スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


スポンサー広告 | --:--:--
君は知らない花言葉
花をテーマにしたものをひとつ。
どちらかと言うと自分は「花」と相性が悪いのか、簡単に枯らしてしまうので鉢物は買わないようにしています。ちょこちょこと「葉」は集めています。 黎翔とバイト夕鈴 + 李順さん


では、どうぞ










「うわ・・・・・!」

目の前の広大な敷地に蓮華草が広がる。なだらかな斜面に紅紫の花が風にそよそよと靡いている。 遠くは淡く輝くようにぼやけて見えた。

「すごい・・・きれい・・・です。」

息を呑む。 初めて見る余りにも美しな景色に上手く言葉がでない。
暖かな春の日差しの下、陛下に連れられて王宮の一角にある土地に二人で やって来た。
珠には休憩をしなくちゃね・・・と、後宮から夕鈴を連れ出した陛下。
「さぼりじゃないですよね?」 と問う夕鈴に、笑って誤魔化した様子が見えたが、好天気の中、政務室に籠もり続けるのも可哀想だと思い、李順さんに見つかった時は共に叱られようと心に決めて連れ立った。


膝の高さまである花は薄紫のものや紅紫のもの、時折乳白色も見ることが出来る。
楕円形の小葉から垂直に茎が伸び、その先の花は両手を合わせたあと、外側に広げたような形で花茎の先端に一列に輪生し華やかな装いの上、優美さを併せ持つ。 蓮華草は王宮の池に植わっている、「蓮」 に似ている草との意味もある。

「この花は紫雲英とも呼ばれ、蜂を使い蜜を集めたり、休耕地に植えた後に緑肥にすることも出来る。 今、他に難点がないか試している最中なんだ」

休耕田の雑草防止策に他国からこの蓮華草を取り寄せ、試しに植えているのだと陛下は夕鈴に説明する。 今日はこの花の美しさを一緒に愛でようと政務の合間を縫って (李順から上手く逃げ出したとも言う) 夕鈴を連れ出したのだ。

美しさも然ることながら飼料にもなり、肥料にもなり、珍しい蜂蜜の原料にもなる。 若芽は茹でて食用にも出来ると聞き、以前食用にもなる花を喜んだ夕鈴を思い出した。 夕鈴は実用性に富んだものが好きだから、きっと喜ぶと思うと踏んだ陛下の読みは見事に当たる。

「すごいですね! こんなにきれいな花なのに他にも使い道があるなんて!」

目を輝かせて目の前の花々に魅入っている可愛らしい表情を浮かべる夕鈴の口元に、小瓶から取り出した蜜を運ぶ。

「! んんっ!」

夕鈴は口中で舌を動かしながら、頬を徐々に紅潮させて僕に満面の笑みを向けてくれた。

「あっま~~~い!」

初めて蜂蜜を口にした夕鈴は、両頬を押さえながら 「ほっぺが落ちそうなくらいに甘いです~!」 と大喜びだ。 陛下はにっこりと微笑むと、夕鈴の口に蜜を運んだ自分の指をそっと自分の口へ運び舐めて 「こっちの方が甘いけどね」 と小さく呟くが、蜜の甘さにただただ驚き喜ぶ彼女は全く気が付かない。

「それにしても、広い場所に沢山の蓮華草が植えられていますねー」
「王宮の菜園の一部だよ。 夕鈴はこっちまで来たことはないだろう?」

陛下を見上げながら、黙って頷く。 偽妃が王宮の全てを把握出来るはずも無く、李順には事ある毎に 「バイト妃」 の役割と、線引きを知らされている。 それは当然のことだろう。
時期が来たら王宮を離れる夕鈴に、全てを知らせる訳にも、教える訳もない。
以前、疎外感を感じその旨を伝えたことがあったが・・・・・・。

狼陛下に咬まれてしまうという・・・・・思い返すと恥ずかしいやら、情けないやら、居た堪れない心情が蘇る。

「…足元に気をつけてね。 湿地帯だからぬかるんでいるよ」

花を揺らしながら、風が二人を通り過ぎた。 それは夢の世界のように見える。 
普段の生活に戻ったら絶対に見ることは出来ないこの夢の世界をしっかりと目に焼き付けておこうと夕鈴は思った。 優しい陛下の姿と共に。


じわりと胸を締め付ける感覚が一体何なのか、夕鈴は把握している。 
今だけの夢のような世界。 
この先の世界には足を踏み入れることが出来ない自分を解っている。 その世界には、陛下に相応しい正当な妃が、正妃が傍に立っているだろう。 
そして陛下を支え、陛下と共に歩んで行くのだ。
しっかりした後ろ盾を持ち、沢山の味方を陛下に差し出し、蓮華草のように華やかな装いと笑顔で陛下を癒すだろう。 時に飼料となり、時に肥料となり、時に食用となる蓮華草のように、多方面で陛下を支え続けるだろう。

自分には出来ないことを陛下に与えることが出来る、本当の妃。

「偽妃バイト」 である夕鈴は 想うだけ。 
今まで陛下には沢山のことを与えて貰ってばかりで何一つ還せていない。 仕事上、命を狙われる危険はあったが必ず助けてくれている。 そんな陛下に夕鈴が出来ることは・・・・。

陛下のために動くだけ。
陛下のために笑うだけ。
それは陛下への恋慕が与える切ない思い。


風に煽られるように髪を靡かせながら、無言になった夕鈴を振り返える。 
泣きそうな表情で蓮華草の草原を見つめている彼女は、深く思いに耽っているようで陛下が傍らに寄って来ても気が付いていないように見えた。

「私の妃は何に愁いているのか・・・・」
「・・・・え?」

急に近くに聞こえた狼陛下の声色に、夕鈴は驚いて顔を上げる。

細めた紅い目と揺れる黒髪。
今まで夕鈴が居た世界では、絶対に在り得ない程の距離に陛下がいる。
鼓動が早くなる。 夕鈴は眉根を寄せて笑顔を作った。

「愁いていませんよ。 ・・・・ただ、蓮華草が余りにも綺麗で・・・・」

陛下の顔から蓮華草の草原へと目を移し、風に揺れる蓮華草を見つめる。
硬く唇を閉ざした夕鈴を眺めたあと、陛下も蓮華草の草原へと視線を移した。

「蓮華草って夕鈴みたいだね」

小犬陛下の声色に変わり、驚く台詞が聞こえてくる。
 
「わ、わたしみたい? この蓮華草が?」
「夕鈴は僕のためにいろんなことしてくれるでしょ? 妃の仕事もそうだけど、美味しいお茶を淹れてくれるし、たまにだけどご飯も作ってくれるし、疲れている時の笑顔はこの花そのものだよ」
「・・・・・」

口を開けたまま呆然とする。 
自分の考えていた真逆を嬉しそうに語る陛下に目が点になった。
言われた台詞を反芻すると、顔が赤くなるのが自覚出来る。

「夕鈴、かーわいー!!」

笑いながら陛下がぎゅっと夕鈴を抱き締める。

「へ・・・・! かわい・・・・って!!」

更に赤くなっていると思われる顔を袖口で隠すが陛下にはお見通しだろう。
『私が蓮華草だなんて! 有り得なさ過ぎて! 恥ずかし過ぎる!!』
そう思うが、陛下の抱擁から離れる気はしなかった。 小犬陛下のためか、ただ気持ち良く抱き締められていた。顔が赤いうちは、もう少しだけこのままで。
力を抜き、抱き締められるに任せて身を委ねる。






「へーーいーーかーー!!!」

地の底から這うように低く恐ろしい声が背後から響き渡る。
二人がゆっくり怯えるように振り向くと、李順が昏い微笑を見せた。

「此方に居らしたんですね~。お探ししましたよ~」

眼鏡の輝きが半端無い。 夕鈴は全身が凍ったかのような底冷えに襲われた。 政務をサボった陛下と共に叱られようとは思ったが、李順の怒りの前に改めて全身が震え出す。
そんな夕鈴の体を離さず溜息を吐きながら陛下は平然と答える。

「優秀な側近だな、李順。 お前に見つかるまでの暫しの休憩だ」
「・・・・では、至急政務にお戻り頂けるのでしょうね。 沢山の事案が陛下をお待ちで御座いますよ。 たくさ~~~~んのね!」

陛下にそう語った後、じろりと夕鈴を見る。 蒼白になった夕鈴の背筋がびしっと伸びた。

「夕鈴殿、侍女が探していましたよ。 余り彼女らに心痛ばかりを与えるのは、妃としての仕事の自覚が足りないのではないのですか!?」
「は、はい! すいません、李順さん! 直ぐに戻ります!」

急いでその場を離れ、後宮に戻ろうとする夕鈴を陛下はまだ離さない。

「陛下! は、離して下さ~い!」

腕の中でじたばた動く夕鈴に、にっこり微笑むと軽々と抱き上げる。

「陛下!」
「夕鈴、この辺は湿地帯だと先程伝えただろう。 慌てると怪我の元だ。 私がこのまま後宮まで運んでやろう。 可愛い妃が万が一怪我をすると私の心が痛むからな」

狼陛下の表情になった陛下は、青からまた赤に変わった夕鈴の顔を覗きながらそう滑らかに話し歩き始める。 李順から 「何をやってるんですか!?」 と呆れた台詞が飛ぶ中、笑いながら平然と歩き続ける。

「このまま後宮で夕鈴が淹れてくれるお茶を飲みたいな♪」
「・・・・李順さんに殺される前に、ちゃんとお仕事をして下さい・・・」
「えー! このまま仕事はいやだな~」
「お仕事終えたら来て下さい。 美味しいお菓子を用意して待ってますから」

陛下は 「わかったよ、美味しい夕鈴のために頑張って仕事するね!」 と苦笑した。

「私は美味しくありませんよ?」


蜜より甘い夕鈴の口は陛下だけの秘密。






蓮華草の花言葉 : 「心が和らぐ」「私の苦しみを和らげる」





FIN

スポンサーサイト

テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

短編 | 00:47:31 | トラックバック(0) | コメント(2)
コメント
蓮華草
夕鈴にとっても本当の意味で、陛下が蓮華草になって欲しいです(^_^)/
2012-05-06 日 01:06:48 | URL | [編集]
Re: 蓮華草
蘭様、凄く嬉しいコメントです。有り難うございます。
何かの折に見た蓮華草で思いついた話で、サイト立ち上げを考えたきっかけにもなった作品なので嬉しいです。
2012-05-06 日 11:08:33 | URL | あお [編集]
コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。