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渇求

『腹黒シリーズ』短編です。 陛下が妙な具合に飛び跳ねていますので、御了承の上ご覧下さいませ。 なお、このシリーズは過去作品を修正したものです。 夕鈴はバイト花嫁です。 本来の作品より、とても辛辣な言動が多いことを御了承下さい。


では、どうぞ







「そういえば、巷では異国のお祭りも取り入れるようになったそうですねぇ」

李順が何気なくこぼした世間話に、陛下の肩がぴくりと揺れ、ギシリと椅子が動く音と共に重苦しい嘆息が書簡の山の向こうから聞こえてくた。 

「ああ・・・、赤い衣装を着た店員がこの日のために用意された菓子を全て売り切ろうと声を張り上げ、国中の鶏肉を焼いたり揚げたりして卓に並べ、子がいる親は子に気付かれぬよう夜中に贈り物を枕元へ忍ばせる。 だが、その贈り物が子が求める物と違う場合、正月に改めて贈り物をしなくてはいけない・・・だったよな? あと恋人がいる男は相手が気に入りそうな高級店を確保し、高い宝飾品を贈り、御馳走しなくてはいけない。 だが相手が店、食事、贈り物を気に入らなかった場合はその場で号泣され、怒鳴られ、しばき倒され、さらに市中引き回しの刑。 ん? 磔の刑だったか?」
「・・・いつから異国の祭りが刑ありきのイベントになったのですか。 確か、異国の神の生誕を祝う催し物が、時代の流れとともに変化したと聞きましたが」
「似たようなものだろう? 苦労して稼いだ金を子供や恋人に貢がされ、挙句に振り回されるなど愚の骨頂だ。 くだらない、馬鹿馬鹿しい」

陛下が白けた表情で滔々と語り始めるから、李順は世間話の選択を間違えたと顔を顰めた。 思わず零した言葉に、陛下がこれほどまでに喰い付くとは想定外だ。 
椅子の背に凭れ掛かる陛下の視線は、書面から大きく外れてしまった。 今にも雪が降りそうな寒い曇天の夜、冷たい風が窓を叩く。 火鉢を置くも温まりにくい室内の温度が、陛下の台詞でさらに低下する。 
陛下の機嫌が悪い原因は、山と積まれた政務のせいだけではないのを李順は理解していた。  理解したくはないが、それ以外有り得ないのだから仕方がない。 ここにいない人物に苛立ちを覚えるが、苛立っても詮無きことも理解している。 
聞えよがしの大仰な嘆息を零すと、陛下はとうとう筆を放り出して窓の外を眺めだした。 
このままでは政務が溜まってしまう。 
肩を竦めた李順は、仕方がないと懐から手紙を取り出した。

「陛下、・・・夕鈴殿から手紙を預かっております」
「え!? 夕鈴から? 僕に? うわっ! 嬉しいな、早く寄越せ!」
「いいえ。 政務が山と積まれている内は無理です」
「・・・・李順」

ギシリと椅子から立ち上がった陛下が目を細めて側近の名を紡ぐ。 
もし、この場にいるのが一介の官吏なら声も上げずに執務室から逃げ出すか、気を失うかのどちらかだろう。 しかし、李順は怯むことなく手紙を包む外紙だけを見せた。

「こちらに書かれているのが見えますか?」
「・・・・・“ 政務が山と積まれている内は絶対に渡さないで下さい。 国のために陛下が頑張れるよう、何処にいても応援してます。 あなたの夕鈴より ”・・・と、書いてある」

李順が手紙に目をやり 「あなたの夕鈴は書いてませんがね」 と呟き、もう一度嘆息した。 

「そういうことですので、私が良いと思うまでは手紙を渡すことは出来かねます。 まあ、明日の午後には夕鈴殿は後宮へ戻りますし、政務が片付かないなら手紙はこのまま夕鈴殿へ返却・・・・」

バサバサと紙が擦れる音がしたと思ったら、陛下の頭しか見えなくなった。 神業かと思うような筆の動きと印璽を押す動きに、長年従事していた李順でさえも目を瞠り、感心してしまう。   

「・・・・絶対・・・・今夜中に・・・・・終わらせる・・・・・」
「陛下・・・・」

普段からそれくらいやれよっ! と心の中で突っ込みを入れながら手紙を懐に戻そうとした。 
こんなものでスイッチが入ったなど認めたくないが、政務が進むなら文句は飲み込んでおこうと口を閉ざす。 すると陛下から鋭い怒号が放たれた。

「夕鈴からの手紙をお前の懐になぞに入れるなっ! ちゃんと出して卓の上に置いておけっ! ああ、ちゃんと皺を伸ばしておけよ!」

いくつ目があるんだと眩暈を覚えながら、陛下の目の届く卓上に手紙を置き、李順も自分の仕事を開始することにした。 素晴らしい集中力で仕事を進める陛下には鬼気迫るものがあり、不用意に口を挟むことは躊躇われるほどだ。

バイト娘から預かった手紙の内容は、陛下は真面目に仕事しろとか、下町には来るなとか、万が一来たら殺すぞとか・・・、そんなところだろう。 陛下が喜ぶような文面ではないのは確かだ。 
一泊の里帰りで、下町の友達と異国の宴に便乗して楽しく過ごす予定だと言っていたバイト娘のことだ。 本当に、本気で、本心から陛下に来て欲しくないのだ。
後宮から出る時も、女を捨てた形相で陛下に釘を刺していた。

『絶対に下町に来ないで下さい! もしも陛下の姿を見かけたら引越しして、二度と後宮には戻りませんからね。 几鍔に借金してでも一括返済して、すっぱりきっぱり縁を切らせて頂きます!』

ごねる陛下に雷を落とし、つんっと顔を反らして夕鈴は里帰りをした。 一方、ガッカリと肩を落とした陛下は政務室で雷を落とし続け、憂さ晴らしに翻弄された官吏は哀れとしか言いようがない。 

ここまで陛下が拗ねるには理由がある。 
バイト娘には内密に進めていた計画が、バイト娘の突然の里帰りによって破綻したからだ。

今月下旬、ちょうど下町で異国の祭りが開催される頃、陛下は温泉がある離宮にバイト娘を連れて行こうと目論んでいた。 余計な出費を避けたいと断固拒否していたが、繰り返される執拗な申し出に渋々許可を出さざるを得なかった。 その代わり、年内の政務を全て終わらせることが出来たらと伝えた。 
隙あらば姿を消して仮眠やバイト妃のもとへ足を運ぶ陛下のこと。 
山と積まれた書簡を全て片付けるなど無理だろうと踏んでいた。 
しかし・・・・。
ひと月以上、精力的に政務を熟して李順を驚かせ、さらに政務に飽きたのかバイト娘の寝所に潜り込む暴挙に至り、李順を苛立たせた。 何があったのか知りたくもないが、笑み崩れた顔で袖を撫で摩りながら政務に携わる気味の悪い陛下と執務室に籠ること数日。 
バイト娘からの訴えもあり、対抗策を設けて数日。
膨大な政務を捌きながらも己の欲望に忠実な陛下は、再びバイト娘の寝台に潜り込もうとした。 
李順が用いた対抗策に自我を崩壊した陛下を移動させ、その後三日間は政務漬けにしたが、彼は諦めるという言葉も、夕鈴がバイト妃だということも知らないようだ。 
政務さえ終わらせたら離宮に行けると、日々邁進していた。
それが呆気なく破綻したのだから、やる気が失せるのも理解出来る。 
それに加担した身としては、李順も賢く口を噤み続けていたが、里帰りの荷造りを見つかったのはバイト小娘の責だ。 結局はいつものように陛下を怒号で押し留め、押し込め、押し出して里帰りした。 それでも陛下が脱走しなかったのは良しとしよう。 
だが、やさぐれ、拗ね、不貞腐れた結果、消えかけていた書類が再び山を築くのは困るのだ。 


今、陛下は笑顔で筆を走らせている。 
だが、この後夕鈴からの手紙を読み、ひどく落ち込むことになるだろう。
明日にはバイト娘も帰宮する。 
その後でどれだけ彼女が翻弄されようが、知った事ではない。 
陛下が執務をこなしてくれさえすれば問題は無い。
陛下だとて、一国の王として最低限の心得はあるだろう。 ・・・あるはずだ。
間違っても期間限定のバイトと、一庶民との間に子など生さないだろう。 ・・・と信じたい。
全てにおいて彼女が悪い訳ではないが、この手紙に関しては私の管轄外だ。 
彼女が何を書いたのは知らないが、陛下が手紙を読んでどういう行動に出るかなど、バイト上司といえど責任は持てない。 ・・・・まあ、政務が捗って助かることは確かだが。
書簡の山が見る見るうちに崩れていくのを横目に、李順は退宮することにした。 

「陛下、山を崩し終えてから夕鈴殿の手紙を読んで下さいよ。 政務が残っているのに読んだと知れたら、後で怒られるのは陛下ですからね」
「うん、大丈夫。 あと一刻くらいで・・・終わる予定・・・」

真摯に励む陛下の姿に、李順の胸が僅かに痛む。 
手紙の中身を確認しておけば良かったかと思ったが、今さら見ることは出来ない。 彼女もまさか自分を追い詰めるようなことを書いてはいないだろう。 

今後の政務室が嵐となるか小春日和となるかは、バイト娘次第になる。 
今月もあと僅か。 無事に年を越したいものだ。 
李順は冷たい夜風に身を震わせ、真白い息を吐き出した。




※ 翌日、同時刻に続き更新予定。

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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

短編 | 19:20:20 | トラックバック(0) | コメント(4)
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2015-12-25 金 03:50:00 | | [編集]
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2015-12-25 金 10:20:02 | | [編集]
Re: タイトルなし
さば様、コメントをありがとう御座います。SNSからの転用でちょいと手抜きしてますが、楽しんで頂けてめちゃくちゃ嬉しいです。今年も残りわずかとなりました。あと一点、仕上げて締めくくろうと思っております。来年ものんびり更新の予定ですが、のんびりお付き合い頂けたら嬉しいです。 さば様も体調に御気を付けて、来年も楽しく過ごして下さいませ。本当にありがとうです!
2015-12-25 金 20:08:11 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
れん様、コメントをありがとう御座います。リニューアル、お褒め頂き、ありがとう御座います。今年も残りわずかとなりました。たくさんのコメントを本当にありがとう御座います。のんびり更新ですが、引き続きお引き立て、よろしくお願い申し上げます。
2015-12-25 金 20:11:46 | URL | あお [編集]
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