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青嵐  7
娘が通う専門学校の文化祭に初めて行ってきました。盛大でとても賑やかな祭りでした。私も専門学校に行ってましたが、文化祭などなかったので羨ましくなっちゃった。専門が違うと、こうも違うのかと驚き、それとも時代の流れかしらと齢を感じつつ、会場内で販売されていたチーズケーキを買って帰宅。とても美味しいチーズケーキでした!

では、どうぞ






「我が妃の心根が優しいことは承知しているが、その優しさは夫である私だけに向けるべきではないか? その愛らしさも慈悲も、与えられるべき者は誰かを、君にはじっくり問い質したいものだ」
「・・・・へ?」

思わず気が抜けた返事をしてしまう。 
いま、何を問われた? 
優しさとか、愛らしさとか、真剣な視線とそぐわない内容だったような気がするのだが・・・・。
真っ直ぐ見つめる先には生真面目な顔をした夫がいて、その表情が徐々に呆れたように変化していく。 夕鈴がじっと見つめていると陛下は顔を背け、大きな溜め息をひとつ吐いた。

「後宮に忍び込むだけでも重罪となるというのに、忍び込んだ輩は妃の友人の名を騙り手紙を届けさせた。 それも大臣でもある氾家の名を、だ。 ・・・・だが君は、不埒な輩から届けられた手紙の内容を知りたいと思っている。 そしてその内容如何によっては、何か力になれないだろうかとさえ考えている」
「そ、そんなことは・・・!」
「ないとは言わせない」

薄い笑みさえ浮かべた陛下に断じられ、夕鈴は口を閉ざした。 
王宮に忍び込む者、善からぬ思いを企む者、若き王を牛耳ろうと妃を送り込むため、唯一の妃を弑そうと暗躍する者。 それらの汚濁を夕鈴が気付かぬよう、近付かせぬよう、ただ陛下のそばで笑んでいて欲しいと望まれているのは知っている。 陛下の癒しの場として在る後宮の、ただ一人の妃を慈しんでくれているのも承知している。 

その気持ちを嬉しいと思う。 慈しまれる立場にいる奇跡に感謝している。

日々、夕鈴が学ぶことは多く、それらが陛下の行く末に些少なりとも助力になると信じているからこそ、努力することに否はない。 もっともっと努力して、陛下の役に立ちたい。 助けになりたい。 いずれは陛下の子を生し、大切に育てたい。 陛下が得られなかった温かく穏やかな日常を共に過ごしたい。 柔らかな陽だまりのような笑いを重ね合いたい。

「陛下が私を、とても大切にして下さっているのは重々承知です。 私が何を考えているのかを、陛下が既に承知していることも・・・・心配して下さっていることも存じております。 ですが、そのように頭ごなしに叱責を受ける謂われはないと思いますが」

心外だとばかりに口を尖らせて睨み上げると、陛下もむっとした顔で見下ろしてくる。 
忙しい政務の合間に足を運んでくれた陛下に、こんな顔を見せたいわけじゃない。 
激務を労い、ひと時の憩いを与えたい。 そのために、自分はここに居るのに。
それなのに・・・・・。 
悔しくて、腹が立って、通じ合えないことに感情が昂って、咽喉が閉じてしまう。 深呼吸で落ち着こうと思うのに、眇められた視線が夕鈴の唇を震わせる。

「・・・・・ぐ」
「泣くのは卑怯だ。 私の気持ちを慮っていると言いながら、それでも君は再度忍び込んだ者をも気遣っている。 相手が誰であれ、君はいつもそうだ」

卑怯とまで言われ、だけど一段と低くなった声色に夕鈴は顔を顰める。 
陛下が、そう思っても仕方がない言動を、いままで自分は何度繰り返しただろう。 陛下を翻弄しようとしたつもりは決してないが、結果として心配を掛け、言わせたくない小言を言わせている。 それに腹を立てる権利が、いまの私にあるのだろうか。
この叱責は、きちんと真正面から受けるべきであり、忍び込んだ彼女のことは警護に任せるべきだ。 過去にも妃を巡って雑多なことが起きた。 陛下は真摯に対応し、私を護ってくれた。
白陽国を背負い、冷酷非情と揶揄されながらも政務に忙殺されている陛下は、同じ場所でグルグル回っているだけの私を時に叱咤し、そして優しく気遣ってくれている。 
その気遣いに慣れ、いつしか傲慢な態度を取っていたのだろうか・・・・・。
もし・・・そうだとしたら。 そう思われているとしたら。
夕鈴は一気に蒼褪め、勢いよく立ち上がった。

「夕鈴っ、話しはまだ」
「逃げるつもりはありませんっ! ですが、思いっきり反省して来ます!!」

後宮内にいますからっ。 そう告げて走り出した夕鈴は、立ち入り禁止区域へ飛び込んだ。 いつまでも成長しない自分に苛立ち、これ以上陛下に心配させない方法はないかと苦悶する。

この先の人生は、陛下とともに歩みゆく。 
そう思って歩き出したはずなのに、まだバイト妃の時に感じていた『線』の向こうに踏み出す勇気がなかったのだろうか。 自分ではしっかりと歩き出したと思っていても、周囲の人の目から見ると、まだまだ不安定に見えるのだろう。 
情けない。 陛下の敵は自分にとっても敵じゃないか。
それを気遣うのはやめようと心に決めたはずなのに、気を抜くとすぐに考えてしまう自分がいる。 相手が何を考えていようと、何を訴えていようと、きちんとした手順を踏まずに後宮に忍び込んだ時点で容認出来ない行為となるのだ。 受け入れることは出来ない。 してはならない。 そう、何度も頭に叩き込んでも気になってしまう自分がいて、情けないと忸怩たる思いを噛み締める。 

猛省して、もう一度基本に立ち返るぞと気合を入れるために誰もいない部屋に飛び込んだ。
夕鈴が開け放った扉から差し込む月明かりがギリギリ届くところで足を止め、大きく深呼吸する。 足音に驚いて止まっていた虫の音が響き出すのを聞きながら、何もない部屋を見回す。
少し前までは多くの妃が滞在していた後宮の一室。 
いまは誰もいない、立ち入り禁止区域。 
いつか使われるだろうと、そのためにバイトの一環として掃除していた場所。
 
だが、今の陛下の御世で使われる予定はない。 珀黎翔の妃は、夕鈴一人だ。 陛下も夕鈴もそれを望み、それを実現するために陛下は苦慮してくれた。 
その流れを知っている自分が、何をしているんだと髪を掻き毟る。 

「反省だーっ! 深く深く反省して、同じことを繰り返さない、陛下も李順さんも、誰もが認める妃になって、そして」
「反省すべきは、このように一人で走り出す愚かな行為、そのものだろう」
「・・・っ!」
「夜も遅い時刻に裾をからげて走り出し、大声を出す妃など、どこにいる」

苛立ちを滲ませる声色に、夕鈴は固まった。
いつもの、小馬鹿にするような口調とは違い、心底苛立っていますと教え込むような声色だ。 恐怖のあまり、振り向くことさえ出来ない。 振り向いた瞬間に傷を負う可能性もある。 額か、鼻か、あるいは精神か・・・。

「き、桐さんに・・・・ご迷惑を掛けるつもりなど・・・」
「迷惑を掛けるつもりがないと、この現状を鑑みて、そう口にするのか? 陛下を部屋に置き去りにして飛び出す妃が、この世のどこにいる。 ああ、目の前にいるのがそうか」 
「誠に・・・申し訳なく思っております・・・」
「常に警護されている身分とはいえ、夜に駆け出すなど言語道断だ」

滔々と話し続ける桐にいつまでも背を向けている訳にもいかず、夕鈴は急ぎ振り向き、その勢いのまま頭を下げた。 反省すべき事項の範囲が広がったことに蒼褪めて、急ぎ謝罪の言葉を繰り返すが、桐にはやはり通じないようだ。

「お妃、直ぐに部屋に戻るぞ。 そのような寝間着のまま誰もいない場所に自ら赴く妃に振り回される、哀れな下僕に申し訳ないとは思わないのか」

振り回すつもりなど無かったと、口にしても無駄なことはわかっている。 
これ以上文句を言わせないためには、すぐに部屋に戻るべきだ。 
だけど・・・・部屋には陛下がいる。 
反省する暇もなく怒涛の叱責を受け、狼の巣に戻れと促される。 嫌だと抗うことも出来ず部屋から回廊に出ると、月明かりは雲間に閉ざされていた。 夕鈴の心情を現したかのような闇に、自嘲の笑みが漏れる。 それでも戻らねばならないと手摺を探ろうとした手を掴まれ、今までいた部屋に引き戻されると同時に、閃光が奔った。




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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 00:36:11 | トラックバック(0) | コメント(0)
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