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青嵐  5
あちこちで蝉が鳴いてますねぇ。先日車庫に蝉がいて、足で突くと「ジジジジッ!」と喚きながら回ってました。娘が悲鳴を上げて「どこかにやってー!」と叫び、車庫内が喧しいことに。捕まえて移動させる母に向かい、娘は「早く手を洗って!」と命令。・・・・・今度、部屋の中にセミの抜け殻を置いてやる。

では、どうぞ








あっという間に湯殿に連れられ、声を発する間もなく衣装を脱がされ、気付けば湯煙いっぱいの浴室に陛下と一緒に立っていた。 身を守るのは薄っぺらい浴衣だけだ。 

「足元滑るから、ね?」

小犬の声を出す狼が甲斐甲斐しく兎妃を抱き上げ、ゆっくりと湯に浸かる。 展開の速さに頭が追い付かず、湯の温かさに身体から力が抜けそうになった夕鈴は自分が陛下の膝上にいると知り、慌てて首を振った。  
先ほど陛下は 『少しぐらい、猶予はあろう』 と言っていた。 
少し、だ。 
昼間からのんびり湯浴みする暇など決して無いはず。 
確かに白煙を被ったために汚れたが、汚れたのは夕鈴であって、陛下ではない。 妃を抱き締めた時に陛下の衣装が多少汚れたとしても、叩けば充分取り除けたはずなのに・・・・。
いや、この陛下に何を言っても通じないだろう。 
それならば、さっさと洗って、一刻も早く陛下を政務に戻すことが自分に課せられた重要課題だ。 
湯から上がろうとするが、陛下の手はしっかりと腰を掴んでいる。 外そうと足掻くが容易に外れる訳もなく、恐ろしいことにその手が不埒な動きを始めた。 

「そう言えば、大臣から果物が届けられているって話が来たのが発端だよね。 あれ、本当だよ。 氷室に入れてあるから、あとで一緒に食べようね。 夕鈴が好きな黄桃だって」
「手を動かさないでっ! 湯に浸かる前に洗った方が・・・・・ひっ!」
「白桃も好きだよねぇ。 あれって、味は一緒?」
「頭から湯を被るだけでもいいから・・・っ、手を離して下さい!」

桃の話より本来の目的を果たさせてくれと暴れるが、どんなに頑張っても兎の体力では狼の腕から脱することが出来ない。

「西瓜も好きだよね? っていうか、夕鈴って好き嫌いあるの?」
「桶を・・・、せめて手桶を下さいっ。 湯を被って、出たいです!」
「湯上りの果実水は何が用意されているかな? 夕鈴は何だと思う?」
「・・・っちょ、浴衣を脱がせな・・・・や、・・・っ!」
「洗うには脱がせなきゃ。 ね?」

ここで脱がされたら最悪の展開になると、渾身の力で抗うが無駄なことだった。 
結局は満面の笑みを浮かべる陛下に全身隈なく洗われ、夕鈴は精神的疲労と逆上せにぐったりしながら湯殿から部屋へと戻ることになった。 侍女たちの微笑みを甘受しながら衣装を着せてもらいつつ、これは一体どんな拷問なのだと眩暈を覚える。 
その後、着替えを終えて湯冷ましを口にしていると、別室で着替えを終えた陛下が顔を出した。

「残念だが、地獄から使者が迎えに来てしまった」

髪を拭いながら苦笑を漏らす陛下を見上げると、眉尻がひどく下がっていた。 
やっぱり来ましたかと苦笑いを返すと、大きな溜め息を零して陛下は去って行く。 迎えに来た地獄の使者から呪詛のような叱咤を受けながら政務を熟す羽目になった陛下を想像すると、さすがに憐れみを覚える。 

だが、鏡に映る侍女の困ったような表情を目にして、夕鈴は首を傾げる。
嫌な予感がして、湯上りだというのに寒気に襲われた。 嫌な予感は当たり、首周りには驚くほどの吸い痕が鏡に映っている。 夕鈴はこくりと唾を飲み込み、口端をどうにか持ち上げた。 侍女は鏡越しに眉尻を下げた笑みを返し、黙々と妃の髪を整え始める。 夕鈴は膝上で握り締めた拳を震わせながら耐えるしかない。
 
~~~陛下なんて李順さんに叱られて、宰相部屋で書簡の山に押し潰されたらいい!

その夜、羞恥に怒りを滾らせていた夕鈴の許へ冷たい桃が届けられたが、陛下が訪れることはなかった。 きっと恐怖の側近に怒鳴られながら政務に励まれているのだろう。 
しかし、それから数日経っても訪れがない。 
以前も十日ほど宰相の部屋に閉じ込め・・・・いや、籠られていたことがあったが、今回も同じように忙しいのだろうか。 政務室に顔を出して官吏の誰かに尋ねようかとも考えたが、もし機嫌の悪い側近殿見つかったら、どんな目に遭うか解からない。 政務が滞ったのは、妃が陛下を諫めることが出来なかったからだと叱咤されるに決まってる。 どれだけ理不尽なことでも李順に逆らうことが出来ない夕鈴は、政務室に近付かないことを選択した。




ある日、夕鈴が老師の許へ向かうと、軽快な音を立てて煎餅を齧る浩大がいた。 片手を上げて 「よっ、お妃ちゃん」 と笑う浩大に、隠密が暇なことは良いことだと笑みを返す。 
だが夕鈴が椅子に座ると浩大は途端に面白くなさそうな表情になり、大きな溜め息を吐いた。 

「いやあ、あれから何の動きもないから、こっちも調べようがなくってさ。 進展がないから、陛下の機嫌がめちゃくちゃ悪い。 でもさ、仕方ないじゃん?」
「そうなの? 私も・・・あれから庭園に行くのを李順さんから禁じられていて、陛下も全く姿を見せなくて、何も知らされていないのよ。 そうか・・・・彼女、来ていないんだ」

退出経路は把握したが、やはり女ひとりで後宮に幾度も忍び込むのは難しいのだろう。 協力者がいることは間違いないが、王宮にいるのは狸や貉ばかりで調べるのが一苦労だと浩大は笑う。 
後宮は国王の私的な住居空間であり、妃や御子が住まう場所であるだけに容易に立ち入ることは出来ない構造だ。 さらに強固な警備体制が敷かれている。 二度も、それも女間者に侵入されたとあって、強固な警備体制がさらに強化され、いまや金城鉄壁の守りだ。
そうはいっても侵入者は後を絶たず、王城警護兵だけでなく、隠密といわれる精鋭部隊が日々城の内外を駆け回っているのが現状であり、それは夕鈴も承知している。 
今さらながら、よくぞ後宮にまで忍び込んだと、彼女の行動に驚いてしまう。 
出来ることなら二度と会わない方がいいと思うが、彼女の真の目的は何だったのか今も気になっている。 王宮に侵入する者を許すことは出来ないが、彼女の訴えが何かを、今も知りたいのだ。 命を賭してまで忍び込み、彼女は何を訴えようとしたのだろう。
あの時、何かを言いかけた彼女の憂いた表情が、鮮やかに蘇る。

「お妃ちゃん、よけーなことは考えてないよね?」
「・・・・考えないようにします」
「お妃。 これ以上、俺たちに面倒を掛けるなよ。 ただでさえ陛下唯一の妃として、すべきことは山ほどあり、他に気を取られている暇などないはずだ」
「・・・・桐、も居たの・・・」

音もなく姿を見せた桐に溜め息を零すと、大きな溜め息を返された。 辛辣な視線から顔を逸らし、言われた内容に何ひとつ言い返せない自分が情けないと、もう一度溜め息を吐く。 
妃教育が足りていないというのは自分自身が一番知っている。 連綿と続く国の歴史を学び、出入りする貴族や臣下の氏を覚え、自国と取引のある国の名と取引内容も大まかに覚える必要がある。 さらに妃として上品な振る舞いが出来るように日々研鑽するしかない。 唯一自慢できる根性だけでは侭ならないことが多々あり、いまも続けられている鬼教官からの妃教育指導の厳しさに悪夢を見ることさえある。 

「二度も後宮にまで忍び込んだ輩のことだ、三度四度があるかも知れない。 アレのことは他者に任せて、妃は囮などせずに己がすべきことに邁進するがいい」
「桐が言うことは分かるよ。 私だって下手なことして李順さんに叱られるのも、みんなに心配かけるつもりもないの。 ・・・だけど豪華な衣装とか侍女の衣装とか煙幕まで用意周到に持ち込んだのに、彼女は誰にも危害を加えるつもりはないって言っていた。 忍び込んだのは、どうしても伝えたいことがあるからで・・・・」
「だから?」

低い、恫喝するような声色に夕鈴の息が止まる。 
視線の先には腕を組み、どす黒い瘴気を漂わせる隠密の姿があった。 彼は目を眇め、聞こえよがしの舌打ちを零して妃を睨み付ける。

「それが余計なことだと、何故理解しない。 首の上に乗っかっているソレは、簪を突き刺すだけの飾り物か?」
「ぶふーっ!」
「浩大、汚いぞ!」

桐の突っ込みがツボに嵌まったのか、口から盛大に菓子屑を吹き出す浩大から慌てて逃げ出す老師を見て、夕鈴は肩を落とした。 これ以上何か言うと、桐に髪を毟られそうな気がする。 
いまは本当の妃になったというのに、彼らの前ではバイト妃時代と何ら変わりない。 

「まあ、お妃ちゃんが何をしても陛下が本気で怒ることはないだろうけどさ、心配はするよ? お妃ちゃんに何かあったら、誰かが責任を取らなきゃならない。 それは知ってるんだろ?」
「・・・・・・・はい」
「それでも、お妃ちゃんの気持ちはそっちに動いちゃうんだろうねぇ」

いいえと、直ぐに首を横に振ることが出来ずに視線を落とす。 陛下にも言われた言葉を、浩大にも告げられる。 今もなお納得することは出来ないが、理解はしているつもりだった。 それなのに、慣れ親しんだ人の前では甘えが出てしまう愚かな自分がいる。
妃として誰もが安心していられるような妃への、道は遠い。
今までと身の置き所が違うことを承知しているつもりでも、実際には、陛下や元バイト上司である李順に頼り切っている部分が多い。 まだ不慣れな分、指示通りにしなきゃならないことが多いが、本来なら夕鈴自身が妃として動き、自ら律するべきなのだ。 
今の自分がするべきことは陛下の心痛となる行動をとらないこと。 
妃のために動く皆に、迷惑を掛けないこと。 
だったら、すべきことはひとつ。

「・・・・私、彼女が来ても、もう二度と会いません!」

声を大にして宣言するが、浩大も桐も、老師でさえ生温い眼差しで夕鈴を見つめるばかりだった。



もっと頑張るぞと決心をした翌日、新たな動きが夕鈴を惑わせる。
侍女が恭しく運び持って来た手紙には、氾紅珠の名前が記されていた。 いつものお茶のお誘いかと封を開いた夕鈴は思わず立ち上がり、侍女に驚かれてしまう。
封に、いつもある氾家の押韻がないと気付き、このまま中を読んでいいのだろうかと眉を寄せる。 読んでしまったら引き返せない局面に追い込まれそうな予感がして、そっと封を閉じた。 
きっと後宮に忍び込んだ彼女からの書簡だと、確信出来る。 
確信出来るからこそ、読んでしまうのは躊躇われた。 
・・・・これ以上、みんなに迷惑を掛けたくない。 
そのためには一人で勝手な行動をしないこと。 
紅珠の名を遣うということは、妃の交友関係を把握しているのだろう。 それは貴族に限られる。 手紙が来たことを陛下か李順に知らせたいが、手紙を受け取った後ですぐに動くのは駄目だと唇を噛む。 手紙を読んだ妃がどう動くか、それをどこかで見られている可能性があると踏んだ夕鈴は、ひとりの侍女を呼び、厨房に寄って老師の許へ三人分の菓子を届けてくれるよう頼んだ。
訝しがりながらも侍女は退室する。 
普段はしない夕鈴の行動に、老師が気付かなくても隠密である浩大は気付いてくれる。
今は、それを祈るしかない。 




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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 01:41:03 | トラックバック(0) | コメント(0)
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