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融けた泉の扉  41
バレンタインデーですねぇ。誕生日にDL、プレゼントをもらった娘はウキウキしながらチョコ作り。今年は雪も降らずに済みそうで、学校に持って行くには楽そうです。ふと、去年は大雪で大変だったと思い出します。車で送れと娘に言われ、旦那が慌てていたなぁ。愚息は今年も妹からの御裾分けを貰い、ひと月後の『お返し』に怯える日々を送ることとなるでしょう。


では、どうぞ










痛いほど掴まれ、夢なのにどうしてと困惑する。 
軋むほど掴まれている恐怖に叫ぶ声はそれ以上口から紡ぐことが出来ず、爪を立てて抗うしかない。 妃演技のために爪を伸ばして磨けと言われたが、実家での家事仕事の邪魔になると断っていた。 今更ながら伸ばしておけば良かったと思うのは、引き摺られるように落ちていく恐怖からだ。
口を開いても声は出ず、厭だと爪を立てて抗うしかない。 
このままどこまで堕ちていくのか、黄泉に下ったら自分はどうなるのか。
こんなことになるなら、・・・・陛下に伝えて・・・・いや、伝えてどうなる。
「そうか、嬉しいよ」くらいで終わるだろう。 きょとんとした顔で凝視されるかも知れない。 
首を傾げ、それがどうしたと無言で見つめられる可能性もある。 
居た堪れない空気に、先に逃げ出すのは私の方だ。 
第一、借金がある身で、庶民のバイトで、国王陛下に恋心を訴えても先など見えるはずもない。 先のない不確かな夢を追うより、現実を見据えるのが私らしい私だ。

・・・・そんなこと考えている内に、力が抜けて来た。
抗うのも疲れ、考えるのも疲れ、もうどうにでもしてくれと考えてしまう。 
だけど、ここで終わるとは思えない。 怖いけど、引き摺られるように何処に連れ行かれるのは厭だけど、まだ終わりじゃないと、それだけは奥深いところで仄かに色づいている。

だって困った時にはいつも姿を現す人がいるから。 
困った事態になると、どうして来たのだと私を困らせながら、どうにかしてくれる人が姿を見せる。 大きな手で包み込み、小犬のように笑いながら寂しげに抱き締めて来る。 自然に手が回り、抱き締め返すことにも慣れてしまった。 それが一番困ることだと、全身から力を抜いて苦笑する。

「・・・・りん、ゆうりん」
「ほら・・・・、きた・・・」

頬を撫でる感触に、何故か笑いそうになる。 
どうしていつも、ここぞという時に陛下の声が、手が、姿があるのだろう。 
夢の中でさえ時期を見計らったように現れるなんて、どれだけ自分は陛下に傾倒しているのか。 バイト終了と共に忘れなきゃならない存在だというのに、これでは忘れようがないじゃないか。

「ほんと・・・困った、ひと」
「夕鈴っ!」
「たっ! ・・・痛い、え? え・・・えぇ!?」 

手ではなく頬に痛みを感じ、それも持ち上げられるほど強く摘ままれ、夕鈴は目を見開いた。
至近距離に眉を寄せた陛下の顔があり、痛みと困惑に身体が竦み、頭が回らないまま抱き締められて声も出ない。 陛下の肩越しに窓が見えるが、それがどうしてか夕刻のような光景で、抱き締める腕の強さと共に 『まさか』 の考えが浮かぶ。

「あ、の・・・。 もしかして長く・・・・寝ていましたか、私」
「ああ、そうだ。 何度起こしても目が覚めないと侍女が困惑し、侍医に診せたが深く眠っているだけと言われ、だが君はいっこうに目覚めぬまま二日経過した」
「ふっ、二日!? 二日間も寝ていたの!? ど、どうしてぇ?」
「そんなの私が知りたい!」

気付けば狼陛下の声色だと判り、寝所の外では侍女がバタバタと手桶や茶器の用意をしている音がする。 慌てて声を潜めて謝ると背を撫でられ、どれだけ心配させたか実感した。 大きな手が労わるように背と髪を撫で、安堵の溜め息を耳にして夕鈴は鼻の奥がつんっと熱くなる。

「何か妙なものを飲まされたか、嗅がされて眠ったのではないかと調べたが身体に異常は無く、熱もなく呼吸に乱れもなく眠っているから様子を看るしかないと言われ、だが、二日間も目覚めない」
「・・・・も、申し訳ありません」
「君が悪いのではないと承知だが、ここまで振り回されると考えたくもなる」
「・・・・な、にを」

何を考えるというのだろう。 抱き締められて陛下の顔が見えない分、怖い想像しか出来ない。 臨時花嫁としてまともなバイトが出来てない上、迷惑ばかり掛けていると自覚している。 
だけど、それは私のせいなのだろうか。 
・・・・手摺から落ちたのが原因だとすると、それは間違いなく自分のせいだろう。
ではバイトはクビなのだろうか。
バイト上司の李順さんより権限があるだろう陛下がそう言うのなら、即決定となるだろう。
振り回したつもりはないが、現に夜でもないのに陛下は妃の部屋に足を運び、慌ただしく動く侍女や侍医を見れば、迷惑を掛けているのは事実と解かる。
切り捨てられるというなら、それは受け入れなければならない現実だ。 
では残った借金は、返済期限は、そして次の臨時花嫁はどうなるのだろう。

「ゆ、ゆーりん? 頭痛い? それともお腹?」

小犬の声に目の前の世界が歪み、鼻の奥が熱くて熱くて堪らない。 急に優しい声色で顔を覗き込むなんて、なんて女性の扱いが上手い人だろう。 狼でも小犬でも翻弄し、でもそれが嫌じゃなかった。 
バイトが終わると思うと全てがいい思い出になるのか、楽しかったことしか頭に思い浮かばない。 口を開けば泣き声が漏れそうで、強く口を紡いだまま首を振る。

「お腹、もう痛くない? それともお腹空いた? あ、飲み物持って来るね」

どうして急に優しくするのか。 陛下の言う、考えるとは何なのか。 
聞きたいけど怖くて訊けない。
血の気が引いていくようで指先が痺れるほど痛みを訴え、それは抜けない棘のように自分の立ち位置を知らせて来る。 境界線を忘れたかと、立場や身分を思い出せと。

「夕鈴、ほら白湯だよ。 ゆっくり飲んで、ね?」

口元に運ばれる茶杯に手を掛けるが、感覚が覚束無い。 
茶杯に落ちるのは頬から滴る自分の欲か。
歪んだ水面に映るのは歪んだ自分の感情か。
侍女がいるから妃演技をしなきゃならないのに、何から考えていいのか考えがまとまらず、ぐちゃぐちゃだ。 おまけに過ぎた空腹で腹の虫が合唱しそうで情けなくなる。 そんな妃はいないだろうと思うのに、いくら上から腹を押さえても鳴りそうだと急いで茶を流し込んだ。
こんなことじゃ、早々に次の臨時花嫁が連れ来られるだろう。
自分の残念さ加減に掛布の中に逃げ込みたくなる。 
それなのに陛下は優しく頭を撫でるのだ。

「夕鈴、目が赤くなるよ。 薬湯を飲む前にご飯を食べよう? 起きられる?」

空腹だから、そこは素直に頷く。 
陛下から安堵の溜め息が聞こえ、それが更に申し訳ないと涙が零れる。
陛下に気遣わせたい訳じゃないのに、声も出せずに涙だけが止めどなく零れ落ちていく。 自分はこんなに弱いのかと項垂れそうになるのを叱咤し、寝台から離れて濡れた手巾で顔を拭った。
寝所を出ると侍女らの姿はなく、陛下が人払いをしたのだと判る。 鼻を啜りながら淹れたばかりの温かい茶杯を取り口に運ぶと、その香りに気持ちが解けていった。

「ほら、夕鈴食べて。 お腹空いているでしょう?」
「・・・空いてます」
「頭とかお腹とか、痛くない? 甘いものも用意してあるから、好きなの食べていいよ」
「大丈夫、です。 陛下・・・お仕事、大丈夫ですか? 李順さんに怒られませんか」

きょとんとした顔に眉が寄る。 
こういう時の陛下は政務を溜めていても上手く隠すことが多い。 
過去に同じようなことが何度あっただろう。 本当に忙しくなると周宰相の部屋に閉じ込められるが、その寸前まで政務を山と積み上げたまま放置する。 その原因の一つに、バイト妃の実家に顔を出したり、バイト妃の機嫌を伺うためだったり、バイト妃との演技を優先したり・・・・。
李順さんが私に辛辣なのも理解出来る気がする。 
だけど陛下のやる事に否を唱えたり、断わるのが難しいのだと解かって貰えないのは辛い。 こうして部屋に来て頭を撫でられるのが嫌じゃないのも困る。 慣れに慣れてはいけないと思いつつ、どっぷり慣れに浸かっているのが現状だ。

「陛下、もう私は大丈夫です。 横になって眠れるか判りませんが、ちゃんと休みます。 明日からは政務室に行って、ちゃんと妃演技もします。 薬湯も飲みますから、もう政務にお戻り下さい」
「どうして僕を追い出そうとするの?」

小皿におかずを取り分けながら、陛下は不思議そうに問う。 

「奥さんが二日間も眠り続けて、魘されているから心配していたら『困った人』だと言われ、僕の心配を余所に仕事に行けと追い出される。 ・・・・夕鈴は夫の気持ちを蔑ろにし過ぎる」
「狼陛下は必要ないでしょう。 ・・・・バイト上司が脳裏に居座り、早く政務に送り出せと申しております。 御心配をお掛けしたことは本当に申し訳ないと思いますが、長く眠って身体は楽になりましたから」
「・・・・夕鈴」

どうして人払いが済んだ部屋で狼陛下を出すのだと思いながら、空腹に耐えかねて匙を運んだ。 毒見のためとはいえ冷めた粥は残念だけど、温かいお茶で流し込む。 じっと見つめられる苦行に耐えながら腹を満たすと、薬湯を一気に飲み込み、棗の蜜付けを口へ入れた。 
頬が落ちる甘さに手を宛がうと、腰を攫われ抱き上げられる。

「・・・・歩けます」
「食休みが必要だろう? 目覚めたばかりだ、少し庭園を散策しようか」
「何度も言っておりますように、陛下は政務に戻られて」
「我が妃は私の寵愛を無下にするのか?」

狼の声色で寝起きの妃を脅しながら、あっという間に後宮側の庭園に出る。 脳内の李順さんが白く輝く眼鏡を持ち上げるが、狼と化した陛下に敵う訳が無い。
庭園に居た警護兵が低頭するのを目にして、夕鈴は嬉しそうに口端を持ち上げた。





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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 00:24:01 | トラックバック(0) | コメント(8)
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2015-02-15 日 01:00:32 | | [編集]
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2015-02-18 水 00:14:22 | | [編集]
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2015-02-19 木 11:02:20 | | [編集]
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2015-02-19 木 22:38:02 | | [編集]
Re: タイトルなし
コメントをありがとう御座います。遅くなりましてすいません。脳内李順さんは間違いなく冷徹です。ブレナイ彼が大好きです。李順さんが長男だとしたら、嫁取りをするんだろうな~、親は元気なのかな~、兄弟はいるのかな~など想像しますが、話を作るのは困難な御方。BLで弄るのは愉しいけど(笑) ちょっと怖いかな。 年度末の忙しさと花粉症に悩む時期です。本当、お互いに気を付けて頑張りましょう!!
2015-02-23 月 21:15:31 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
いつき様、コメントをありがとう御座います。遅くなりまして申し訳ありません。今回は体調と仕事と私事でめちゃめちゃ長くなってます。まとまりがつかなくて、もう一つのサイトに逃避している今日この頃です(笑) 早くまとめなきゃと思いながら、目を逸らしてしまう。現実からも逃げたくなっております。あ、鏡の前からも(爆)薄着になる前にまたダイエットしなきゃ!
2015-02-23 月 21:18:00 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
ビスカス様、コメントをありがとう御座います。遅くなり申し訳御座いません。張り切ってお嫁さん仕事再開の前に、狼からのお仕置きタイム。書くのは愉しいのですが、現実逃避しそうなほど長くなったダラダラ話に目を背きたい今日この頃。花粉が飛び始め、今回新しい薬にチャレンジして大外れ。眠くて堪らない! 昼休みに15分寝かせてもらってますよ。早く飲み終えて、以前の薬に変えようと思ってます。ちょっと高かっただけに悔しいです!
2015-02-23 月 21:23:54 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
ぶんた様、コメントをありがとう御座います。遅くなりまして申し訳ありません。黄色の〇粉・・・めちゃめちゃ困ってますよ。目の痒さより、今回は鼻水の方がひどい。いや、きっと目の痒さもこれから来るんだろうな。きっと来る、絶対に来る。目薬は家族分必要で、箱と本体に名前を書きます。私は仕事場用にも買うし、予備も買う。毎年、この時期は困りますよ。効き目がある薬が開発される一方、スギ花粉による病状を消すことが出来ない難しさ。科学者に頑張れと、この時期だけは真剣にエールを送ってます! 本誌買いを止めてコミックだけを買い始めたので、来月発売の12巻が楽しみです!もうドキドキしながら指折り数えています!
2015-02-23 月 21:38:38 | URL | あお [編集]
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