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贈り物


『腹黒シリーズ』短編です。 陛下が妙な具合に飛び跳ねていますので、御了承の上ご覧下さいませ。 なお、このシリーズは過去作品を修正したものです。 夕鈴はバイト花嫁です。 本来の作品より、とても辛辣な言動が多いことを御了承下さい。 
この時期に投稿する話ですが、甘いだけの話になりませんでした。 ごめんなさい。 


では、どうぞ







紅珠が差し出す箱からは、異国情緒の香りが漂っていた。 
受け取った箱を顔に近づけると、驚くほど甘い香りに口元が緩みそうになる。

「とっても・・・、すごっく、いい香りがします」
「この時期、好きな方に御贈りすると喜ばれると聞きましたので、是非お姉さま・・・、いえ、お妃様にお渡ししたいと持参しましたの。 お妃様、お受け取り頂けますか?」
「まあ紅珠、ありがとう御座います。 でも宜しいのですか? (・・・とても高価そうだけど)」

氾家息女の持ってきた品は漂っている香りといい、外装といい、とっても高価そうだ。 いやいや、間違いなく高価な品だろう。 ふと顔を上げると、咲き誇る大輪の花のような彼女の笑みに射抜かれ、夕鈴の顔は引き攣りそうになる。 

そうか、これって異国の例の・・・。

 『世界各地で男女が愛を誓う日』

愛の誓い・・・・・。 まあ、いまのところ私が誓うことも、暇もないわね。  
もし相手が出来ても、愛なんて姿形もないものを誓われるより、浮気や賭け事をしないって誓約書に認めて欲しい。 借金がなく、正直者なら更にいい。 真面目に働き、給金を真っ直ぐに家に持ち帰る。 家族を第一に考え、頑健な身体で病気知らず怪我知らずの、妙齢の男性。 
ああ・・・、そんな人がどこかに転がっていないかしら。 

あら、いつの間にか思考が明後日方向に飛んでいたようだと、夕鈴は慌てて背を正す。 
夕鈴がそっと顔を上げると、紅珠は何やらしゃべっていたようだ。 内容はいつもの妄想・・・いや、豊かな想像力を駆使した壮大な愛の物語の一片のようで、内容がわからないながら頷いて見せると、紅珠はいっそう頬を染めて身を乗り出してきた。 
それにしても、いい香りがする。 愛の誓いかぁ・・・。 
まあ、紅珠が言うように、大きな括りでの好意で、お世話になっている人へ感謝の気持ちを贈るって意味なら理解は出来る。 場違いな場所でのバイトが続いているのも、周囲から多少なりとも協力を得ているからだ。 
頬を真っ赤に染めて、新たな物語が出来ましたと息を乱しながら数本の書簡 (読むことを強要された宿題とも言う) も置いていった紅珠を見習い、夕鈴も異国の行事に便乗することにした。


「と、言うことで厨房をお借りしたいのですが、李順さん良いでしょうか?」
「材料費は借金に加算致しますので、御了承下さい」
「もちろん承知してます。 ・・・・毎回確認しなくても大丈夫ですよ、まったく」

冷たい表情のバイト上司に厨房使用料まで要求されないうちに退散した夕鈴は、侍女さんには先に戻るよう伝え、彼女らの姿が完全に見えなくなったところで、盛大に眉を顰めた。 
本当に李順さんは細かい。 細かすぎる上に融通が利かない。 
確信出来る。 李順さんは真性の守銭奴だ。 人間の皮を被った悪魔だ。

心の中だけで愚痴を零した夕鈴は、厨房に向かい、早速始めることにした。 
しばらくして、どこで聞きつけたのか浩大が姿を見せる。 いつものように手を出そうとするから、手を出すなら金を出せと睨むと早々に消えてくれた。 
次に顔を出したのは桐で、「移動するなら連絡しろ」と、あっという間に消えていった。
頷く暇も与えられず、そして、どこに連絡すればいいのかも解からぬまま、夕鈴は口を尖らせる。
 
そして来るんじゃないかとは思っていたが、想像よりも早く、国王陛下が来やがった。

「ゆーりんっ! 僕に甘いお菓子を作ってくれるって本当? あれでしょ? 異国のぉ、お祭りのぉ、ふたりの愛をぉ、誓っちゃうって・・・ぶはっ! もう、すごっく嬉しくって、見に来ちゃった!」
「・・・・」
「ねえ、どんなの作るの? 何を使うの? どうやって作るの?」
「・・・・」
「ゆーりんみたいにスィートでも、ゆーりんみたいにビターでも、僕はどっちも好きだよ! いくつ作っても、全部、ちゃんと食べるからね。 あああ、楽しみだな~!」
「・・・・」
「僕、何か手伝うこと無い? 何でもするよ、何でも言って!」

背後で演武でもしているのかと思うほど忙しなく動き続ける国王陛下を放置していると、こちらも想定通りに陛下側近様がいらっしゃった。 側近様は振り向かなくても判るほどの闇のオーラを纏い、陛下の襟首を掴む。 そしてそのまま、ぎゃんぎゃんと喚き続ける陛下を引き摺って消えていった。

やっと静かになった厨房で、夕鈴は黙々と作業を続け、時間の経過と共に形になってきた物に満足し、小分けして袋詰めする。
お世話になっている人は多数居る。 中には世話になっているだろうかと首を捻りたくなる人もいるが、年に一度の感謝祭だと思えば仕方が無い・・・・。 
いや、感謝する気持ちを持つ、良い機会だろう。

「よし、用意終了。 明日早速ばら撒き・・・いや、渡してみよう」

嬉しいことに、その夜、陛下のお渡りはなかった。 地獄の使者・・・もとい、側近様に捕まったのだろう。 愚痴愚痴言って政務が滞っているのかも知れないが、それはバイトの自分には関係ない。



翌日、老師と浩大と桐、侍女さんたちへと菓子を渡し、厨房の皆さん、湯番、政務室では官吏、周宰相、大臣ら(一部削除したが)など、それぞれに渡して回った。
方淵はすごっく厭な顔をしていたが、一応妃からの下賜品ということで、表向きは恭しく受け取ってくれた。 あとで捨てようが、それは彼の勝手だ。 
水月さんに菓子を渡そうとすると、柔らかい笑みを浮かべて優雅に拱手された。

「お妃様の御手自ら御作りなられたと伺い、恐悦至極に存じます」
「あの、紅珠にも渡して頂きたいのですが、お願い出来ますか? 昨日、過分な品を頂きましたのに、お返しが手作りで申し訳ないと思うのですが、気持ちですので・・・」

「勿論です」 と、水月さんは目も眩むような笑顔を向けてきた。 
ああ、彼の背後に花が咲き乱れ始めた。 さすが紅珠の兄様だ。

ひと通り配り終えた夕鈴は、最後に陛下と李順さんの分を持って執務室を訪れた。
しかし、執務室に入って心底驚いた。 ここ最近では、一番驚いた。  
何故なら、陛下が執務室の卓上に突っ伏して爆泣きしているからだ。 
一体何があったのか、陛下は全身を戦慄かせて、おいおいと嗚咽を漏らして泣いている。

「り、李順さん、どうしたのですか? 陛下は花粉症ですか!?」

陛下の足元では大量の懐紙が塵箱から溢れていた。 夕鈴が目を瞠る前で、陛下が懐紙を掴み、盛大に鼻をかむ。 それ以上かんだら鼻周囲の皮膚が荒れるのではないかと心配になるほどだ。
何があったと目を瞠っていると、大仰な嘆息を吐いた李順さんに激しく睨まれ、夕鈴は蛇に睨まれた蛙のように固まった。 ここで李順さんに睨まれる意味がわからない。

「夕鈴殿・・・。 ご覧の通り、政務がたいへん滞っております。 どうにか聞き出したところ、原因は貴女だと陛下は言うのですが、心当たりはありますか!?」
「・・・はあぁ?」

言われる内容が脳に浸透しない。 昨日厨房に現れた陛下に私は何も言っていない。 
言う間もなく、李順さんが連れ去ったではないか。

「何も覚えがありませんし、言った覚えもありません。 仕事をきちんとしない国王が悪いだけでしょう? バイトとしてちゃんとやってますよ、私は」

プロ妃として日々精進しているのに、それはあんまりだ。 紅珠の前では優々たる妃を演じ、侍女や官吏の前では陛下と仲良し夫婦を演じている。 それ以上を求められても荷が重過ぎる。 
それなのに側近の視線は冷たく、思わず怯みそうになった。

「今日だって、いつもお世話になっている皆さんに菓子を配りながら、妃らしく演技をしてきました。 私には、本当に覚えはあ」
うわあああああああああっんっ!!

夕鈴と李順は飛び上がらんばかりに驚き、空気を切り裂くような泣き声の主に目を向けた。 何だと目を瞠る二人の前で、陛下は卓に突っ伏し、書簡の山を崩しながら慟哭する。

「ゆーりんは僕にはくれないのに、みんなにはあげるんだーっ!!」

理由はそれかっ!
舌を打ったと同時に瞬時に床上に落ちた書類を拾い丸めた李順さんが、陛下の頭に向けて、持ち上げた手を振り下ろすのが見えた。 同時に椅子を蹴る様はまさに怒り心頭で、額には青筋が浮かび、まさに地獄の使者そのもの。

「たかがバイトに翻弄され、政務が滞るとは何事ですかっ!」
「痛いよ、李順~。 だってゆーりんがお菓子・・・くれない・・・。 う・・・、うう」
「夕鈴殿っ!!」
「は、はいっ!」

振り向いた地獄の使者は闇の瘴気を漂わせながら、署名が済んだ書簡を持ち 「これをどうにかするのもバイトの責です!」 と、現状を丸投げして出て行った。
そんなのはバイト規約に載っていませんと思ったが、口に出すことは出来なかった。 怒り心頭のバイト上司に逆らうなど、決してしてはいけないと骨の髄まで浸透している。 
だが、どうすればいいのだろう。 
妙なものを任されてしまったと悩んでいると、背後から先ほどとは違う雰囲気を醸し出す陛下が近付いて来る気配がして、夕鈴は泣きたくなった。

「夕鈴、私への愛は形に出来ないものなのか?」

ああ・・・李順さん。 私には、この人の言っている意味がまったく理解出来ません。 
一介のバイトがどうこう出来るレベルじゃないんです。 この人の思考回路は凡人には理解出来ないほど難解なんです。 
自分には手が負えない。 ここはやっぱり側近様の出番だろう。 
しかし踵を返した瞬間に肩を掴まれ、背後から覆い被さる陛下に捕らえられてしまう。 悲鳴を上げる前に顎を持ち上げられ、耳に妖艶な低い声を落とされる。 

「・・・夕鈴。 答えは?」

耳から下肢へと抜ける低い声色に膝が震え、悔しいことに声が震えてしまう。

「あ、あ、愛って・・・。 私は、か、感謝の意味で菓子を配っていただけで・・・」
「では、私には無償の愛を捧げるということか?」

だから言っている意味がわからないんだってば!
無償の愛なんてバイト妃に必要か? それに無償というなら『ありがとう』で充分だろう! 
大体、いい年齢の大人が、あそこまで爆泣きするか? 初めて見たぞ、私はっ!

・・・・・そう言って抗いたいのに、意図して落とされた妖艶な声が夕鈴の腰を直撃し、耳朶を喰む唇の動きに抵抗することも出来ない。 下肢はガクガクと震え、逃げ出したいのに言うことを聞いてくれない。 
駄目だ・・・・っ。 この狼陛下は駄目っ! 
それでも夕鈴は渾身の力を振り絞り、どうにか身体の向きを変えることに成功する。 そして菓子を持ち上げると、陛下の目の前に突き出した。

「あるからっ! お、お菓子なら用意してあるからっ! 狼の演技はやめてよっ!」
「甘い匂いがすると思ったら持っていたんだー」

差し出した菓子の向こうに見えた小犬陛下に、夕鈴は激しく頷く。 
不本意ながら小犬の出現に腰が抜けそうなほど安心した。 安心すると同時に苛立ちを覚え、腰に絡み付く手を外せと睨み上げる。 
しかし解放されることはなく、夕鈴の腰に回っていた手が背に這い上がり、強く引き寄せられた。 そのうえ、陛下の声色が再び変わり、何故か舌舐めずりまで聞こえ出す。 
聞こえる、というか、実際舐められているようで、ぬらっとした・・・感触に意識が飛びそうになる。 飛ばしてはならないと己を叱咤するが、浮遊感に目を瞠るとやはり抱き上げられていて、反射的にしがみ付いたのは狼の首だった。
近くなった狼の存在に、夕鈴は崖っぷちに立たされた心境になる。
ぶわっと全身に汗が吹き出し、呼吸が乱れ、四肢の感覚が乏しくなる。 これではいざという時、逃げられない。 しっかりしろと叱咤するが、目の前で持ち上がる狼の口端に目を奪われ、涙目になった。
ゆっくりと開かれる狼の唇から、蠢く赤い舌先が見えた。 そして・・・白い牙が・・・・。

「妃からの菓子は嬉しいが、腕の中の兎の方が美味しそうだ。 先に、こちらを味わうとしよう。 ああ、昨日も言ったように、全部、ちゃんと食べるから、安心するように」
「ひぃ・・・・・・っ!」



誰か、この行事を世から滅して・・・・・。




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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

短編 | 00:30:55 | トラックバック(0) | コメント(2)
コメント
守銭奴な地獄の使者もさすがですが、大泣きする陛下と花粉症かと突っ込む夕鈴に大笑い。腹筋が痛かった・・・。守銭奴が去った後の変わりようにもね。毎度この腹黒シリーズには笑わせて頂いてます。
2016-02-14 日 15:02:22 | URL | ますたぬ [編集]
Re: タイトルなし
ますたぬ様、コメントをありがとう御座います。
久し振りの修正作業でしたので、思った以上に時間が掛かり、間に合うか焦ってました(笑)地獄の使者を書くのは一番楽かも。すいすいと言葉が出てきます。大泣き陛下は苦情が殺到するかと、正直びくびくものです(現在進行形)来月頭にはコミック発売。今から楽しみにしてます!!
2016-02-14 日 21:24:34 | URL | あお [編集]
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