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融けた泉の扉  39
開けましておめでとうございます!
今年ものんびーり書いていきたいなと思っております。今年は体調を崩すことなく、仕事と家事に頑張りたいと願いながら、ついでに今年こそは宝くじが当たるようにと腹を真っ黒にして頑張ります! 


では、どうぞ









一頻り泣いた後、気持ちが落ち着き正気に戻った夕鈴は顔を上げられなくなった。
少し前まで隣に腰掛けた陛下に背を撫でられていたはずなのに、いつの間にか膝上に座って抱き締められている自分に驚くしかない。 だけど身体を支える大きな腕と胸から包み込むような温かさが伝わって来るから、夕鈴は鼻を啜りあげて大きく息を吐いた。 身体から力が抜けると同時に、申し訳ない気持ちが膨らんで治まったはずの涙がジワリと浮かんで来る。

「・・・夕鈴、もう落ち着いた?」
「あ、はい! お、落ち着きました。 ・・・すいません」
「謝らなくてもいいよ。 夕鈴が落ち着いたなら、それでいいから。 ごめんね、本当はもう少し側に居たいけど、仕事があるから一旦戻るね。 上手く抜け出させたら顔を出すけど、李順に拘束されそうな予感がするんだ」

ハタと気付き窓を見ると外は闇に包まれており、遅い時刻と判る。 
どの位の時間、陛下を足止めしてしまったのだと蒼褪めると、気にすることは無いと頭を撫でられた。 
政務の邪魔をした原因は間違いなく自分にあると知る夕鈴は、何度も陛下に迷惑を掛けた事実に項垂れそうになる。 振り返ると、掛けた迷惑のオンパレードにクビになっても仕方がないのではないかとさえ思えて来た。 
いや、ここは自分から退職を申し出るべきかとも考えてしまう。 
しかし自分には多額の借金がある。 その返済はどうしたらいいのだろう。 辞めるなら耳を揃えて返せと言われそうで、白く光輝く眼鏡が夕鈴の脳裏を過ぎる。 
背筋を這い上がる寒気に震えると、陛下が身体を擦ってくれた。

「あ、あの忙しいというのに引留めてしまい、本当に・・・申し訳御座いません。 私はもう一度横になって休みますから、陛下はお仕事頑張って下さいませ」
「うん、頑張って来るね。 じゃあ、夕鈴はゆっくり休んで」

泣き過ぎたためか、この先が不安なためか、頭が重くてグルグル回る。 
バイト妃として自分なりに頑張って来たつもりだが、もしかして隠していたはずの気持ちが陛下に知られてしまったのだろうか。 それであんな風に言われたのだろうか。 
いや、あの時は私に向かって言った訳じゃないと思う。 たぶん、過去の亡霊に・・・・?

「頭、痛い・・・」

これ以上考えるのは止めようと寝台に潜り込む時、腹の痛みが治まっていることに気付いた。 
過去のお妃様が何度も訴えていた御子を弑された悲しみ。 そろりと手を宛がうが、自分には解からない痛みだ。 子を孕むのも、愛しい子を流されるのも、今の自分には未だ想像すら出来ない。 いつか自分も母になり痛みを甘受することになるだろうが、それは何時になることか。 その前に嫁に行けるのか、出会いがあるのか。

「も・・・、寝よう」

考えないと思っていたのに余計なことが頭に浮かび、痛みが増した気がして瞼を閉じた。 吐き気を伴う眠気に浸食され、夕鈴はそのまま深い眠りに堕ちていく。 

 

***



瞼を開くと真っ暗な闇が見えた。 
いつもは寝所でも小さな灯りが燈されているはずなのに、経費削減もここまで来たかとバイト上司の李順さんを思い出す。 しかし目を凝らしても一向に闇は晴れず、月のない夜中にしても闇が深すぎると眉を寄せた。 ふと掛けていたはずの布団が無いことに気付き、手を伸ばして探してみるが全く触れない。 これで風邪などひいたら余計な面倒をまた掛けてしまうと慌てるが、いくら探しても布団が見つからない。 そして自分が夜着ではなく、妃衣装のままで横になっていると解かる。
眉を寄せながら回らない頭で考えた結果、きっと夢だろうと納得することにした。 
また記憶が無いとか、寝ている間に攫われて閉じ込められているとか、そっち方向に考えそうな自分が怖い。 きっと夢に違いないと思い込みながら、夕鈴はゆっくりと立ち上がった。 
顔を触るとぼんやりした感触がして、やっぱり夢の中だよねと不安を抱えながら、夢の中で夢と判るなんて不思議な体験だと無理やり乾いた笑いを零す。 右も左も上下も判らない世界を見回すと、一方向に白くぼんやりした光のようなものが見える。 こんな闇の中に佇んでいるより、兎に角行動あるべきと決死した夕鈴は不安を押し殺して歩き出した。

しばらく歩いていると、ぼんやりした光は大きく広がり、外に出られそうだと判る。 
ほっとして足を向けると見慣れた庭園が目の前に広がり、明るい日差しに全身から力が抜けそうになる。 後宮の庭園だと判り、見えた池の畔に進んで行った。 池に突き出した四阿に人がいるのが判り慌てて近くの太い木の裏に隠れるが、聞こえて来た声に夕鈴の眉間に皺が寄る。
軽やかに笑う女性の声に息が止まり、続いて聞こえて来た男性の声に目を瞠った。
後宮の四阿で女性と話しをしているということは、相手の男性は此処にいることを赦された陛下に違いないと、隠れた木に縋る手が震えてしまう。 楽しげな笑い声と茶器が触れ合う音を耳にして、ここから離れなければと思うのに、どうしても足が動かない。 鈍い痛みを感じ、見ると幹肌を強く握り締めすぎて爪に皮が食い込んでいた。 痛みは胸の方が強く、視界は足元の茂みしか映していない。

「陛下が仰るのでしたら、御子は間違いなく男の子でしょう」

思わず顔を上げ、四阿に佇む男性の後姿に鼓動が激しくなる。 背の高い、艶やかな黒髪の男性が隣に寄り添う女性の髪を愛しそうに撫でながら仲睦まじく語り合う様子に、夕鈴は急ぎ顔を伏せた。

これ以上は見たくない、聞きたくないと思いながら、一向に足は動かず厭でも耳に届く女性の声。 男性の声は低く何を言っているのか判らないが、聞き慣れた声色に泣きたくなった。 
夢と判っていても聞きたくないと耳を覆う。 夢と判っていても見たくないと目を瞑る。 いつか来る未来だと自分は納得していたはずなのに、目の前の光景が刃のように胸を突く。
李順さんが言っていた内政安定はどの程度進んでいるのだろう。 陛下の二面性を上手く隠す手段が見つかったのだろうか。 もう、自分はここにいないのだろうか。 
・・・きっと、いないだろう。
バイト妃は縁談除けの一時的な仮の花嫁だ。 
目の前の光景が『本当』ならば、彼女こそ陛下の唯一であり、本物の妃で正妃。 

気付けばしゃがみ込んでいる自分がいて、地面に手を置いているのにその感覚が無かった。 夢にしては余りにも現実的で、涙も出て来ない。 近い将来の現実を目にして、自分は何故こんなにも動揺するのか。 解かっていたはずなのに、自分の恋は実らないと知っていたはずなのに、どうしてこんなにも動揺しなきゃならないのか。

「・・・大事に」
「はい。 大事に慈しみ、御育て致します」 

玉砂利を踏む音が聞こえ、二人が四阿から出たのだと気付く。 会話は続き、声が近付いて来るから夕鈴は何処に逃げようかと顔を上げて愕然とした。 
陛下だと思った人物は、陛下じゃない。
隣で共に歩く女性は柔らかい日差しを浴びて輝く簪に手を宛がい、男性に笑みを浮かべている。 その顔は記憶の中で何度も見た、過去の亡霊だった。 では陛下じゃない男性はと目を凝らすと、どことなく陛下に面差しが似ているだけの人で、だけど後宮に妃と共に居るから・・・・。

「あ・・・、陛下のお父さん・・・?」
「誰だっ! 侵入者がいるぞ!」
「っ!?」

夢の中なのに何でと困惑しながら脱兎の如く駆け出した夕鈴は、後宮立ち入り禁止区域へと走り出した。 直ぐにそこは自分がいる時代とは違い、閑散とした場所ではないと思い出したが、では何処に向かって走ればいいのか判らない。 茂みを掻き分け、背後から追い駆けて来る声を振り払う。 夢の中なのに息を切らしながら走る自分に戸惑いながら、今は逃げるのが先だと必死に走る。 
声から逃げるように走り続けていると、突然金華色が目の前いっぱいに広がり足が止まった。 荒い息を吐くと胸いっぱいに花の香りが広がり、小犬陛下の笑みが脳裏に浮かぶ。 跳ね回る鼓動を押さえながら周囲を見回すと、陛下が幼い子供の頃の話を語ってくれた場所だと解かり、唇が戦慄き始めた。 

「・・・へ、いかぁ・・・」

金華色の細かな花が雪のように舞い落ちて来る。 
本来なら一庶民が知るはずもない陛下の幼い頃の記憶。 
沢山の妃が豪華な衣装と煌びやかな宝飾に身を包み、互いに上品な笑みを浮かべつつ牽制し合う。 女だけの広いようで狭い世界。 唯ひとりのためだけに集まられた豪華絢爛な花々が、日々競い合い美しい微笑みを咲かせる場所。 自分には関係ない、本来なら係わることの無い世界。 足を踏み入れたのは私。 胸の痛みに首を傾げながら、いつしかそれが恋だと知った。 それを自覚してからもバイトの立場を崩すことなく、自分なりに頑張って来たつもりだ。

『お前の望みは叶わない』
『満たされぬ思いを持ち続けても意味はない』

解かっている、解かっていた。
だけど心の裡いっぱいに溢れた想いは消すことが出来ずに育つばかりで、解かっていると言いながら陛下の言葉にこんなにも傷付いている。 
ここは簪のお妃様のいた時代。 望む御子が出来て幸せそうに二人で散策し、しかし陛下の相手は自分だけじゃないとも承知しながら生きていく。 一族繁栄のためにという思いも確かにあるだろう。 だが母になった幸せを噛み締めながら御子が胎で育つのを楽しみに指折り数えてもいたはずだ。 そして大切な御子は悍ましい企てに弑される。 それが裏の日常として存在する後宮。 
そんなの私には耐えられないし、私には踏み入れない世界だと理解もしている。 
それでも育ってしまった初めてのこの気持ちを、どうか否定しないで欲しい。

「・・・・・、陛下ぁ」






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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 23:51:05 | トラックバック(0) | コメント(8)
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2015-01-12 月 12:51:14 | | [編集]
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2015-01-13 火 13:56:22 | | [編集]
Re: タイトルなし
いつき様、コメントをありがとう御座います。昨年からのバタバタは相変わらずですが、少し落ち着いたかな。
落ち着くといいなと心から願っています。本当に。そして、辛い分だけ喜びも大きいと信じて・・・のコメントに自分が感動。嬉しいです。こちらはあと少し。のんびりもいい加減にしないと忘れられちゃいますね。(笑)よろしくお付き合いお願いします。いつき様も御自愛くださいませ。
2015-01-14 水 00:18:01 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
ますたぬ様、コメントをありがとう御座います。今年も宜しくお願い致します。腹を真っ黒にしても当たらない宝くじ。買わなきゃ当たらないと知りつつも、外れた時のショックは大きい。何故買ったんだと、福袋を買えば良かったと毎年思っちゃいます(笑)でも年末にまた買うんだろうな~。夕鈴の方は落ち込み半端ない状態でのトリップ。あと少し見直したら浮上させます。陛下の甘々モードを書くのが超楽しみです。
2015-01-14 水 00:22:35 | URL | あお [編集]
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2015-01-15 木 15:01:41 | | [編集]
Re: お疲れ様です
ぶんた様、コメントをありがとう御座います。センター試験、毎年この時期になると体調を崩さないようにと祈るしかないですよね。折角の努力を、風邪なんかで無駄にしたくない。そう思う方がたくさんいらっしゃると思います。力を出し切れるよう応援してます! 話は終わりに近付き、やっとまとめ作業になり、安堵の余り肩こりが酷い私です。いや、単なる運動不足なんだろうなぁ。 夜のプチオンリー本、お手に取って頂き、誠にありがとう御座います。めちゃクドイ話しだと思うので、胃腸薬をお勧めします(笑)
2015-01-17 土 20:36:21 | URL | あお [編集]
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2015-01-22 木 22:49:44 | | [編集]
Re: タイトルなし
ビスカス様、コメントをありがとう御座います。そして今年も宜しくお願い致します。御家族様の体調は良くなりましたか? 風邪でダウンした息子の送迎に勤しむ優しい母の私ですが、鼻血が出るほど朝は鼻が駄目駄目です。鼻だけなので市販薬に頼りっぱなしですが、長引いているのでそろそろ通院かなと思案中。インフル貰うのは厭だけど、毎朝ティッシュの箱持ってウロウロするのも辛いです。 こっちは辛いシーンが続きますが、大丈夫。きっと次は愉しいシーンに・・・なるよう頑張ります!! のんびりと・・・・・。(笑)
2015-01-22 木 23:37:45 | URL | あお [編集]
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