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誤解

『腹黒シリーズ』短編です。 陛下が妙な具合に飛び跳ねていますので御了承の上ご覧下さいませ。 過去修正作品ではありません。 夕鈴はバイト花嫁ですが、本来の作品より、とても辛辣な言動が多いことを御了承下さい。 


では、どうぞ







節約倹約志向のバイト上司と庶民代表のバイトは、普段から出来るだけ質素な衣装を心掛けているのだが、今日の侍女は気合が違った。

「万が一にでも風邪を召しませんよう、寒さ対策を致しませんと」
「山羊の膝掛けを用意しましたので、政務室で御使い下さい」
「いえ・・・、昼間は陽射しもありますし、座っているだけですから」

侍女はそれでは足りないとばかりに 「貂熊の肩掛けは?」 「羽毛入りの肩掛けの方が」 など相談を始めるから蒼褪めてしまう。 どちらも高価な品で、夕鈴の家では半年分以上の食費に値する。 それにしても今日に限ってどうしてそんなに気合を入れるのだろうと首を傾げると、途端に頬を染めるから驚いた。

「お妃様の御体を冷やさぬよう心配るのは私共の当然の務めですわ」
「季節の変わり目は特に気を付けなければなりません。 私共は政務室には立ち入ることが出来ませんので、侍官に荷物を渡しておきます。 ですから、ぜひお使い下さいませ」

本来なら政務室に立ち入ることなどないのは自分も同じ。 仲良し夫婦を演じるため、妃を邪魔と思う者への牽制と囮のために政務室に足を運ぶバイトをしているだけだ。 唯一の妃のためとはいえ、侍官に荷物を渡すなんて間違っている。 政務室に勤める廷臣は皆、貴族子息なのだから。 
丁寧に断ると、夕鈴が困惑するほどの悲しい顔をされてしまう。 いつもとは何となく違う侍女の行動に首を傾げながら所定の場所に腰を下ろした途端、視線を感じた。 
狼陛下唯一の妃が、また政務室に来たぞ。 
そういった視線はずいぶん慣れた。 大抵の官吏はあからさまな態度は見せず、チラチラと窺うような視線を送って来る。 だけど今日感じる視線は、『ああ、また来たか・・・』 というものではない。 妃を見ると目を瞠り、そして興味津々と注目しながら、コソコソと集まり話し始めるのだ。 
訝しむしか出来ずにいた夕鈴は、柳方淵の姿に思わず立ち上がり近付いた。

「御機嫌よう、柳方淵殿。 ・・・・ちょっと、いいですか?」
「また後宮から出て来たのか。 政務の場に現れるなと諌めるのは何度目だ。 いい加減に学習しろ。 直ぐに後宮へ戻り、部屋に籠って陛下のために出来ることを模索しろ。 それが妃としての務めだ!」
「ええ、陛下のために出来ることをしようと日々こうして足を運んでおります。 そんなことより、ちょっと聞きたいことがあるのですが」
「そんなことよりとは何だっ! いいか、後宮における妃の役割とは」
「解っております! それはもう、結構です」

方淵に尋ねるのを早々に諦めた夕鈴は、ほかに話しが聞けそうな人物がいないか探してみた。 だが、やはりどの官吏も忙しそうで、その上、妃の存在に気付くとちらちら見ながら場を離れていく。 訳もわからず注目されるのは、はっきり言って気分が悪い。 面と向かって言ってくれたらいいのにと尖らせた口を扇に隠した時、政務室全体に低い声が響き渡った。  

「今日も我が妃の微笑みのごとく暖かな日和だが、それは私だけに向けられて欲しいものだ」
「・・・まあ、私の笑みは陛下だけのものですわ」

声の主はやはり陛下で、政務室全体の気温が一気に下がるような笑みを浮かべて近付いて来た。
夕鈴が嬉しそうな笑みを浮かべて寵妃演技を始めると、手を取り互いに見つめ合う。 官吏には見つめ合う仲良し夫婦に見えているだろうが、水面下では静かな戦いが始まっていた。 国王とその妃が仲睦まじいことを周知させながら、速やかに陛下を政務に戻すという、バイトには荷が重い仕事があるのだ。 バイト上司に文句を言っても、一瞥で退けられるのは毎度のこと。 それならば何としても真っ当に勝負してやろうと努力し続けているが、悔しいことに二重人格腹黒陛下に勝てた試しがない。 
今日こそはと意気込む夕鈴の目の端に、小声で話し合う官吏が見えた。 やはり何か問題が生じたのだろうかと眉が寄ってしまう。 怪文書か妃推挙か、はたまた政務での問題か。

「我が妃の笑みに癒されながら、少し休憩するとしよう」
「で、では四阿に茶の用意をさせましょう」

このまま政務室で陛下と演技を続けるより、官吏の邪魔にならないよう、一旦消えた方がいいかも知れない。 半刻もしたら陛下も気が済むだろう。 いや、済ませるよう誘導するのもバイト妃の仕事だ。 今日こそは、今回こそは陛下の勝手な行動を上手く諌めてみせる!

「寒くはないか? 陽射しは温かいが、足元が冷えるだろう」
「いえ・・・、このように包まれておりますので充分温かいですわ。 ・・・でも、出来ましたら椅子へ移りたいです。 これでは陛下が寛げませんでしょう?」

四阿にていつもの膝上座りに固定されるのは想像していたが、大判の膝掛けでグルグル巻きにされるとは思ってもみなかった。 さらに陛下の肩衣が覆い、夕鈴はおくるみに包まった赤児のようになる。 身動きが取れない状態に慌て、すぐに解放しろと目で訴えるが、あっさりと却下されてしまう。

「愛しい我が妃が少しでも冷えぬよう、私の熱で温めたいだけだ。 会えぬ間も忘れぬよう、もっと熱を伝えたい。 出来ることならこのまま部屋に連れ去りたいものだ」
「まあ、嬉しいことを。 会えぬ間も陛下を忘れるなど有り得ませんわ」

また何か善からぬことを企んでいるのかしら。 だけどバイト妃を舐めないで欲しいわ。 これくらいなら柔軟に対応出来ますことよ。 見た目は蓑虫だけど、寵妃の笑みはばっちりよ。 
自信満々な笑みを浮かべる夕鈴だが、次の行動は予想外だった。
グルグル巻きの身動き取れないバイト妃の腹を、陛下が愛おしそうに撫で始めたのだ。 頭に頬を寄せ、腹を撫でる陛下に、夕鈴は笑みを浮かべながら目を瞠った。 侍女が側に控えているから耐えているが、人目が無ければ陛下の腰に手を伸ばして、佩いたもので斬り付けてやりたい。
何度も何度も腹を撫でるな! 頭をすりすりするな! 
簪が落ちる、髪型が崩れる、気持ちが悪い!    
しかし、グルグル巻き状態では立ち上がることも出来ない。 侍女を下げずにいるのもイヤガラセの一環だろう。 逃げられず、怒れず、陛下の暴挙にも笑みを浮かべ続ける苦行を強いられた夕鈴は、それでも立派に耐え続けた。 問題は、この状態からどうやって陛下を政務に向かわせるかだ。

「あの、お寒くは無いですか? そろそろ室に戻った方がよろしいのでは?」
「そうだな、我が妃が万が一にでも風邪に害されては大変だ」

おや、素直に戻る気になったか。 珍しいこともあるものだ。
そんな余裕は簀巻き状態のまま抱き上げられ、陛下が後宮へと続く回廊に足を向けた瞬間に崩れ落ちた。 侍女が満面の笑みで背後からついて来るから、暴れることができない。

「あ、あのっ、陛下には大事な政務が御座います。 私は歩いて戻りますからっ」
「我が妃は政務の方が大事か? 私は政務より妃の方が大事だが、その心が伝わらぬとは悲しいことだ。 思いの丈が充分伝わるよう、じっくりと愛でてやろう」
「へ? いえ・・・、そうではなく・・・」

何を言っているのか理解出来ない。 結局は政務をさぼる言い訳に、バイト妃を利用しているだけだろう。 それで叱責を受けるのが陛下だけなら文句は無いが、上手く諌めることが出来なかったと、バイトにまで雷が落ちるのは論外だ。 迷惑にもほどがある。 
憮然とした妃を抱きかかえた陛下が部屋に姿を見せると、部屋で待機していた侍女は大仰に驚き、そして動き出した。 部屋を暖め、膝掛けを用意し、温かい茶と菓子を出す。 いつも以上にキレのある動きを見せる侍女を目にして、何だか動悸がしてきた。 這い上がる不安に足を竦めると、陛下が簀巻き状態の上から膝掛けを捲き始める。 これでは身動き取れない。 そう文句を言おうとして顔が強張った。
陛下はともかく、侍女の視線が温かすぎる。 生暖かいというレベルじゃない。 何というか、大量の蒸気に包まれているような、温泉に浸かっているような気分だ。 不安が次第に恐怖に変わる。 陛下が差し出す茶を呆然としたまま味わい、腹や髪、頬を撫でられながら、じわじわと這い上がる恐怖に耐え続けた。


***

 
「陛下があのように慈しまれておりますのは、絶対にそうですわ」
「まだ判りませんわ。 陛下はお妃様をいつもあのように抱きかかえておりますもの」
「でも、風にも当てないようにと御心掛けておられてましたわよ?」
「私も見ましたわ。 お妃様のお腹を、こう・・・撫でておられましたの」

一人の侍女が四阿での様子を語ると、「やっぱり!」「ほら、そうよ」 と一斉にざわめき出す。 回廊で擦れ違う官吏の視線も普段と違ったと一人が話すと、私もそう思っていたと他の侍女も頷き、全員が目を輝かせ始めた。 そこへ手を叩きながら侍女長が現れ、皆を制する。

「落ち着きなさいませ。 それは陛下から正式に御話しが下されるまで、不確かに騒いで良い内容ではありませんよ。 侍医に診て頂いた訳でもありませんのに、先走ってはなりません」
「でも侍女長様。 あの御様子では間違い御座いませんわ!」
「ええ、きっと御懐妊なさったのですわ!」
「お妃様のお腹を撫でる御手が、お優しかったですもの」
「おめでたいことですわ! 私たちが仕えるお妃様が国母になられますのよ」

きゃーと、盛り上がる侍女たちの話に、侍女長も困ったように笑う。

「まあ・・・、おめでたい話は喜ばしいことですわね。 ただ正式な話があるまでは、大騒ぎは控えるようにして下さい。 お妃様は恥ずかしがり屋なのですから」

夕鈴の与り知らぬところで 『懐妊話』 がコロコロ転がり始めた。
侍女が口を閉ざしても、一歩も歩かせまいと妃を抱き上げる陛下の寵愛ぶりに、政務室の官吏や大臣までもが騒ぎ始める。 悔しがる者、御子が生まれる前にと暗殺を企む者、懐妊中がチャンスとばかりに妃推挙を始める者などが現れ、喜びを表したのはほんの一握りだった。 
その内の一人が書き上げた作品が夕鈴の手に届くのは、もう直ぐだ。



「全くっ! 報告が遅ければ、夕鈴殿をクビにしてましたよ」
「見えぬ水面下で静かに蠢き続けられては困るからな。 どうせなら、御めでたい話で誘き寄せようかと思ったのだが、夕鈴が頑なで噂だけで終わりそうだよ」

眉間の皺を深く刻む側近を横目に、陛下は残念そうに溜め息を吐く。 何時もいいところまで進行すると、夕鈴は気を失ってしまう。 意識のない人間に手を出すつもりはない。 ちょっと口を出して印を残す程度に止めるしか出来ない。 それさえも真っ赤な顔をして文句を言うのだから、本当に夕鈴は恥ずかしがり屋さんだ。

「夕鈴殿はバイトですと、何度言えば解りますか。 噂だけで終わらせるのが当たり前ですよ?」 
「懐妊にお酒は駄目だよね。 媚薬・・・って、どこにあったっけ?」
「それをどうなさるつもりですか? アレは期間限定のバイト妃だと、何度言ったら理解出来ますか!」
「既成事実を作った方が、夕鈴も理解しやすいよね」
「そんな事実は必要ありません! 陛下に必要なのは筆と、政務に対する真摯な心構えです!」
「飲むのと、塗るの、どっちがいいかな? ・・・夕鈴が好きな温泉離宮に行って、ちょっとだけ果実酒を飲ませて、いい雰囲気を盛り上げてから・・・。 うん、それがいいなぁ」

一人ブツブツ画策し始めた陛下を横目に、側近は急いでバイトの借金残金を調べ始めた。



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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

短編 | 00:40:24 | トラックバック(0) | コメント(4)
コメント
今回の陛下も ぶっ飛んでますね〜

過去作品を 何回も読みながら 次作品を 楽しみにしています。

元々 マンガ派で 小説を あまり 読まなかった私ですが あおさんの 作品を読んで 小説にも 目が いくようになりました。
想像力が 乏しい私には、文だけでは なかなか入り込みにくかったのですが、マンガから 入りこんでるので あおさんの 文に 陛下の 表情や行動が 頭の中に 浮かんで 楽しんでます。
しかし、やっぱり あおさんの作品を マンガでも 見たい! 可歌先生の絵で 見たい!と 悶々と、考えています。
可歌先生が書いた あおさんのオリキャラを考えて のたうちまわております。
次回作品も 楽しみに 待っています。
2015-11-18 水 08:11:58 | URL | もく [編集]
Re: タイトルなし
もく様、コメントをありがとう御座います。今回は大人しくさせたつもりでしたが、最後の台詞はぽろっと零れて来て、あら腹黒いと笑ってました。表なので、まだ落ち着いてますが、これからどんどん黒くさせたいなと思ってます。本紙の陛下は甘々ですが、こっちの陛下は足の裏まで真っ黒にしたいと誓っています。あとは文章力が上がればいいのに・・・・。お褒め頂き、ありがとう御座います。嬉しいです。
2015-11-18 水 21:10:12 | URL | あお [編集]
およよ?
ヘタレなしで黒いだけの陛下だ!
李順さーん!早く逃がしてあげてーーッ!!
「これだけ噂が広まっちゃったから仕方ないよね」とか言って、あっという間に夕鈴が狼に食べられちゃいそうだーーッ!!
2015-11-18 水 23:37:33 | URL | ハニー [編集]
Re: タイトルなし
ハニー様、コメントをありがとう御座います。言われてみたら、それもありだ! 仕方がないよねって、昏い笑みを浮かべた陛下がいそいそと掛布団を捲って忍び込む姿が想像出来て、・・・・・本紙の陛下に頓首したくなりました!! そしてヘタレ無しだったわ~と今頃になって気付く私。ヘタレがないと、つまらないわね・・・くすん。
2015-11-19 木 14:34:02 | URL | あお [編集]
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