青嵐  10

なかなか更新できないのは、何度も見直して見直して、やっぱり書き直し始めて悩んだり、時に保存を忘れて最初から書き直ししたりするからです。 いや、私に根性がないからです。 集中力も続きません。 年のせいもあります。 ほかに気を取られ、そっちに夢中になって忘れることも多々あります。 だけど、それを子供がやったら、きっと怒ります。 最後までやりなさいって、ふんぞり返って叱ります。
ああ、自分に甘いって、素晴らしい!

では、どうぞ








李順が持ち込む書簡の量が多く、その山を崩すのに時間が掛かった上、浩大からの報告があり、妃の部屋に向かう頃には夜も遅くなっていた。 
遅くなる旨は伝えているが、それでも夕鈴は起きているだろう。 
夫である僕を待つためだけではなく、眠れないからだ。 
君が必要のないことに、深く思い悩んでいるのを僕は知っている。  

きっと三人は身を寄せ合い、刑房の中で怯え震えているだろう。 
自分が犯した罪の大きさに慄き、闇色に塗り潰された未来に項垂れているだろう。 
与えられる痛みや罵倒に泣き叫び、いっそ死を願う、愚かな判断を下すかもしれない。

・・・・・・優しい君は自分の想像に胸を痛め、愛しい実弟を思い出しては眉を顰め、浅い眠りを繰り返している。 だが実情は、いつまで経っても泣きわめくだけの姉弟と、刑吏の怒声にも完璧な無視ができる娘がいつまでも房室を占領しているだけだ。 
娘は口を開けば「妃に会わせて欲しい」と繰り返し、侵入した目的は一切語ろうとしない。 それが通用するとは思っていないだろうが、不敵としか言いようがない態度に、さすがの刑房監理官も呆れているという。 
若いだけに狼陛下の怖さを知らないのだろう。 
そう笑っていたのは浩大だが、隣室から嫌でも聞こえてくる掠れた呻き声を耳にしても態度が変わらぬ娘の度量だけは称賛に値する。
夕鈴が目の前に現れるまで、本当にその口を開かないつもりなのか。
王宮でそれがまかり通ると、本気で思っているのか。

「・・・・桐」

妃の部屋が見える位置で、黎翔は足を止めた。 
空気が揺れる気配に、ゆっくりと振り返る。 浩大が忍び込んだ三人の素性を調べている間、妃の警護は桐に任せている。 異変はなかったか問うと、桐は静かに頭を上げた。

「お妃は朝餉後より立ち入り禁止区域にて掃除をされておりましたが、昼からは眠そうな御様子が見られました。 お休みになるよう伝えましたが、掃除の続きをすると頑固に言い張り、夕刻まで続けていました」
「そこは頑固と言わずに、真面目だと言うんだ」
「そのようなことより、老師より伝言をお預かりしております」
「・・・・・・・・・」
「殿下におかれましては、そろそろお世継ぎを熟考する頃合いじゃと存じます。 お妃様の寝不足解消も兼ねて、ここは一発、子作りに一意専心励まれ、深く眠るほど疲れさせるのが良いぞ! ・・・・とのことで御座います」
「・・・・・・・・・」

老師からの伝言と聞き、ある程度は想像できたが、滔々と直截に伝える桐に脱力する。 溜め息を零しつつ手を払うと、桐は即座に消えた。
 
気分転換も兼ねて、夕鈴に立ち入り禁止区域での掃除を勧めたのは黎翔だった。 それで気が紛れたらいいと思ったが、そうは上手くいかないようだ。 
大きく息を吐いた黎翔は、しかし、その手もあるかと目を瞬く。
老師の言に乗っかるのも業腹だが一理あると、知らず笑みが浮かぶ。 
疲弊している妻の心を夫が癒す。 政務で疲労した夫の心身を妻が癒す。 
互いを慈しむ仲良し夫婦としては当然の営みであり、権利だ。 そこに少々よこしまな思いがあろうとも、夫婦なのだから問題などどこにもない。
気分が素晴らしく上昇した黎翔が足取りも軽く部屋に入ると、出迎えた侍女が静かに低頭する。 部屋が静かなのに気付き、目線で妃はどこにいるか問うと、侍女は眉尻を下げた。

「先ほどまで陛下をお待ちになっておられましたが、・・・・とても眠そうにされておりましたので、寝所にてお休みいただくようお願いしたところで御座います。 あの、お声掛けを致しますか?」
「いや、声は掛けずともよい」

侍女を下がらせると部屋はさらに静まり返り、寝所入り口から漏れ出る灯りさえ色を失い、静寂を彩る。 それなのに愛しい君がいる寝所に足を向ける、それだけで体の内側から温かいと思えてくるから不思議なものだ。 
そっと天蓋を持ち上げると、眠っている妻がいる。 
今日は眠れているようだと安堵しながら腰を下ろすと、「んん~」と顔を顰めて、寝返りを打った。 それも、黎翔に背を向けてだ。 
夕鈴はいつもこれだと溜め息が漏れる。
愛しい妻を気遣い、眠れていることに安堵する僕に、君は寝顔すら見せてくれない。
眠れているなら、このまま寝かせてあげようと思っていたけれど、無意識の意地悪をするなら、夫としての権利を行使しようと上着を脱いだ。

「・・・・・へ、いか? あ、お帰りなさいませ」
「・・・・・ただいま、夕鈴」

普段は僕の焼きもちにも気づかない鈍い君なのに、こういう時に限って、目を覚ましてしまう。 面白くないけど、権利を行使するには絶好の機会だ。

「へ? あれ、・・・・・・お、お疲れではありませんか?」
「うん、疲れているよ。 だから僕を癒してね」

寝ぼけ眼を擦っている妻の帯を解き始めると、途端に完全覚醒した君は夜目にもわかるほど真っ赤になった。 妻を癒し、妻に癒され、今夜は共に深い眠りに就こう。 
あわあわと目を回す兎の皮を剥ぎ、その柔らかさを堪能しはじめると、兎は勝てもしない勝負に挑もうとするかのように抗い始めた。 勝たせるつもりはないが、疲労させるという目的があるから多少の抗いは甘受する。 暴れる兎に苦笑しながら肌の感触を堪能するうちに、甘苦しい吐息が狼の耳を楽しませ始める。 
徐々に抵抗する気力も体力も失っていく兎を腕の中で愛でながら、僕は希う。
今夜夢に見るのは捕らえたネズミではなく、君を貪る狼にしてくれと。 


**

・・・・・咽喉が痛い。
重い瞼を上げた夕鈴は、どうして咽喉が痛いのか、すぐには思い出せなかった。 
それでも目が覚めたら起きなければならない。 だが身体の節々に違和感を覚え、寝返りを打ったところで力尽き、そこで昨夜の出来事をはっきりと思い出した。 

「お妃様、お目が覚めましたでしょうか」

突然の声掛けに悲鳴を上げそうになり、咽喉の痛みに悶絶する。 
どうにか掠れ声で返事をして天蓋から顔を出すと、一瞬大きく目を見開いた侍女がいつも以上に笑みを零すから、夕鈴は嫌な予感に襲われた。 恐る恐る視線を落とすと、ただ寝乱れたとは思えないほど夜着が乱れていて、思わず悲鳴を上げそうになり、再び咽喉の痛みに悶絶する。
白湯を飲みつつ窓を見ると陽は真上を過ぎようとしていて、一気に蒼褪めてしまう。

「陛下より、お目が醒めましたら散策を・・・・とのことですが、いかがなさいますか?」
「顔色がよくありません。 陛下にはお断りを伝え、侍医をお呼びいたしましょうか?」
「だ、大丈夫ですわ。 着替えを・・・・お願い致します」

心配そうな表情の侍女たちに、夕鈴は柔らかな笑みを返した。
・・・・・・・・・奥歯を噛み締め、握った拳の中で爪を立てながら。

昨晩、夕餉の後に長椅子でつい転寝してしまった。 
ここ数日、妃がよく眠れずにいることを知る侍女たちの気遣いに促され、寝台に横になったまでは覚えている。 政務で忙しいから先に休むようにと伝言が届いたが、陛下はきっと来るだろうと思っていたのに、いつの間にか眠っていたようだ。 
そして・・・・、気配を感じて夕鈴が目を覚ますと、小犬の笑みを浮かべる狼が目の前にいて、あっという間に夜着を脱がされた。
夫婦としては当たり前の営みだけど、寝起き直後の奇襲にパニックになる。 
なにを言っても、抗っても、狼の手は止まらず、むしろ嬉々として推し進めていく。 弱い場所を狙って這い回る手、降り注ぐ口づけ、強弱をつけた動きに喘ぎ声を抑えることが出来なくなる頃、耳朶に落とされる意地悪な質問。 
「次はどこがいいの?」「ここ、好き?」「もっと、欲しい?」
その問いに、自分は何と答えたか。 
思い出すと、羞恥と怒りに身体が震えそうだ。
夕鈴の抗いなど、陛下にとってもは遊戯に等しいのだろう。 いつも以上に執拗な愛撫に陥落し、普段は絶対に口にしないようなことまで言わされ、喘ぎ泣かされた記憶が夕鈴を苦しめる。 

「侍医をお呼びしなくても、本当に大丈夫ですか?」
「・・・っ、ほ、本当に大丈夫ですから」

咽喉の痛みと全身の倦怠感。 これは時間の経過とともに消失するはずだ。 翻弄されはしたが、熟睡したせいか連日続いていた頭痛は消失している。 食欲も戻ったようで空腹に気付く。 
とにかく文句を言うにも体力が必要だと夕鈴が立ち上がった時、騒動が起こった。






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長編 | 17:21:17 | トラックバック(0) | コメント(6)
コメント
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2018-05-01 火 01:19:28 | | [編集]
Re: タイトルなし
HN隠し様、(で、いいのかな?)コメントありがとう御座います。放置状態が長く、御迷惑を掛けました。それでも足をお運び頂き、大変うれしく思います。途中半端な状態で放置したことが気になりながらも、再開できず、やっとその気になったのに忙しさを言い訳に日々過ごしています(笑)
のんびり更新ですが、また、たま~~~に足をお運び頂けたら嬉しいです。
2018-05-06 日 23:40:00 | URL | あお [編集]
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2018-05-10 木 21:36:54 | | [編集]
Re: 何度も…
aaa様、コメントありがとう御座います。桐ファンが増えて嬉しいです。本当に手が遅くて、申し訳ありません。夜になるとすぐに瞼が重くなり、布団が「寝ようよ」とラブコールしてきます。そのラブコールにあらがえず、朝になると「今夜こそは!」と決意することを繰り返しています。いやいや、齢のせいにしては駄目ですね。もう、根がぐうたらなんですよ(自虐)。それでも、がんばりますので、時折足をお運びくださいませ。
2018-05-13 日 23:57:33 | URL | あお [編集]
お久しぶりです!
ちょこちょこと覗きに来たり、過去の作品を読み返したりしながら楽しませて頂いてます。

この陛下は前の作品の腹黒陛下を彷彿とさせますね!
桐も出てきて嬉しいです。
そしてチラリと大好きな刑房監理官も!!!
彼の露出はこの後増えるかなー。ワクワク。
捕らわれた彼女らの目的も、まだ全然想像がつきません。
田舎での人攫いの直訴でしょうか?
でもそれなら直訴先を夕鈴に限定する理由がわからないですし。
妖怪の力(?)を期待しているとか?!

次回の更新もとても待ち遠しいです。
本当に楽しみにしているんですよ!
いつまでもお待ちしますので更新宜しくお願いしますね!
2018-05-25 金 23:47:21 | URL | ハニー [編集]
Re: タイトルなし
ハニー様、コメントありがとう御座います。間が空き過ぎて申し訳ありません。それでも足をお運び頂き、感謝です! 監理官が好きといって頂き、めちゃくちゃ嬉しいです。飄々としている慇懃な彼を登場させるのは、私も好きなので、コメントにニヤニヤが止まりません。(笑)
のんびり更新ですが、御付き合い頂き、本当にありがとう御座います。
2018-05-31 木 10:09:12 | URL | あお [編集]
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