる事は掃除や妃演技だ。 だが、昨日の今日で元気な顔で書庫や政務室に顔を出すのは憚れる。 今日一日くらいは大人しく立ち入り禁止区域で掃除をして過ごし、明日からしっかりと妃演技をしようと考えた。
昨日、書庫で倒れ掛けた私を心配げに陛下が抱きかかえていたのを、方淵を始めとして多くの官吏が目にしている。 その翌日に 「悩みは解消!」 と元気いっぱいの妃が姿を見せるのは奇怪だろう。 
今日は掃除に集中しようと夕鈴は桶を持って水汲みに向かうことにした。 
こういう時は無心で身体を動かした方がいい。 
もう余計なことは考えず、また見えたら見えたで諦めようと拳を掲げた。

久し振りにハタキを振り、積もった埃を落としていると浩大がひょいと顔を出す。 
夕鈴が振り向くと懐から菓子を出し、黙々と食べ始めるから嘆息を零して掃除を再開した。 いくら文句を言っても食べかすを落とす浩大を放置し、夕鈴も黙々と掃除をする。 棚から埃を落として水拭きをし、床を掃き始める頃には気分もすっきり晴れ晴れとなっていた。

「ああっ! 何か久し振りに仕事をしたって気分っ!」
「そりゃ、実際久し振りだもんな。 こんなに時間を掛けて掃除すんの」
「そうね、最近は手の出しようのない幻に翻弄されて、己の職責を見失っていたわ。 これからはばっちり、みっちり、しっかりっと、私は借金返済に勤しむからねっ! さあ、やるわよーっ!」
「ゆーりーんーっ!」

勢いよく持ち上げた箒が更に上へと持ち上げられ、背後から聞こえた声に夕鈴は目を大きく見開いた。 聞こえてはならない声の持ち主が箒を浩大に渡すのが視界の端に映り、さらに回廊から老師が目を三日月のように細めているのが見える。 掃除で火照ったはずの身体にゾワリと這い上がる寒気を振り払う暇も与えられず、掃除婦は狼に抱き上げられた。

「いっ、今は掃除婦なんですっ! そ、それに政務はぁ!?」
「早速部屋から出たウサギを狩りに来た。 診察に訪れた侍医は何と言っていた? 私の心配を余所に掃除に勤しむなど、我が妃は本当に真面目で困る。 掃除をする暇があるなら政務室に足を運び、花のような笑みを私に見せるべきだろう」
「・・・・はぁ・・・」

滔々と語る狼陛下を前に、夕鈴は抗うことを止めた。 昨夜、詳しいことを話せずに心配させたままだったと思うと文句も言えない。 陛下の背後でニマニマした二人が気になるが李順さんよりマシだろうと、力を抜いて凭れ掛かることにした。

「侍医さんは・・・・特に異常はないけど最近暑くなって来たから、そのせいかなって」
「それだけ? 頭痛は、その後ないのか?」
「ないです。 それより政務は大丈夫ですか?」
「我が妃の容態の方が大事だ。 大丈夫だというなら安心だ。 では、行こうか」
「いってらっしゃぁい。 ゆっくりいちゃいちゃして来てね~」

浩大が元気に送り出し、老師が小さく手を振って見送ってくれるが、今の自分は掃除婦だ。 そう諌めても陛下は気にしないだろうが、誰に見られるか判らないと肩を揺らして足を止めさせた。 きょとんとした顔が少し憎らしいと思うのはバイト妃としては間違っているだろうが、掃除婦としては間違っていない。

「せめて着替えをさせて下さい。 先ほど浩大たちと話をして、ストンと腑に落ちましたので説明が出来ると思います。 怖い・・・・というか、自分が情けないという方向に流れて、流れた先が沼だったのかぁっ! という気分ですけど」
「・・・・? 夕鈴が腑に落ちたならいいけど、流れ着いた先が沼って大丈夫?」

先ずはいつまでも掃除婦を抱き上げてないで着替えさせて欲しいと再度お願いすると、渋々降ろしてくれたが、掃除婦を連れて政務室には行けないということが何故解からないのだろうと首を傾げてしまう。

場所を移動し、政務室にほど近い四阿に腰を下ろした二人は心地よい午後の風に揺れる木々を眺めた。 今の自分と同じように過ごしていただろう彼女を思い、後宮における寵愛の裏表を学ぶ。 バイト妃がそんなことを学んでも仕方がないけどねと自嘲していると、口元を覆っていた団扇が下ろされた。

「流れの先の続きを教えてはくれまいか?」
「・・・・立ち入り禁止区域から拉致されましたので、侍女がおりません。 ですから狼陛下の演技は必要御座いません。 あ、でも茶の支度のために呼んだ方がいいのかな?」

近くに居るだろう浩大を呼ぼうとして腕を引かれる。 倒れ込んだ先は陛下の膝上で、そのまま座らされた夕鈴は背後から覆い被さる狼に素直な気持ちを告げた。

「心地よい風が舞い込んで来ておりますが、・・・・・暑いです」
「じゃあ、二、三枚脱ぐ?」
「脱ぎませんよっ! 脱ぐ訳ないじゃないですか! 何を言ってるんですか? 陛下がくっ付いて来るから暑いと言いたいんです。 くっつく必要もないじゃないですか!」
「ゆーりんっていつも面白いね。 ここは政務室近くの四阿だから、仲良し夫婦を見せ付けるには最適な場所。 夕鈴はお仕事出来るし、僕は休憩出来る。 互いの利害が一致してるでしょ? さ、話をして」

陛下の言葉に顔を上げると、確かに政務室を出入りする官吏が忙しそうに回廊を歩いているのが見える。 そんな中、のんびり四阿でイチャイチャしていていいのだろうかと思うが、バイト妃としてはこれが正しい仕事だと頷くしかない。 
項にチリッと痛みに似た悪寒が奔り顔を上げると、やはり柳方淵がこちらを睨み付けていた。
陛下大好き真面目人間のことだ。 妃妾如きが気高く清廉潔白な国王陛下を堕落へと導いているように見えるのだろう。 足を止めて呪いを送っているかのような方淵に、取り敢えず目礼すると一層憎々しげに睨まれる。 陛下がさぼっているのは間違いなく妃のせいだと言わんばかりの態度に眉を顰めた時、方淵の背後を濃紺の衣装に身を包んだ人物が通り過ぎるのが見えた。

「何見てるの、夕鈴。 もしかして話すのが辛くなった?」 
「・・・・見ているのは・・・・・アレだ」
「夕鈴?」

贈られた薬湯を口にした翌早朝、彼女の悲鳴は後宮に響き渡った。 寝所に飛び込んだ侍女が目にしたのは、寝台上で悲鳴を上げ続ける妃と乱れた寝具、そして赤黒い・・・・。
何があったか一目でわかる。 真白な妃の顔と帯下を鮮血に染める衣装。 
響き渡る悲鳴と動けずにいる侍女たち。 
突然の悲報を耳にしたはずの陛下は訪れず、ただ労わるようにと託が届けられる。
泣いて縋ることも出来ず、ただ耐えて過ごす日々。 やがて時の経過と共に気持ちが落ち着いて来た頃、妃に上がったばかりの女性が懐妊したと耳にする。 それも一介の舞姫が陛下の目に留まり、皆が羨むほどの寵愛を受けていたと。
悲しみに泣き暮れても子は戻らない。 もう一度陛下が御渡りになれば・・・・・。
自分より身分卑しい者が寵愛を受け子を生したというのに、悲しみに暮れる自分の許へと陛下は御越しにならない。 新たな悦びに笑みを浮かべている陛下が脳裏に浮かぶたび、苦しみが増す。 時折成長した憎き子を目にし、知らず手が伸びる自分が居て、それが彼女をさらに追い詰める。 男御子は他にもいるが、自分の子が流れた後に生まれたという事実が彼女を苦しめ続けた。 
そして他の妃にも子が生まれたと耳にし、そして彼女の精神は完全に崩壊する。

「どうして・・・・私の子が・・・・・私の子だけが」
「ゆうり・・・・。 また何か見えるのか?」
「見たくなどなかったっ! 冥府に下ってまで尚も私を苦しめる、あの男っ!」

叫びながら立ち上がろうとする夕鈴を抱き締めるが、激しい抗いに陛下は眉を顰めた。
抗いは激しく、表情がまるで違う。 荒々しい声と憎悪を滾らせた夕鈴の視線は政務室に向かっている。
そのには官吏が数人忙しげに歩くばかりの、いつもの光景だ。 少し前に方淵の姿が見えたが、彼にここまで激昂したことは無い。 時に何か相談を持ち掛け、親しげに会話することさえあるというのに、では他に誰がいたか。
屋根から降りて来た浩大が 「どうする?」 と問うて来る。
急に変化した夕鈴をこのままにはしておけず、悪いと小さく呟き手刀を振り下ろした。 腕の中に倒れ込んだ夕鈴を担ぎ上げ、真っ直ぐ医局へと向かう。 酷い頭痛が治まったと思えば次は何かに取り憑かれたか。 面倒事引き寄せ体質はどうすれば改善されるのだろうと、腕の中の夕鈴を見下ろすと眦に涙が滲んでいるのが見えた。 

「浩大、簪の持ち主に関して、詳細報告をしろ」
「了解っす。 って、調べは終わっているけどね」

王宮側に姿を消す陛下を見送り、浩大は老師の許へ急いだ。 次の厄介ごとは早々に解決出来るのか。 相手が鬼籍の人物なだけに、一筋縄ではいかないかと浩大は溜め息を吐く。





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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 23:15:21 | トラックバック(0) | コメント(8)
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2014-06-03 火 23:47:54 | | [編集]
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2014-06-04 水 14:53:41 | | [編集]
Re: タイトルなし
ビスカス様、コメントをありがとう御座います。毎日暑いです。娘は早くも日焼け止めスプレー二本使用済み。新しいのを買わなきゃと騒いでました。最近、新しく日傘を買い、その涼しさに満足しているようですが、学校で「女子力高い」と先生に言われ、「お嬢」と言われているそうです。(笑)日焼けが気になるお年頃です。北海道が異様な暑さを記録し、実家では今年こそエアコンを買わなきゃ駄目かと思案しているそうです。マジにめちゃめちゃですからね、最近の気温は。熱中症にはくれぐれもお気を付け下さいませ。そして、お誕生日おめでとう御座います!! 楽しい誕生日を迎えられたことと存じます。
2014-06-04 水 23:00:56 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
ますたぬ様、コメントをありがとう御座います。そうそう、underご覧頂きありがとう御座います。あちらもじりじりと更新中です。こっちもやっと終わりになってくれそうで、ほっとしてます。仕事環境が変わり、帰ったらグッタリの日々が続いている上、この暑さ。エアコン掃除をしないとな~と思いつつ、扇風機で我慢する。昨日今日と涼しいので助かりますが、運動会シーズンで天候が気になる方も多いかな。うちも金曜日に体育祭。でも・・・・どうかなぁ。
2014-06-04 水 23:04:35 | URL | あお [編集]
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2014-06-05 木 12:10:19 | | [編集]
Re: 全プレバッグ到着!
ぶんた様、コメントをありがとう御座います。ONE PEACEは袋をゲットです。友達に本を貸す時などに使用出来るので、袋の方が重宝。ハイキュー!も同時発売で、同封されていた葉書に感激です!!娘が最初から読み直さなければと興奮してた。ハンターも更新するらしいので、目が離せない。クレイモアには鳥肌がぶわっと出て、マジ集英社神です(笑) こちらはのんびり更新ですが、よろしくお付き合いお願い致します。
2014-06-05 木 21:19:24 | URL | あお [編集]
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2014-06-06 金 23:31:26 | | [編集]
Re: タイトルなし
いつき様、コメントをありがとう御座います。お忙しい中、御越し頂き、ありがとう御座います。まだ忙しさは続くでしょうが、少しでも御心が落ち着かれますことを心からお祈り致します。頑張って更新出来るよう、皺のない脳みそを捏ねて頑張りますので、また足を運んで下さいませ。
2014-06-08 日 22:10:31 | URL | あお [編集]
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