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融けた泉の扉  30
あっついですね! 汗拭きシートがあっという間に無くなる毎日です。そして三連休は掃除と買い物に忙しく、その合間に我が愛犬の実家に遊びに行って来ました。もう、パピヨン祭り。5匹のパピヨンに囲まれ、娘は狂喜乱舞。サマーカットしたうちの犬以外、みなパピヨンらしい毛皮で美しい。短い毛のうちの子がめちゃ貧相で笑えました。


では、どうぞ










桐と入れ替わりに浩大が戻り、床に倒れ込んだ夕鈴の姿に目を丸くして驚いた。 苦しそうに椅子に移動する妃を前に、陛下は黙したまま眺めるばかりで手を貸そうともしない。 
いくら取り憑かれているといっても、身体はバイト妃だ。 
姚を別室に移動させている間に何かあったらしいが、今はそれを聞ける雰囲気じゃない。 
椅子に腰掛けた妃は卓上の茶杯を見つめたかと思うと、肩を震わせ片手で薙ぎ払う。
その動作に僅かにも動じることなく、陛下は床に落ちて割れた茶杯を見つめた。 静かな部屋に漂う緊張感に浩大は目を丸くしたまま口角を上げ、あの茶杯はお妃ちゃんの借金に加算さるのだろうかと考える。 可哀想だけどバイト期間が延びることで陛下の機嫌が良くなるなら、道具としては何も口出し出来ない、する気もない。 
問題はお妃ちゃんの身体を支配している亡霊が、何を納得して成仏するかだ。

「・・・・・浩大」
「ん、言われた通り、刑吏に場所を移動させたよ。 牒芳殿の西側」
「聞こえたか? 立てるようなら、移動する」

夕鈴が陛下の声に顔を上げると、驚くほどに憔悴しているのが浩大の目に映る。 
目覚めたばかりは顔色が悪いくらいだったのに、今はやつれた感が浮き出され、呼吸も荒い。 取り憑いている今がこの状態だと、亡霊が離れた後の体調はどうなっているのだろうと浩大の眉が寄る。

卓に縋り立ち上がった彼女は、まさに幽鬼のように薄っらと微笑みを浮かべた。 瞳だけが異様に輝き、いつもの見慣れたバイト妃の表情とは一変しているが、身体は思うようにいかないようだ。 卓上に置かれた手が細かに震えている様子に陛下が嘆息を零し、腕を掴むと身体を抱き上げた。

「なっ、何を!?」
「時間の無駄だ。 早々に終わらせて、我が妃を返して貰おう」
「国王がこのように凡庸な妃を抱き上げるなど、有り得ぬ!」
「我が妃を愚弄するな。 ・・・・抱き上げるのはいつものことだ。 歩くから口を閉じていろ」

目を瞠った彼女は、歩き始めた陛下の揺れに慌ててしがみ付く。 
見下ろすと冷酷な表情に憤りが浮かんでいるのが判り、彼女は自分の言った言葉を振り返る。 
凡庸な妃。 侍女らに衣装を調わせた朝、鏡に映る容貌を見て数多いる妃の一人だろうと思った。 まさか後宮において、陛下の許に唯一人しか妃が居ないとは信じられなかったからだ。
見目麗しさも、豪奢さもない妃を謗る言葉に、それほどまで憤るなど驚きでしかない。 この陛下はこの妃を、それほどまでに愛おしく思っているという事実に鼓動が跳ねた。 
後宮に唯一人の妃。 抱き上げるのはいつものこと。 
それだけ慈しんでおきながら、妃の衣装は地味で、宝飾も少ない。 それが当たり前のように侍女が身支度をし、化粧も素っ気無いものだった。 唯一の寵愛を賜っている妃がこのような凡庸な女であることも、後宮で唯一権力を持つ女性が地味な衣装を着ていることも、ただただ彼女を困惑させる。 
それなのに痛いほど感じるのだ。 この妃は陛下に真に慈しまれていると。

彼女が当たり前だと思っていた日常は、大勢の華たちの中から、ただ一人の人である陛下に選んで貰えるように日々涙ぐましい努力をする。 衣装や化粧、香や部屋の設えに常に気を配り、いつ御渡り頂けてもいいように、長く寵愛を賜れるように権力や金を使う。 それにより齎される悦びは女の矜持を擽り、親族に富と名誉を与える。 それが常であり、正当であり、・・・・・それが生活の全てだったはず。

だけど、しがみ付いている場所から熱が伝わって来るようで、彼女は困惑した。 
夜の闇の中とはいえ、後宮から離れた場所を陛下に抱き上げられた状態で移動するなど想像したこともない。 有り得ない事だと困惑しながら、このように扱われる唯一人の妃を羨ましくも思い、そう思ってしまう自分に動揺する。 伝わる熱に縋りそうになる手に驚き、彼女は慌てて首を振った。



しばらく無言で回廊を進み、幾度目かの角を曲がったところで廂から下がる灯篭の灯りが増えていることに気付く。 目的の殿に到着したのだろう、開かれた扉の奥から見たこともない衣装の者が恭しく低頭し、陛下を招き入れる。 燭台の灯りだけが揺れる暗闇を歩く内、項がチリチリと爆ぜるような熱を感じた。

「・・・・いる、の・・・ね」
「ああ、望み通りに姚はこの奥だ。 しかし我が妃の身体を近付けることは赦さない」
「姚が・・・・いる」

喘ぐような掠れた声が肩から聞こえる。 
夕鈴の身体が腕の中で背を伸ばし、肩に触れる手から震えが伝わってくる。 先ほどの様子から体力は然程ないようにも思えるが、何をするか判らないと夕鈴の腰を引き寄せた。 しかし、彼女は闇の先を痛いほど目を凝らして見つめ続ける。
どうしたものかと思案するが、無理をすると先ほどのように夕鈴自身が苦しむことになる。 
何をしたのかは判らないが、顔を歪ませた夕鈴を見るのは辛い。 望み通り姚に会わせ、それで納得するとは思えないが、今は会わせる他ないだろう。 身体を捩り、前を歩く刑吏の背を痛いほど見据える夕鈴の姿に眉が顰められるが、細く息を吐き堪えるしかない。

「こちらの部屋に待たせております」
「降ろしてっ! 早くわたくしを降ろして下さいませっ!」

腕の中で狂喜の声を上げる妃は陛下を振り向かない。 闇の先、扉の向こうに視線を投じて腕の中から解き放せと暴れる。 顎をしゃくり刑吏に促すと、一礼して扉を開けた。 煌々と明かりが燈る中、椅子に腰掛ける男と背後に控える刑吏の姿があり、それを目にした妃が一層腕の中で暴れ始める。

「お、のれ・・・姚! 未だ王宮で従事するなど烏滸がましい!」
「・・・・そのように興奮するなら、このまま場を離れる」

呻るように姚を見据える妃が、陛下の低く透る声に息を飲み、戦慄く唇を強く閉じて振り返った。 その瞳には激しい憤りが浮かび、袖を振りながら降ろせと無言の抵抗を示す。 離した途端に何をするか容易に知れるため、腕に力を入れて腰掛ける男に視線を向けた。

「姚・・・・。 我が妃を攫い、何を企んでいた?」
「国王陛下のために、身分正しき麗しい妃を勧めようと思ったまでのこと。 唯一と仰る妃に懐妊の兆しなく、このままでは陛下の権力を示すに足りぬと、幾人かの者たちと話し合った結果で御座います」
「それを私が望まぬと知っていてか」
「国のため、陛下の御世のために御座います」

流暢に語る姚に怯えは無く、しかし後ろ手に括られた腕は細かに震えているのが見える。 蒼褪めた顔に穏やかな笑みを浮かべながら、じわりと滲む額の汗が灯りに照らされ、やがて真っ直ぐに見つめ続ける陛下の視線から顔を逸らした。 
荒い息を吐く妃が震える手で陛下の肩を揺さ振り、早く降ろせと唇を噛みながら訴える。

「・・・・少し、離れる」
「そんなっ! 部屋から出ないで下さいませ! わたくしは・・・・っ!」

大きく息を吐いた陛下は踵を返して部屋を出た。 悲痛な悲鳴を上げる夕鈴をきつく抱き締め、暗闇が広がる隣室へ向かうと、黙したまま腕の中の妃を強く見据える。 今にも噛み付かんばかりに興奮している彼女は唇を戦慄かせて叫んだ。

「何故、手を放して下さらぬ! あれはわたくしに毒を飲ませ、陛下の御子を弑した輩ぞ! 皮を剥ぎ、四肢を切り捨て、永久に呪うべき憎き逆臣! 大事な・・・・、わたくしと陛下の御子を姚は!」
「叫ばずにいろ。 私は会わせるだけだと言ったはずだ」
「わたくしの望みは奴の死じゃ! 我が腹で慈しみ大事に育てた御子を弑した姚の、惨たらしい死が望みなのじゃ! 奴の肌にこの爪を立て、目を抉り、舌を斬り落としてくれる!」
「それならば!」

泣き喚く夕鈴の後ろ髪を掴み、強く揺さ振る。 息を詰め、痛みに顔を歪めた妃が、それでも治まらない怒りに燃える瞳で陛下を見上げた。

「己の望みを叶えて欲しいと望むなら、まずは我が妃と話しをさせろ」
「それは出来ぬと言ったはず。 あ奴の命が消えるまで、この身体から離れるつもりなどない」

髪を掴まれた状態で薄く口角を上げる妃を冷たく見据えるも、彼女は動じない。 もう彼女の眼には姚をどのように屠るかしか映っていないのだろう。 夕鈴の意志がどの程度沈んでいるか判らないが、このままにはしておけない。 
さっきは苦しさに夕鈴の意識が浮上した。 
もしかしての可能性を信じ、陛下は夕鈴の髪を掴んだまま首を傾け、そこに思い切り噛み付く。

「痛ーっ! なぁあああ!? 陛下ぁ?」
「夕鈴っ!?」
「どわっ! ・・・・え、ここ何処?」

聞き慣れた声に思わず腕から力が抜け、床に落ちた夕鈴が悲鳴を上げる。 闇の中だが既に目が慣れた陛下が急ぎ手を差し伸べるが、足元にいたはずの夕鈴が直ぐに立ち上がり移動を始めようとした。 手を伸ばして彼女を掴むと、その身体が大きく強張り震える。

「ご、ゴメンね、夕鈴。 痛かっ・・・・」
「望み通り、そなたの妃と話しが出来たろう。 さあ、姚に会わせて下さいませ」
「・・・っ!」

夕鈴の身体を反転させると薄く笑みを浮かべた彼女が乱れた髪に手を伸ばす。 その手を掴み上げると悲痛な声が上がり、再び夕鈴の意識に変わるという性質の悪さに、陛下は歯噛みするしかない。
悪いと思いながら腕を掴み背後に捻り上げる。 

「い・・・痛いっ! ちょ・・・陛下? あの、ここは? 痛、っつ・・・」
「夕鈴、痛いだろうがこのまま話を聞いて欲しい。 夕鈴を攫った男の前に、君に取り憑いている過去の亡霊を引き合わせる。 どうにか自分の意識を保っていられるか?」
「・・・・無理ですわ。 痛みだけを彼女に引き渡し、意識はわたくしが頂きましたので」
「ちっ! 桐、用意は出来たか」
「既に御用意出来ております。 隣の間にて御待ちで御座います」

闇の中から桐の返答が聞こえたと同時に、陛下は夕鈴の手を解き放す。 
床に倒れ込む夕鈴は喘ぎながら低い嗤いを零した。 直ぐに床を這い姚のいる部屋に戻ろうとする妃の腕を掴み立ち上がらせると、振り払い駆け出そうとする。 しかし足は思うように動かず前のめりに倒れそうになり、引き寄せられて再び陛下の腕に囚われた。

「その手を離せっ! 邪魔立てするな!」
「桐、これらを部屋に戻せ」

夕鈴の髪から簪を外し、念のためと腰紐も解いて桐に渡す。 
闇から姿を現した桐が受け取りながら、夕鈴の顔色を目にして肩を竦めた。

「老師の薬湯を用意しておきましょうか。 これでは数日寝込むことになりそうです」
「取り憑かれたことが無いから解からぬが、体力がかなり奪われているようだな。 思い切り苦いものを用意するよう、老師に伝えておけ。 ・・・・それと、夕鈴が好きな甘味もな」
「御意。 では、早速」

ほくそ笑みながら桐が消え、喚き続ける夕鈴の袖を背に回して縛り上げる。 
腕も共に背後に回されたことに憤慨する妃が激しく睨み上げるが、陛下は冷酷に見下ろした。 
蒼褪めた顔色、乾いた唇、体力が奪われガタガタと震える身体。 
元はといえば掃除中に手摺から落ちて頭を打ち、数日意識障害が出たのが始まりだ。
落ちた場所を見に行き簪を見つけ、元の持ち主に取り憑かれた。 その合間に攫われる、酷い頭痛で気を失う、高熱が出る、挙句に李順に叱責を受ける。 いつも一生懸命で真面目なだけに、不運を呼び寄せる体質は哀れで仕方がない。 哀れといえば、陛下の二面性を信じて臨時花嫁を演じている夕鈴だが、本当のことを知った時はどんな顔を見せるだろうか。 唯一の妃を疎ましく思い蠢く輩に対しての囮など、夕鈴の性格を知り直ぐに却下するつもりだったのだが、彼女は自ら進んでそれを請け負った。 危険手当に釣られている部分もあるが、陛下の役に立ちたいと無垢な笑みを見せてくれた優しい彼女に、私は何を返せるだろうか。

「・・・・・姚に会わせるだけだと私は伝えたはずだ。 捕らえた奴の罪は過去のものではなく、私の妃を弑しようとしたものだ。 嘆き悲しみ、自ら冥界に堕ちた過去に手出しはさせぬ」
「そうであっても、このように機会を与えられたのは、天が自ら手を下していいと思し召し下さったに違いありませぬ! この妃の身体を用いて、わたくしの恨みを果たせと!」
「馬鹿なことを。 それでは我が妃が穢れた血に手を染めることになろう」
「・・・・今はわたくしの身体ですわ」
「戯言もそこまでだな。 我が妃の精神力は私をいつも驚かせる」

袖を固く縛り上げられた状態で抱き上げられてしまい、不安定となった身体を陛下の肩口に預けるしかない。 耳元に囁かれる、何故か楽しげな口調に違和感を感じた彼女だが、姚がいる部屋前に来ると意識は全て扉の向こうへと注がれた。





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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 22:50:10 | トラックバック(0) | コメント(8)
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2014-07-22 火 23:43:28 | | [編集]
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2014-07-23 水 15:08:52 | | [編集]
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2014-07-23 水 23:41:54 | | [編集]
Re: タイトルなし
名無しの読み手様、コメントをありがとう御座います。やっとです。もう、冒頭部分なんて季節感なさ過ぎて死にたくなります。マジに転職なんてするものじゃないわ。めちゃしんどい。でもどうにか終わりが見えて来て、ほっとしてます。解決したらモチロン、ドロドロ苦い薬湯がお待ちですわ。それを嬉しそうに飲ませる陛下が早く書きたいです。
2014-07-25 金 23:48:11 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
ますたぬ様、コメントをありがとう御座います。少しでごめんなさい、桐。(笑)浩大の頭の中の台詞にも突っ込みを入れてくれて、本当に嬉しい! 三輪明宏といえば、ついこの間「もののけ姫」やってましたね。ハウルにも魔女役ででてますが、インパクトある声で好きですわ~。あ、underの修正が終わりました。だらだらしていたから、少し手直ししてたら時間が掛かりましたが、ご覧頂けると嬉しいです。あちらの黎翔さんはホントーに暴走している壊れた狼です。先に謝っておきます。ごめんなさい。
2014-07-25 金 23:52:45 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
ぶんた様、コメントをありがとう御座います。&、400,000カウント超えの連絡、ありがとうです。ここ最近は寝落ちすることが多くて(年寄りなので)言われてびっくり、超嬉しい!! こちらこそ、ありがとう御座います。皆様が足を運んでくれるおかげです。本当に感謝です。本屋に行くたびに、本屋で働きたいと求人を探してしまいます。人生一度きりですから、いろいろな本を読んで好きな物食べて、好きなことをしてみたい。娘に言わせると「それは金持ちが言うセリフ」と鼻で笑われますが、ロトはちっとも当たらない。でも買わなきゃ当たらないし・・・・。くすん。
2014-07-26 土 00:02:47 | URL | あお [編集]
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2014-07-26 土 16:05:05 | | [編集]
Re: タイトルなし
いつき様、コメントをありがとう御座います。そして遅くなりまして、すいませんでした。桐目線の話とあり、思わず妄想がモヨモヨと湧き出し、仕事中にもニヨニヨして気味の悪い状態で過ごしておりました。リク、ありがとう御座います。遅くなると思いますが、こちらが終わり次第、妄想させて頂きます。時間掛かると思いますが、それで宜しければ・・・・。本誌もドキドキしながら新しい展開に期待をしています。
2014-08-01 金 21:12:05 | URL | あお [編集]
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