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融けた泉の扉  37
すごく間が空いてしまいました。
風邪がぶり返して咽喉の痛みと鼻水に体力消耗。仕事を終えて帰宅すると、夕飯作るのが精いっぱい。娘に移した風邪がパワーアップして返って来やがった! しかし娘も女子特有のものが半月以上続き受診することに。検査結果は問題なく、その後通常運転に戻りましたが鈍い腹痛と貧血でかなり辛かったと。私は慢性咳嗽で漢方服用中。元気なのは犬を含めた男共だけ。飯作ってくれ。

では、どうぞ








ものの見事に壁へと激突した妃はそのまま昏倒し、深夜の闇に紛れて部屋に連れ戻される。 
激しくぶつかったための打撲痕はもちろん、問題は肩や鎖骨、手首の傷。 
鉄柵に躊躇することなく幾度も体当たりし、肩や鎖骨には血が滲むほどの腫れが生じており、手首は爪で引っ掻いた痕と、縄による擦過傷で惨い有り様。 湯に入るとひどく染みるだろうと思われる傷は丁寧に処置され、そして今、夕鈴は深い眠りに就いている。
過去の亡霊が夕鈴から離れたのか成仏したのか確かめようもなく、ただ目覚めるのを待つばかり。 
しかし我が側近は夕鈴の目覚めを黙って待たせてはくれない。

「はい、次の書簡で御座います。 決済署名が済みましたら速やかに謁見の間へ移動して下さい。 大臣たちが首を長くして御待ちです。 終わりましたら直ぐに宰相の部屋へ移動です。 その後は再び書簡の山崩し作業を行って頂きますから」
「・・・・ひとつ尋ねたいが、夕鈴に衣装を買い取らせるというのは」
「それは今の流れに関係御座いませんよね。 署名は終えましたか?」

鬼の形相で書簡を突き出す側近にそれ以上口を挟む余地を与えられず、陛下は黙々と筆を動かし続けた。 その側近が書簡を持ち離れた隙に現れたのは浩大で、窓から顔を見せる。

「忙しいみたいっすね、陛下」
「・・・・夕鈴はまだ目覚めないか?」
「ん~、今起きたら痛くて大変かもね。 でも、元のお妃ちゃんに戻っているか心配だし、確かめるには起きて貰わなきゃ・・・・だろ? 困ったねぇ」

飄々とした物言いに苛立ちが陛下の眉間に皺を寄せるが、確かにその通りだと嘆息した。 面倒ごと厄介ごと引き寄せ体質の夕鈴だが、過去の亡霊をその身を貸し出すなど親切にも程があると苛立ちを筆に乗せ走らせる。 
怪我を負い、満身創痍で深く眠った彼女が目覚めた時、果たして元の夕鈴に戻っているのだろうか。 亡霊が執着していた姚依元は彼女の目にも明らかな死に様を見せた。 己が手で身籠った御子の恨みを晴らしたいと切望していたが、卑しい奸賊に夕鈴を近付けるなど以ての外だ。 
ただ、万が一夕鈴が『見た』かも知れない、惨たらしい現状に陛下は眉を寄せた。

入口で咳払いが聞こえ、顔を上げると侍官の衣装を身に纏った桐が恭しく低頭する。 
無表情な視線が執務室を撫で回し、おもむろに口を開いた。

「・・・陛下、李順殿は在室でしょうか」
「いや、急ぎの書簡を持ち宰相の許へでも向かったのだろう。 ・・・李順に用か?」
「彼女のバイト上司である李順殿に、先ほど目覚めたと報告に伺いました」
「っ! 報告は私が戻るまで待て! ついでに私の行き先は上手く誤魔化すように!」

勢いよく立ち上がった陛下は後宮へと駆け出し、浩大は桐の顔を凝視した。 頷く桐にほっと胸を撫で下ろしながら、この後の騒動が想像出来て楽しいと口端を持ち上げる。

「・・・・浩大、俺には上手く誤魔化す自信が爪の先ほども無いのだが」
「まあ、直ぐにバレるだろうね~。 それより戻って来ない陛下に苛立つ側近様がちょっと可哀想かも。 卓上の書簡は山積みだし、でも早くお妃ちゃんに会いたい陛下を止めることは出来ないしぃ」
「一番いいのは直ぐにこの場から姿を消すことだな。 見えぬ口を開かせることは出来まい。 まあ陛下が何処に向かったかなど、李順殿には直ぐに解かることだろう。 あとは目覚めたお妃から過去の毒気が抜けていることを願うばかりだ」
「姚の首を掻き切ったのを見てるし、もう亡霊ちゃんに心残りなんかないはず! ・・・って信じるしかないよねー、今は。 まあ、お妃ちゃんが元気になったら酒のつまみでも作って貰おうか!」
「・・・・それを実行したら陛下に激務を命ぜられること間違いなしだ」

これ以上の面倒事はごめんだと早々と退室する桐を見送り、浩大も笑いながら姿を消した。




***



夕鈴が重い瞼を開くと、そこは薄暗闇の寝所だった。 
寝過ぎたのか頭がいやに重く感じ、少し動かすだけで身体の節々が痛いと顔を顰める。 自然に動いた手が腹を擦り、その感触に何故か哀しいと涙が溢れてきた。 溢れた涙は頬を伝い流れ、しゃっくりあげるほどに感情を揺さぶってくる。 戦慄く唇から嗚咽が漏れ、妃が目覚めたことに気付いた侍女たちが慌てて手巾や水を用意し始めた。 侍医が呼ばれ診察が始まっても涙は止まることなく流れ続け、周囲を困らせていると自覚出来ても泣き止むことが出来ない。 それにどうして侍医に診てもらうような傷や痣があるのか判らず、だけど侍医や侍女に尋ねて良いのかも判らない。 下手なことを口にして訝しがられては困ると口を噤んだままでいると、侍女が陛下が来たと報告に来た。

「食事と薬湯を用意したら、お前たちは下がれ」

聞き慣れた声に顔を上げると険しい顔をした陛下が天蓋を払うところで、私を見るなり目を大きく見開き驚いた顔になった。 人払いが済んだ寝所に響くのは私のしゃっくりあげる声だけで、小犬になった陛下は戸惑うように見つめて来る。 その表情に安堵し徐々に気持ちが落ち着いて来ると陛下が寝台に腰掛け、横臥したままの私の髪を撫でながら、熱は無いか痛みはどうだと尋ねてくる。 

「だい、じょうぶ、です。 心配させて・・・すいませ」
「夕鈴、痛くて・・・・泣いてる? それとも何か心配事でもある? 起きられる? 痛み止めを飲む前に少しでも食べて、それからゆっくり休もうね」

鉄柵に何度も打ち付けた身体が痛むのだろう、身体を起こすと顔を顰める夕鈴からボロボロと涙が零れ落ちる。 その時、彼女の手が腹を押さえているのに気付いた。 もしかして壁に突進した際、腹もぶつけたのだろうかと顔を覗き込むと、戸惑う表情を浮かべていた夕鈴が僕の視線に気づき、涙を零しながら笑みを浮かべる。 

「あの、・・・・私の身体が痛いのはどうしてでしょうか」
「どうしてって・・・・。 夕鈴、・・・・昨日、刑房に行ったのは覚えている?」 
「刑っ!? な、なんでそんなところに? ・・・・あ、姚大臣・・・ですか?」

僕が頷くと夕鈴は途端に顔を曇らせ、腹に宛がった手をそろりと動かす。 薬湯を飲むためにも、まずは食事をして貰おうと膳を運ぶと夕鈴は素直に匙を掴んでくれた。 止まらない涙を零しながら、それでも食べ始めた夕鈴に薬湯を飲んだ後の甘い口直しを用意すると伝えると、彼女は涙に濡れた顔を上げて笑みを浮かべる。
刑房に足を向けたことを夕鈴が覚えていなくても、憑依していた亡霊が姚依元にどれだけ執着していたのかを覚えているはずだ。 姚が妃誘拐に携わっていたことも夕鈴は知っている。 王宮で罪を犯した輩の行く末など想像に易いだろう。 バイトで囮を兼ねているとはいえ本来なら係わって貰いたくない世界。 今回は過去の後宮での不始末まで知られてしまった。 

甘い菓子を持ってくるよう待機していた警護兵に告げ寝所に戻ると、夕鈴は匙を持ったまま片手は変わらず腹を押さえた状態で膳をぼんやりと眺めている。 僕は寝台に腰を下ろすと夕鈴の肩を抱き寄せ、身体を支えながら匙に手を掛け口へと運んだ。 その匙に涙が幾つも零れ落ち、そのたびに手巾で拭うが涙は枯れない。

「すいませ・・・、何だか涙が止まらなくて。 ・・・簪のお妃様が泣いているのかな」
「まだ夕鈴から離れないのか? 内にいると感じる?」
「・・・いえ、わかりません。 わからないけど、泣きたいような気持ちが溢れて来て胸が締め付けられて。 あの私・・・というか彼女は刑房に行って何を・・・・。 いえ、いいです」

眉を寄せた夕鈴は途中で言葉を切って俯いた。 刑房で何があったとしても、それはバイトが立ち入るべきではない。 思い出せない焦燥感が背を這い上がるが、頭を振ってそれを打ち払った。 自分の立場と境界線を思い出し、夕鈴は匙を受け取り口へと運ぶ。

「今夕鈴に言えるのは終わったということだけだ。 痛い思いをさせ悪いとは思うが、この先は」
「はい、わかっています」

困ったような陛下の声に夕鈴はしっかりと頷き返した。 
チクリと胸が痛むが、同時に気遣われているとも感じて自然に笑みが浮かぶ。 ここにいる自分は仮初めの花嫁であり、不穏な思惑を持つ輩に対する囮役だ。 過去の後宮で何があったとしても、その何かに巻き込まれたのだとしても口を出しちゃいけないと判っている。 だけどそれを陛下にはっきりと言われると正直胸が痛い。 気付けば胸だけじゃなく、お腹も痛いような気がしてきた。 
いや、・・・本当に痛い? 
もしかして空腹が過ぎて、粥だけでは足りないと訴えているのだろうか。 
いつの間にか涙も止まり、腹を擦り続ける自分の手に気付いた夕鈴は急いで粥を口へ運んだ。 
陛下の耳に、腹から鳴る奇妙な音を聞かせてなるものかと!と。

「ゆ、夕鈴、大丈夫!? お腹痛いんじゃないの? ゆっくり食べたらいいよ」
「いえっ、しっかり食べて薬湯を飲んで寝ます!」
「・・・・起きたばかりで寝られる?」
「寝ます! それに早く治さなきゃ、簪のお妃様に振り回されて皆様にどれだけ迷惑を掛けたかを想像するだけで・・・っ! 最近は寝てばかりでマトモに仕事をしていない気がする!」
「・・・そう・・・だね。 でも熱が出たり、昏倒したのは夕鈴のせいじゃ」
「それがっ、それが李順さんに通用しますか!?」

粥を頬張りながら潰れた米粒を口から飛ばす夕鈴に睨まれ、確かに李順には通用しないだろうなと考えた。 だけど夕鈴は粥を頬張るほどに顔色が悪くなり、額に汗まで滲ませている。 

「無理に食べることは無いよ。 もうそれくらいにして薬湯を飲み、棗の砂糖漬けを」
「も、もう少しだけ・・・・ぐっ、ふぐっ!」
「ほら、無理して食べるから噎せ込んだ」

噎せ込み咳込んだ夕鈴の背を叩いていると、手から匙が落ちた。 口を押え苦悶の表情を浮かべる夕鈴に急ぎ水を差し出すと、身体が傾ぎ寝台から落ちそうになる。 差し出した腕に落ちて来た夕鈴は頭を振り、口を押えていた手を腹に移した。

「夕鈴、腹が痛い? 直ぐに侍医を呼ぶから、少し我慢・・・」
「・・・いか、行か・・・・で」

掠れた声が腕の中から聞こえ、その身体が目を瞠るほどにガタガタと震え始める。 腹を押さえたまま震える夕鈴を抱き締め背を撫でるが、苦しげな呻き声を耳にして急ぎ医局へ向かうことにした。 しかし抱き上げようとするが夕鈴の身体は寝台から動かせない。 まるで岩のように重く、触れる髪や背の柔らかさに違和感を感じるほどだ。

「・・・・夕鈴?」
「陛下・・・、わた・・・の・・・・あ、あああっ!」

突然叫び声を上げた夕鈴が腹を押さえたまま寝台に倒れ込む。 髪を振り乱し大声で叫ぶ夕鈴の身体を押さえようとすると伸びて来た彼女の手に掴まれ、袖が強く引き寄せられる。 尋常じゃない強さに困惑しながら、それでも夕鈴の背を擦っていると叫び声がぴたりと止まった。 




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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 23:07:39 | トラックバック(0) | コメント(10)
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2014-11-26 水 23:55:02 | | [編集]
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2014-11-27 木 00:09:44 | | [編集]
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2014-11-27 木 11:27:08 | | [編集]
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2014-11-28 金 22:51:52 | | [編集]
Re: タイトルなし
いつき様、コメントをありがとう御座います。気温変化で咳が出ちゃうから、マスク必需品のあおです。咳のしすぎで腹筋が割れそうだと笑っていますが、夜はマジに腹が痛くなるほど噎せ込み咳き込みますので、早く治って欲しいと切望中です。実際には腹のへこみは変化なく、ただ苦しいだけ。くすん。(笑) もう少しで終わりそうですが、仕事も忙しくて寝落ちが多い今日この頃。のんびりお付き合戴けたら嬉しいです。
2014-11-30 日 23:18:35 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
らっこ様、コメントをありがとう御座います。マジに齢のせいかしら(落涙)咳が抜けずに困ってます。これで腹筋が割れてくれるなら納得しますが(本当に:笑)そうはならない様子でがっかりです。若いはずの娘も咽喉の痛みが復活で、風邪薬を早々に服用開始。この時期は気を付けなきゃ怖いですね。御自愛下さいませ。
2014-12-01 月 20:09:19 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
ますたぬ様、コメントをありがとう御座います。&御心配頂き、申し訳ありません。本当に抜けない咳と止まらない鼻水に苦慮し続け、薬で眠い日々です。気温差で咳が出るので外に出る時はマスク必需品。咽喉元も暖かくしてヒートテックの下着もばっちり。着ぶくれおばさんで頑張ってます。(笑)天気がいい時に掃除を頑張ろうと、気持ちだけは前向きに思っている今日この頃です。のんびり更新ですけど、お付き合いお願い致します。
2014-12-01 月 21:50:51 | URL | あお [編集]
Re: こんばんは
ぶんた様、コメントをありがとう御座います。本当にインフルエンザには気を付けなきゃね! 年末高熱で動けなくなるのはマジ勘弁ですから。休みの日にボチボチと掃除を始めなきゃと動き出してますが、本棚の前で一日中動けずに笑ってしまいました。読み耽り、本の整理どころか休みを潰して終わり。今週中に少しでも減らせるよう頑張ろうと・・・・心掛けてます。(むりっぽいけど)のんびり更新ですが、よろしくお付き合いお願い致します。お気遣い感謝いたします。
2014-12-01 月 22:03:42 | URL | あお [編集]
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2014-12-12 金 23:21:03 | | [編集]
Re: タイトルなし
ビスカス様、コメントをありがとう御座います。冬、春コミに作品を書かせて貰えることになり、そちらに集中してました。風邪は殆どよくなり、軽い咳が残る程度。寒暖差による咳嗽アレルギーとなり、まあ長い付き合いになりそうですが。漢方もすっかり飲むのに慣れ、長い目で頑張ります。マジに齢を取るって辛いわね~と乾いた笑いを零してますよ~。やっとこちらを再開です。相変わらずのんびりモードですが、宜しくお願い致します。御心配頂き、ありがとう御座います!
2014-12-21 日 22:31:35 | URL | あお [編集]
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