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融けた泉の扉  38
冬、春コミ用に短編をひとつずつ書かせて頂ける機会を貰いました。まるっと新しい話しを考えるのは楽しい半面、産みの苦しみを味わいます。プラス、見直しのたびに見つかる誤字と文章の矛盾に、恥ずかしさの余り冷蔵庫に首を突っ込み現実逃避したり、もう駄目だ~と本屋に逃げたりして時間ばかりが経過。どうにか出来上がりましたが、未だにドキドキしてます。・・・・どうか誤字が見つかりませんように!

では、どうぞ









全身の震えも止まり、しかし袖を掴んだままの夕鈴が乱れた髪から掠れた声を漏らす。

「まだ、私は・・・陛下に・・・許しを・・・」
「・・・・未だ現世に残っていたのか。 姚依元は死んだ。 心残りは無かろう」
「陛下・・・・」
「お前の陛下はここにはいない。 言いたいことがあるなら、黄泉で伝えよ」
「御許しを・・・・請いたかった。 大切な御子を・・・・私は守れなかった・・・」

掴まれた袖に涙が落ちる。 しかしそれは夕鈴が流したモノではない。 震える指先が白く変わりゆくのを、ただ面倒だと見下ろしていると女の手が袖をさらに引き寄せようと動く。 

「どうか、・・・どうか赦すと仰って・・・」
「それは先に黄泉に下った、お前の陛下へ直接伝えるがいい」
「・・・赦すと・・・一言でいいのです。 御子を守れなかった私を哀れと思って下さるなら、その腕で抱き締め、どうぞ赦すと仰って下さいませ。 ・・・お願いです、陛下」
「お前は私の妃ではない」
「その腕に包まれ、心安く死出の旅に向かいたい・・・」

話しが通じないと嘆息を零し、いつまでも袖を引き寄せ続ける女を見下ろす。 これが夕鈴なら涙を拭いながら言われる前に抱き締めているだろう。 いつまでも夕鈴の身体に巣食う面倒な女に、鬼籍にいる肉親を恨みたくなる。 例え嘘でも、亡者の望む言葉を吐くのも抱き締めるのも勘弁だと舌打ちすると、寝台上の女が不穏なことを呟き出した。

「赦すと・・・、一言でいいと申して居るに、本当にあの女のような強情さ・・・」

突然、縋る腕に力が入り、今にも袖を引き千切らんばかりに強く引き寄せる。 片手は腹を押さえたまま、低い声色で呟き続ける女は顔を伏せて全身を大きく震わせた。 眉を寄せた陛下が夕鈴の手を掴む寸前寝台奥へ身を翻し、乱れた髪から鋭い憎悪を向けて来る。 叩き付けるように壁に身体を打ち付け、差し出される陛下の手を打ち払う。

「身分卑しき舞姫が寵愛を望み、生まれた子がお前であろう!」
「・・・・・ああ、後宮に住まう女どもは皆、お前と同じような目を向けて来たな」
「私の御子は流されたというに、何故お前がここにいる!」

女は乱れた髪を掻き毟る。 ギリギリと厭な音がしそうな仕草を目に、陛下は寝台に膝を乗せた。 
焦点の合わない視線は腹に落ち、震える手を凝視する。 女の唇が戦慄くのを見据えながら、これ以上夕鈴の身体に傷を付けるのを阻止しようと静かに間合いを詰めた。

「・・・・脚を伝わり落ちる生暖かな血を、貴き命が流れるのを・・・私がどんな思いで」
「一族繁栄の道が立たれた無念で、さぞや打ち拉がれたことだろう」
「・・・っ! 子を亡くす親の無念は・・・・お前には解からぬ!」
「解かりたくもない。 妄執となってまで現世に舞い戻る執念の、何を理解しろと? 何度も言っている、黄泉に堕ちろと。 お前は望みを果たしたのだ、これ以上の望む言葉は望む相手に貰え」
「よくも・・・この私に、そのような物言いを・・・・」

女が怒りに満ちた目を向け、震える指先を突き付けて来た。 その瞬間に手を伸ばし夕鈴の両手首を掴み取り、そのまま寝台に縫い付け、憎悪に満ちた視線に対峙する。 
過去の妄執などに恐怖はない。 
恐怖を感じるのは夕鈴が目の前から不条理に消えることだけ。 
真面目で頑固、曲がったことは相手が誰であっても赦さない篤実な夕鈴を取り戻したい。 汚れきった過去の後宮の汚泥に穢されてはならない。
夕鈴を取り戻すためなら、目の前の身体が痛みに泣き叫ぼうとも手を緩めるつもりはない。 後でいくらでも謝罪するからと口中で呟き、跨いだ女を昏く見下ろす。 目を瞠って腹に視線を向ける女が首を振り、震える声で降りろと繰り返すのを聞きながら、抗う両手を一纏めに掴んだ。

「痛っ、やめよ! お前に・・・卑しき血筋のお前にこのようなことをされるなど!」
「我が妃に無礼を働くな。 これ以上傷を付けることは赦さん」
「煩いっ、触るでないっ!」

目を剥き唾を飛ばしながら吼える女を冷たく見下ろし、肩を竦ませる。 弱々しい声と涙で近付き、抑え込むと罵声を上げる女が何をしようとしたのか理解し、陛下は嘆息を零した。

「我が妃の身体をもって、私に傷でも負わせようとしたか? 愛しい妃に噛まれるなら喜んで頷こうが、過去の妄執に歯形を付けられるのは悍ましいだけだ」
「一介の舞姫如きが・・・・。 早く退けよ!」

顎を引き低い呻き声を上げる女の腹を見下ろす。 恨みを撒き散らしながら激しく身体を揺するが、もちろん退くはずもない。

「この腹には何もない。 お前の望みは絶たれ、あとは闇に堕ちるだけだ」
「ひ・・・、やめよっ!」

跨れて下肢は動かせず、押さえ込まれた手は寝台に縫い付けられ、そして男の手が腹に圧し掛かった。 渾身の力で抗うが男の力には敵わず、女の悲痛な叫びが寝所に響く。

「御子がっ! やめ・・・触るでない! 陛下の御子がっ!」
「お前の子は既にこの世にはない。 これ以上暴れるなら容赦などせぬ」
「その手をっ・・・、腹から手を放せ! 止めよ!」
「止めるのはどちらだ? 過去は戻せぬと解かっているはずだ。 子が生き返る訳もなく、姚の死を認めても尽きぬ憎悪を持て余し、この世に醜い妄執となり滲み付くが望みか? それならばお前が厭う者が成す御世を見続けるがいい」
「・・・・・っ!」

腹から離れた手が顎を掴み、暴れる女の顔を固定した。 天蓋が落ちた暗い寝台でも見て取れる瞳の紅に、女の動きは止まり目が大きく見開く。 

「我が妃を戻せ! お前の腹にあるは醜い執着だけだ。 子の死を悼むなら逝くべき場所へ向かうべきだろう。 お前が欲したのは子か、それとも寵愛か。 そのどちらも、ここにはないと知れ!」
「・・・っ」

大きく見開く瞳がゆらりと揺れる。 
開いた唇から短い息が吐かれ、そして身体が弛緩していくのを感じた。
それでも油断ならないと強く押さえ続けたが、夕鈴の身体はピクリとも動かない。 しばらく強く見据えたまま答えを待ったが返答はなく、やがて視線が彷徨い始める。 放った言葉に何か思うところがあったのだろうかと、陛下は黙したまま動かない身体から手を離した。

「ここでお前の望みが叶うことは無い」
「・・・・」
「満たされぬ思いを持ち続けても、詮無きことだ」
「・・・・」

過去の妄執相手にこれ以上語ることはないと寝台から降りると、深く息を吐く音が聞こえた。 
どうしたら夕鈴から離れるのかと眉間に皺を寄せ、一晩李順に括り付けて過ごせば離れるかと考えるが、それだけは厭だと首を振る。 いくら亡霊が李順を嫌がっていても、それだけは視覚的にも心情的にも絶対に許せないと嘆息を吐き出す。 そもそも、こんな後宮制度を考えた奴は誰だと憎々しげに舌打ちすると、寝台から掠れた声が聞こえて来た。

「ご・・・ごめ・・・・なさい」

掠れた声が発するのは過去の妄執のものではない。 
まさかと振り返ると顔を顰めて震える夕鈴がいた。

「・・・ゆう、りん?」
「ごめんなさい。 私・・・、何か言った、ですか?」
「本当に夕鈴? 戻った?」
「望みなんて・・・、わたし・・・・」

ボロボロと盛大に涙を零して背後に退こうとする夕鈴に首を捻りながら、陛下は寝台に上がった。
その動きに怯えるように足が退かれ、陛下の動きが止まる。 暗がりで良く見えないが、しゃっくり上げる夕鈴が竦めた足に額を乗せて泣いているのが判り、差し出した手が宙を彷徨った。 いつの間に夕鈴に戻ったのか、何故夕鈴が泣いているのか判らないが、それでも良かったと寝台に手を下ろす。

「夕鈴、まずは泣き止んで? そんなに泣いたら目が腫れちゃうし、侍女が心配するよ」
「・・・ぐ、うう・・・、はい」
「お腹、痛くない?」
「痛く・・・ありません」

どうにか泣き止んでくれた夕鈴に安堵し、寝台から離れて茶杯に水を注いでいると慌てたように出て来た。 寝台に腰掛けた夕鈴に茶杯を渡すと泣きそうな顔で結んだ唇を震わせているのが見える。 飲むよう勧めると小さく頷き、僅かに口を開いて茶杯を近付けるのを目にして僕はやっとほっとする。 そろそろと手を伸ばして背を撫でると、口をへの字にした夕鈴が恐る恐るといった態で顔を見せてくれた。

「また・・・記憶が飛んだみたいで、御迷惑をお掛けしました。 ・・・もう休みますから、陛下はお戻り下さい。 本当に・・・申し訳ありません」
「夕鈴が謝ることじゃないでしょう? むしろ謝らないで欲しい。 面倒な過去に振り回されて迷惑したのは夕鈴の方で、僕の方こそ謝らなきゃならない立場だ。 それに怪我までさせて・・・詳細は言えないけど、もう全部終わったから安心して欲しい」

優しげな小犬の声を聞きながら、夕鈴は項垂れる。 
意識が戻ると同時に狼陛下の怒声が降り注ぎ、視界が晴れると自分に跨る陛下の姿があった。 叩き付けるような怒声は自分に向けているものではないと理解しながら、怖いと感じて声が出なくなる。 腹に置かれた手から伝わる熱に身体が強張り、苛立ちを含む言葉に心臓が凍りつく。 
自分の裡にいるという過去の後宮にいた妃に言っているだろう言葉の羅列に、彼女は何を言って陛下を怒らせたのだと恐怖が身体を支配する。 

大事に慈しんでいた御子が弑され、嘆き悲しんでいた妃。 
後宮の手摺から落ちた私が原因で過去の面倒事を持ち込んだ事実。 
身体を勝手に使われることや、その間の記憶が朧気なことは確かに不安で恐ろしいことだ。 だけど陛下を怒らせる原因を、自分が作ったという事実の方がもっと怖い。 
痛みや熱に何度も仕事放棄していることも、過去の後宮であったことも、携わった人が大臣として従事していたことも、そもそもは自分の粗忽な行動が原因だ。 簪など拾わなければ良かった。 任された仕事も満足に出来ず、政務で忙しい陛下を何度も後宮に通わせ、そして私の身体を押さえ付けて低い声で怒っている。 

彼女は何をしたのか、言ったのか。 自分はどうしたらいいのか。 
声を出せずに困惑していると、黙っていた陛下が口を開く。

『お前の望みは叶わない』
『満たされぬ思いを持ち続けても意味はない』

心臓が鷲掴みにされたかのように息が止まり、頭の奥からイヤな音が響いて来る。 高く響く音が耳鳴りだと気付き、無意識に大きく息を吸い込み、密やかに吐き出した。 胸の裡に広がる闇も吐き出せるようにと願いながら吐くが、闇は塊となって詰まったままだ。 
再び黙り込んだ陛下の背を追うと、舌打ちが聞こえた。 
苛立ちに慌てた夕鈴から零れたのは謝罪の言葉だ。 途端狼が小犬になり、驚きの顔を見せる。 いつもの、二人きりでいる時の陛下の顔と声に、夕鈴から一気に安堵の涙が堰を切ったように零れ落ちた。





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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 00:52:24 | トラックバック(0) | コメント(10)
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2014-12-24 水 03:02:07 | | [編集]
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2014-12-24 水 07:55:25 | | [編集]
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2014-12-24 水 21:29:03 | | [編集]
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2014-12-24 水 22:57:45 | | [編集]
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2014-12-25 木 16:04:06 | | [編集]
Re: お疲れ様です
ぶんた様、コメントをありがとう御座います。返事遅くなりすいません。次回は夕鈴落ち込み編です。年末はバタバタして、年開けてもバッタバッタで、休みだったけど身体キツキツ。でも痩せないのー! ご飯が美味しくて、餅がおせちが土産菓子が・・・っ! そして春コミ用の作品のやり直し作業で冷や汗を。冷や汗でも痩せないんだよね。おまけに息子が限定の美味しいチョコを買って来て・・・。顎と腹がすごいことになってます。
2015-01-07 水 18:45:35 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
ぽんちゃん様、コメントをありがとう御座います。そしてコメント返事が遅くなり、すいません。原稿は狼陛下もので、冬コミ春コミに参加させて頂きました。年を越してから春コミ用の原稿やり直しをさせて頂き、どうにか終わりました。もう自分の手の遅さに笑ってしまいます。年末、年頭ばたばたでした。どうにか体調崩しは無かったですが、仕事が始まってやっと平常に戻った気がします。
2015-01-07 水 18:58:31 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
ビスカス様、コメントをありがとう御座います。&コメント返信遅くなり申し訳ありません。そうそう、クリスマスに冷蔵庫に頭突っ込んで肉がたぷたぷしています。餅におせちに出先での買い食いに・・・。食欲が落ちる、体重が落ちる薬ってないですかねぇ。一日で願いが叶うような薬が(笑) 今回は初めてコミケに作品を出させて頂きましたので、その内こっちにもアップ出来たら嬉しいな。
2015-01-07 水 19:13:27 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
いつき様、コメントをありがとう御座います。そしてコメント返信遅くなり、本当にごめんなさい。やっと夕鈴が戻ってきました。そして陛下の怒声にオロオロ状態。恋する乙女は浮き沈み激しいよー。どうする陛下。はっはっはっはー。年末、年頭バタバタしながらも何一つ改善された様子が無い自宅で、今慌てて続きを書いてます。明日から娘は学校なのに、今日旅行から帰って来る余裕。尻を叩くのも大変っすよ。
2015-01-07 水 19:33:53 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
ますたぬ様、コメントをありがとう御座います。そして返信遅くなり、本当に申し訳御座いません! 冬コミは終了してますが、春コミは大阪だそうです。(うろ覚え)許可が下りたら、こちらにもアップ出来たらいいな。最近体力がないのか書くのが遅くて、自分が情けないっす。今年はスキッと書き上げたいものです。その前に歯科治療が私を待っています。もう、本当に長い間通っているけど、次々治療箇所が見つかってマジに泣きたいっす。
2015-01-07 水 19:53:31 | URL | あお [編集]
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