青嵐  9
お久し振りです、あおです。

本当に、とても長い長い間が空いてしまい、このまま見なかったことにしようか、このまま放置してしまおうかと思いましたが、訪れる方がいることに気が付きました。 自分でもびっくりするくらい驚き、これではいかん!と、続きを書こうと考え直しました。 のんびりにも程があるぞと自分を叱咤し、手を動かしております。
時々足を運んで下さった皆々様、本当にありがとう御座います。
頭が地にめり込むほど、深く感謝申し上げます! 


では、どうぞ







どうしても侵入者に会って話がしたい。

そんなことは論外だと一刀両断されるのは覚悟のうえで夕鈴は訴える。
すると陛下は、夕鈴の顔を見つめながら深い溜め息を吐き、首を横に振った。 

「む、無理難題だと重々承知です。 侵入者に会いたいとか、話がしたいとか・・・・、でもっ」
「・・・・・・君の優しい心根は夫として、重々承知している。 侵入者が姉弟と聞き、何かできることはないかと考えたのだろう。 だが夕鈴、承諾は出来ない」

執務室にまで顔を出す異例の妃とはいえ、罪人の取り調べに係わることは管轄外であり、無謀極まりなく、甚だしい越権行為である。 狙われた側として真意を問いたいのは解かるが、許可することは決して出来ない。
そのための役人がいて、法と刑がある。
妃とはいえ、王宮の為すべきことに係わるべきではない。 たとえ狙われた本人だとしても。
抑えた声色で諭すように語られる内容に、夕鈴の視線は床へと落ちていく。

「一度でも例外を作ることは出来ない。 愛しい妃の願いでも、それはしてはならない」
「・・・・はい」

陛下の言っていることが理解出来るから、素直に頷いた。 問題は自分の心情だ。 
忍び込んだのは姉と弟、そしてもう一人の女性。 
それなのに脳裏に浮かぶのは愛しい弟の青慎の姿で、その青慎が蒼褪めた顔で夕鈴に手を伸ばしている。 助けて欲しい、話を聞いて欲しい、と。
忍び込んだのは青慎じゃない。 そんなこと解かっているのに、どうしても重ねてしまう。 重ねた向こうにはあの女性がいて、憂いた笑みを浮かべている。 
『聞いて、下さるのですね』
そう言った彼女は、何を聞いて欲しいと願ったのか。  

「不法侵入した件は罰を受けてもらうが、どのような目的で忍び込んだのか、詳細に聞き出すつもりだ。 もし素直に答えるなら、惨いことはさせないよう刑吏に伝えておく」
「ありがとう御座います・・・・」

ゆっくりと肩や背を撫でる手の優しさに、夕鈴は身体から力を抜いた。
王宮、ましてや後宮に忍び込む。 さらには閃光弾、少し前には煙幕を使い、あってはならない混乱を招いた。 これは国王陛下、如いては国家反逆罪にもなりうる大罪であり、重い刑に処される。 
そんなことにならなければいいと願っていたのに、とうとう捕縛されてしまった。 
ひと気のない場所に、ひとり赴いた妃が原因で。
後宮内で妃がどこにいようと、どこに行こうと問題はない。 だが、妃狙いの侵入者がいると知っていたのに、ひとりでひと気のない場所に突っ走ったのは大問題だ。 さらには侵入者のその後を心配するなど、周囲の懸念を悉く無視する最悪の妃。 陛下に何を言われても文句ひとつ口に出せない状況と立場。
それなのに、陛下は妃の心情を慮り、刑吏にひと言物申すと約束してくれた。
なんて申し訳ない、・・・・情けない。 
それでも願ってしまう。 素直に答えて欲しい、と。 少しでも刑が軽くなるよう、すべて正直に話して欲しい。 妃を傷つけるつもりはないという、あの言葉を信じるから。 


**


「陛下、印璽が乾くまではそのままにしておいて下さい」
「・・・・李順、審議はどの程度すすんでいる?」
「署名が終わった書簡はそちらの函に入れて下さい」

清々しいほど会話を無視する側近に、黎翔は眇めた目を向ける。 山と積まれた書簡は今にも崩れそうなのに、李順は新たな山を築くつもりらしい。 
黎翔が音を立てて筆を置くと大仰な溜息を吐きながら振り返り、「審議はまったく進んでおりません」 と答える。 聞こえていたならサッサと答えたらいいものを、陰険な側近は眼鏡を持ち上げ政務が優先ですので、と言い放つ。

捕らえたはいいが、侵入した目的を問うも姉弟は泣き続け、残る一人は黙秘したまま。 
三人とも年の頃は十代半ばだろうが、同じ房にいる罪人の悲鳴や怒号に怯え震える姉弟に対し、同じ年頃だろう娘は表情も変えずに過ごしているという。 その肝の据わりようは、刑吏が呆れるほどだ。 

「警護を潜り抜け、後宮まで入り込んだだけはあるな。 それで、何か吐いたか?」
「いいえ。 『お妃様に会わせて欲しい』 ・・・・・そればかりを繰り返し、あとは口を閉ざしています。 ですが、そろそろ浩大が身元調査を終える頃でしょう」

捕らえたのは三人だが、頼りない姉弟と気丈な娘の取り合わせは、どう考えても異様だ。 おまけに姉と弟は警護兵の姿に悲鳴を上げ、自ら敵を引き寄せるという愚を犯している。 
姉弟は刑房を見て悲鳴を上げ、刑吏を見て泣き出し、鞭を見て気を失った。 本当に仲間なのかと訝しんだが、それは間違いないらしい。 
よくぞ立ち入り禁止区域まで誰にも見つからずに侵入できたものだと、感心すらしてしまう。 
姉弟は目覚めてからというもの己の置かれた状況に泣き続けるだけで話にならず、もう一人は侵入目的の問いには返答せず、「妃に会わせて欲しい」と繰り返すのみ。 それでもどうにか名を聞き出すことができ、その身元照合に浩大たち隠密が走っている。 
拷問道具の一端を目にしただけで昏倒する姉弟と、ふてぶてしい娘の組み合わせ。 体罰を禁じているため刑吏はお手上げ状態で、調査を待つしかない。

「持ち物や衣装を調べましたが、身元照合には至っておりません。 翡翠の耳飾りもどこの工房で作られたものか、まだ報告が届いておりません。 あの三人だけで後宮まで忍び込んだとは思えないのですが・・・・」
「あの女一人ならわかるが、足手纏いを連れて、ではな」
「いくつもの閃光弾を持ち込んだだけでなく、あの姉弟を連れて後宮の奥まで忍び込むのは、容易なことではないでしょう。 たとえ内部に協力者がいたとしても、です」

感嘆を滲ませる李順の声に、黎翔も同意だと頷く。 
いまだ妃ひとりの後宮に、血縁者を送り込みたいと考える者は後を絶たない。 妃は一人だけでいいという黎翔の言葉を曲解し、今いる妃を消すことで、次の『ひとり』に挿げ替えようと画策する愚か者が王宮には跋扈している。 夕鈴が正式な妃となってからは警護をより厳重化したため、侵入者の数は減ってはいるが、完全に無くなることはない。 巧妙さが増し、時に前より面倒な者が忍び込むことさえある。 
しかし、あのようなおまけ付きで現れるとは想定外。 バイト妃から本物に昇進しても、まだ厄介ごとを持ち込むのかと、李順が憤るのも無理らしからぬ話だ。

「おっ疲れ、陛下と側近殿と、オレ~」
「わかったか?」

そろそろ退室するかと立ち上がる寸前、珍しく覇気のない様子の浩大が姿を現した。 
黎翔の問いに「少しだけ待って」と、卓の横に置かれた水差しから直接水を飲み、やっと一息できたと盛大な息を吐く。 

「名前を聞き出せてもさ、どこの出身かわからないと探すのが難しくって。 で、ここ数日、帰ってこない姉弟がいないかを調べてたら、ちょっと驚くことが判明。 姉弟に限らず、数人の子供が消えているらしいよ。 王都から離れた田舎町で」
「消えている? ・・・・・・人さらいか?」
「そのような報告は上がっておりません! いつからですか、浩大」

憤りも露わに李順が眉を吊り上げた。 黎翔も顔を顰めて浩大を見る。 浩大は、「そっちは引き続き、現地の者に調べさせているけど」 と肩を竦めた。 

「田舎だから難しいんだよ。 出稼ぎや奉公に出すなら親も堂々としてるけど、なかには芸妓団や娼館に売る親もいる。 そうなると口は堅く、周囲もそれとなく察してはいるけど吹聴はしない。 だから、売られているのか攫われているのか、わからないんだよな」
「では、どうして消えている子がいると判断した?」
「んん~。 働き盛りの男の子供を売るって、ないと思うんだよね~。 田畑が残ってりゃ、跡取りくらいは残すだろ? それと、家の手伝いに女子だって一人くらいは残すのが普通。 だけど両方いないのは、おかしいじゃん? そういう家が数件あってさ、それも含めて聞き取り継続中だよ」

眼鏡を持ち上げた李順が黙り込む横で、黎翔も口を閉ざす。
王都で何らかの事象が起きた場合、各区の取りまとめ役なり、州を治める役人から報告が上がるだろう。 内容によっては可及的速やかな解決が求められ、そうでない場合も一応は書面にまとめるよう指示を出している。 子の誘拐などは早期解決を求められる事案だ。 王都から離れているかといって、数人に及べば報告が来て然るべき。
もし王宮に報告が届いているとしたら、どこで止まっているのか。 
王宮に届いていないなら、管轄地を治める長の怠慢と知れる。 
どちらにせよ、狼の牙の鋭さを忘れた愚か者がいるということだ。 
 
「その中に捕まっている姉弟がいるのか、泣きもしない気丈な娘っ子がいるのか、急いで調べてはいるけど、同時進行は骨が折れてさ。 中間報告でいったん戻ってきました」
「・・・・わかった。 引き続き、調べよ」
「了解。 ところで、お妃ちゃんは元気?」

含みを滲ませた浩大の問い掛けに、黎翔は顔を上げる。 大きく見開かれた目には、人の好い妃が夫である陛下に対してどんな言動をとったのか、簡単に想像できて楽しいよーと言わんばかりに輝いていて腹が立つ。 
黎翔は大きく息を吐き、手を払った。

「絶対に会わせることも、話をさせることもしない。 必要もない」
「だろうね。 まあ、元気ならいいや」

報告は済んだと、浩大が窓から姿を消す。 黎翔が立ち上がると、李順が大仰な嘆息を零しながら肩を落とした。 視線を向けると、なにか言いたげな表情を見せている。 

妃と会えば口を開くという娘。 彼女は刑房の中にいて、妃に危険が及ぶ可能性はまったくない。 いつまでも房の一室を客室のごとく占有され続けるのは、経費が嵩むばかりで困る。 面倒ごとは一刻も早く解消し、溜まる一方の書簡を崩すことに励むべきだ。
そのためなら、妃にほんの少しご足労頂くことも吝かではない・・・・・・。

側近が考えていることが容易にわかり、眉間に皺が寄る。 

「刑吏に、己が仕事を進めるよう伝えておけ」
「・・・・・御意」

恭しく低頭する李順は夕鈴の元バイト上司。 未だ李順の前では緊張する夕鈴のこと、彼からの頼み事なら、夫である自分に隠れて刑房に足を運ぶ可能性もある。 捕まった罪人に甚く同情している彼女のこと、ありえない話ではないだろう。 
そうならぬよう、今宵は夫婦の語らいを充分に行う必要があるな。

黎翔は足取り軽く、愛しい妻の待つ後宮へと向かった。





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長編 | 22:45:55 | トラックバック(0) | コメント(8)
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2018-03-16 金 23:36:42 | | [編集]
Re: タイトルなし
ボナ様、コメントありがとう御座います。更新までに間が空き過ぎ、本当に申し訳ありません。読み直して、プロットを見直して、もう一度考え直して、まるっきり違う話に変えようと思ったまではいいのですが、頭が飽和状態となり(笑)放棄してしまいそうになりました。足を運んでいただき、本当にありがとう御座います。 
のんびり、更新がんばります。
2018-03-17 土 14:32:38 | URL | あお [編集]
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2018-03-17 土 22:33:59 | | [編集]
Re: タイトルなし
aki様、コメントありがとう御座います。レス、遅くてごめんなさい。aki様がお好きだと言ってくれた辛武の話を読み直し、稚拙さに埋没してました(笑)。陛下なら、速攻でぶっ潰して、返り血を浴びるだろうなと想像。その後、思いっきり踏み潰して、土に埋めちゃうでしょう。怖・・・っ。
首を長くしてお待ちいただき、本当に恐縮です。相も変わらず、のんびり更新となりますが、御付き合い頂けたら嬉しいです。宜しくお願い致します。
2018-03-28 水 22:31:31 | URL | あお [編集]
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2018-03-31 土 00:23:26 | | [編集]
Re: タイトルなし
LUCY様、コメントありがとう御座います。長文の熱いコメントに胸打たれ、急いで受診し穴を埋めてもらったばかりです。あんだーからお読みになられたと書かれており、思わず大笑いして寝ぼけた犬に咬み付かれ、慌てて再受診。痛みが残っている内は現実だと実感できる喜びに満ち溢れております。のんびり更新のうえ、間がめちゃくちゃ空いてしまいましたが、頑張ろうと思い直したところで御座います。のんびりお付き合い頂けた幸いです。本当にありがとう御座います。
2018-04-01 日 14:25:59 | URL | あお [編集]
嬉し涙が・・・
徐々に諦めながら一縷の希望にすがって2年近く度々覗きに来ていました。
もしもシリーズの2弾として、幸せな家族の設定もあお様の文章で見たいなどと思いながら・・それもこれもたぶん無理そうだなぁと自分に言い聞かせていました。
おお。びっくりしました。なんて嬉しい復活、再開でしょう!!!
嬉しくて泣いています。ふれ~~ふれ~~、あお様頑張ってくださいね。
2018-04-22 日 12:48:23 | URL | dom [編集]
Re: 嬉し涙が・・・
dom様、コメントありがとう御座います。
のんびりも過ぎるほど、のんびりしてました。再度足をお運び頂き、感激です。本当にありがとう御座います。少々呆けていました。これからも懲りずに、時折ちょろりと足をお運び頂けたら嬉しいです。コメント、本当にありがとう御座います!
2018-05-06 日 23:19:19 | URL | あお [編集]
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