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融けた泉の扉  28
7月になりましたね。相変わらず天候不順が続いてますが、皆様御自愛下さいませ。そろそろサマーカット予定の我が家の愛犬ですが、10歳にして驚かれるほど元気です。まあ、良く寝るようになりましたけどね。今日は娘に口周りを揉まれて嫌がってましたが、雷ゴロゴロすると脱兎の如く娘の部屋に向かう犬。・・・・男って、やっぱり若い方が好みなの?


では、どうぞ











「お待たせ致しました、お妃様。 ああ、椅子の御用意もなく申し訳御座いません」

床上に転がっている夕鈴に穏やかに気遣う口調で声が掛けられ、そこで王宮で部屋を誂えてくれた大臣の声だと気付く。 魑魅魍魎が跋扈する王宮において、誰ひとり信用してはならないと言った悲しげな顔の陛下が思い浮かんだ。 国のために骨身を削って従事する官吏たちばかりではないと解かっていたはずなのに、柔らかな口調で話し掛ける大臣を前に悔しさと哀しさで夕鈴の唇が戦慄く。
日々一生懸命に働いている陛下や李順さん、政務室で慌ただしく動き続ける官吏たち。
真面目な従事者がいれば、己の欲を満たすためだけに王宮に足蹴く通う貴族がいる事実。
穏やかな顔を浮かべながら、平気で人を裏切る人がいる事実。 
冷酷非情と言われようと、狼陛下と揶揄されようと、国の安寧のために頑張っている陛下の臣下がこれでは余りにも哀し過ぎると、夕鈴は目を潤ませた。 滲んだ涙は目隠しの布地に滲み、胸が押し潰されそうだと身体を竦める。

「後宮から退いて頂きたいとという説明を御聞きになりましたか、お妃様」
「・・・・他の妃を、陛下に推奨するため・・・・」
「我らが勧める女性を陛下に推挙するため、唯一を消しておいた方が良いという結論に至りましたので。 そうは言っても後宮には手が出せずに困り果てていたところ、自ら出向いてくれた御蔭で大変助かりました。 それも御一人で、侍女も警護も就けずに」

嬉しそうな声に眉が寄る。 取り憑いた女性に文句を言っても届きはしないだろうが、問題は『彼女』だけでなく、出されたお茶に口を付けた自分もだ。 すごくすごっく悔しいが、自ら出向いてくれたと言われても反論など出来やしない。 その通りだと唇を噛み、返事をせずにいるだけで精一杯だ。

「お妃様、私どもは手土産が望みです。 何か陛下の弱味のひとつでも仰って下さると嬉しいのですが、如何でしょう。 氾か柳の息子でも結構ですよ。 お妃様が彼らと懇意にされているのは周知の事実。 どのような関係は詳しく存じ上げませんが、何かひとつでも零して頂けたら大変助かります」

弱味なんて、最初から言う気はない。 柳方淵と氾水月との関係と言われても宴で少し係わっただけだ。 自分の身分は一介の庶民で、期間限定のバイト妃。 そして囮でしかない。 夕鈴が黙したまま首を振ると、頬に冷たいモノを感じた。

「・・・・っ!?」
「何も仰らずに居られますと、大刀の輝きを損なう艶やかな滑りと化しますよ?」

言われた意味を頭の中で想像する。 艶やかな滑りが自分の血のことだと判った瞬間、短い悲鳴が漏れそうになり、急いで唇を噛み締めた。 冷ややかな嗤いが頭上から降り注ぎ、声のする方向を睨み上げるが、途端に反対からも声が聞こえて来る。

「余り、そう脅かすな。 恐怖に駆られて何も言えずに終わりの時を迎えてしまう」
「狼陛下唯一の妃だぞ? 恐怖など、慣れておるだろうに」
「これが辿る道は終わりへと向かっておるが、手土産は欲しかろう?」

その声が耳に届いた瞬間、夕鈴の身体中が一気に総毛立つ。 
夕鈴自身ではなく、その裡の、『彼女』が震えているのだと感じた。 
新たに登場した人物の声が、『姚』だと告げて来る。 総毛だった肌が気持ち悪いと顔を背けた瞬間、夕鈴の身体から夕鈴の意識が負い出されそうになり、必死に押し留めようとするが彼女の意識は強い。 奪われまいとすればするほど意識が遠ざかりそうで、夕鈴は急ぎ唇を思い切り噛んだ。 咥内に錆びた鉄の味が広がり、その痛みに彼女を押し込み、目隠しされたままの顔を上げる。

「あ、貴方は姚・・・・大臣、ですか?」
「おや? 名乗ったことは無いはずですが、私の名を存じているとは不思議なこと。 何処かで聞きかじったことでも御有りかな。 それとも陛下から御聞きしたのでしょうか」
「いえ、陛下から聞いたことは御座いません。 しかし、姚大臣にお聞きしたいことがあります」
「何なりとお聞き下さいませ、お妃様」

余裕が感じ取れる声色を耳に、夕鈴は彼女の意識が膨れ上がるのを感じた。 必死に抑え込もうとするが時間の経過と共に意識が乗っ取られそうな気がする。 たぶん、以前彼女に毒杯を渡したのは間違いないだろう。 以前もこんな風に己の邪魔を排して来たのなら、今回も私を葬り去ることに何の躊躇も感じてはいないはず。 尋ねたって本当のことを言うか判らないけど、彼女に意識を奪われるのは駄目だと唾を飲み込んだ。

「今の陛下の・・・・御父様の時代。 その時の後宮に住まう妃に毒杯を渡し、無理に堕胎させたことがおありですか? 滋養のためと嘘を言い、親切そうな顔で献上した覚えはありますか」
「・・・・何故、そのようなことをお尋ねに?」
「覚えがあるようですね。 それで、貴方の思うようになったのでしょうか。 望む妃が陛下の思し召しとなったのでしょうか。 誰かを殺すことに、何の呵責もないというのですか」
「残念ながら、それに答えるつもりはありません」

揺らぐ意識を渾身の力で留めながら、夕鈴は手を動かした。 まだ痺れが続いているのか感覚が鈍い。
鈍い自身の身体と乗っ取られそうな意識の狭間で、姚の声を聞く。

「貴女が何をお尋ねになりたいのかは存じませんが、私は何度でも・・・・私が望む高き場所に到達するまで、幾人だって踏み潰しましょう。 それは王宮に従事する者、誰しもが持つ望みであり、そのためにこの地位まで登り詰めたのですよ」 
「・・・・違うっ! その地位は国のために従事する者が得るものよ! 何人も踏み潰して来た人が得るものじゃない。 そんなの、陛下の臣下じゃないっ!」
「お妃様、後宮といえど同じこと。 今は貴女だけが住まう花園だが、本来は花々が競い合い、陛下という蜜を得るために競い合い奪い合う場所。 今の陛下が寵愛する、唯一という歪んだ環境こそが奇怪なのですよ。 それを正すのも大臣としての役割であり、それにより我らが得るものがあるのです」

老師から聞いた後宮の話が重なり、一瞬目の前から夕鈴の意識が削がれた。 一気に全身の力が抜けそうになり、慌てて唇を噛む。 厭な味が咥内に広がるが、それで意識が取り戻せるならと強く噛み続ける。 彼らが言う得るものは、陛下の望むものではないのは判る。 判るが、それを陛下に伝えることが出来ない。 
頬に触れていた冷たい感触が離れ、首筋を這い始めた。
思わず身体が竦んでしまったことが悔しく、だけど恐怖は拭えない。 ガタガタと震え始めた身体と、真っ白に染まりそうな頭。 自分は囮だと、陛下の役に立つんだと叱咤したいが震えは止まらず、歯が鳴りそうになる。
 
「陛下には血筋正しき、見目麗しい妃が御似合いになる。 出自不肖の妃などでは旨みもない」
「我らの推挙する妃を娶り、多少は言うことを訊いて貰わねば・・・・な」
「先王は良かった。 素直で自堕落で、甘い蜜を垂れ流しにされておられた」
「財政難だと口煩く、何度も見直しを要求されることもなかったからな」

聞こえて来る声は三人以上と判る。 笑い声も重なり、部屋には四人以上いるのだろうか。 刀を目にするのは怖いけど、周囲の様子を伝えることが出来ないのはもっと怖い。 陛下の役に立てないのは辛い。 その前に勝手に王宮に足を運び、知らぬ間に王宮を離れた自分だ。 誰がここに妃がいると知ってるだろうか。 口から心臓が出て来そうで、掠れた声で陛下を呼びそうで、夕鈴は必死に唇を噛む。

「・・・さて、これ以上は尋ねたいこともないようですし、終わりに致しましょうか」
「この部屋でことに及んで構わぬのか?」
「この部屋を穢されるのは困るな。 邸裏の竹林で斬り捨てるよう伝えて来よう」
「では、運び出すのに騒がれぬよう、猿轡でも噛ませようか」 

猿轡なんか噛まされなくても、声なんか出ないと思った。 
今にも夕鈴の自我を押し退け、身体の自由を奪いそうな『彼女』を抑えるのが精いっぱいで、ただ身を固くするしか出来ない。 首筋を這う刀の切っ先に縛られた身体では抗うことなど出来ず、これで最後となるならいっそのこと『彼女』の好きにさせるのも有りかとさえ思ってしまう。
しかし直ぐに、自分は陛下のバイト妃だと思い出し、最後まで自分らしくいようと震える唇を噛んだ。 布が唇に触れるのを、首を激しく振って拒否すると、頭上から冷ややかな嗤いが落ちて来る。 

「狼陛下譲りの頑固さですね。 大人しくされているなら、このままで移動しましょう」
「もし騒ぐようなら、その場で貫かれると覚悟されて下さい」
「・・・・わかったわ」 

正直わかりたくもないが、これ以上勝手をされるのは困る。 
ただでさえ『彼女』を抑えるので心身ともに疲弊しているのに、煩わしいものに拘束されるのは厭だと頷いた。 後ろ手に括られた腕が引き上げられ、無理やり立たされる。 悔しいが鈍い痛みを感じるだけで、指先は痺れたままだ。
陛下の妃として、自分は今何が出来るかを考えながら足首の紐を解く男を見下ろした。 ここで下手に抗っても斬り殺されるだけだろう。 では、どうするか。 残念ながら妙案は直ぐに思い浮かばない。 背を押し出され、促されるまま部屋を出る。 
ずれた目隠しから、赤紫から藍へと変わる空色が見え、夜が近いと眉を寄せた。 直ぐに目隠しをし直され、それ以上は周囲を見ることが叶わず、唇を噛むしかない。
王宮から連れ出されてから随分と時間が経過している。 老師の許に行くと言ったきり姿を消した私を、浩大らが捜しているかも知れない。 だけどまさか王宮側に足を運んだとは思いもしないだろう。 いくら陛下唯一として政務室や書庫に足を運ぶ妃でも、王宮側は別世界であり、ましてや私はバイトだ。 
口中で陛下の名を紡ぎながら必死に自分を律している内に、邸の裏手に連れ来られてしまう。

「お妃様、もう一度訪ねましょう。 陛下の弱み、または氾か柳の弱みでもいい。 何か喋って欲しいのですがねぇ。 ・・・・もう喋る気力も御座いませんか?」
「髪を切り、陛下に送り届けるのはどうだ? 妃を返して欲しくば推挙する妃を娶れと」
「すぐに下賤な妃のことは忘れるだろう。 これとは比べ物にならぬほど美しい娘だ」
「その次は私の妹の娘を送る。 艶やかな黒髪が自慢の娘だぞ」
「いつ陛下を見初めたのか、どうしてもという声が多いからな。 手数料もいい儲けになる」
「どうやら瑠霞姫が御滞在された際に集められたという話だが・・・・」

邸裏手の雑木林の一角に穴を掘り始めた侍従らしき男たちの横で、大臣たちは談笑を始める。
鼻に夜気と濃い緑の匂いを感じながら、土を掘る音を聞く夕鈴は叫ばないよう唇を噛み続けた。 見っとも無い真似だけはすまいと、だけど怖いと震え続ける。 妃推挙の話の次は名刀の話へと変わり、高名な鍛治師が打った一品だと高らかな笑いを上げているのが聞こえた。 その刀で、本来なら国の民を守るべき権力の象徴で私を斬るつもりなのかと怒りが湧いて来るが、同時に足が震えてしまう。

「おい、髪はどうする?」
「・・・・・・ぐっ!」
「ぎゃ・・・っ!」
「なっ、灯りを消すなっ! 何があった!?」

男たちの短い呻き声と共に突き飛ばされた夕鈴は目隠しで周囲の様子が見えぬまま、地面に倒れてしまった。 幸いにも大きな痛みは感じないが笹のような草上に倒れ、顔中が痛くて口が開かない。 何かが落ちた音がしたから、それが灯りなのかと思うがチクチクする草から逃れるため起き上がろうとする方が先だ。

「・・・・そのまま口を開くなよ。 煩いからな」
「きっ!」

耳元に桐の声がして、そのまま背後に引っ張られる。 そのまま木に押し付けられ 「動くな」 と括り付けられてしまった。 せめて目隠しを外して欲しいと言いたいが、苛立ちを含んだ重低音の声を放つ桐に逆らうとどんな報復が来るか判らないから、夕鈴は賢く口を閉ざす。 同時に助けが来たと全身から力が抜けそうになり、膝が素直に震え出した。 
男たちの悲鳴と何かが空気を掻き回す音が続き、そしてやがて静かになる。

「・・・・く、口、開いていい? 桐・・・・終わったの?」
「直ぐに陛下が来るから、そのまま待機していろ。 俺はこれらを縛り上げたら消えるから」
「あの、せめて目隠しは外して欲しいとお願いしたいのですけど」
「灯りを消しているから、それを外しても見えないだろう。 直ぐに陛下が来ると言った。 攫われた妃らしく、大人しく震えていろ。 ・・・・それくらいの演技は出来るだろう?」

男たちを縛り上げているのだろう、ごそごそと何か作業している音と共に、桐が鼻で嗤うのが聞こえて来た。 風向きが変わり、眉を顰める匂いがして、思わず夕鈴は叫んでしまう。

「あのっ! ・・・・こ、殺してないよね?」
「・・・・・少し動けぬ程度に血抜きをしただけだ。 鼻がいいな」
「そりゃ、下町では食材を捌くのに嗅ぎ慣れた匂いだから・・・・死んでないよね?」
「殺されそうになった人物の言葉じゃないな。 ・・・・残念ながら息はある」

ほぅっと息を吐くと、桐が「・・・来た」と呟き、場を離れるから震えておけと言い、そして周囲は静かになる。 時間の経過と共に虫たちが鳴き出し、夕鈴は足元に力が戻って来るのを感じた。 
陛下が来ると知り気力が戻って来たのと、薬が抜けて来たのだろう。 
安堵して息を吐いた夕鈴は忘れていた。 『彼女』の存在を。

「・・・・姚依元・・・」

呟かれた声は自分が発しているとは思えないほど低く、足元から這い上がる総毛立つほどの憤怒に一気に飲み込まれてしまう。 覆い被さるような彼女の負の感情に、抗う間も与えられずに夕鈴は闇に落とされた。

落ちながら眉を顰める。 今、直ぐにも陛下が来るのにっ!
『彼女』は何をするつもりなの!?






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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 00:14:23 | トラックバック(0) | コメント(10)
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2014-07-05 土 00:29:31 | | [編集]
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2014-07-05 土 00:52:35 | | [編集]
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2014-07-05 土 01:46:13 | | [編集]
桐様最高
キャーv-10
桐様〜v-10
夕鈴が凄く痛そうなのに、桐様に大興奮してしまいました。桐様、いつも素敵ですv-10
2014-07-05 土 07:14:53 | URL | Norah [編集]
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2014-07-06 日 00:06:56 | | [編集]
Re: タイトルなし
彩華様、コメントをありがとう御座います。桐萌え・・・・夕鈴、気に括りつけられてますが、いいですか? 容赦ない働きに、萌えて下さりありがとう御座います・・・って言っていいのかな(笑)
2014-07-06 日 23:33:18 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
いつき様、コメントをありがとう御座います。土曜日、仕事から帰ったら熱上がって爆睡でした。咽喉が痛くて、鼻が詰まって、でも食欲あるから困ったものです。日曜日、今まで寝て、風呂入ってやっとさっぱりです。明日も仕事なので、続きはもう少し先になります。すいませんv-356
2014-07-06 日 23:35:38 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
ぶんた様、コメントをありがとう御座います。はい、桐は流石です。普通はクビです。この場合は文字通りに首斬り処分でしょう。ですが、笑って流して頂けたら嬉しいです。きっと浩大もそこまではしないと思います。でも桐なので・・・・(駄目?)そして、マジに体調不良で寝込んで終わりとなった休みです。月曜日からまた仕事。木曜日のお休みも爆睡してしまうかも。齢って辛い(落涙)
2014-07-07 月 00:00:13 | URL | あお [編集]
Re: 桐様最高
Norah様、コメントをありがとう御座います。桐に様・・・・ぷぷ。今回、桐に関してのコメントが多くて嬉しい半面、遣り過ぎかとドキドキしていた自分が可愛く(笑)思えましたよん。もっと夕鈴を甚振って・・・いや、それでは主人公が可哀想。桐、人気があって嬉しいです。ありがとう御座います。
2014-07-07 月 00:03:18 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
らぁ様、コメントをありがとう御座います。桐へのコメントが多くて嬉しい悲鳴です。もう少し台詞があれば良かったのでしょうが、今回だらだらと長くなってまして、すぱっと切りました。あとで私が桐に斬られないか心配ですが(笑) じめじめの蒸し暑い日が続いておりますので、らぁ様も御自愛下さい。
2014-07-07 月 00:12:15 | URL | あお [編集]
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