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青嵐  1

コミックでも夕鈴がちゃんとした妃となり、あとは懐妊待ちか(笑)という展開になり、久し振りに長編を書きたくなりました。いつものことながら見切り発車です。
のんびり更新ですが(今から宣言するあたり、不精者が知れますが)、お暇な方、このサイトはそんなものだと御納得の方に御付き合い頂けたら嬉しいです。


では、どうぞ






「こんにちは、お妃様」
「まあ・・・えっと、御機嫌よう・・・」

後宮庭園を侍女と散策中、突然現れた貴族息女らしき女性に挨拶された夕鈴は、目を瞠りながら微笑んだ。 彼女の顔も名前も浮かばないが、相手は自分を知っているようだ。 
そっと振り向き誰何するが背後の侍女たちも困惑した表情を見せる。 
夕鈴は正式な妃となって実は日が浅く、お妃教育では未だに李順に叱られてばかりだ。 執務室で会う官吏や一部の大臣しか知らず、貴族息女は紅珠くらいしか知人がいない。 
突然現れた女性に、「あなたは誰でしょうか」 と訪ねるのは失礼になるかと夕鈴が眉を寄せた時、侍女が一歩前に身を乗り出した。

「こちらは後宮で御座います。 国王陛下の許可なくして、誰の立ち入りも禁じられております。 何方様の許可を頂き、足を運ばれましたか?」

さすが、侍女とはいえ良家息女だ。 毅然とした態度で対応し、それでいて僅かに緊張を漲らせている。 背後にいた侍女が踵を返し、警備兵の許へと走る。 
大事になってしまっては、あとで問題にならないだろうか。 
妃として後宮にいるなら、妃が知らない人物が立ち入ることを律しなくてはいけない。 だけど妃になったばかりで本当は貴族息女ではなく、ただの庶民の夕鈴は、下手なことを口にして後で地獄の使者にねちねち叱責されるのは困ると口を噤む。
夕鈴がおろおろ狼狽していると、侍女に詰問された女性は袖を持ち上げ目を細めた。

「お妃様へ御挨拶に伺ったまでのこと。 直ぐに失礼させて頂きますわ」
「お待ち下さいませっ」

年の頃は紅珠と同じか、少し上くらい。 華やかで豪奢な衣装を靡かせて、女性は回廊の角から庭園へと、あっという間に姿を消してしまった。 
衛兵を連れて戻って来た侍女は息を切らし、対峙していた侍女は憤慨している。 
遅れてやって来た侍女長に、「申し訳御座いませんが、急いでお部屋にお戻り下さい」と低頭され、夕鈴は表面上は落ち着いた顔で頷いた。
何かが急に始まったようで、底知れぬ怖さに包まれる。 
バイト上司から説明されるまでは、大人しく部屋に籠ることにした。 出来るだけ早く説明されるといいなと願いながら、しかし願いが叶うのは翌日の夜だった。


**


「夕鈴殿。 侍女長より報告があり、以降調査を続けていますが、突然現れたという女性の詳細は不明のままです。 妃推挙が目的か、妃殺害が目的か、はっきりしません」
「そうか、妃殺害・・・ってことも有り得るのか」

ずいぶん堂々とした暗殺者だなと感心して頷くと、地の底を這うような嘆息が聞こえてきた。 
夕鈴がそろりと振り向いた先には、狼陛下が椅子の上で険しい顔をしていて、眉間には深い皺を刻んでいる。 怒気も露わな嘆息が繰り返され、苛立ちに部屋の空気が重い。
一晩経って気持ちだけは落ち着いた夕鈴と違い、陛下たちはずっと調査をしていたと聞く。 
それはそうだろう。 
後宮に無断で立ち入ったのが女性で、その目的も不明のままで逃げられたのだから苛立つのも理解出来る。 

「その後、何か判ったのか?」
「引き続き行方は追っておりますが、あっという間に姿を消したこと、侍女と夕鈴殿しか目にしていないことで、捜索は困難を呈しております。 侍女の目撃証言を元に絵姿を作成しましたが、どこの誰と判定しがたいものです」
「でも、とっても綺麗な女性でした」
「・・・・・夕鈴」
「衣装は豪華で、可愛いというより綺麗系の、・・・とても綺麗な翡翠の耳飾りをしていました」
「翡翠?」

李順からの問いに、夕鈴は大きく頷く。
あれは間違いなく翡翠だった。 それも見てわかるほどの大きさで、透明度が高い羊脂玉と言われるものだろう。 それはとても高価で、大貴族や王族しか持ちえない宝石だ。
夕鈴の拙い説明に李順が眉を顰め、沈黙する。 険しい表情のバイト上司に夕鈴は肩を竦め、そろりと陛下を見ると、こちらも険しい顔になっていた。

「しばらく、夕鈴の政務室への出入りは禁じる。 掃除も中止して部屋から出ずにいるように」
「そ、掃除も駄目、ですか?」

驚いて声を上げると、「ごめんね」 と陛下が眉を下げる。 
掃除も囮として動くことも禁じられ、だけど心配そうな声色と表情を前に、夕鈴は承諾するしかない。 陛下に心配させたくないと言う気持ちもあるが、それ以上に元バイト上司の命には従わざるを得ないと思ったからだ。 未だに李順に逆らえる気がしない。 いや、する気もないが。 
警備体制を見直し、一層強化するよう指示を出しますと李順が部屋から出ていくと、陛下もゆっくり立ち上がった。 後宮の部屋まで送ると手を取られ、不満げな顔のまま夕鈴も立ち上がる。

「思った以上に面倒な相手らしいから、充分気を付けるように。 浩大が王宮側を警護している、その間隙を狙われたのも口惜しい。 すぐに桐共々警護に就かせるから、安心してね」
「いえ、何事もなかったのですから」
「わざわざ夕鈴の前に現れたってことは、ただの密偵ではない。 単独行動か複数犯かも不明だ。 その上、逃げにくい衣装を着込み、かなりの自信家らしい。 夕鈴、間違っても囮になるなど考えないように。 護衛や警護兵の邪魔になる可能性があるし、彼らを信用して欲しい。 しばらくの間は庭園の散策も控えるように」

陛下から説明に頷き、それでも部屋に閉じ籠っているだけでいいのかと夕鈴は眉を寄せた。 
後宮に入り込んだ時点で、狙いは陛下唯一の妃そのものだと思われる。 
彼女もそう言っていた。 『挨拶に来ただけだ』と。 それは、後々自分が踏み入れる後宮の、今は唯ひとりの妃に対する挨拶なのか、それとも牽制なのか。 
そして陛下が言うように、彼女はかなりの自信家なのだろう。 
あんな格好で後宮に忍び込み、上手く逃げ遂せたのだから。 あの衣装で塀や庭園を走ったとすれば、流石の逃げ足と褒めそうになる。 目立つ衣装で現れたということは、妃だけでなく、侍女や警護兵に見つかってもいい覚悟があったのだろう。
・・・・・手強い相手だというのは、理解出来る。
彼女は笑みさえ浮かべていたのだから。
それに対し、陛下の味方になると誓ったはずの妃が、部屋に閉じ籠って守られているだけでいいのだろうか。

部屋に戻ると侍女は懸念を擁きながら、それでも陛下と共に戻って来た妃に安堵した顔を見せた。

「しばらくの間、妃を部屋から出さないように」
「御意で御座います!」

陛下から厳命された侍女たちは、一同に拱手し力強く低頭する。 
その後は普段通りの優雅なしぐさで、それでもどこか緊張を孕んだ動作で妃が過ごしやすい環境を整える侍女に、夕鈴は穏やかに微笑み続けた。 庭園では警護兵が厳めしい顔で篝火の用意をしている。 妃の部屋の窓には、矢を警戒して厚地の緞帳が用意された。 

今現在、後宮に住まう妃は一人だから一箇所を警護するだけでいいが、この先多くの妃が後宮に住まうようになったら警護する人は大変だろうなと、ぼんやり思った。 
今は庶民出身の妃が一人だけだ。 
だけどそれを良しとしない人が未だ多くいるのは承知しているし、陛下の御世を思うと陛下の寵愛を一人締めして、本当にいいのだろうかと眉が寄ることがある。 
陛下の御心は嬉しいし、疑うことはない。 愛されている自覚もたっぷりある。
でも、・・・・・それでも時々、胸の奥から不安が生じるのだ。

相手のことが大好きで、愛おしいと思い、共に過ごしたいと願う。
一緒に過ごすことが幸せで、その幸せを大事にしたいと思う。
目を合わせ、言葉を交わし、肌を触れ合わせる。 
難しいようで簡単な、でも容易には叶えることが出来ない願いを、陛下は何度も悩み、一度は諦め、そしてもう離すことはしないと誓ってくれた。 伸ばされた手を取ったのは夕鈴自身で、互いの気持ちは同じ方向を向いている。 陛下を独り占めするつもりはないが、だからといって悪しき企みに屈服することはしないぞと、夕鈴は意気込んだ。




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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 01:18:02 | トラックバック(0) | コメント(10)
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2016-04-17 日 23:56:51 | | [編集]
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2016-04-18 月 17:13:57 | | [編集]
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2016-04-18 月 23:22:51 | | [編集]
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2016-04-20 水 20:06:49 | | [編集]
新しいお話楽しみにしてました~
続き気になります。
2016-04-20 水 22:32:29 | URL | 楓 [編集]
Re: タイトルなし
ぽんちゃん様、コメントをありがとう御座います。本当に久し振りの長編ですが、始めたばかりで忙しくなり、マジにのんびり更新となりそうです。本誌を読んでいないので、コミックだけを頼りに書いていい部分を拾い集めて妄想する私ですが、今回はマジに時間がない。落涙・・・・。それなのにmonoがたり缶を更新するあたり、馬鹿だな~と自嘲しております。月一回以上は更新したいと思って頑張りますので、たま~に遊びに来て下さい。返事が遅くなり、申し訳ありませんでした。
2016-05-11 水 00:19:11 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
novello様、はじめまして。そして、コメントをありがとう御座います。ここ最近は本当にのんびり更新で、時々「一か月以上更新無し」も当たり前になりつつあります。そんなサイトに足を運んでいただき、そしてお読みいただき、感謝感激で御座います。本当にありがとう御座います。見直しにすごっく時間を掛けてしまうので、だんだん何を書きたいのか解からなくなることもあり、思わず冷蔵庫を開けて頭を突っ込んだり、犬の散歩に行ったりと現実逃避をしてしまいます。
のんびりですが、また来て頂けると嬉しいです。
2016-05-11 水 23:51:41 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
ななし様、はじめまして。そしてコメントをありがとう御座います。最近、新たに足を運んで下さる方が多く、嬉しい悲鳴です。のんびりのんびり更新ですが、ひっそりとお楽しみ頂けるということで、めちゃ嬉しいです。日々の疲れもストレスも、皆様のコメントに癒され浄化されています。本当にありがとう御座います。
2016-05-11 水 23:53:50 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
らっこ様、お久し振りです! うわあ、ちょっとこっちを放置している間に、たくさんのコメントが来て、その中にらっこ様の名を見て、めちゃくちゃ驚きました!すごっく嬉しい。もう、慌てて打ち込んでいるから何度も打ち損なって時間が掛かっています。ほら、また間違った。(心の目を開いて見てください) 最初に謝っておきます。時間、掛かります・・・・。のんびり更新ですから、のんびり遊びに来て下さい。うわぁ、ほんと、嬉しいです。
2016-05-11 水 23:56:44 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
楓様、コメントをありがとう御座います。足を運んで下さり、ありがとうです!のんびり更新ですが、御付き合い頂けたら嬉しいです。
2016-05-11 水 23:57:35 | URL | あお [編集]
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