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融けた泉の扉  35
台風過ぎて朝晩寒くなりましたね。これから布団から離れがたい朝がやってくるんだね。暑いのも寒いのも好きじゃないっす。でもコタツは大好き。もうそろそろ出そうかな。早いかな。出したらコタツから出られなくなりそう。自堕落な生活はダイエットの敵。でも・・・・・。 そんな風に悩んでいる自分が好きです。


では、どうぞ










浩大が房の壁に設えた燭台に灯かりを燈すと、闇の中で蠢く気配が濃厚となる。 
房から洩れ響く怯え呻く声や鉄柵から手を伸ばし助けを求める声、意味の解らない呟き、気が触れた笑い声が足元の闇を揺らす中、縄で拘束された女とそれを囲むように歩く男たちが奥へと進む。 肩を竦めながら震える足を進ませる夕鈴に、浩大は明るい声を掛けた。

「足元気を付けてね~。 姚は仲間と結託しないように、ひとり半地下の房だよ。 ちょっと匂いは気になるけどさ、ここじゃ庭園から花を持って来ても誰も見向きなんかしないから諦めてね」
「・・・・浩大は先に向かい、換気をしておけ」

苛立ちを含む陛下の指示に浩大は口を紡ぎ、急ぎ足を向ける。 
李順が眼鏡を持ち上げながら夕鈴に振り返った。

「過去に何があったかは存じませんが、後宮に住まう妃が王宮に従事する姚とどのような関わりがあったのでしょうか。 そこまで妄執を持ち続ける根性には、流石に脱帽です」
「・・・・・お前は過去、のこと言うが、時を経ても忘れがたき思いはあるだろう。 後宮に住まう女なら誰しもが望む名誉を、陛下との間に授かった大切な我が御子を・・・・姚の謀略により弑されたのだ。 忘れるなど出来ようものか・・・・・」
「それはどのように?」
「・・・・滋養の薬湯だと偽り、・・・堕胎の」

大きく身震いする夕鈴の姿に李順は足を速めた。 小さな舌打ちを零しそうになり、溜め息で誤魔化そうとして陛下に腕を引かれる。 重なった視線はそれがいつの時代のことか理解したと物語り、陛下は背後の彼女へと視線を向ける。 夕鈴は彼女の過去を何度も何度も見せられたと言っていたことを思い出し、僅かに眉が寄る。 夕鈴が見せられた過去をどう思ったかなど容易に知れること。 バイト妃の自分が過去の後宮であった出来事に同情しても仕方がないと知りつつ、胸を痛めたことだろう。 
後宮では日常的な昏い諍いも血の禊も、王宮に係わりのない者にとっては非日常的な幻に過ぎない。 ただ華やかなで美しく彩られた世界だろうと夢見るくらいで、夕鈴に至っては夢見ることなく堅実的な日々を過ごしていたはずだ。

「そして父の次は兄が王宮を腐らせた。 その腐敗を今は狼が恐怖で推し進めているとはな」
「狸と狐が跋扈する王宮において、それは必要不可欠なことですから」
「面倒なことだ。 過去の尻拭いまでさせられ、愛しい我が妃までが巻き込まれるとは」
「・・・・・バイト妃ですがね」

李順からの突っ込みに陛下の口端が持ち上がり、戻って来た浩大の案内で地下への扉が開かれる。 半地下の房へと続く階段から黴臭い空気が這い上がり、饐えた匂いに夕鈴の表情が顰められた。

「お妃、ここで待つという選択もあるが?」
「・・・・・いいえ。 姚には直接言いたことがある」 

背後から縄を持つ桐に問われた妃は、蒼褪めた顔を上げて厳しい視線を闇に向ける。 足元が時折ふら付くのは夕鈴の体力が低下しているからだろうか。 蹌踉けながらも前を見据えて足を進める夕鈴を見つめ、陛下は静かに息を吐いた。 亡霊の望みが叶ったら、直ぐに夕鈴から離れるのか。 姚の生死に拘っているだけなのか、後宮に住まう妃の存在に執心があるのか、彼女自身の真の望みは理解出来ない。 する気もない。 
問題は今の流れを、亡霊に身体を貸している状態の夕鈴が把握しているかどうかだ。 
真面目で頑固な癖に、妙なところでお人好しの夕鈴は、自身が記憶をなくしている間に取り憑かれたことを然程問題にはしていない。 怖がってもいるが、彼女の過去に甚く同情しているのは明確で、だからといってどうすることも出来ないと落ち込んでいる有り様だ。
今に必要のない過去の亡霊には、さっさと退場して貰うのが一番いい。
李順が文句を言おうが、刑吏が困惑しようが、亡霊が姚の処刑を望むなら叶えてやろう。
思い出したくもない過去に、夕鈴が囚われるなどあってはならない。

「浩大、鍵を開けろ。 李順、姚の取り調べは全て終えているな」
「終わっております・・・・が、本当にその訳の解からない理由で刑の執行を?」
「早々に戻って貰わねばならぬだろう。 妃の姿が見えぬと、狸どもが蠢き出しているのは承知しているはずだ。 全く・・・・そんな暇があるなら懸案事項を推し進めるべく動きべきだろうに」
「同意ですね、そんな暇があるなら書簡に目を通して署名をして頂きたいものです」

場の空気が一気に冷え込み、陛下と李順が笑みを零すのを目にした浩大が困ったものだと首を竦めていると、早く先に進めとばかりに妃が身体を押し付けて来た。

「この先に・・・おるのだな。 私が・・・・永く、待ち侘びた男が・・・っ!」
「その言葉を我が妃が紡ぐのは面白くないな」
「陛下、バイト妃だと何度言えば・・・・まあ、結構です。 そうですね、この奥に姚がいるのは事実。 今回の企みを全て吐かせ終えておりますので、姚はお妃様の御自由にどうぞ」
「李順、その言い方は問題があるぞ」

陛下が口を尖らせて言う文句を綺麗に聞き流した李順は、浩大から燭台を受け取ると足を進めた。 追い縋るように前のめりになる夕鈴を桐が抑えるが、全身を戦慄かせて前を見据える妃は、もう李順の姿も目に入らないように見える。 闇の中にいるはずの姚の姿を求めて笑みを浮かべる様に、望みを叶えた後、この妄執は綺麗に消えてくれるのかと陛下は眉を顰める。 しかし今この場で問うても答えは返って来ないだろうことは承知だ。 

「李順、姚は起きているのか?」
「起きております。 姚依元、陛下が御出でになった。 顔を上げるよう申し付ける。 それとお前たちが攫ったお妃様も、お前と話がしたいと足を運ばれている」
「・・・・・・・」

李順の持つ燭台の灯りは仄かに房の入り口を示すに留まり、浩大が壁掛燭台全てに火を点すと、椅子に腰掛けた姚の姿がぼんやりと浮かび上がった。 ギリッと妃から厭な音が聞こえ、陛下が夕鈴の肩を押さえる。

「お前には我が妃の身体を貸しているだけだ。 傷付けるつもりなら踵を返す」
「・・・・此処まで来て翻すつもりなどないわっ! 姚依元っ! 顔を上げよっ!」

激昂した妃の声に項垂れていた姚の頭が揺れた。 
緩慢な動きで顔を上げる姚に向かい駆け出そうとする妃を押さえる陛下と桐は、互いに眉を顰めて顔を見合わせる。 取り憑かれているとはいえ尋常な力ではない。 余り強く押え込んでは夕鈴の身体に障る。 しかし力を緩めると駆け出すのは目に見えており、このままでは夕鈴の身体を使い何をするか判らないと急ぎ李順を呼んだ。

「李順っ、耳元で借金の残額を言え! それで駄目なら借金増額、給与減額と!」
「私は守銭奴ですか! ・・・・夕鈴殿、それで大人しくなるようなら私の考えも変わりますよ? 臨時花嫁として立派にバイトを熟せるよう、あらゆる方面で尽力しているバイト上司の私に対し、給与や借金で態度が変わるなど心外としか言いようがありませんね。 そもそも今回のことは粗忽な貴女が原因であり」
「・・・っ! な、や・・・・止めよ・・・・」
「あ、すげぇ震えてる。 お妃ちゃん、可哀想~」  

李順が大仰な嘆息を吐き愚痴愚痴言い始めると彼女の身体が見て判るほど震え始めた。 浅く早い呼吸を繰り返し、眉を寄せ涙を浮かべながら、それでも房の姚を睨み付ける。 二つの精神が鬩ぎ合っているようで、苦しげに首を振った夕鈴が腰を引くが、後ろ手で組まれた手が早く進めとばかりに自身の腕に爪を立てる。 

「苦しいなら我が妃を傷付けるな。 罪人である姚に近付くことも赦さぬ」
「近付かねば息の根を止めることが出来ぬではないか! ・・・・この手で、この爪で、姚の命を絶つのが私の望みだと言うのに! この縄を・・・・解けっ、早く!」 

髪を振り乱し叫ぶ夕鈴を背後から押さえる桐が舌打ちを零す。 
腰を落とし、これ以上進みたくないと震えながら爪を立て、背後の桐を振り払おうとするから縄が食い込み血を滲ませる。 口を開くと取り憑いた者の妄執のみが叫ばれ、李順からの精神攻撃も痛みすらも亡霊には効かない。 

「陛下、さっさと刑の執行をなさった方が良いのでは? これでは・・・・後で筋肉痛になりましょう。 本人が覚えていたら文句はないでしょうが、今の状態では何処にいるのやら」
「マジにお妃ちゃん、可哀想だもんな。 覚えているのは李順さんからのネチネチ攻撃だけだったら、怯えて 『もう絶対、バイト首だー!』 って、逃げ出すかも知れないしね~」
「それは・・・・困るな。 ・・・・姚。 お前の詮議は終えたが、過去の一件について我が妃が物申したいことがあると言う。 顔を上げて妃の話を聞き、答えよ。 過去のことだ、偽りは申すな」

呆けた顔を上げた姚は僅かに眉を寄せて夕鈴に虚ろな視線を向けた。 
目の前にいるのは春の宴で見ただけの、それも薄絹の頭巾を被っていたため姿しか確認していない下っ端妃。 この間攫って初めて正面から顔を見ることが出来たが、どうしてコレに寵愛を注いでいるのか理解出来ないと失笑したのを思い出す。 冷酷非情と揶揄される狼陛下が、唯一とする妃。 これがいるために次の妃推挙を断られ、更なる高みを目指すための布石を投じることが出来ない。 同意見の者が集まり妃を餌に陛下に話しを持ち掛けるつもりが、逆に囚われ、もう二度と自分は王宮で栄華を貪ることは無いだろう。

「な・・・んの、話しが・・・・・恨み言、か」

何故か妃は縄を打たれており、見慣れぬ男と陛下に押さえ込まれながら泣き濡れた顔で強く睨み付けている。 歪んだ唇が薄く持ち上がるのを目にしても、姚には理解出来なかった。 この妃が恨み言を言うためだけに陛下を伴い、このような場所に足を運ぶなど有り得ない。 この妃に嗜虐趣味があるとして、それを陛下が許すのも驚きだ。

「好きに・・・・問うがいい。 いまさら、何の話だ」
「お前にとっては過去の話じゃ。 しかし覚えがないとは言わせぬ。 滋養の薬湯だと偽り、陛下の御子を堕胎させた妃は幾人いる? 私だけでないことは承知じゃ」
「・・・? お妃様に薬湯を運んだことなど、ない。 第一、懐妊したなど訊いたことなど」
「この妃じゃない。 この陛下の御子でもない。 ・・・・・昔の、お前が姚の養子になった頃の話。 義父となった姚芳玄大臣に言われ、お前が動いたのは知っている。 家や一族のため、何より自分の位を上げるために蠢くのは後宮の妃たちも同じ。 だが御子を身籠り、腹で動く愛しさをお前は知らぬだろう」
「な、にを・・・・養子になった頃、など・・・・もう、随分昔の」
「そう、確かに昔の話しだ。 されど貴様はここにおる」

くっと身体を揺すり笑いを零す妃が、薄く開いた唇から息を吐く。 その瞬間、姚の背に悍ましいほどの寒気が這い上がり、咽喉に絡み付く目に見えぬ気配に目を瞠る。 乏しい灯りの許、妃の背後に揺らめく闇に悲鳴にならない声が咽喉を締め付け、目の前に過去の光景が展開された。 
義父から内密にと手渡された包みを前に震える自分の姿。 
既に王太子は決定し、しかし国王の御子は増える後宮。 推挙される妃は後を絶たず、しかしある日ある時、国王は一介の舞姫に心奪われる。 王宮に従事する大臣らの思惑と、国王の舞姫への深い情愛。 国王の関心が一介の舞姫に囚われ、そして懐妊したと耳にした義理父は姚依元に厳命した。 王太子は既に決まっており、傀儡にする準備は整っていると。 今さら他の妃が生みし児が陛下の目に留まり、傀儡とすべき王太子が廃位されては困ると。 
依元は渡された包みを持ち、懐妊した全ての妃たちへ薬湯と偽り・・・・・・。

「知らぬ・・・・。 何も、覚えがないっ」
「同じような貉は多くいた。 誰が運んだ薬湯かも知れず、なれど私は嬉々として御子のためにと口にした。 何と浅はかな行い。 後宮に住まう女とその後ろ盾の腐った思惑は重々承知していたはずが、母となる喜びに、陛下の御子を宿した嬉しさに失念していた愚かな自分」
「陛下の寵愛を得るため、相手を陥れることなど後宮では日常茶飯事であっただろう」
「ああ、そうだとも。 それを承知で後宮に入り、陛下の寵愛を得て御子を生した。 それを・・・・いとも簡単に殺された私の嘆きがお前に解かるかっ! 解かるはずもなかろう! 男には・・・お前たちには解かるはずもないっ! 腹で動く愛しい存在の貴さなど、解かるはずなど・・・・ないっ!」

急に声を荒げた妃の剣幕に姚は身を竦め、戸惑いの瞳を足元に彷徨わせる。 心臓の音が耳に響き、咽喉を締め付ける気配が増したような気がして息が苦しいと口を開く。





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長編 | 03:10:59 | トラックバック(0) | コメント(10)
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2014-10-19 日 10:38:30 | | [編集]
Re: タイトルなし
いつき様、コメントをありがとう御座います。体調は戻られましたか? 季節の変わり目で私も鼻水ずーるずる。朝は風邪薬を飲んで出勤です。偶に忘れると大変。ティッシュ片手に走り回ることになる。アレルギーかなと思いつつ、受診をせずに風邪薬と鼻炎薬を時折交互に飲む、自堕落さ。アレルギーは春だけでいい・・・・秋くらいはすっきりと過ごしたい。もう祈りです。そんな中での更新はどうにも昏い展開に。もう暫く昏い話にお付き合い下さいませ。
2014-10-19 日 14:08:57 | URL | あお [編集]
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2014-10-19 日 17:54:53 | | [編集]
Re: こんばんは
ぶんた様、コメントをありがとう御座います。今回は後半暗い展開となりました。女性は最後まで『女』であるタイプと、『母性』が勝るタイプに分かれるそうですが、子がいるなしに係わらず、女には母性が男には父性があって欲しいものです。じゃなきゃ人類は滅亡しちゃうもの。BL大好きな私が言うのも変ですがね~。少し暗い展開が続きますが、お付き合い下さいませ。10歳の犬は子供部屋のゴミ箱からアイスのカップを盗み出し、私のベッドで舐めまくり尻を叩かれてました。困ったものです。
2014-10-19 日 19:53:26 | URL | あお [編集]
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2014-10-19 日 22:38:30 | | [編集]
Re: タイトルなし
ビスカス様、コメントをありがとう御座います。朝晩が寒くなりましたね。これから段々布団から離れるのが辛くなる時期がやってきます。寒いのも暑いのも苦手なので(ほとんどの人がそうでしょうが)辛いですよね。早朝仕事の人、深夜まで仕事の人、本当にご苦労様で御座います。やっと終わりに近付いた。・・・・と何度書いたことでしょう。途中眠気に負け、実家に呼ばれ、体調を崩し、どうにかこうにか此処まで書き進めることが出来ました。あと少し、でものんびりお付き合い下さいませ。甘々になりようもない展開ですが、最後はいつも通りに甘々にしたいと思っております。だけど今回桐がいっぱい書けて楽しかったっす。
2014-10-20 月 18:50:08 | URL | あお [編集]
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2014-10-21 火 11:13:38 | | [編集]
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2014-10-21 火 22:38:58 | | [編集]
Re: タイトルなし
ますたぬ様、コメントをありがとう御座います。李順を好きに動かせるのは愉しいです。亡霊のお妃さんも頑張って恨みを晴らそうとしてまして、李順のつっこみにも怯みません。あとで夕鈴がどんな目に遭うか、書くのが楽しみでしょうがない(笑)桐は押さえ役なので、まあ登場しても余り活躍はないと思って下さい(すいません;汗)夕鈴に突っ込みを入れる役なので、今は冷静な立場ですから。えへ。
2014-10-24 金 00:04:45 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
彩華様、コメントをありがとう御座います。本当に寒くなりましたね。近所の猫は夜中に寒い遊び回り、昼間にコタツに潜って暖をとっているそうです。それも股を開いた状態で。今度写真を見せて貰うので、楽しみで仕方がない。猫好きだけど犬の匂いが付いているので、逃げられちゃうのよね。くすん。灯油値段も心配なこの先、体調崩さないようお気を付け下さいませ。
2014-10-24 金 00:11:55 | URL | あお [編集]
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