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思惑
『腹黒シリーズ』短編です。 陛下が妙な具合に飛び跳ねていますので御了承の上ご覧下さいませ。 過去修正作品ではありません。 夕鈴はバイト花嫁ですが、本来の作品より、とても辛辣な言動が多いことを御了承下さい。 

では、どうぞ







「今日も温かいね。 日向ぼっこには最高だね、夕鈴」
「本当に・・・、暖かいですね」

柔らかな表情の陛下が隣に座っている。 
侍女は四阿から少し離れた場所に控えており、小犬顔の陛下が砕けた物言いで菓子を摘まむ。 隣に腰掛けた陛下の視線は四阿から望む庭園に向けられ、妃の手を繋ぐことも、膝に抱き上げることもない。 
穏やかに微笑み、互いの視線をゆるりと絡める。 心地良い日差しが背と膝上を温め、目を閉じると寝てしまいそうなくらい気持ちがいい。 大きく息を吸い込み眠気を払っていると、茶杯を置く音がした。

「僕はそろそろ政務に戻るよ。 夕鈴は掃除に行く?」
「え? あ、はい。 掃除に・・・・行きます」
「あまり無理はしないでね。 水が冷たいなら、老師に言って湯を用意させていいよ」
「そ、そこまでは必要ないです。 ・・・お気遣い、ありがとう・・・御座います」

陛下に柔らかく背を押され、ゆっくりと四阿を出る。 侍女に夕鈴を預けると、小犬は狼陛下に変貌して力強く歩き出した。 行き先は政務室のある宮だ。 
もう十日近く、陛下とは奇妙なほど穏やかに過ごしている。 
政務室で会えば笑みを浮かべて妃に寄り添い、四阿へと誘う。 ただし、以前よりもずっと短い時間を過ごし、陛下は政務へと戻る。 夜は二日と開けずに部屋に訪れるが、侍女を下がらせた後は、政務があるからと早々に帰ってしまう。
急に変化した陛下の態度に違和感を覚えるが、一番おかしいと思うのは全くといっていいほど触れなくなったことだ。 官吏や侍女の前で髪を撫でたり、肩を抱き寄せたりはするが、以前のように抱き上げることも、膝上に座らせることがない。 何か失敗してしまったのかと悩むが、夕鈴には思い当たらない。 
もし妃演技に不満があり、バイト妃がクビになるとしたら、残った借金はどうなるのだろう。 
割ってしまった壺は大変貴重で高価らしいが、借金はどのくらい残っているのか。 高額なバイト給金の半分は借金に充てているから、残金は案外少ないかも知れない。 このまま漠然と悩むより、バイト上司に直接尋ねた方がいいのではないか。 
掃除に向かう夕鈴は、気持ちを切り替えようと大きく頷いた。



「夕鈴、李順に何か用だったの?」
「はい・・・、でも御忙しいようで会うことは出来ませんでした」

夜に顔を出した陛下は、茶器の用意だけを侍女にさせ、早々に下がらせてくれた。 今日も二人きりになると程よい距離を取り、夕鈴が茶を淹れるのを大人しく待ってくれている。

「どんな用があったのかは分からないけど、しばらくは無理かもね。 李順は周の部屋と執務室を行き来しているし、僕も書簡の山に押し潰されそうだよ。 明日からは周の部屋に閉じ込められる予定だし」
「そう・・・、ですか」
「でも急ぎの用なら、僕から時間を作るよう言っておくよ?」

夕鈴は湯気の立つ茶杯を見つめながら首を横に振った。 
そんな忙しい時に陛下の側近を呼び出し、借金の残額を尋ねるなど出来ない。 
それを訊いて自分がどう動くかさえ決まっていないのに、「それがどうしたんですか?」 と問われた時、ただ聞きたかっただけですなど、言える訳が無い。 
差し出した茶を飲み終えた陛下は、柔らかな笑みを浮かべて立ち上がった。 書簡の山が待っていると、陛下は苦笑を零して肩を竦める。 その表情は僅かにやつれて見えた。 
いつもは仕事をさぼって李順さんを苛立たせる癖に、過剰ないちゃいちゃ演技でバイトを翻弄する癖に、ここ数日の陛下は夕鈴が困惑するほど政務に真摯で、妃に素っ気無い。 そして、そう思う自分に困惑する。 今まで散々な目に遭っていたはずなのに、触れようとしない陛下に、何か言いたくなるのだ。 何を言いたいのか、上手く言葉にすることが出来ず、持て余した感情の処理に眉が寄る。

「明日、また政務室で待っているから」

眉を寄せた夕鈴が立ち上がる暇もなく、陛下は部屋から出て行った。



後宮立ち入り禁止区域で夕鈴が掃除をしていると、浩大と桐が顔を出す。 
思わず 「二人揃って、暇なの?」 と呟くと、桐に舌を打って威嚇された。  

「お妃ちゃんが最近、眉間に皺寄せっ放しだから、なんか言いたいことでもあるのかと思って。 おれ達、人生の先輩として聞いてやろうかと思って来たんだよ」
「妙な方向に動き出す前に、さっさと口を割れ」
「・・・眉間に、皺、寄ってます?」

自覚があるだけに、溜め息が出る。 
もうひと月近く、陛下は夕鈴に触れて来ない。 部屋に来る回数もぐっと減り、忙しいとは聞いていたが、政務室で顔を合わせることも滅多にない。 以前も宰相部屋に閉じ込められたことがあったが、あの時は十日ほどで解放されたはずだ。 これは本当にクビが確定したのだと覚悟せざるを得ない。 下町に戻り借金を返済していくのかと覚悟して、だけどバイト上司からの呼び出しは無く、困惑の日々が続いていた。 綱渡りのような日々に憔悴し、だけど食欲の秋に出される食事はとても美味しくて、ストレスだけが溜まっていく。 

「うん、すげぇ寄ってる。 肌の艶はいいのに、どうしたのさぁ」
「お妃の頭で考えても碌な答えは出ない。 迷走する前に見切りをつけて吐き出してしまえ」
「・・・・辛辣だよね、毎度のことながら」

でも桐の言っていることは判る。 ひとり愚痴愚痴考えても答えは出ない。 ただ時間が経過するばかりで、明確な答えも行動も出せずにいるのだから。

「あの・・・、ここ最近、陛下が妙で・・・」
「陛下が妙とは、どういうことだ? 陛下がお前に手を出したのか? それで陛下が浮かれていると? 仮の立場から本物のお妃になったのか?」
「違います。 ・・・そうではなく、逆、で・・・」
「逆って? お妃ちゃんに手を出さないってこと?」

浩大にあっけらかんと言われると、居た堪れなくなる。 手を出してこない、触れて来ない陛下に不満を持っているようで、これはこれで問題だと夕鈴は羞恥に項垂れた。 
 
「手を出されないことに不満があるなら、出して欲しいと訴えたらいいだろう」
「そ、そうじゃなくて! ・・・最近の陛下を見ていたら、私の演技に飽きて、クビにするつもりなのかなって・・・。 そうなると私の借金はどう返済していけばいいか、下町で高額給金のバイトを探すのも結構大変で」
「穿ち過ぎだな」

端的な返答に、思わず桐を凝視する。 
そうなのか? 考え過ぎなだけなのか? では、どうして陛下のお触りは激減した?
浩大が零す菓子屑をぼんやり見つめながら、夕鈴は混乱する頭の中を必死に整理しようとした。
桐が穿ち過ぎだと言うのなら、その通りなのだろう。 バイトは期間終了まで、言われた通りの仕事をしたらいい。 見ない、聞かない、詮索しないを貫き通し、仲良し夫婦を演じて掃除をしていたらいい。 陛下の過剰な演技に翻弄されることがないなら、それでいいじゃないか。 何の問題がある? いや、問題などない! 

「足りぬ頭で考えるより、行動あるのみだ」
「そ・・・そうだよね。 うん。 行動、あるのみだよね!」

バイトがぐちゃぐちゃ考えても仕方がない。 翻弄されずに仕事が出来ることに感謝しよう。 
時期が来たらバイトは終了する。 李順さんが借金をそのまま有耶無耶にすることは無いだろうから、きっちり返済されるまで仕事は続く。 バイト終了は借金完済だと思えばいい。 悩んでいる暇があるなら、すべきことをするだけだ。 自分がすべきこと、それは妃演技と掃除の二点だけ! 嫁入り前の清らかな身体に悪戯されないことを、喜ぶべきだ。
「よし!」 と気合を入れて箒を動かし始めた妃を、隠密ふたりが胡乱に見つめる。

「・・・桐の言った、行動あるのみって、掃除じゃないんだけどねぇ」
「いいのではないか? 結局は陛下に翻弄されているという自覚もなく、ジタバタしているのを見るのは面白い。 これを報告した後、陛下がどう動かれるのかを想像するのも面白い」
「・・・・陛下がどうして今忙しいか、それを知ったら実家に帰るとか言うかもね」
「実家に戻っても攫われるだろう。 どのみち、お妃には逃げ場などないと、いつ知るかな」

ふたりの呟きは、掃除に勤しむ夕鈴の耳には届かなかった。



掃除を終えた夕鈴は部屋に戻ると、いつ陛下が来ても問題ないよう、用意を始めた。 自分がプロ妃としてやるべきことを行えばいいだけ。 我ながら単純だと思いながら気持ちはすっきりした。 香を用意し、茶器を暖め、長椅子に温かな膝掛けを置く。 甲斐甲斐しく動く妃に侍女は微笑み、夕鈴も笑みを浮かべた。

「今日も我が妃の笑みに癒される」
「その言葉が何よりも嬉しいですわ、陛下」

久し振りに訪れた陛下の言葉に、夕鈴は素直に微笑んだ。 これだけで侍女も官吏らも、仲良し夫婦と認識するだろう。 プロ妃として頑張ると、借金を完済するまで精進すると決めたのだ。 青慎の学費のためなら、どんなことも乗り越えられる。 そうだ、近々実家に戻って青慎の様子を見て来ようかな。 今の忙しい陛下なら下町には来ないだろうから、李順さんに申請しておこう。 ああ、楽しみだ。
そう思いながら知らず笑いを零すと、陛下がきょとんと首を傾げた。

「ゆーりん、何か考えてる?」
「はい。 仕事を頑張ると、いいことがあるなと考えてました」
「夕鈴は頑張り屋だからね。 そうそう、来月はもっといいことがあるから、楽しみにしていてね。 そのために僕も頑張っているんだ。 いっぱい頑張って、いっぱい御褒美をもらうんだぁ」
「御褒美、ですか? ・・・そうですね」

勉強を頑張っている青慎に、たまには御褒美をあげたいな。 何がいいだろう。 新しい筆か靴、冬用の上着。 そういえば布団の綿も減って来たから足してあげたい。 風邪薬の買い置き、新品の下着、竹箒も欲しい、そういえば穴が開きそうな鍋もあったな・・・・。
褒美の内容がズレテきていることに気付かないまま、夕鈴は楽しげに呟き続けた。

その横で狼が舌舐めずりしているなど、夕鈴はもちろん気づかない。 
来月後半に催される恋人たちのイベントに向け、前倒しで政務を片付けているなど僅かも気付かない夕鈴を眺めながら、狼はほくそ笑んだ。 李順との激しい折衝により、夕鈴が好きな温泉がある離宮をイベント時期に合わせて押さえることが出来た。 休みは三日と少ないが、持ち込み政務は無しと確約させた。 だが根性が捻じ曲がるほどの書簡の山を指差し、「これが片付けられたらですがね」 と挑戦的な笑みを向ける李順に対し、俄然やる気になったのは言うまでもない。 
ひと月あまり可愛い可愛い夕鈴との触れ合いを我慢したのも、根性が捻じ曲がるほどの政務を片付けることに集中するためだ。 頑張ったらご褒美を。 望む褒美は夕鈴とのいちゃいちゃだけ。 
ああ、楽しみだ。 雪なんか降ったら、夕鈴は最高にいい笑顔を見せてくれるだろう。 そして夕鈴は湯上りの柔肌を惜しみなく僕に差し出し、甘い吐息で僕の耳を擽り、細い指先で僕の背にしがみ付いてくれるだろう。 夕鈴の白い肌に僕だけが残せる痕を刻み、しなやかな肢体を思う存分味わおう。 
二人きりの甘い夜を迎えるためなら、どんなに面倒な謁見だろうが会議だろうが、書簡の山だって早々に片付けてやる。 よおおおっし、頑張るぞ! 恋人たちのイベント万歳っ!

「ゆーりん、僕やる気になったから、執務室に戻るね」
「は、はいっ。 が、頑張って下さい!」

何があったか解からないが、陛下がやる気になったのはいいことだ。 李順さんに余計な叱責を受けることは無いし、心身共に安心してバイトが出来る。 民のために頑張るのは国王陛下のためにもなる。 
夕鈴は心から応援してますと付け加え、陛下を見送った。

自分の首を絞めているとは露ほども疑わず、満面の笑みを浮かべて。 



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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

短編 | 22:48:50 | トラックバック(0) | コメント(6)
コメント
待ってました‼やっと桐の登場ですね♪
普段から過去の作品を繰り返し読んでいるため、久し振りと言う気持ちになることはないのですが、やはり嬉しいです。もうお一方、大好きなオリキャラがおりまして、いつかその方も再登場すると良いな~と思ってます♪

表面的には清廉潔白な白陛下、真摯な毎日をあと一月続けたら夕鈴の尊敬と信用を得られそうですね!疑われずに離宮に連れ込む事に成功しそう。
が、陛下より更に上手の李順さんに計られ直前でご褒美は剥奪されそうですが(笑)
2015-11-21 土 09:01:56 | URL | ハニー [編集]
Re: タイトルなし
ハニー様、コメントをありがとう御座います。 やっと桐が出せました。新しい話なので、ポンポン出せるのが楽しい。夕鈴も辛辣なので、超楽しい。 来月末には楽しいイベント。 陛下もやる気が出て、仕事が捗りそうです。 その分、夕鈴の命は短くなりそうですが、さあ、どうするか。 それまで待てないので、間にチョロッと詰め込んでいくつもりです。 のんびりお待ち頂けたら嬉しいです。
2015-11-21 土 17:07:20 | URL | あお [編集]
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2015-11-22 日 16:32:51 | | [編集]
Re: タイトルなし
れん様、コメントをありがとう御座います。桐の辛辣な言葉がお好きとあり、めちゃ嬉しくなりました。浩大との掛け合い、妄想とはいえ、書いてて楽しいです。 陛下に対抗できるライバルもその内登場いたします。 のんびりお付き合い頂けたら、嬉しいです。
2015-11-22 日 20:04:07 | URL | あお [編集]
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2015-11-22 日 23:05:54 | | [編集]
Re: タイトルなし
れん様、コメントをありがとう御座います。新しいオリキャラではないので、ほんと、期待しないで下さい。ただ陛下のライバル的存在になり得るなと、ひとり笑みを浮かべているだけです。(笑)
2015-11-23 月 20:08:40 | URL | あお [編集]
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