スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


スポンサー広告 | --:--:--
融けた泉の扉  40
冬コミに愚作を出させて頂く機会があり、完成した本が手元に届きました。正式な参加は初めてで、めちゃめちゃ嬉しかったです。貴重な体験が出来て感謝感激です。十代の時に田舎で参加したコミケ本とは違い、本当に素晴らしい本でした。機会を下さった皆様に感謝です。ありがとう御座いました。

では、どうぞ









足元に広がる金華色がぼやけて見える。 そのぼやけた視界に薄紫の衣装が見え、顔を上げると女性が立っていた。 突然のことに息が止まり、そして女性の顔を目にして顔が歪む。

「今は唯一と寵愛を独り占めしていたとしても、その栄華はひと時だけの幻」
「・・・お妃様・・・。 わ、わたしは・・・」
「花は次から次へと彩り美しく咲き乱れ、陛下の寵愛を奪おうとする。 その御心を手中に収めたとしても、それは一時だけのこと。 次の花へと心変わりするのは男の常。 そう心に据えて尚、女は狂うのだ」

真っ赤な紅の端だけが持ち上がる。 
妖艶で、それでいてどこか寂しげな妃の顔に、後宮に住まう妃たちの葛藤と執着が垣間見え、夕鈴は弱々しく首を振った。 そんなのは知りたくない。 バイト妃がそれを知ってどうする。 
自分には係わりのない、係わることの出来ない世界だ。 
境界線の向こうの世界を聞かされても、私にはどうすることも出来ないのに。

「・・・今世を統べる御方は更に情のない御方のようじゃ。 唯一の寵愛もいずれ消えゆく泡沫の夢。 次の花が咲けば、咲いた花へと移ろうのが男の性。 多くの妃が犇めくのも間もなくじゃろうて」

そんなの知っている。 知っているが、それが何だと言うんだ。
夕鈴は握った拳が震えそうだと背に回す。 聞きたくない言葉の羅列に、この場から立ち去りたいと思うのに足が動かず、立ち尽くしたまま過去の亡霊の愚痴を耳にする。 

「多くの花を飛び交う蟲の如く、そして実を結んだ妃を捨て置き、次の花へと足を向ける。 実が人と成るまでは手を出した花のことなど思い出しもしない。 そんなものじゃ、男など。 数多の妃を侍らせ、御世を楽しむ。 陰で泣く者の気持ちなど些かも解さぬ・・・」
「・・・違いますっ!」
「違う・・・何が違うと申すのじゃ? お前だけは寵愛が続くと、他の花には目もくれずに何時までも慈しまれると思っておるのか? それは幻想だと、いつ気付くのか」
「あ、貴女が妃として後宮にいた時はそうだったかも知れませんが、今の陛下は違います!」

一瞬大きく目を瞠った妃が優雅に袖を持ち上げ、鮮やかな紅を隠して嘲笑する。 しばらくの間、さも楽しげに目を細めて肩を揺らしていたが、袖を下げた妃は夕鈴を強く見据えた。

「どの世の陛下も皆同じぞ! 権力を誇示するために数多の妃を侍らせ、多くの世継ぎを儲ける。 一時の快楽を与えてくれるなら舞姫でも構わないと言う! 御子を宿してさえも邯鄲の夢と化す、後宮とはそういうものじゃ! お前とて何時しか忘れられる存在となるというのに」
「陛下は違います! 後宮に来た妃を忘れるなんてしないっ!」

嘲笑する妃を睨ねつけて夕鈴は叫んだ。 
足を踏ん張り、握った拳を戦慄かせて夕鈴は妃に対峙した。
陛下は優しい人だ。 バイトにもあんなに優しい人が、お母さんのことで心痛めた人が、自分の許へ嫁がれた妃を蔑ろにする訳がない。 後宮の在り方は老師から聞かされているが、陛下は自分の妃を泣かせたりしないと夕鈴は目の前の人物を睨み付けた。

「陛下は優しい人です。 後宮はいろいろな思惑がある場所だと思いますが、そんなこと関係なく、お妃様を大事にします。 するに決まっています! 陛下はそういう方です!」 
「今だけの寵愛に溺れているお前に何が解かる」
「わかりますっ! 陛下は・・・お妃様を泣かせたりしないっ!」

それは間違いないと言い放った夕鈴の頬に涙が流れる。 
同時に目の前の女性が言うことも間違いじゃないと理解出来た。 
彼女が語る過去の妃の在り方は、老師が話してくれた後宮そのものだ。 多くの妃の許を訪ねる陛下を見つめ、自分以外へと移る寵愛を口惜しい思いで耐えて来た女性の一人で、同じ思いの妃は沢山居ただろう。 
内政が整ったら李順さんが時期を見て後宮を再開する。 
後宮には多くの妃が陛下のためにと集まるだろうが、陛下はどの妃のことも、大事に慈しむに決まっている。 そう考えるだけで胸が痛くなるが、間違いなく確信出来ると夕鈴は流れる涙を拭った。

「・・・貴女が泣いた分も、今の陛下は妃を大切になさいます。 絶対に」

自分はバイト妃として陛下の役に立ちたいと思っている。 日々国のために頑張っている陛下を応援し、臨時花嫁として役に立てたらいいと、心からそう思っているだけだ。 いつか来る妃に胸が痛むなど間違っている。 それは庶民の私には関係のない、立ち入ることの出来ない境界線の向こう側の話しだ。
だけど目の前の女性にはっきり言い切ることが出来る。 陛下は自分の許に嫁がれた妃を、一度受け入れた女性を悲しませたりはしないと。  

「陛下は絶対に妃を泣かせたりしない。 陛下のお母さんが後宮で辛い目に遭ったことを、陛下御自身が知っているからこそ、後宮に来た妃を泣かせるなんて絶対にしない!」
「・・・あの舞姫の子がそのような・・・・」
「前の陛下が、お兄さんが遊び呆けて背負った負債を、一生懸命取り戻そうと政務に励まれている。 国のためにと頑張る陛下が後宮で癒されるというのなら、癒してあげるべきでしょう! 後宮はそのための場所だと聞きました! 妃同士が争ったり、一族繁栄のために他の妃を傷付けるなんて、陛下が癒しを求める場所でしちゃいけない!」
「それは・・・綺麗ごとじゃ」
「綺麗ごとで結構! 貴女もそれを承知で後宮に来られたのでしょう?」
「承知でいたとしても、矜持が赦さぬのじゃ!」
「もう、全て過去のことでしょう! いい加減に諦めて!」

再び持ち上げられた袖が、夕鈴の悲痛な声に揺れる。 口元は袖に隠れて見えないが、妃の眉が顰められるのが見えて夕鈴は胸が苦しくなる。 
当時、陛下が癒しを求める後宮には多くの妃がいて、気紛れな寵愛を繋ぎ止めるのは難しいことだったのだろう。 煌びやかに見える後宮だが、水面下での爭いは醜く惨たらしいものだと老師が話していた。 陛下も幼少時は冷遇を受け、よく死ななかったものだと笑っていた。
だからこそ、悲しみを知っている陛下だからこそ、同じことは繰り返さない。 

「貴女が苦しんだ後宮は、今はもうありません。 私が陛下の寵愛を独り占めしていることに腹を立てているのでしょうが、それは貴女に関係ないことです。 今は・・・これが陛下のお望みです」
「・・・・そのような」
「こんな夢に逃げているなら、早く御子様のところへ行ってあげたらどうですか? ・・・貴女は、お母さんなんでしょう? 一人ぼっちで貴女を待っている子の許へ行き、たくさん抱き締めてあげて」
「・・・・・」
「お願いです」

口元を隠していた袖が力なく下ろされる。 そして腹に宛がわれるのを目に、夕鈴は先ほどの腹痛は彼女の子への想いだったのではないかと思った。 借りた身体に痛みを走らせるくらい、子を失う悲しみを知って欲しいと、彼女は昏く鬱屈とした想いを吐き出したのか。 それなら尚更、行くべき場所へ向かい、大切な人を抱き締めた方がいい。 

「まだ何かしたいことがあるのですか? だけど唯一の妃を羨ましい、疎ましいと嫉んでいるより、大切な人がいる場所に行った方がいいです。 きっと、待っているから」

女性は顔色を変え、彷徨う視線は地面に散る金華の花を追う。 
風が舞うたび香りが一層濃くなり、それは次第に眉を寄せるほどとなった。 こんなにきつい香りだったかしらと夕鈴が顔を上げると、木々の枝から覗く空が一面真っ黒に変わる。 今にも嵐が来そうな空模様に目を瞠った夕鈴が、庇のある場所に移動しなきゃと妃を見ると、そこには誰の姿も無かった。

消えてしまったと呆然としている夕鈴の手が、突然誰かに引っ張られる。 
余りにも強く引っ張られた勢いで蹈鞴を踏み、何をするんだと顔を上げると目の前は一面の闇に包まれていた。 いきなりどうして後宮の庭園から場面が変わるのかと困惑するが、頭の片隅に 『これは夢だったはず』 と自分の声が響く。 
そうだ、過去にいた妃の夢の中だったはず。 

では私の手を引く、この先にいるのは・・・・誰? 

強く何時までも引っ張り続ける手に、足元が覚束ない夕鈴は今にも転びそうだ。 相手が誰だか判らず、周囲が闇で不安が過ぎり、何より足元が危うい。

この闇の向こうは何? 
万が一倒れても大丈夫? 
まさか・・・簪の妃が、私諸共黄泉に引き摺り込もうと考えて・・・・?

それは怖いっ、怖過ぎるっ!
まだ借金返済も済んでいないのに。 青慎の学費を稼がなきゃならないのに。
第一、仕事を途中で放り出すなど、絶対に厭だ。

「ちょ・・・手、手を・・・放してぇっ!」





→ 次へ 

スポンサーサイト

テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 00:49:22 | トラックバック(0) | コメント(6)
コメント
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2015-01-28 水 06:19:01 | | [編集]
Re: タイトルなし
ますたぬ様、コメントをありがとう御座います。冬コミの本って、とらさんで予約出来るのですね。不勉強で目が点です。検索してみて、きゃああっとなりました。(笑) そしてやっと終盤。あと一回で終わるかなって思っているのですが・・・・。いつものように妄想が出て来ちゃうかも。のんびり、お付き合い頂けたら嬉しいです。
2015-01-28 水 22:39:30 | URL | あお [編集]
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2015-01-30 金 17:01:01 | | [編集]
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2015-01-30 金 17:31:48 | | [編集]
Re: タイトルなし
いつき様、コメントをありがとう御座います。そして娘様、おめでとう御座います! うちも息子の時めちゃ喜びました。一人前への道のりは遠いかも知れない愚息と違い、いつき様の娘様は大丈夫!(確信!) さて間がめちゃ開いてしまいましたが、のんびり頑張ります。手は・・・ね。手は、そうそう、そろそろ主役が戻って来なきゃ、もう一人の主役がいじけて可哀想。(笑) 幸せにしてあげたいですねぇ。
2015-02-10 火 19:35:33 | URL | あお [編集]
Re: こんばんは。
ぶんた様、コメントをありがとう御座います。今回は妃の気持ちと、夕鈴の気持ち重視で陛下そっちのけ。次のターンでは陛下が頑張ります。振り回される夕鈴の可哀想なこと。よよよ。きっといいことが、きっと君の未来にもあるよと、肩を叩いてあげたいです。(笑) のんびり更新にお付き合い頂き、ありがとう御座います!
2015-02-10 火 21:13:48 | URL | あお [編集]
コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。