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癒し

『腹黒シリーズ』短編です。 陛下が妙な具合に飛び跳ねていますので御了承の上ご覧下さいませ。 過去修正作品ではありません。 夕鈴はバイト花嫁ですが、本来の作品より、とても辛辣な言動が多いことを御了承下さい。 


では、どうぞ







晴天続く秋のある一日、午前中は政務室でお妃演技を、午後は掃除婦として後宮立ち入り禁止区域で働いた夕鈴は、夜に訪れる陛下のため、茶器の用意を侍女に任せて湯殿に向かった。
埃まみれの身体をたっぷりの湯で流し、大きな湯船で足を伸ばす。

「ふぁああ・・・、至福のひととき・・・」

冬の離宮で堪能した温泉には遠く及ばないが、後宮の湯殿も大きい。 過去には多くの妃がここでひと時の安らぎを感じたことだろう。 普段は各自の部屋で湯浴みをしていただろうが、こんなに大きな湯殿があるのだから、週に一度くらいは利用していただろうなと想像する。 
今はたった一人しかいない妃のために、こんなに大きな湯殿に湯を用意させるのは申し訳ないと思うが、気を利かせてくれたものを断るのも勿体無い。 月に一度くらいは自分への御褒美にと、遠慮なく堪能している。 この湯を洗濯や掃除に回せたら冬場は楽だろうなと思いながら、高窓に目を移した。
秋の夜空に吸い込まれていく湯煙の向こうに、薄黄色の月が見える。
 
冷たい空気が頬に心地いいなと月を眺めていると、脱衣所が妙に騒がしくなった。 湯殿番が二人控えているだけの脱衣所が騒がしいなんて、厭な予感しかしない。 慌てて大判の布を手に取り立ち上がり、湯船から飛び出した身体に捲き終えた瞬間、予想通りの人物が現れた。

「ゆーりんっ、来ちゃった!」

来ちゃった、ではない。 何故、来る? ここに、湯殿に、私が入っているというのに!
馬鹿じゃないの? いや、馬鹿だろう! 当たり前のように入って来たが、私は陛下の妃ではなく、ただのバイトだ。 こんなのバイト規約にあるはずない! 

「お風呂、上がっちゃったの? もう少し一緒に入ろう? 駄目?」
「何を言っているの!? 駄目に決まって」
「ああ、大きな声を出しちゃ駄目だよ。 誰かに聞かれたら大変」

大変なのはあんたの頭と、この事態だ。 バイト上司が知れば大目玉どころじゃない。 不条理だろうが何だろうが、速攻、私はクビになる。 過剰な演技や勝手な行動に振り回されているのは私の方なのに、叱責が落ちるのはいつもいつもバイトの方だ。 一応陛下も叱責されているのだが、この能天気陛下は全く、少しも、欠片も気にしない。 その分まで余計に叱責されるのだから溜まったものじゃない。

「・・・・逆上せてしまいますので、先に上がって部屋でお待ち致します」

必死に落ち着きを取り戻し、陛下から距離を取って脱衣所へ向かう。 未婚女性が、それも庶民が王族である陛下と一緒に湯船に浸かるなど出来るはずもないし、するつもりもない。

「ええー、一緒に入ろうよぉ。 夕鈴が湯殿に行ったって聞いたから急いで来たのにぃ」
「・・・冬の離宮では大仰な風呂は好きじゃないと言っていたじゃないですか。 ともかく、私は充分温まりましたので先に戻り、お茶の用意を」
「遠慮は無しだよ。 さあ、入ろう!」

大股で近付く狼の手を叩き落とし、夕鈴は脱兎の如く逃げ出した。 
やはり脱衣室には誰ひとりいない。 誰の仕業か嫌でも分かる。 急ぎ用意されていた夜着を羽織り、その上から大判の布を被って飛び出す。 部屋に飛び込むと侍女が驚いた顔を見せるが、「む、虫がいたんです!」 と言うだけで素直に納得してくれた。 この時期に虫がいたと疑わず、信じてくれたことに感謝しながら急いで身体を拭い、夜着に着替えて水を飲む。
陛下の奇行はいつものことだが、とうとう湯殿にまで侵入してきた。
これは危険な兆候だ。 
一庶民のバイトを翻弄するだけでは飽きたらず、時に吸い痕を残す好色陛下が湯殿に現れた。 借金があるとはいえ、陛下が手を出していい訳がない。 正式に妃を娶るまで我慢し続けているのが辛いと言うなら、李順さんに相談して城下の花街で発散してくればいい。
私は臨時花嫁のバイトに来ているのであって、陛下の慰み者になるつもりはない。

「これは待遇改善を訴えねば!」
「待遇改善を訴えるなら、僕も一緒に訴えるよ。 もっと夕鈴と一緒に過ごせる時間を確保して欲しいし、夕鈴手作りのご飯を週に三回は食べたいし、夕鈴が好きな温泉に行けるよう、李順に訴えようねー」

極自然な態度で寝所に現れた陛下に、掲げていた腕を掴まれた。 
もう湯殿から出て来たのかと驚く間もなく抱き上げられ、そのまま侍女がいる居間へと連れ行かれてしまう。 侍女が茶の用意を始めると陛下は膝上に私を乗せ、満足げな笑み浮かべた。

「我が妃が湯冷めなどせぬよう、私が温めてやろう」
「ま、あ・・・嬉しいですわ、陛下」

侍女がいる前では下手に抗えず、屈辱を噛み殺すしかない。 それが侍女の目には恥ずかしいと俯く妃に見えるのだろう。 仲良し夫婦を微笑ましく眺めながら温かい茶を用意する一方、寝所に高価な香を設え始める。 このまま陛下が妃の部屋で一夜を過ごすと信じて疑わない視線を肌に感じながら、夕鈴は歯噛みした。
大きな湯船で癒されるはずが、闖入者によって台無しにされ、膝上で弄ばれる始末。 
借金さえなければと口中で呟きながら、侍女たちには幸せそうな笑みを浮かべてみせた。 そろそろ侍女を下がらせるだろうと頬を引き攣らせるが、今日に限って陛下は侍女を下がらせない。 

「お茶の用意が出来ましたので、卓へ移動しましょうか」
「そうだな。 寒くは無いか? 寒いなら手をここに入れてもいいぞ」
「いえ、大丈夫です。(だから胸元を開けるな!) 陛下こそ、お茶を飲みましたら急ぎお戻り下さいませ。 こちらには上着の用意が御座いませんし(とっとと部屋に戻れ!)」
「そうだな。 誰か、上着を用意するように」
「・・・・(頼むのかよ!)」

陛下の指示で薄綿入りの上着が二人分即時に用意され、有能な侍女の仕事ぶりに夕鈴から乾いた笑いが零れた。 あとはどうやって部屋に戻そうかと思案していると、顎を持ち上げられる。 

「我が妃と秋の夜長を過ごすのが、私にとって何よりの癒しだ。 だがいつも君から癒しをもらうばかりでは心苦しい。 何か褒美を与えてやりたいな」
「そうおっしゃって頂けるのが何よりの褒美ですわ (借金帳消しを頼む!)」
「愛いことを言う。 だが君に酔う前に、酒を頼もうか」
「・・・・(今度は酒かよ!)」

強張りそうな頬を擦っていると、ふいに陛下の手が重なった。 何だと見上げると、そこには妖艶モード全開の狼がいて、夕鈴の指の合間から頬を撫で上げる。 捕食者が目の前にいるようで、心臓が跳ね上がった。

「夕鈴もたまには杯を交えてみるか?」
「いえ・・・、私は酒を嗜みません。 どうぞ、陛下だけでもお楽しみ下さいませ」
「妻を肴に飲むのも一献だが、共に杯を重ねる楽しみも与えて貰いたいものだ」

ここで酒を口にしたら、どうなるか。 ・・・間違いなく狼の餌食にされることだろう。 
私はバイト妃であって狼の餌じゃない。 嫁入り前の清らかな身体に、狼の噛み跡を残されるなど言語道断だ。 明日には絶対、バイト上司に苦言申し立てをしよう。 湯殿への侵入もバイトへの過剰な接触も禁止して貰いたい。 まずは侍女を下がらせて欲しい。 人払いが済んだ後、徒労に終わろうと一言文句を伝えたい。

それなのに酒を用意した侍女に肴を運ぶよう伝え、それが終わると火鉢の用意をさせ、次は膝掛けと、陛下は間をおいて次々に用事を頼む。 
甲斐甲斐しく動く侍女は、国王夫婦の仲睦まじさを他の従事者にも広めることだろう。 それこそが臨時花嫁としての存在意義だ。 陛下から与えられる寵愛に喜びを感じる幸せな妃を演じる。 上手く演技出来ているのは侍女の表情でわかるが、遣り切った感はない。

早く・・・、早く侍女を下がらせて! 
頬を撫でる指を、今にも叩き落としそうになる。 腰で蠢く手に、噛み付きたくなる。 
これ以上の演技は必要ないと訴える視線に、妖艶な笑みが応える。 舌打ちを噛み殺した夕鈴は、卓下でそっと狼の手の甲を抓った。 すると頬を撫でていた手が外れ、安堵した次の瞬間、耳元に小犬の声が落ちる。

「夕鈴から触れてくれるなんて嬉しい。 いつもよりお酒が進みそうだよ」
「・・・・・・」


秋の夜長は何処まで続く。 




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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

短編 | 21:15:18 | トラックバック(0) | コメント(8)
コメント
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2015-11-08 日 21:28:16 | | [編集]
Re: タイトルなし
はうはう様、コメントをありがとう御座います。ちょいと間が開いたので、急ぎ作った話ですが笑って頂けて嬉しいです。こんな小話が今後もいくつか続く予定です。今後もお付き合い頂けたら嬉しいです。ほんとーにありがとう御座います。
2015-11-08 日 21:39:02 | URL | あお [編集]
こんにちは。
現代パラレルを除き、夕べやっと過去作品を読み終わりました。ものすごい満足感です!
最後の方の、夕鈴の言葉をスルーして好き勝手に喋る陛下は、ちょっとこちらの腹黒陛下を彷彿とさせました。あおさんの陛下は基本、黒いですよね(笑)大好きです♪

黒いのをいっぱい読んだせいか、今回の陛下は、いつもより若干大人しめに感じました。でも楽しかったです‼
2015-11-11 水 12:50:34 | URL | ハニー [編集]
すごく 面白いです。
2日かけて 一気に読みました。。
色々なサイトに 行きましたが、一番 好みの内容でした。

もっと 見たいです。

忙しい中だとは 思いますが 楽しみにしています。
2015-11-12 木 15:33:04 | URL | れん [編集]
Re: タイトルなし
ハニー様、コメントをありがとう御座います。過去作品を読み終え下さいまして、ありがとう御座います。読み返すと、矛盾や誤字や言い回しが意味不明などあり、見つけるたびに慌てて治しています。もし見つけたら、教えて下さいませ! 今回は柔らかめの腹黒(これも言い方が妙ですが)になりましたが、私の書く腹黒はエロに通じてしまうので(爆)ちょっと控えようと自浄した背景があります。どうしても、どうしてもエロに走る私が悪いんです! でも、めちゃ楽しいんです。わははは。
2015-11-12 木 18:32:26 | URL | あお [編集]
こんにちは

最近 読み始めました。
どの作品も 楽しくて 何回も 読んでます。
特に オリキャラの 桐さんや杜博や琉鴇が出てくる 話が好きです。
面白い話から痛い話、牢獄の浩大、陛下、李順さんの 夕鈴への態度など
ツボを突かれて しまいます。
泣きポイントもあり 本当に 泣きながら 読んでいます。
これからも 楽しみにしています。
2015-11-12 木 18:34:29 | URL | もくもく [編集]
Re: タイトルなし
れん様、コメントをありがとう御座います。れん様からの褒め言葉にデレデレです。深刻な内容のニュースを横目に、デレデレしてしまい、子供に妙な目で見られました。また足を運んで頂けるよう、頑張ります。
2015-11-12 木 18:39:28 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
もくもく様、コメントをありがとう御座います。オリキャラを褒めて頂けるのはめちゃ嬉しいです。特に桐は人気のようで、ドキドキするほど嬉しい。杜博と琉鴇・・・は、ある意味可哀想な設定ですが、好きと言ってもらえて涙が出るほど喜んでおります。本当に、本当にありがとう御座います。
2015-11-12 木 18:46:14 | URL | あお [編集]
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