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後悔

『腹黒シリーズ』短編です。 陛下が妙な具合に飛び跳ねていますので御了承の上ご覧下さいませ。 なお、このシリーズは過去作品を修正したものです。 夕鈴はバイト花嫁です。 本来の作品より、とても辛辣な言動が多いことを御了承下さい。


では、どうぞ 




 


「夕鈴殿。 ちょっと宜しいですか?」

バイト上司である李順さんに声を掛けられ、掃除中の夕鈴は小首を傾げる。 
覚えはないが、最近、何か壊したかしら? 演技がなかなか向上しないのはバイト上司の悩みの種だろうが、それならはっきりモノ申すはず。 場所を変えて、二人でひっそり話し合いたいなど・・・・まあ、余りいい話ではないだろう。 給料減額や借金増加などの話しではないことを願い、夕鈴はバイト上司の後を追った。

「陛下が最近・・・、おかしいんです」
「それはいつもだと思います」

即答するバイト娘を無視してバイト上司は続ける。 

「おかしい・・・、というか変なんですよ」
「それはいつもと変わらないということです」

即答するバイト娘を再度無視してバイト上司は続けた。

「変というか、妙というか、陛下らしからぬ行動をされています」
「それはいつもです。 李順さんもようやく私の苦労が解ってくれましたか」

どんな話だと思っていただけに、夕鈴は安堵して強張りを解く。 陛下がおかしいのは日常風景。 逆に、陛下の態度に今頃になって首を捻る側近に驚いてしまう。 変も、妙も、おかしいも、全てあの陛下のためにある言葉だ。

「怪しい行動がこれ以上拡大すると、政務に支障が出ます」
「それは官吏の皆さんが御困りでしょうが、いつもの行動と何が違うと?」
「花を・・・、自ら花を摘んで来て執務室に飾ったり、自らお茶を淹れたり・・・」
「それは・・・・・変、です・・・・ね」

李順からの報告に、流石の夕鈴も言葉を詰まらせ、眉を顰める。 
人前では非情な表情を崩さない陛下が庭園で花を摘み、いそいそと部屋に飾るの姿など想像出来ない。 ましてや茶を淹れて茶香に頬を弛める姿など、李順さんも目を瞠ったに違いない。
政務室にはいつものように陛下の怒声が響き、官吏は睨まれ叱責され、一切の妥協を許さない冷酷な表情を前に怯えていた。 夕鈴が蒼褪めた官吏が忙しなく出入りする政務室の片隅で、どうか気付かないでくれと身を竦ませていたのは昨日のことだ。 

あの陛下が花を摘んでいた? お茶を淹れていた? いったい何があったのだ? 
有り得ないことだと夕鈴が顔を上げると、バイト上司は眼鏡を持ち上げて命令を下す。

「この異常事態を一刻も早く打開したいのです。 夕鈴殿、よろしくお願いしますよ」
「・・・・・何をよろしくと? それに打開策なんてあるのでしょうか?」
「それを探るのが夕鈴殿の役目です」
「そ、それはバイトの仕事ではありません! 私は臨時花嫁であって、密偵ではありませんからね。 それは間違いなく、側近である李順さんの仕事だと思いますが」
「・・・夕鈴殿、あなたにバイト給金を支払っているのは誰ですか? また、その金額を決めているのは誰だが、もちろんあなたは御存知ですよね?」
「くっ、卑怯な手を。 ・・・・上手く探ることが出来たら、成功報酬をお願いしますよ!」



李順との攻防を終えた夕鈴が自室に戻ると、間もなく陛下が御渡りになられましたと、侍女から声が掛かる。 現れた陛下は直ぐに侍女を下がらせ、背後に持っていた花を夕鈴に差し出した。

「見て見て。 とっても綺麗でしょ? 夕鈴がいつも髪に刺している花みたいに綺麗で、思わず摘んで来たんだぁ。 夕鈴の部屋に飾ってくれると嬉しいなぁ」
「あ・・・・、ありがとう・・・ございます」

夕鈴が花を受け取ると陛下は満足そうな笑みを浮かべ、いそいそと夕鈴を椅子へ誘った。 唖然呆然とする夕鈴を余所に、陛下は卓上の茶器に目を輝かせ、お茶を淹れようとする。 数種類の茶葉筒を前に 「どれがいいかな」 と悩む陛下の呟きに、我に返った夕鈴は慌てて手にした花を花器に突っ込み、陛下の手を止めた。
 
「あ、あの、お茶は・・・・私が淹れます。 その前に、・・・ちょっと失礼しますね」

そう断って陛下の額に手を当てるが、熱が高いようには思えない。 
自分の額と比べるも大差ないように思えて困惑する。 

「ゆーりん、熱計るの? こうやって計った方が判りやすいよ」

一瞬きょとんとした表情を見せた陛下は、すぐに顔を弛めて夕鈴の頬を包み込んだ。 そのまま顔を近付けようとするので、額同士をくっつけての熱計りを目論んでいることに気付く。 額が触れる寸前に陛下の肩を押し出すと、途端に眉尻を下げた小犬の顔が現れる。 この顔はいつも通りだなと納得するが、目の端に陛下が持って来た花が過ぎり見え、やはりどこかおかしいのかと眉が寄った。

「あの・・・、熱はないようですが、どこか具合が悪いところはありますか?」
「え、僕の心配してくれるの? う~ん、特に悪いところはないけど・・・・、強いて言えば」
「・・・っ! やっぱり!」

やはり李順さんが懸念している陛下の奇行は、病気が原因だったのか! 
それでは急いで侍医に診せなきゃ駄目だろう。 
広大な庭園の一角で、腰を揺らして鼻歌なんか歌いながら花を摘む陛下など、それは誰が見ても奇行としか捉えない。 いや、腰を揺らしていたかまでは判らないが、よくぞ今まで騒ぎにならなかった。 もし、そんな陛下を目にしたら、悪夢に魘され続けること間違いなしだ。

「それで、ど、どこがどのように辛いのですか? いや、それより早く侍医に診せた方が」
「? 辛くはないよ」
「では、何か・・・・幻聴が聞こえてくるとか、夜になると身体中が痒くなるとか、お尻がムズムズするとか、咽喉が乾いて大量の酒を飲んでしまうとか、乙女になりたい願望があるとか・・・」
「ゆーりん、何を言っているのか分からないよ」

下から覗き込むように見上げて来る陛下の、のほほんとした表情に、イラッとする。 心配しているというのに、春のお花畑のように暢気な態度を見せる陛下にイラッとする。 とぼけようとするなら、真っ向から問い質してやる。 夕鈴は李順さんが悩んでいた奇行の意味を訊いた。

「え? 花? ああ、それは夕鈴の真似だよ」
「・・・・はぁ?」
「お茶を淹れたのは練習で、いつも僕を癒してくれる夕鈴を、僕が癒してあげたいと思ったんだ。 だから花を摘んで、持って来たんだよ。 綺麗でしょ? いい匂いでしょ?」  
「・・・・はぁ?」
「いつも夕鈴には感謝・・・・・て、どうしたの?」

夕鈴は再び陛下の額に手を宛がい、熱を確かめてみる。 やはりいつもより変だと眉間に皺を寄せながら見上げると、陛下は嬉しそうに夕鈴の手を包み込むように掴んだ。 そのまま頬を染めた小犬は尻尾を振りながら、掴んだ夕鈴の手を引き寄せてくる。 
何をするんだと手を振り解こうとして、・・・・振り解けないことに気付く。 妙な寒気を覚えて顔を上げると、小犬陛下が柔らかに微笑む目を細め、ゆっくりと自分の唇を舐め上げるがの見えた。 
・・・・これは、もしかして、やばい?
強張った笑みを見せて立ち上がろうとすると、陛下の手が近付くのが目の端に映った。

「いつも僕を癒してくれる夕鈴に、少しでも癒しをお返ししたくて」
「そーだったんですか、そうだったんですね! もう、癒されました! ええ、癒されましたとも! 陛下の御心遣い、驚くほど感謝致しますわ。 だからっ」
「本当に? 嬉しいよ、夕鈴!」 
 
腰に回った陛下の手に力が入り、抗う身体が寄せられる。 これいは非常にマズイと、必死に抗う夕鈴の膝裏に陛下の手がするりと入り込み、あっという間に膝上に座らされる。 その上、覆い被さるように抱き締められ、逃げ場を失った夕鈴は蒼褪めた。

「だっ、だから何でいちいちバイトを抱き締めるかなっ!」
「ええー、だって夕鈴可愛いから、もっと癒してあげたくて」
「や・・・やめっ、頬をすり寄せないでっ! 過剰なスキンシップは必要ない!」
「可愛い奥さんを愛でているだけだよ。 癒されるでしょ?」

ぎゅうぎゅうと痛いほどに抱き締められ、夕鈴は心に刻んだ。 李順さんがどんな上司命令を下しても、例え陛下がどんなに奇怪なことを仕出かそうとも、一切見なかったことにするに限る、と! 
花もお茶も・・・・・陛下が絡むと、癒しになどならないっ! なる訳が無いっ!

狼の腕の中で必死に抗いながら、夕鈴は強く心に刻んだのだった。



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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

短編 | 23:58:05 | トラックバック(0) | コメント(2)
コメント
こんばんは
はじめまして!あるブログを拝見していたら、このブログに出会いました。私もブログを開設しています。「鬼藤千春の小説・短歌」で検索できます。一度訪問してみて下さい。よろしくお願い致します。
2015-10-19 月 21:45:18 | URL | 鬼藤千春の小説・短歌 [編集]
Re: こんばんは
はじめまして、コメントをありがとう御座います。こちらこそ宜しくお願い致します。
2015-10-19 月 22:56:47 | URL | あお [編集]
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