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効用

『腹黒シリーズ』短編です。 陛下が妙な具合に飛び跳ねていますので御了承の上ご覧下さいませ。 過去修正作品ではありません。 夕鈴はバイト花嫁ですが、本来の作品より、とても辛辣な言動が多いことを御了承下さい。 
こちらの作品「効用」は、次の作品の前座・・・としてご覧頂けたら嬉しいです。

では、どうぞ







「温泉の上手な入り方・・・? これはなんですか?」
「ああ、それか? 万が一夕鈴がが逆上せては困るから、下調べをしているだけだ。 それと温泉の成分や効用を調べておけば、夕鈴が尊敬の眼差しで見つめてくれるだろう? 物知り夫をアピールして点数アップだ」
「何の点数ですか。 ・・・こちらの書簡は決裁済ですね」
「ああ、終わっている。 追加があるなら、早めに持って来い。 離宮に政務の持ち込みは無しだからな。 移動日を変更する予定もない。 すべて完璧に終わらせてやる」

陛下のやる気を止める気はないが、そのやる気がどの方向に向かうか、それが正しい方向なのかを側近として速やかに把握しなくてはいけない。 そして、いま向かおうとしている方向は激しく間違っていると認識した李順は、決裁済の書簡を持ち、静かに執務室を出た。 
書簡がぎっちり詰まった長函を手に、どうしてあんな約束をしたのだろうと少しだけ後悔する。 
正直、難攻不落と思われたのだ。 あの書簡の山を全て片付けるなど、陛下に出来るはずもないと思っていた。 いつもの戯言だったのに・・・。 
今更なことを悔やみながら、李順は深い嘆息を吐いた。

***

「夕鈴殿。 陛下より、何か話を伺っておりますか?」

突然、後宮立ち入り禁止区域に来た李順の姿に、いつかの光景がフラッシュバックし、夕鈴は急いで水桶から離れた。 バイトの身辺調査に来た様子はないが、厳しいバイト上司の登場に身が引き締まる。

「・・・何か、とはどのようなことでしょうか」
「・・・約束、とかをされていませんか? 陛下と」
「いいえ。 特に・・・思い当たりません」

そう答えると常にある李順の眉間の皺が一層深くなる。 条件反射のように背が震え、この場にいない人物の腹黒い笑みが浮かんで見えた。

「あ、あの、はっきり言って下さい! 陛下が何かする予定だというのですか? それも李順さんが困る方向で? ・・・と言うことはそれに巻き込まれて、もっと困ることになるのは私ですよね?」
「夕鈴殿より、年末の休暇届が出ておりませんが、何か御予定はないのですか?」
「へ? ・・・えっと」

話の腰を折られてしまったが、李順の真摯な表情を目にして、夕鈴は眉を寄せる。
陛下の予定に振り回される、行動を左右される。 
それがバイト妃としての仕事なら従うが、李順からの申し出は、まるで夕鈴に 『逃げろ』 と言っているように聞こえる。 巻き込まれる前に何か用事を作って逃げてくれ。 そう言っているように聞こえて目を瞠った。

「・・・実家、・・・下町で異国の祭りをするって、青慎からの手紙にありまして、友人と一緒に過ごすのも楽しいかなって思います。 ・・・その頃、王宮で妃が参加しなきゃならない催し物はありますか?」

これで正解だろうか? 
恐る恐る視線を上げると、こめかみを押さえるバイト上司の姿がある。 難しい顔で何か考えているようだが、きっと陛下の動向をどう抑えるべきかを思案しているのだろう。 本当に側近とは大変な仕事だ。 バイトを逃がしたいということは、陛下がまた寝所に忍び込む可能性でも浮上したのか。 
間違ってもバイト妃である庶民との間に御子が出来ぬよう、陛下の暴走を抑え、同時に政務を推し進めなくてはならない。 猛獣使いであり、影から夫を支える妻のようだ。 
彼が女性だったら、きっと素晴らしい奥方になるだろう。 後宮を取り仕切ることも、陛下の暴走を抑えることも出来る、最強のお妃様になるのは間違いない。 
だけど、逆も考えられる。 
陛下を知り尽くした李順さんだからこそ、拒否しそうな気がする。 
これだけ尽くしている側近をも欺き、王宮から脱走する陛下だ。 政務を溜め込み、バイトをからかい、急にやる気になっては政務室に嵐を呼び込み官吏を翻弄する。 
自分以上に大変な仕事だなと思い、夕鈴は知らず李順を憐れむような目線で見つめていた。 もしかして、李順さんは自分以上に借金でもしているのではないかと、妄想さえしてしまう。

「夕鈴殿、年末には締めの行事があります。 妃が顔を出す予定はありませんが、王宮主催の行事の最中、唯一の妃が不在というのは困ります。 ですから、その前に一泊だけ、御実家で過ごす許可を出します」

咳払いの後、滔々と告げられ、夕鈴はぽかんと口を開いた。 今度は舌打ちが聞こえ、慌てて背を正すとバイト上司が眼鏡を持ち上げながら 「異論はありますか?」 と決断を迫る。

「あ、ありがたく休暇を頂きます。 えっと、ありがとう御座います・・・?」
「ただし、陛下の脱走を防ぐため、里帰りのことはくれぐれも内密に願いますよ」
「はい。 ・・・絶対に教えず、上手く演技して誤魔化しますっ!」
「以上です」

踵を返して部屋から出ていくバイト上司を見送り、夕鈴はそろりと回廊に出て屋根を見上げた。 人影はなく、安堵の息を吐こうとして、急ぎ階を駆け下りる。 床下にも隠密がいないことを確認して、ようやく息を吐く。 年の瀬も近付き、隠密も忙しいのだろう。 老師以外、誰も来ない場所を警護する必要もないし、掃除婦を狙う輩などいない。 本来なら、そういうものだ。

・・・・それなのに。

「ゆーりんっ、ゆーりぃーんっ!」

突然現れ、掃除婦を抱き締め、頬に頬を摺り寄せる国王陛下の存在が信じられない。 あるはずがない獣の耳と尻尾が盛大に揺れて見えるのは、きっと疲れているからだろう。

「夕鈴っ、疲れた。 もう山がちっとも崩れないっ! やってもやっても少しも減らない!」
「お・・・驚かすなっ! 離れて! さ、触らないで!」

疲れた、疲れたとバイトに愚痴を零して背や腰を撫で回す陛下から逃れようとするが、上から覆い被されては逃げ場がない。 おまけに長い腕に引き寄せられ、耳元に低い声が落とされる。

「夕鈴の声に癒されたくて・・・、ふぅ」
「ひぁっ! ・・・・やぁ、め」
「ん、いい声。 もう座りっ放しで腰も肩もガチガチに凝り固まっちゃって大変だよぉ」
「あっ、だめ・・・って、やめ・・・、んっ」
「身体を芯からほぐすためにも、効能の高い温泉とか行きたいよね~。 筋肉痛とかぁ、関節痛とかぁ、疲労回復とかぁ、健康促進とかぁ。 おまけに肌がつるつるになったら、嬉しいよねぇ」
「・・・めてって言ってるでしょうっ!」

夕鈴は全身を奔った怖気に耐えかねて、自由になる足で思い切り陛下の脛を蹴り上げた。 少し痛そうに、だけど満面の笑みを浮かべて両手を離した陛下を睨みながら、腰や腕を摩って怖気を払い落とす。 

「政務は・・・まだ終わっていない様子ですね。 いっぱい、あるのでしょう?」
「うん、だから夕鈴で癒されに来たって言ったでしょ?」

悪びれもせずに肩を竦める陛下に、これ以上何を言っても通じないのは学習済みだ。 ここは早々に御引取頂き、掃除に戻るとしよう。 多少大声を出しても、ここは老師以外いない場所だ。 
ただ、少しだけ引っ掛かるものがある。 夕鈴には見つけることが出来なかった隠密の存在。
もしも李順さんとの話を隠密が耳にしていたら、それはすぐに陛下の耳に届くだろう。 
それは困る。 激しく困る。 
陛下が何をしようとしているのか想像出来ないが、李順さんが私を王宮の外に逃がそうと持ち掛けるくらいだ。 政務が溜まっている忙しい時に、また陛下が脱走して下町に来ることになれば、トバッチリが来ることは間違いない。

「・・・あの、今日は一度も浩大と桐を見ていないのですが、危ない人が侵入してきた・・・のですか?」
「浩大は徐克右に言伝を頼んでいるし、桐は王宮外の用事で・・・・・。 夕鈴、まさか」

後半低くなった狼の声色に、思わず視線を逸らしそうになる。 そこをどうにか根性で踏ん張った自分を褒め称えながら、夕鈴は笑って陛下の腕を叩いた。

「今日は床掃除が気持ち良く出来たから、どっかに行っているんだろうなって思っていたけど、克右さんと浩大は仲が良くないでしょう? きっと今頃、どこかで喧嘩でもしているんじゃないですか?」
「・・・・文を渡すだけだから、浩大はすぐに戻ってくると思うけど」
「ええー! 直ぐに戻ってくるの? 下町に行っていたなら、また菓子を買ってきて零しながら食べるつもりでしょう! 陛下っ、浩大に用事をもっと言い付けて下さい。 今日はこれ以上、汚されたくないの! ここまで綺麗にしたのに、菓子屑をぼろぼろぼろぼろ零されたら、水をぶっ掛けたくなる!」

床を踏み鳴らして怒鳴りまくると、陛下は目を大きく見開き、そして肩を揺らして笑いだした。

「夕鈴がまだ掃除を続けるなら、浩大と桐には夕刻まで他の用事を言い付けることにするよ。 だから安心していいからね。 んん、僕も癒されたから政務に戻るとするか。 ・・・夕鈴、頑張ったら頑張っただけ、きっと素敵なことがあるから。 夕鈴の頑張りに、神様が御褒美を用意してくれるよ」

陛下からの意味深な台詞に、曖昧な笑みを返した夕鈴は、足元から這い上がる寒気にそっと脛を擦り合わせた。 何を指して言っているのか不明だが、それは間違いなく、陛下にとっての「素敵なこと」であり、陛下にとっての「御褒美」だろう。 
笑顔を貼り付けたまま首を傾げると、妙に照れた顔で陛下は去って行った。

「・・・・頑張って狼の餌になるくらいなら、多少手を抜いて、メガネ上司に怒鳴られた方がましだわ」

忌憚なき思いを零し、夕鈴は箒を動かし始めた。





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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

短編 | 00:38:10 | トラックバック(0) | コメント(2)
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2015-12-23 水 07:47:24 | | [編集]
Re: タイトルなし
えみみみみ様、コメントをありがとう御座います。今回はクリスマスらしいものを・・・と思い、SNSで書いていたものを少し膨らませるために投じた薬味で御座います。 『腹黒シリーズ』の夕鈴は、陛下の暴走に眉を顰め、面倒だ、困った奴だ、演技以外で触るな、近寄るな!・・・と思っております。でも無下に放置することも出来ず、金のためと全てを割り切ることも出来ず、小犬と狼の間で彷徨っております。捨て切れない困ったちゃんを持て余す、そういうスタンスで御座います。 こんな夕鈴と陛下ですが、よろしくお願い致します。
2015-12-23 水 13:31:57 | URL | あお [編集]
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